幼馴染みと志摩リン   作:カカオ天下

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最終回にむけて話を進めよう。

異世界カルテットやべぇ、おもしろい。むっちゃカオスだけど。


もやりん

それはとある日の放課後のこと。期末試験が近づき教室の空気は心なしか張りつめていた。

それはそうだろう。この本栖高校では期末試験で赤点をとった場合冬休み中補習を受けさせられる。

高校生の冬休みとは、友達とわいわいクリスマスパーティーをやったり、彼女と駅前のイルミネーションを見に行ったりと青春の一ページを彩るための重大なイベントなのだ。というのが、ハルノブ談である。

 

24、25日共に練習があるのを忘れているのだろうか。俺たち野球部に普通の青春が送れるはずがないのにな。

少しばかり話が逸れたが、要するに期末試験を失敗したものは高校生活の2分の1を無駄にするらしい。そんな大袈裟な。

まあでも、冬休みだろうが平日だろうが補習なんて絶対にごめんだけど。

そんなわけで勉強をするために図書室にでも行こうと鞄を持つと、「ゆうくーん!」という特徴的な鳴き声のピンク髪の生物に突進された。

某殺人タックルのように背後から突然の衝撃に、俺は「うげっ」と呻き声をあげた少しよろめいた。それでも、なんとかふんばり女の子に押し倒されるなんてベタベタなラブコメ展開は免れた。野球部でよかった。

俺は猪突猛進系女子の顔を見て言った。

 

「どうしたのなでしこ?」

 

俺の問いかける。まあ、なでしこが元気なのはいつものことだし。今日は特別元気だが、それもリンからおみやげをもらったから機嫌がいいんだろう(俺は松本城のキーホルダーもらった)。

リアルカ○ビィーこと各務原なでしこは、目を輝かせながら。

 

「ゆう君、一緒にキャンプ行こう!」

 

とんでもない爆弾を落としてきた。

 

 

 

 

考えてみてほしい。

つきあっていない男女が夜遅い中、一晩同じ場所ですごす。それは想像力豊かな高校生の脳内にさまざまな妄想を掻き立てさせる。

もちろん寝床なんてテントを二つ建てれば別になるし、キャンプに行ったからといって間違いが必ず起きるわけではない。ソースは俺とリン。

しかし、他人にとってはそんな事情があろうがなかろうが関係ない。

要は疑惑があればいいのだ。例えば所帯持ちの芸能人が女性と一緒にあるいていれば、実際何もやましいことはなくとも世間は不倫だと認識する。同じく男と女が一緒に遊びに行けばどうなるか、火を見るより明らかだ。

しかも俺はなぜかリンと深い仲だという認識が広まっている。さらになでしこは転校生で容姿もいいからそこそこ校内でも有名人。

結果、周りはざわつく。

違う、誤解なんです! と全力で叫びたい。

だが、なでしこに抱きつかれているこの状況でそんなことすれば、オフホワイトの疑いは、ダークグレーに深まるだろう。人間の心って難しいし、面倒くさい。

不幸中の幸いなのは、放課後ということでクラスの人は半分くらいしかいないことだろう。特になでしこに密かに心引かれる変態紳士たちがいないことは大きい。おそらく彼らがいれば、俺は体育館裏に連れ込まれ想像したくないくらい酷い目にあっていただろう。まぁ、明日の朝には広まっているんだろうけど。明日休もうかな(遠い目)。

「ねぇ、ゆう君! キャンプ行こう! 焼肉キャンプ!」

 

そして現在俺を針のむしろ状態にしている元凶は、自覚なしに俺を誘い続けていた。

君が純粋なのは知っているけど、もう少し恥じらいを持とうね。

俺はなでしこの肩を押して少し距離をとる。

「なでしこ落ち着いて。急にどうしたの? 焼肉キャンプ?」

「リンちゃんがね焼肉するための機材買ったの! こんな風に賽銭箱みたいな形のやつ!」

「リンが? ……ああ」

 

そういえば前にAmazonで注文したと言ってたな。

これで私も料理するんじゃ! って意気込んでたっけ。リンも料理するようになったんだ。失敗した黒焦げ目玉焼きを食わされたのが懐かしいよ。

「だからねリンちゃんとキャンプ行こうって話になったの! それで私が、それならゆう君も誘っていい? って聞いたら」

「ゆうがいいって言うならいいよ、でしょ?」

「うえぇぇぇ!? 何で分かったの!? エスパー!?」

「いかにもリンが言いそうな台詞だからね~。10年以上付き合いがあれば、そのくらい分かるさ」

 

俺の言葉になでしこはへぇーと感心した様子だった。

「でも、何で俺も誘おうと思ったん? 男がいるより、女の子二人の方が気兼ねなく楽しめるんじゃない?」

「そうなの? 私はゆう君もいた方が絶対楽しいとおもうよ?」

「お、おう」

 

ちょっとだけドキッとしてしまった。

純粋で真っ直ぐな好意(友人としてだろうけど)って、こんなに嬉しいんだな。

「それにね、私ゆう君にお礼したいと思って」

「お礼?」

「うん。本栖湖の時ほうとう食べさせてもらったことか、それと転校した後も野クルに紹介してくれたり、教科書見せてもらったりお世話になりっぱなしだから! 少しでも恩返ししたいんだ!」

「恩返しなんて……大袈裟だなぁ」

 

そう思うと俺となでしこの関係って、少女漫画みたいだよな。危ないところで助けて、転校してきたら偶然同じクラスで、色々関わりを持って。違うところは男の方がイケメンじゃないところ……ってやかましいわ!

……まぁ、リンも一緒みたいだし、試験休み期間だから部活もない。行こうか。

 

「いいよ。俺も行くよ、焼肉キャンプ」

「やったー! リンちゃんとゆう君と一緒に焼肉キャンプだぁ!」

「予定なんかは後日ラインで確認しよう」

「うん分かった! ……やっきにくキャンプ! やっきにくキャンプ!」

 

楽しそうに鼻唄を歌っているなでしこを教室に残して、俺は教室を逃げるように後にした。……明日学校行くのこわいなぁ。

 

 

 

 

図書室に来た。

いつもはがらがらな図書室なのだが、今日はテストが近いということで、それなりに席が埋っていた。これがピークになるとお前の席ねえからレベルに混む。

受付の方を見ると、いつも通りリンが本を読みながら、斎藤さんの髪遊び相手になっていた(ほぼ一方的だけどね)。

俺がそちらに歩くと、途中で斎藤さんが笑顔を向けてきた。それに遅れてリンも無表情のまま手を挙げてきた。

 

「ゆう君、やっほ~」

「よう」

「斎藤さん、やっほ~。ついでにリンにはデスビーム!」

「殺意剥き出しじゃねえか」

「ぐはぁ! こ、ここまでかぁ……」

「いや斎藤、お前が死ぬのかよ」

「さあリン覚醒するんだ。斎藤のことかぁああああ! って」

「いやだよ。というか、ここ図書室なんだから静かにしろ」

「リンが私のために怒ってくれない……」

「くっ、リンブラックめ。なんて冷徹なんだ」

「ノリノリかよ。お前ら仲良しだな」

 

リンは心底呆れた様子だった。

俺と斎藤さんは、グッとポーズでお互いを讃え合う。

ちょっとリンのいつもお団子のところが、イーブイの尻尾みたいになっているのを見たらドラゴンボールを思い出してしまった。というか、その髪型どうやってんの? 気になったけど、どうせ理解できないからいいや。坊主頭の高校生に髪遊びなんてできないし。

「そういえばゆう。なでしこから話は聞いた?」

「うん。焼肉キャンプでしょ? 練習ないから行けるってか言っておいたよ」

「へぇ、なになに。今度はゆう君もなでしこちゃんとキャンプ行くの?」

「そうだよ。クラスメイトの目の前でね……」

「ああ、なでしこらしいね」

 

リンは同情してくれた。俺のトーンが下がったのを見て、何があったのか大体察したのだろう。

 

「あはは、大変だね~」

 

斎藤さんも察したうえで、他人事な言葉だった。彼女らしいと言えば、彼女らしい。

まあ、酷い目と言っても実力行使には出ないと思うし。多分、メイビー。

「それで今回はどこのキャンプ場に行くつもりなの? また本栖湖?」

「ううん。今回はなでしこがキャンプ場探すんだって」

「なでしこが? へぇ、張り切ってるな~」

 

恩返しというのは過言ではないらしい。

これは俺も美味しいもの用意してあげようかな~。

 

「リンは何時に帰る?」

「図書室閉めるのと同じ。だから、6時ぐらい」

「おっけ~。じゃあ、待ってるから終わったら一緒に帰ろう」

「分かった」

 

さて、補習にならないようにテスト勉強でもしようか。

俺は空いてる席を探す。受付から離れた奥の方の席が開いていたので、そっちの方に向かった。

 

 

 

 

 

「相変わらずお熱いね~二人とも」

「からかうなよ斎藤……」

 

私がからかうように言うと、リンはうざそうに顔をしかめながら言った。

照れてるのかな?

でも、流れるように一緒に帰る約束取り付けているのに、今さら照れるほどのことはない気がするけど。

 

「でも私驚いたよ。なでしこちゃんってキャンプに誘えるくらいゆう君と仲良かったんだね~」

「まあ、同じクラスだし。休み時間とかもけっこう一緒にいるらしいよ」

「……二人で?」

「知らん」

 

興味は無さそうな口調だった。

リンはやきもちとか焼かないのかな? 親しい男の子が知らないところで女の子と仲良くなってたら、普通少しは気にすると思うんだけど……。

ちょっと聞いてみよう。

 

「リンは気にならないの?」

「何が?」

「ゆう君となでしこちゃんの関係」

「???」

 

リンは私が何を言っているのか本気で分かっていない様子だった。

私は戦慄した。

私は勘違いをしていたのかもしれない。この二人が進展しない原因は、肝心なところでへたれるゆう君だと思ってた。でも、実はリンの常軌を逸した鈍感が原因なのではないか。

ゆう君は本人は自覚してないけど、けっこう女の子に人気がある。野球部で中心選手で顔も特別悪いわけではなく、明るいし、ノリもいい。言い方は悪いけど、なかなかの優良物件だ。無理もない。

それでもこれまで動きがないのは、リンとの仲に入り込めないとみんなが諦めたからだ。それもいつ崩れるか分からない。どこかでころっと他の人に持ってかれてしまうかもしれないのだ。

リンは危機感が足りてない。お節介かもしれないけどね。

 

「もしかしたら付き合っちゃうかもよ、ゆう君となでしこちゃん」

「またそういう話か……」

「あり得ないことじゃないでしょ。いいの? 二人がくっついても?」

「私にどうこう言える権利はないし」

「ふーん。リンは受け入れちゃうんだ。ゆう君がリンを優先しなくなっても」

「……いいだろ別に。誰と付き合うかなんてゆうが決めることだし。私トイレ行ってくるから、受付やっておいてくれ」

 

リンはそそくさと逃げ出してしまった。

どこか釈然としないまま、私は先程リンが座っていた席に座った。頬杖をつく。

はぁ、今度のキャンプで少しは進展してるといいんだけどなぁ。

 

 

つい図書室から逃げ出してしまった。

斎藤が前々から私を焚き付けようとするのは分かっていたが、今日は迫力が違った。どこか怒りにも似た何かを感じた。

でも、いきなりゆうがなでしこと付き合うなんて言われても、私に文句を言う権利なんて……?

なぜだろう。なんだか胸がもやっとする。

「風邪でもひいたのか?」

 

私は特に気にせずに時間を潰した。

 





斎藤さんにようやく出番が来た。

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