元勇者。現代日本でJKやってます   作:猫ニャンニャンニャンニャンニャン…etc

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気合い入れすぎて6000文字超えちゃったんですが…。

しおりの分布などによっては、そのうち分割して2話にするかも知れません…。


歯車と歯車

 金色のツインテールを靡かせて一人の少女が電車からホームへ降り立った。

 

 小柄な少女はセーラー服を着た小学生のようで……。実際、146センチしかない彼女はよく小学生に間違われる。

 

 彼女が初対面の人間とする会話は、身長の話題かハーフなのかと言う話題になる可能性はうんと高かった。いや、初対面でこの話題にならなかった事はもしかしたら一度も無いのかも知れない。

 

 そんな彼女の名前は悠木(ゆうき)耀(ひかり)

 現在、岩津高校に通う高校2年生。

 

 かつては人類最後の光として闇の勢力に立ち向かった異世界の勇者である。

 

 生前に身に着けた魔法などの技術は使えるが、だからと言って漫画のような事件に巻き込まれる訳でも無く。

 背が低くてハーフでもないのに金髪碧眼と言う大きな問題点はあるものの、耀(ひかり)はゲーム好きの女子高生として前世と比べれば平凡な生活を送っていた。

 

 そして春の温かさと平和の有難さを噛み締めながら、今日と言う耀(ひかり)の一日は平凡に過ぎ去っていく……。

 

 ……はずであった。

 

 

 ガラガラガラ。

 

 引き戸を開けた耀(ひかり)は教室に入ると、後ろ手で扉を閉めながら時計を確認した。

 時計はホームルームまで残り五分を指しており、いつも通りの時間。

 

 普段よりも何故か大きい教室の喧騒を聞きながら、カバンを仕舞うと耀(ひかり)は自分の席へ着席した。

 

 そして耀(ひかり)は隣の席に座る少女へ挨拶をする。

 

「おはよ、城咲(しろさき)

 

「おはよう」

 

 すると、その少女は微笑んで耀(ひかり)に挨拶を返してくれた。

 

 眼鏡をかけたショートボブの少女。

 見るからにおっとりとした雰囲気で、漂う優しいオーラからは柔らかな母性を感じる。

 身長は耀(ひかり)よりも10センチ以上高く、胸は母性があるせいかそこそこ大きかった。

 

 彼女の名前は城咲(しろさき) (めぐみ)

 

 その見た目通り城咲(しろさき)(めぐみ)の優しさは本物で、1年生の頃に教室でいつもぼっちであった耀(ひかり)に声を掛けてくれたのだ。

 以来、昼食などは城咲(しろさき)(めぐみ)と一緒に耀(ひかり)は食べていた。

 

 所属人数の少ない文芸部への入部を彼女から促されたりもして、城咲(しろさき)(めぐみ)とは同じ部活動の部員でもある。

 

 耀(ひかり)にとって、城咲(しろさき)(めぐみ)はこの学校唯一の友人と言って良い存在だった。

 

 耀(ひかり)は表情を柔らかくしながら彼女へ話題を振る。

 

「今日は騒がしいけど何かあったのか?」

 

「うん…なんかね、転校生が今日このクラスに来るらしいよ」

 

「転校生?」

 

 耀(ひかり)は少し不思議そうな顔をして続けた。

 

「こんな時期に? まだ5月の中旬だぞ?」

 

「うん…私も変だと思う。でも噂によれば高級車で登校していたみたいだし、家庭の事情とか凄いんじゃないかな?」

 

「こ、高級車で登校……。何処の世界の住民だよ。それって噂が独り歩きしてるだけじゃないだろうな?」

 

 耀(ひかり)の引き攣った顔を見て城咲(しろさき)は苦笑いをする。

 

「あはは…かも知れないね。私も聞き耳立てててただけだし……」

 

 他にも聞けば、凄い美少女でモデルのようなスタイルをしているらしい。

 どんどん噂の信憑性が怪しくなってきている。

 

「まぁ、何にせよ本人が登場すれば全て明らかになるか」

 

 耀(ひかり)がそう言うと、ちょうどよくホームルームの始まりを告げるチャイムが鳴る。

 するとチャイムを聞いたクラスメート達が疎らになって自分の席へ戻っていった。

 耀(ひかり)が学校生活でよく見るいつも通りの光景だ。

 

 少しして担任の教師が教室に入ってくる。

 耀(ひかり)達のクラス担任は体育系統の中年教諭で、短髪に灰色のジャージがトレードマークの男性だ。

 名前は黒沢である。

 

「突然だが今日はお前らに報告がある」

 

 教室が少しだけ色めき立った。

 

「ああっと…すでに知っている人も居るみたいだが、転校生が今日このクラスに来ることとなった。お前らに紹介する」

 

 そう言って先生は転校生を廊下から教室へ引き連れて来る。

 

 背中までかかる黒髪が漆のように艶めき、サラサラと絹のように揺れていた。

 

 おぉ…確かにこれは噂通りの……。

 

 耀(ひかり)は思わず息を飲んで納得した。

 ここまで噂されるのも無理はないな、と。

 

「今日からこのクラスで勉学を共にする漆羽(うるしばね)京子(きょうこ)です。皆さんどうぞよろしく」

 

 自信と覇気に溢れた表情で自己紹介をした彼女は間違いなく美少女と表現することができた。

 

 黒い瞳には力強さが宿っていて、キリッとした眉も相成り全体的に勝ち気な印象を覚える。

 そして何より特色すべきはそのスタイルである。身長は165〜170センチ程で有ろうか。平均よりも高い背にスラッと伸びた美脚。そして貧相すぎず豊満すぎないヒップとバスト。

 それはアジア人にとってまさしく理想的なスタイルだ。

 

 次にオーラ。

 教室の壇上に立ち、転校生特有の少しデザインの違う制服を着ている事を差し引いても、彼女からは異質な雰囲気が漂っている。

 影が濃すぎるとでも言うのだろうか。耀(ひかり)は彼女に意識が吸い寄せられる事を自覚する。

 

 今なら高級車で登校してきたと言う話も耀(ひかり)は信じられた。

 金持ち特有の英才教育。美少女と言うこともあるのだろうが、彼女から感じる独特なオーラにはそれしか説明が付かないからだ。

 

 しばらくシン……と静まり返っていた教室。

 

 その空気を変えたのは担任の黒沢先生だ。

 

「どうしたお前ら! 歓迎の拍手だ!」

 

 それを聞いたクラスメート達は我に返ったように疎らに拍手が響いた。

 次第に拍手は力強くなっていき、クラスのお調子者達が「よろしく転校生!」などと野次を飛ばし始める。

 

 恐らく3つ隣の教室の方まで聞こえているだろう。

 凄い熱狂である。普通の転校生ではこうはなるまい。

 

 もちろん耀(ひかり)も適当に拍手しておいた。

 協調性が無い奴は村八分。前世で勇者になる前はしがない農民だった彼女は、その辺はよく心得ている。

 

「静かに! 静かにしろお前ら! それじゃ、漆羽(うるしばね)の席はそこの右後ろの空席にしたいと思う」

 

 教室の拍手と野次を止めた黒沢先生は漆羽(うるしばね)の席を指差した。

 昨日にはなかった最後部で右端の座席だ。

 

 耀(ひかり)は真ん中の方の席なので彼女とは余り近くない。

 ちなみに席はくじ引きで決められる。耀(ひかり)城咲(しろさき)と隣の席になったのは全くの偶然であった。

 

「じゃあ、赤坂。隣の席だから漆羽(うるしばね)に色々と教えてやってくれ。漆羽(うるしばね)は席に付いて良いぞ」

 

 再び「赤坂〜、VIPの案内まかせたぞ〜!」などと野次が飛んだ。

 それを聞いた赤坂と言う女子はオロオロと狼狽えている。

 

 そしてスタスタと指定された席で立ち止まった転校生…もとい漆羽(うるしばね)はニコリと笑って挨拶をした。

 

「よろしく」

 

「あ…は、はい! よろしくお願いします!」

 

 ガチガチに緊張する赤坂を見て漆羽(うるしばね)はクツクツとおかしそうに笑った。

 

「私達は同級生だろう? 敬語なんてよそうではないか」

 

「は、はい……あ…いや、うん…よ、よろしく漆羽(うるしばね)さん」

 

 何故か顔を赤くしている赤坂。

 

「ふふ……よろしく」

 

 漆羽(うるしばね)はそう言うと席に着いた。

 

 う〜ん、なんだアイツのねっとりとした喋り方は。

 随分と様になっているな……。

 

 そんな事を思いながらジーッと漆羽(うるしばね)を見ていた耀(ひかり)であるが、漆羽(うるしばね)がチラリと視線を向けてきた。

 二秒ほど目が合うと、漆羽(うるしばね)は口角を吊り上げた。

 

 その笑みに気後れした耀(ひかり)は目を逸らす。

 

 うっ…何だか迫力のある笑みだ……。

 美人だからかな……?

 

 再び視線を向けると漆羽(うるしばね)耀(ひかり)をもう見ていなかった。

 

漆羽(うるしばね)。荷物は後で俺が持っていくからな。と言う訳でみんな新しいクラスメートと仲良くしてくれ。そんじゃ、ホームルームを再開する。お前ら静かにして前を向け!」

 

 こうしてホームルームはいつも通りの諸連絡へ移っていった。

 

 

 

 ホームルームが終わり1限目の授業が始まる前の時間。

 

 ワイワイと漆羽(うるしばね)の周りを複数人が取り囲んでおり、質面攻めにしていた。

 よく見ると、取り囲んでいる人間の中には他クラスの者まで混ざっている。

 

「凄い人気だな……あの転校生」

 

「うん…人間って新しい何かは意識せずにいられない生き物だから」

 

 耀(ひかり)の呟きに、やや苦笑いをしながら城咲(しろさき)が答えた。

 クラスメート達のことを子供っぽいとでも思っていそうな態度に見える。

 

「それにしたって異常だよ。普通の奴だったらもう少し落ち着いた感じになるだろ」

 

「あはは…確かに…。彼女、凄いキラキラしてるもんね」

 

 こうして二人の会話通り、それからの学校生活は漆羽(うるしばね)京子(きょうこ)の話題で持ち切りになった。

 それを見た耀(ひかり)ははなんだか今まであったクラスの日常が無くなってしまったようだと思う。

 しかし、その非日常も続けば日常になる。

 

 そう言う意味で、耀(ひかり)漆羽(うるしばね)が転校して来た事をあまり気にしていなかった。

 

 

 ★

 

 

 そして1週間程が経ち、漆羽(うるしばね)がクラスに馴染み始めた日の放課後。

 学校の授業を終え、文芸部の部室へ向かった城咲(しろさき)と別れた耀(ひかり)は、昇降口前の下駄箱を開ける。

 

 すると、靴の上に一通の手紙がポンと置かれていた。

 

 その手紙を手に取った耀(ひかり)は辺りをキョロキョロと見回す。

 

「う〜ん、これまたベタな…。これってそう言う事だよな?」

 

 これがラブレターだと決まった訳ではないが、耀(ひかり)がこの手法で告白されるのは小学生以来の事であった。

 中学に上がってからは、殆どが通話かラインである。

 

 実は耀(ひかり)は転生してからそこそこ異性にモテていた。

 もっとも、本人は元男なのでこの事実には複雑な気分にさせられているのだが……。

 

「まぁ、そうと決まった訳じゃない。取り敢えず開けて見るか」

 

 耀(ひかり)は横長の白い封筒を開くと、中から手紙を取り出す。

 

 するとそこには『今日の放課後に屋上で待ちます』、と印刷と見紛う程の達筆な文字で、そう簡素に書かれていた。

 

「なんだこの綺麗な文字……どんだけ気合入れて書いたんだよ」

 

 それにしても屋上かぁ……。普通に閉まってるだろ。

 イタズラかな?

 

 耀(ひかり)は手紙を裏返したりして観察しながら訝しむ。

 

 そして、どうするべきか迷った末に耀(ひかり)は……。

 

 

「ここに来た」

 

「どうしてそうなるの……」

 

 文芸部の部室で城咲(しろさき)耀(ひかり)にツッコミを入れる。

 

 城咲(しろさき)は長机に向かって小説を書いており、邪魔をされていることに少しだけ不機嫌そうだった。

 本棚に囲まれた部室には城咲(しろさき)耀(ひかり)しか居ない。

 

 部員はこの二人だけだった。

 

「まぁ…オレも一応、文芸部の一員だし別に良いだろ?」

 

「普段は顧問が居るときしか参加しない癖に……。早く屋上に行ってあげたら?」

 

「チッチッチ……そこが肝なんだ」

 

 耀(ひかり)は舌を鳴らして否定すると、パイプ椅子を持ってきて長机の端の方に座った。

 

 耀(ひかり)は部室にしばらく居座るつもり満々である。

 

「しばらく時間を空けて行ってもまだ居たら、そいつの本気度はそれだけ高いって事だろ? 幸いにも放課後ってだけで時間の指定はなかった。それに場所からしてイタズラかも知れないからな。その場合、早く行くと惨めだ」

 

 城咲(しろさき)は呆れたように眼鏡を掛け直した。

 

耀(ひかり)ちゃんって意外と面倒臭いよね。早く家に帰ってゲームすれば良いのに」

 

「あのな…告白を振るのは意外としんどい。ましてや面と向かってなんて、さらにしんどい。その儀式を避けられるのなら放課後のゲームを我慢するくらい余裕だ」

 

「本気度を確かめる割には振ること確定なんだね」

 

「まぁな…オレは恋愛とかに興味ないんだ」

 

「そう言ってる癖にモテモテで羨ましいよ」

 

「モテモテって言っても告白されたのは……たぶん30回くらいだぞ? 人生のトータルで」

 

「十分多すぎるよ」

 

 間髪入れない城咲(しろさき)の皮肉げなツッコミに、耀(ひかり)は親指をグッと立てた。

 

「さすが城咲(しろさき)…ナイスツッコミだ…」

 

「全く……居ても良いけど邪魔はしないでね」

 

 そう言って城咲(しろさき)は原稿用紙に再び向かい始める。

 

「やはり…持つものべきは友達…」

 

「はいはい友達友達」

 

 耀(ひかり)の呟きに城咲(しろさき)はペンを進めながら適当に答えた。

 

 それを見て耀(ひかり)は邪魔をするのを辞め、スマートフォンでゲームの情報サイトを閲覧し始めた。

 

 

 ★

 

 

「ホントに鍵が開いてるのか……?」

 

 時刻は夕焼け色の空が沈み始めた頃。

 

 耀(ひかり)は屋上への扉に手を掛けていた。

 城咲(しろさき)が部室を閉めて下校してしまったため、耀(ひかり)はこうして渋々と屋上へ足を運んでいたのだ。

 

 ガシャリと取っ手を捻り、扉を押すとあっさりと開いていく。

 外は東側がすでに暗くなっていた。

 

 屋上に来るのは初めてだな。

 いったい呼び出した奴はどうやって開けたんだ…。

 

 ヤバイ奴じゃなきゃ良いんだが。

 

 そう思いながら耀(ひかり)が屋上を見回すと、彼女は入り口へ背中を向けてそこに居た。

 

 夕日を浴びて煌めく黒髪。

 それが少しだけ風に揺られて棚引く。

 

 耀(ひかり)が予想外の人物に真顔で立ち尽くしていると、彼女はゆっくりと振り返る。

 

「あぁ…待ちくたびれた……」

 

 耀(ひかり)を射抜くのは、力強い黒の瞳。

 

 そこに居たのは果たして、今注目の的である転校生。漆羽(うるしばね)京子(きょうこ)その人であった。

 

「随分とこの私を待たせるではないか…悠木(ゆうき)耀(ひかり)?」

 

 バタン!と耀(ひかり)の後ろで扉が力強く閉まった。

 

 二秒ほどフリーズしていた耀(ひかり)であったが、重く口を開く。

 

「オレを呼び出したのはオマエか…? 転校生」

 

 それを聞いた漆羽(うるしばね)がクツクツと喉を鳴らした。

 

「私以外に誰が存在すると言うのだ? 悠木(ゆうき)耀(ひかり)

 

 謎の張り詰めた緊張感が耀(ひかり)を襲う。

 この緊張感は耀(ひかり)が前世で強敵を前にする時、必ず感じていたものだ。

 

 な、なんなんだよコイツ……。

 

 漆羽(うるしばね)を半分だけ西から夕日が染めるが、耀(ひかり)にはそれが逆に、彼女が半分だけ闇に染まっているように見えた。

 

 ツー、と耀(ひかり)の背中を冷や汗が伝っていく。

 

「……。……いったい何が目的なんだ? いや…オマエ…何者だ?」

 

「何者か……だと? クク…貴様は私を知っている」

 

 漆羽(うるしばね)が笑みを浮かべながら一歩、一歩、とゆっくりと近づいて行き、それに対して耀(ひかり)も後退りしていく。

 

 耀(ひかり)の顔は強張り、青い瞳は恐怖の色に染まっていた。

 

「し…知らない…。オレはお前とこの学校で初めて会ったはずだ…。そ、それ以上近付くと人を呼ぶ…!」

 

 ピタリ…と耀(ひかり)の言葉に漆羽(うるしばね)が立ち止まる。

 

「人を呼ぶ…か…。さては乙女だな」

 

 そう呟いた漆羽(うるしばね)が真顔で俯き、その瞳を閉じた。

 

「私…いや、我……と言えば分かるか……?」

 

 漆羽(うるしばね)が顔を上げ、閉じていた瞳を耀(ひかり)へギョロリと向ける。

 その瞳は紅く染まり、口元は好戦的な笑みに歪んでいた。

 

「選ばれし人間…勇者よ……」

 

「な……」

 

 耀(ひかり)は目を大きく見開き、絶句する。

 

「クク…ふふ…ふはははは…!」

 

 それを見た漆羽(うるしばね)は声を出して笑った。

 

「あぁ…! 随分と面白い顔をするのだな勇者よ! さては貴様! 完全にこの世界に馴染んだな!?」

 

 漆羽(うるしばね)の高笑いを背景に、ようやく耀(ひかり)の顔に理解と平常の色が宿った。

 

「ま…魔王……! ば、馬鹿な…! 有り得ん!!」

 

「ククク…何が有り得んのだ? 勇者よ」

 

 耀(ひかり)の全身から脂汗が吹き出る。

 

 コイツがなんでこの世界に…!!

 

「何もおかしな話では無い。貴様があの場で死に絶え、この世界へ転生した。ならばそれは貴様に限った話ではない。道理であろう?」

 

 魔王の言葉を無視し、耀(ひかり)は全身に魔力を漲らせる。

 

 すると耀(ひかり)を中心に激しく空気が乱れ、漆羽(うるしばね)耀(ひかり)の制服や髪がバサバサと風に揺られた。

 

「何が目的だ…! 魔王…!!」

 

「なに…我の目的は単純明快の一言に尽きる…」

 

 グワンッ…と漆羽(うるしばね)から可視化できる程に濃い闇の魔力が周囲へ迸った!

 

 ビキリ…と校舎のコンクリートにヒビが入り、屋上のフェンスがグニャリと反り返る!

 そして学校中の窓ガラスが割れる音が辺りに響き渡った!

 

 耀(ひかり)はと言うと、その闇の本流の中、自らの身体を魔力で包み込み身を守る事で精一杯だった。

 両者の間には隔絶された実力差が横たわっている。

 

 今の耀(ひかり)には聖剣も無ければ、仲間も居ないのだ。

 

「我の目的…それは勇者。貴様との再戦だ」

 

「くっ…さ、再戦だと…?」

 

 漆羽(うるしばね)はかつての出来事を思い出すように夜空を見上げた。

 すでに夕日は完全に沈んでいる。

 

「……前世で我は、脳天を聖剣に叩き斬られて死亡した。勇者よ。他ならぬ貴様自身の手によってな」

 

 漆羽(うるしばね)耀(ひかり)を紅い瞳でギロリと射抜く。

 

「貴様がここに居ると言うことは、最後の悪あがきである炎の吐息で相討ちとなったようだが…それでも屈辱である事には変わりない」

 

 それを聞いた耀(ひかり)は警戒しながら、魔力で身体能力を強化していく。

 まずは神経系。その次に筋肉だ。

 

「完璧であるはずの我唯一の汚点。貴様への敗北を今こそ払拭する…!!」

 

 漆羽(うるしばね)はバサッと両腕を広げる。

 それに対して耀(ひかり)の警戒心が一気に高まった。

 

 しかし漆羽(うるしばね)は何もすることなく、そのまま力無く腕を下ろした。

 

「はずであった……」

 

 漆羽(うるしばね)は眼をゆっくりと閉じて、再びゆっくりと開く。

 

 すると紅かった瞳は黒色に戻っていた。

 

「どうやら私は思い違いをしていたらしい」

 

 スタスタと歩いてくる漆羽(うるしばね)耀(ひかり)は身体を強張らせたが漆羽(うるしばね)は何かしてくる事もなく、そのまま耀(ひかり)と擦れ違った。

 

 耀(ひかり)は警戒を緩めず、振り返って彼女に決して背を向けない。

 

 しかし漆羽(うるしばね)耀(ひかり)に反応することなく、屋上の扉に手を掛けた。

 

「勇者…いや、悠木(ゆうき)耀(ひかり)。今の貴様を殺したところで私の目的は果たせそうにない」

 

 そう言った漆羽(うるしばね)は歪んで上手く開けなかった扉を強引にバキン!と取り外すと、そのまま立ち去って行った。

 

 そして屋上に1人残った耀(ひかり)は緊張の糸が解れたように、その場にペタンと座り込んだ。

 

「魔王も…こっちに来ていた…」

 

 しばらくボーッと座り込んでいた耀(ひかり)は…元勇者はそのうち少しだけ頬を無意識に緩めた。

 

「そうか…オレは世界を救えたんだな……」

 

 夜空に浮かぶ欠けた月が、地上を明るく照らしていた。

 

 




↓漆羽京子

【挿絵表示】

↓漆羽京子(赤目ver)

【挿絵表示】

前世ではオスでしたが人間ではないので、今世で人間として振る舞う以上は自分が女である事には違和感を覚えていません。

勇者を作ったんなら魔王を…と言うことで彼女を作りました。
驚いてくれた人が居たら、集客数が減ること承知であらすじにネタバレ書かなかった甲斐がありました…。

この画像も例によってPicrewです。
メーカーは『黒髪の女の子メーカー』を利用。
ギリギリアウトな気もしますが、執筆は個人的なことの範囲内だし…と言うことで載せました。
間違いなく書籍化はしませんので安心ですね。ハイ。

以下は『黒髪の女の子メーカー』リンクになります。
LINK:https://picrew.me/image_maker/26700
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