幼馴染みと志摩リン 作:カカオ天下
A.自分が最近見ている作品がバレる。
時間は昼前だが防寒具が手放せない寒さはいつも通り。解放感たっぷりの広い草原の先には富士山が顔を見せている。
今日の私は麓キャンプ場というところに来ていた。
とても有名なキャンプ場で、ちらりほらりと別キャンパーの姿が確認できた。
テントを張り、椅子に腰かける。
ちょうどよく、ポケットに入れていた携帯が振動した。
ゆうからだ。
ゆう『やっはろー!』
リン『もう昼前だ、寝坊助め』
ゆう『本当だよ。もう朝は布団から出れんわぁ~……』
『って、おい!』
『ついさっきまで試合しとったわ! お前も知ってるだろ!』
というメッセージ通り、今日のキャンプにゆうは付いてきていない。
もちろん私は誘った。しかし、野球部は12月に入ると3月まで対外試合が禁止される。そして今日はその期間に入る前の最後の試合らしい。
さすがにそんな大事な日に休めとは言えず(そもそも向こうの予定優先だけど)。そのため、今日の私は正真正銘ソロキャンプとなった。
ゆう『そっちの景色どう?』
リン『綺麗だよ。冬なのに他のキャンパーもいるし。さすがは有名なだけあるって感じ』
そう送って私はカメラアプリを使って、草原と富士山の写真を送った。
ゆう『いい景色だねー』
『でも生の方が綺麗だったんだろうな~。やっぱり俺も行きたかったわ~』
リン『今から来れば?』
ゆう『午後からもう一試合あるんだよ(T0T)』
『しかも監督最後だから気合い入ってるし』
『多分、完全下校時刻まで帰れそうにない……』
リン『へっ、ざまぁ』
ゆう『くぁwせdrftgyふじこlp!』
リン『ふはははは』
ゆう『くっ、この屈辱は絶対に返す。一万倍返しだ!』
リン『多すぎるだろ』
ゆう『ごめん、先輩から呼ばれた。俺もう行くね』
リン『うい』
ゆう『風邪引くなよ』
リン『ゆうもね。試合がんばれp(^-^)q』
ゆう『サンキュー』
そうして携帯の画面を閉じた。
こうなるとしばらくゆうは連絡とれないだろう。まさか試合中に携帯が弄れるとも思えない。
少し手持ち無沙汰な感じがする。最近ゆうと一緒に行ってばかりだったから、誰もいないことに慣れていないのかもしれない。
何はともあれ、純粋なソロキャンプは久しぶりだ。
今日は楽しむことにしよう。
私は昼ご飯の準備を始めた……って言っても、カップ麺だからお湯沸かすだけなんだけど。机の上にはカレー味と書かれたヌードルが堂々と鎮座していた。
料理はいつもゆう任せだったから、今日は自分で作ろうと思っていたのだが、まさか道中にスーパーが一軒もないとは。田舎を甘く見ていた。
まあ、こんなことも経験の1つと思おう。今度から本気出す。
私は、コポコポと麺にお湯を注いだ。
◇
ガコンと取り出し口にドリンクが落ちてくる音が聞こえてきた。
押したボタンにはあったか~いと赤い印がつけられているが、ひりつくような寒さの中では温めたコンビニのドリアのように手につけたくないくらい熱い。取り出したコーヒー缶を軽くお手玉する。
その様子を隣で笑いながら見ている人がいた。同じ野球部の先輩のヒラカワさんだ。
ポジションは投手で、自他共に認めるエースである。
リンとやり取りしている時に、声をかけてきたのはこの人だ。要件は午前中の試合で活躍した褒美に飲み物を奢るとのことだった。
教育された体育会系が、先輩からの太っ腹な話を断るはずがなく。俺は二つ返事で自販機まで付いてきた。
蓋を開くとカシュッと気持ちいい音が聞こえた。
「先輩ごちになりまーす」
「おう飲んどけ飲んどけ。その代わり午後の試合も頼むぜ」
「任せてください。トリプルスリーやってやりますよ」
「アホ、何十打席するつもりだ」
オレンジジュースに口を付けながら、軽いチョップを入れられた。体罰とかでなく、ただのスキンシップ程度のものなのでつい笑いが出てきた。
「そういやさぁ……」
「どうしたんですか?」
先輩が何か言いたげにしていたので、こちらから聞いてみた……のだが、ヒラカワ先輩は顔を真っ赤にして固まってしまった。
まるでメデューサに睨まれ石にされたみたいだ。
視線は俺の後ろを捉えているようだ。
その目線の方に目を向けると。
「ゆう君やん。おはよう~。いやもうこんにちわやった」
「犬山さん、こんにちわ」
ふわふわとした笑顔を見せていたのは、メデューサなんて恐ろしい存在ではなく、犬山あおい。野クルの部員で、俺の友達である。ああ、だから先輩が石になってしまったのか。
それにしても今日は一般生徒は休みなのだが、犬山さんはなぜいるのだろうか。
「今日はどうしたの? 野クルの部活?」
「ううん違うで~。昨日提出のプリント出すのうっかり忘れてしまったんよ。でも先生が今日中に出せ間に合ったことにしてくれるいうから、さっき出してきたんよ」
「へぇ~」
真面目な犬山さんらしい理由だった。俺だったら遅れていいからと、絶対に休日に学校来ようとは思わない。
「ゆう君は部活?」
「そだよ。さっきまで試合やってた」
「勝てたん?」
「俺が決勝打打って、無事勝利」
イエーイとVサインする。
「へぇ~、すごいやん」
「いや~、それほどでも」
自慢して何だが、素直に褒められると照れ臭い。
軽い雑談をするなか、犬山さんは隣の石像を不思議そうに見た。もちろんこの学校に石像などなく、それはヒラカワ先輩である。
一応紹介した方がいいかな?
「あ、紹介するねこの人は……」
「ヒヒヒヒヒ、ヒラカワでしゅ! よろしくおねがいしましゅ!」
まるでコミュ障ボッチのように、噛みまくる先輩。
その言動からは、先程相手打線からくるくる三振をとっていた姿はとても想像できなかった。
まあ、ここまで来ればバレバレな気がするけど、ヒラカワ先輩は犬山さん好きなのである。犬山さんはかわいいし、性格もいい、げすなことを言うと発育もいい。こんな人に性欲がありあまる男子高校生が憧れないはずがなく、わりとファンが多い。
俺はおっぱいは嫌いじゃないけど、友達に欲情はしないかな。それに、だから犬山さんと友達でいられるんだと思うし。
ヒラカワ先輩の自己紹介を聞いた犬山さんは、面白かったのかクスクスと笑っていた。ここで引き笑いや嘲笑をしないのが、彼女のいいところだろう。
「よろしくやで~、ヒラカワ君」
「犬山さん。1個上だよ」
「あ、先輩やったん。ゆう君と仲がよさそうやったから、てっきり同級生かと思ったわ。すいませんでした」
「いえいえいえ、まったく構いません。むしろご褒美です。是非ともヒラカワ君と呼んでください!」
「そうなん? 分かったわ、ヒラカワ君」
「しゃああああ!」
ヒラカワ君と呼ばれた先輩は、去年の夏大で最後の打者を抑えた時よりも気持ちのこもったガッツポーズをして見せた。喜びがよく伝わった。後輩からはドン引きされていますが。
先輩は、満面の笑みを見せながら俺に言った。
「ゆう、俺ちょっと300球くらい投げ込んでくるわ」
「やめてください。(先輩の肩が)死んでしまいます」
「俺甲子園で優勝したら、(犬山さんに)告白するんだ」
「完全な死亡フラグじゃないですか……。せめてランニングにしてください。投手にはスタミナが重要です」
「分かった。外周100周してくる。……おっしゃあああああ!」
と叫びながら、先輩は走って行った。
……倒れたら、先生の指示じゃなく自主的に行きましたって証言しないとなぁ。じゃないと先生が責任を問われてしまう。
「面白い人やね、ヒラカワ君」
「いつもはもっとカッコいいんだけどね……」
女子の面白い人は、=男扱いされていないと聞いたことがある。先輩脈なしっぽいです。俺は今頃寒さには耐えながら走っているだろう先輩に静かに手を合わせた。
「そういえば今日は志摩さんと一緒やないの?」
「いつも一緒みたいに言わないでよ。リンは今日キャンプ行ってるよ」
「何でゆう君は行ってないんや?」
「誘われたけど、今日試合だから断った」
「失望しました、ゆう君の友達やめるわ」
「なんでやねん!?」
「嘘やで~」
にこりと言われた。
か、からかわれたのか……。あせったー、俺どんな失礼なことをしたのかと思った。友達の決別宣言って、すごく傷つくから。
まったく、からかうのうまいな犬山さん。
はっ。からかい上手な犬山さん……。
閑話休題。
犬山さんは、「1つ聞きたいんやけど」と言い。
「断られた時の志摩さんどんな感じやった?」
「どんな感じって?」
「がっかりしてたとか、不貞腐れてたとかなかったん?」
「まったく。『そうか。分かった』って言ってたけど、がっかりも不貞腐れてもしてなかったな~」
「あ~。志摩さんも志摩さんで問題あるんやな」
犬山さんの言葉に、意味がわからない俺は首をかしげた。
「よく分かんないけど、リンなら大丈夫じゃない? あいつ1人でいる方が好きだし」
と言った俺に、犬山さんはまったくこいつはと言わんばかりに呆れたようなため息を付いた。
「あのなぁゆう君。親しい人間に誘いを断られんのは、少なからずがっくりするもんや。うちだって、あきに遊びの誘いを断られたらがっかりするわ」
「……なるほど、一理ある」
「そうやろ? それにな、志摩さんはたしかに群れるより1人で静かにしてる方が好きかもしれんけど。でもな、1人が好きって、=1人でも平気なわけやないんやで」
「え? 1人が好きなのに、1人だと嫌なの? どういうこと?」
「んー簡単に言うとな……」
犬山さんは、いたずらっ子ぽく唇に人さし指を当てた
「女の子の心は、色々複雑ってことや」
そう言い残して、犬山さんはバイバイと手をふって去っていった。
女心ね……。
男の俺には大学受験並みの難問だ。
まあ、要するにリンが寂しがってるってことだよな?
俺は携帯を取り出して、ある人にラインを送った。そのときなぜか、なんでやねんとつっこむ犬山さんが頭に浮かんできた。
◇
読み終えた本を閉じる。
続いてもう一冊読もうとリュックに手を伸ばしたが、そこで今読んだ本が持ってきた最後の一冊であると気がついた。
しまった、もっと持ってきておくべきだった……と後悔しても後先たたない。
時刻は4時を過ぎた頃。夕御飯を作るにも早すぎるし、そもそも3分でできる(飲み物のためにお湯は沸かしてあるから)。
この辺りの散策もすでに終わっている(写真なんかは、ゆうと斎藤に送った)。
斎藤にメッセージを送っても既読が付かない。まあ、向こうにも都合があるのでしょうがない。
仕方がなく、私はラジオ放送を聞くことにした。
イヤホンから野党がどうとか与党はだらしないとか、眠くなるようなニュースが流れてくる。
こんなときにゆうがいればなんて考えしまう。
たぶん、楽しそうに夕御飯の準備をしながら、私の会話にも神経を注いでくれるだろう。
いなくなって始めて、その重要性に気がつく。
って、それは失礼か。
部活を優先するなんて当たり前だ。ゆうはチームの中心選手だし、相応の責任もある。キャンプはあくまでプライベート。
はぁ、と白い息が漏れた。
そういえば、と不意に先日偶然再会した本栖湖の迷子のことを思い出した。
うちの高校に転校してきたらしい。しかも驚くことにゆうと同じクラス。クラスメイトからの目が怖かったと嘆いていた。
どうやらあのあとからアウトドアに嵌まったらしく、ゆうの紹介で犬山さんと大垣がやっている野クルに入部したらしい。
私も誘われたが、正直ああいうノリは苦手なのですげなく断ってしまった。露骨にいやがりすぎだと、ゆうからは苦言を呈されてしまった。
なでしこには悪いことしたなぁ。「リンちゃーん!」罪悪感からか幻聴が聞こえてきた。「リンちゃーん!」
そんな呼ばなくても分かったって。
「やっぱり、リンちゃんだ」
「だから、分かったって……ふおぉ!?」
私は信じられないものをみたような声をあげた。
だってそうだろ。
ここにいるはずがない、なでしこが鍋を抱えて立っていたのだから。
「な、何でここに?」
「斎藤さんとゆう君がリンちゃんは今日ここでキャンプしてるって」
「まさかの共犯(グル)!?」
なでしこから見せられた携帯の画面には、しっかりとこの麓キャンプ上のURLが貼られていた。
あいつらめ……。私は情報漏洩をした二人を恨めしく思う。
「どうやって来たの? 南部町から、ここまで40キロくらいあるけど」
「お姉ちゃんに車で送ってもらったんだ! テントはまだ買ってないから寝るときも車だけど」
「いいと思うよ。キャンピングカーで寝るのも最近流行ってるし。……それで、今日はどうしたの?」
「今日はねあの時のお礼をしに来たんだよ!」
「あの時? ああ、本栖湖の時の」
「うん。リンちゃんもうご飯食べた?」
「ううん、まだだけど」
「よかったー!」
手を胸前で合わせるなでしこ。
たぶん文脈と持ってる道具からして……。
「リンちゃん、鍋しよう!」
なでしこは土鍋を見せつけながら、満面の笑みでそう言った。
◇
餃子鍋を食べ終えて、なでしこは朝に昇るダイヤモンド富士を見るためにお姉さんの車に戻って寝ている。
私もテントに入って寝ようと思ったのだが、携帯着信を受けた。
相手はゆうだった。
ゆう『起きてる?』
リン『寝てる』
ゆう『そうか、じゃあおやすみ』
リン『おい』
ゆう『そっちが先に仕掛けてきたんじゃん』
そう言われると痛い。
ゆう『って、そんなくだらない言い合いするために話しかけたんじゃないんだ』
『実はリンに聞きたいことがあるんだ』
リン『聞きたいこと?』
ゆう『うん』
『リンさ、今日のキャンプどうだった?』
何でそんなことを? 私は首をかしげた。
リン『楽しかったよ』
『なでしこが来たのはビックリしたけど、景色もきれいだし鍋もおいしかったし』
ゆう『写真見たよ』
『すごくおいしそうだった』
リン『うん』
『ピリ辛で餃子もおいしかった』
『でも、勝手に私の居場所チクったのは、まだ許してないからな:-<』
ゆう『ごめんごめん』
『俺もどうしようか迷ったけど、意識的に手を動かしたんだ』
リン『確信犯じゃねえか』
ゆう『言っただろ。屈辱はかならず返すと』
リン『お前何キャラだよ』
ゆう『我が傷害に一変も悔いなし!』
『5時だ』
どっちも違うな。
ゆう『だから違うって!? 話逸れすぎだよ!』
リン『結局聞きたいことって何なんだよ』
ゆう『リンさ、俺がいなくて寂しかった?』
は? 私は文の意味が分からず目が点になった。
リン『何で?』
ゆう『今日学校で犬山さんに会ったとき、リンは俺と一緒にキャンプ行きたかったんじゃないかって言われて……』
『って! ごめん変なこと聞いて! 今のは忘れて!』
て言われても、もう聞いてるし。
私はソロキャンブが好きだ。それは間違いない。でも、今日感じたのは……。
リン『たしかに……ゆうがいなくて、少し物足りなかった、かも』
文を送ると、数分ほど返信が止まった。
その間に私はとんでもなく恥ずかしいことを言ってしまったと絶賛後悔中だった。
外はマイナス近い気温なのに、寝袋を脱ぎたいぐらい身体が熱い。
そして……。
ゆう『そうなんだ』
『今日はごめん。今度から、できるだけ付き合えるようにする』
リン『ありがとう』
ゆう『じゃあお休み』
リン『うん、お休み』
そう送って、私は画面を閉じた。
たぶん、今日は寝れなそうだな……。
祝両作品とも続編製作決定(何がとはあえて言わない)。