幼馴染みと志摩リン   作:カカオ天下

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Q.最近一番驚いたこと


A.千明ちゃんの一人称が『あたし』ではなく『私』だったこと。


本巣高校

HR前の空き時間、厚いコートが手放せない教室に続々と登校してきたクラスメイトが入ってくる。

俺はその10分前から椅子に座っている。野球部の朝練があったのだ(グラウンドが凍っているので、体育館で行ったが)。そのため危なかった、ギリギリ間に合ったなんて声が聞こえてくると、軽い優越感を感じる。

ふはは、走れ愚民ども。

 

「何にやついてんの?」

 

男の声が聞こえた。

声の方を見ると、同じ野球部のハルノブが立っていた。山梨県のハルノブだと、歌舞伎では顔だけいいダメ男でお馴染みのあの人を連想してしまう。まあ、ハルノブの顔は童顔なので、かっこいいより可愛い系なのだが。

「この世界を救う方法を思い付いた」

「話でかぁ!?」

「嘘だ。どうやったら授業中寝てもばれないか思い付いた」

「それは役に立つけど、話の落差がひどい!」

「ちなみに方法としては、先生を挑発して、怒った先生が殴る方法をスマフォで撮影して拡散すれば授業が中止になって寝てもばれない。よしやろう……」

「大炎上おおお!?」

「……ハルノブが」

「俺!? 俺がやるの!?」

「ハルノブ、俺たち友達だよな」

 

ハルノブの肩にぽんと手を置く。

 

「やだよ! そんな歪んだ友情いらないから!」

「冗談だけど」

「当たり前だよ!?」

 

暴力ダメ、SNSの使い方には気を付けて。

リンの冷静で一刀両断するようなつっこみとは違い、ハルノブは熱いギャクマンガのようなつっこみだ。

にやついていた理由を隠すためにボケたが、反応がおもしろくてつい繋げてしまった。

からかわれたのが分かったのか、ハルノブは口惜しそうに唇を噛んでいた。

だが、それもいつものこと。ハルノブは諦めたようにため息を付いた。

そして思い出したように話題をふってきた。

 

「そういえば、昨日のキャンプどうだった?」

「色々あったよ」

「へぇ、色々か……」

「今エロいこと考えたな」

「かかかか、考えてねーし! 俺みたいな純情野球少年は、そういうのよくわかんねえから!」

 

……電波系のアイドルみたいなキャラ付けしてんなこいつ。

 

「はいはい。酔ったお姉さんに逆レされるエロ漫画買ってたハルノブ君、マジ純情野球少年」

「何でそれを知っている!?」

「とある情報筋からな」

 

だって、その本買った本屋リンがバイトしてる店だし。

接客したのは店長(白髪のおじいさん)だし、多分こいつは客の生徒に見られていないか必死に警戒していたから、店員は盲点だったのだろう。リンはばっちり見ていた。

田舎だとエロ本買うのにも(社会的な)命がけだ。

 

「そ、それはもういい! それもりも何があったんだよ! 色々って言うからには少しは進展したんだろうな!」

 

ハルノブはやけくそ気味に叫んで、ビシッと俺を指差す。

 

「進展な……」

「なかったのか?」

「一緒に晩ご飯食べて、朝起きないリンを叩き起こして、朝飯食ったくらいだね」

「なんだいつも通りじゃん」

 

はぁ~と深いため息をつかれた。まるでお前にはガッカリだと言われんばかりのため息だった。

どんな報告を期待していたんだか。まあ、だいたい想像はつくが。こいつの思考回路斎藤さんと似たり寄ったりだから。どこが純情なんたか。

 

「あと迷子を保護したな」

「まさかの新情報。え? 迷子って夜のキャンプ場で?」

「ピンク髪で、食いしん坊で、俺の作ったほうとうを三杯食い尽くしたよ」

「カー○ィじゃん」

「言葉尻にペポ~と付けてた」

「○ービィそのものじゃん! 嘘つけ!?」

 

怒鳴るハルノブに呼応するように、HRが開始するチャイムが鳴った。

真面目なハルノブは、俺を追求しながら俺の1つ後ろの席に座る。

 

「ペポ~は嘘だけど、それ以外は本当だよ」

「やっぱりそこは嘘かよ!」

「お前ら静かにしろ~。HR始めるぞ」

「ほら先生も怒ってるよ」

「むぐぐ……」

 

先生を出されては黙るしかない。ハルノブは納得してなさそうにしながらも渋々黙った。

 

「そうそう、今日はHRを始める前に転校生を紹介する」

 

へぇ、転校生が来るのか。

すぐに冬休みに入るこの時期に転校とは、何かしら訳ありかね。親の仕事の都合とか。

そんな他人事のように見ていると、先生の呼び掛けに転校生がガラリとドアを開けて入ってきた。

転校生は女の子のようだ。犬山さんや斎藤さんなんか可愛い女子が多いこの学校だが、容姿では勝らぬとも劣らずかなり可愛い。これは野郎が色めきだつな。

髪の毛はピンク色……ピンク? はて、つい最近そんな人物と遭遇したような……。

記憶を思い起こしていると、転校生が自己紹介を始めた。

 

「浜松の方から来ました、各務原 なでしこです! よろしくお願い……」

 

刹那、転校生と俺の目があった。

 

「ああああああ! ほうとうの人だ!」

 

そのなでしこのさした指はしっかりと俺を捉えていた。

クラスがざわめきたつ。

 

ーーおいおいマジかよ。

 

 

こうして俺は先日助けた迷子と再会することになった。

 

 

 

 

 

あの後は大変だった。

なぜなでしこと知り合いなのか、出会いはどうだったのか、二人はどんな関係なのか、リンとは別れたのか等々後半はちょっとなに言ってるのかわからなかったが、ともかく疲れた。

「向こうがグラウンドな。図書室は1階、後は体育館と部室棟は少し離れたところにあるよ」

 

別にいきなりひとりでに自分の学校を紹介し始めたわけじゃない。

俺の隣で「わぁー!」と窓の外を眺めて目を輝かせているなでしこに言っているのだ。

なぜなら、なでしこと俺が知り合いと言うことで担任から彼女のサポート役に指名されてしまったからだ。

もちろん、男どもからは呪詛を女の子たちからは黄色い声援を浴びた。中には「昼ドラ」や「泥沼三角関係」なんて不吉な言葉が聞こえてきたけど、気のせいだと思いたい。

そんなわけで俺は放課後の時間を使って、なでしこに校内を案内しているのだ。

本当なら今日は部活が休みだから、図書室で時間潰してリンと一緒に帰ろうかと思っていたのだが、そう思い通りにないかないようだ。

外の景色に満足したのか、なでしこは嬉しそうな顔をして戻ってきた。

「ねぇ、ゆう君。この学校にキャンプする部活ってないのかな?」

「キャンプ? キャンプしたいの?」

「うん! この前見た富士山が忘れられなくて」

「ああ」

 

元々なでしこがあんなところまで来たのも富士山を見るためだった。それに夜の富士山は、キャンプをしなければなかなか見れないだろう。まぁ、若いキャンパーが増えるのは悪いことじゃない。むしろ歓迎すべきだろう。

 

「あと、あの時食べたほうとうの味が忘れられなくて」

 

実はそっちが本命では?

頬を触りながらだらしない顔をしているなでしこを見ていると、そう思ってしまった。

 

 

 

 

『野外活動サークル』ーー通称野クル。

野外活動というと登山や釣りなんかも範囲になるのだが、部長の大垣さんいわくキャンプがしたくて作った部活らしい。

人数は二人でまだ正式な部活ではない。聞いてる話だとまだまともにキャンプをしたことないみたいだから、初心者のなでしこにはちょうどいい環境だろう。

そう思い、野クルの部室まで来てみたのだが、中には誰もいなかった(一応ノックはした)。

 

「狭いね」

「そうだね」

「うなぎの寝床みたい」

 

浜松市民らしい感想だった。

物置にもならなそうな幅で、奥行きがそれをかろうじでフォローしているような部室だ。部室の吊り看板がなければ、とても部室とは考えない。

普通初めて入る他人の空間は勝手に入ることを躊躇するものだが、なでしこは何も気にせず中に入りキョロキョロしながら言った。

俺はよく話す間柄の二人なので、気にせずにそれに続く。

「誰もいないね。今日は休みなのかな?」

「いや、だいたいいつも部室にいるはずなんだけど。グラウンドで焚き火でもしてるのかな?」

 

グラウンドで焚き火をするのは、野クルの唯一の活動だ。あとはキャンプ雑誌を見るぐらいらしい。正式は部活ではないとはいえ、よくもまあ存続しているな。

 

「まあ、ちょっとここで待ってようか。それで来なければ後日出直そう」

「うん」

 

とても素直な返事だった。

俺は棚に腰をかける。バッグから暇潰し用の小説を取り出した。昔は活字なんて見るだけで嫌になっていたが、キャンプをし始めてからは時間潰しにちょうどいいことを知った。

なでしこは棚に入れてあるキャンプ雑誌をペラペラとめくっていた。

そこで何か見つけたのか、なでしこは俺にキャンプ雑誌の誌面を見せてきた。

 

「ねぇ、ここにシュラフ特集ってあるけど、シュラフってそんなに種類あるの?」

 

俺は本から目を離し、なでしこを見る。

 

「そうだね。メーカーによって色々出てるけど、代表的なのは『レクタングラー型(封筒型)』『マミー型(人形型)』『エッグ型(卵型)』『人型』の4つかな」

「へぇー! それってどう違うの!」

「うん。俺もあまり詳しいわけじゃないけど、『レクタングラー型』は一番一般的な寝袋だね。漫画なんかでもこれが書かれることが多いから想像しやすいと思うよ。マミーとエッグは使ったことないけど、保温力が高いらしいよ。最後に『人型』だけど、これは保温力は他より低いけど、動きやすいから外の景色見るとき便利だよ。俺が使ってるのも人型のシュラフだしね」

「あ~、あの時の宇宙飛行士だね! ……はっ。じゃあ、リンちゃんと私がそのシュラフを買ったら三人で月面着陸ごっこできるね!」

「あはは、なでしこは面白いこと思い付くな~」

 

リンは絶対やらないと思うけど。寒いしお金の無駄だからイヤだと言うリンが目に浮かぶ。

「まあ、初心者が買うならレクタングラー型がベターだと思うよ。俺は寒いの得意だし、天体観測とか好きだから人型にしたけど、最初はそれだったし」

 

まあ、俺の場合リンのおじいさんにいらなくなったシュラフをもらったから、自分で選んだわけじゃないけど。

「そうだね……っ!?」

 

雑誌に目を戻したなでしこは、目を見開かせた。

そして身体を震わせながら再度俺に雑誌を見せてくる。

何だ何だと思い見てみると、なでしこの指はシュラフの値段欄をさしていた。

 

「ささささささ三万五千円!?」

「ちなみにこっちは四万二千円、そっちは五万円だね」

「シュラフってこんなに高いの!? はっ。ということは他のキャンプ道具も……」

「いやいや、これは高級キャンプ道具の特集だからね? 相場はもっと安いよ。四千円くらいあればそれなりの物買えるし」

「そ、それなら何とか」

「でも、シュラフの他にもテントとか好みによるけど椅子やライト、他にも薪代や宿泊費も込みにすると軽く一万くらい飛ぶけどね」

「うわあああああああ」

 

なでしこは、頭を抱えてしまった。

まずい俺は今若いキャンパーの芽を摘んでしまったのかもしれない。

学生キャンパーが少ない理由の1つに資金面の問題が大きい。リンはおじいさんから道具を譲ってもらってるし、俺もリンのお下がりとか貯まってたお年玉を使って何とかしてるけど、どこもそうとは限らない。特にこの田舎だと学生が働けるバイトは少ない。わりとではなく、大問題だ。

俺は苦し紛れのフォローをする。

「ま、まぁ、でもさ! 野クルに入ればキャンプ道具もシェアできるし、必ずしも全部必要とは限らないんじゃないかなぁ~」

「な、なるほど。ゆう君頭いい!」

 

一瞬で立ち直った。

なでしこが、とてもたんじゅ……素直で助かった。

額の汗を拭っていると、女子が話す声が外から聞こえてきた。どうやら、ようやく来たらしい。

間もなくして、がらりとドアが開いた。そこには眼鏡をかけた黒髪ツインテールと後ろに八重歯が特徴的な金髪の二人が立っていた。

俺と目が合うと、黒髪ツインテールの方の女子こと大垣千明は眼鏡を光らせた。

「ここで会ったが百年目ぇ! ついに我が野クルに入部する気になったか星流ゆう!」

「いや無理無理。俺野球部入ってるし」

「そもそも、うちの学校兼部は禁止やん」

「そういうこと。……まあ、その代わりと言っては何だけど入部希望者連れてきたよ」

 

入部希望者? と首を捻る二人に、俺は後ろにいたなでしこを紹介した。

紹介されたなでしこは、緊張からかびしっと身体を正した。

 

「にゅ、入部希望者の各務原なでしこです! 精一杯頑張ります」

「えーと。来てもらって悪いんだけど、ウチ部員募集してないんだよね」

「ゆう君は歓迎してたのに!?」

 

本当だよ。あれれー? てっきり部員絶賛募集中だと思ってたんだけど、意外にそうでもなかった? なら俺は何であんなにしつこく誘われたのか。大垣さんとフラグを立てた記憶はないんだがね。

 

「ちょっと、なんで断るんよ?」

 

断った大垣さんを、もう一人の部員こと犬山あおいに耳打ちするように聞いた。

 

「だって、部室超狭くなるじゃん」

「部員増えれば、大きな部室もらえるんやない?」

 

その言葉に大垣さんの挙動が止まった。

多分、大きな部室でのびのびと寛いでいる自分を想像しているのだろう。

二人はなおこそこそ話し合う。

 

「正式な部活になるのって、何人必要だっけ?」

「たしか四人以上や」

「私たちは君のような逸材を待っていた!」

一転してなでしこを歓迎し出す大垣さん。

手の平くるっくるだな、おい。

犬山さんも調子がいい大垣さんの姿に苦笑いを浮かべていた。

まあ、歓迎?されてるみたいだし、ノリもあってるぽいし、俺はお役ごめんかな。

 

「それじゃあ大垣さん、犬山さん。なでしこをよろしくね」

「おう任せろ!」

「もう帰るん?」

「いや、リンの図書委員が終わってから帰るよ」

「相変わらず仲ええな~」

「それは、おおきに」

 

ヘタな関西弁でお礼を言って、三人に手をふりながら俺は野クルの部室を後にした。

図書室に向かう途中の廊下で、ズボンのポケットに入った携帯がバイブした。

 

 

リン『まだ学校にいる?』

 

ゆう『いるよ~』

 

リン『じゃあ、図書委員の仕事が終わったら一緒に帰ろう』

『お母さんに買い物してきてって頼まれてるから』

 

ゆう『荷物持ちかよ~』

 

リン『あと、お母さんがよかったら夕飯一緒にどうか? って』

 

ゆう『今すぐにでも行こうではないか。四十秒でしたくしな!』

 

リン『仕事終わったらって言ってるだろ』

 

ゆう『仕事と俺、どっちが大事なの!』

 

リン『仕事』

 

ゆう『俺の心はひどく傷ついた……ガクッ』

『餓死しました』

リン『はええよ』

 

ゆう『そんじゃ、今から行くわ』

 

リン『うい』

 

それにしても今日は色々なことがあったもんだ。

ハルノブをからかって、クラスメイトに質問攻めにされ、なでしこを世話して、野クルの二人と話して……まぁ、楽しかったちゃ、楽しかった。

でもーー

俺は無意識のうちにラインにこう打っていた。

 

『やっぱり、お前と話すのが一番楽しいわ』

 

この文は送らずに削除した。

 

 





基本的に原作と同じになる部分はカットしていきます。

二番煎じだし(建前)、書くのめんどいし(本音)。
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