元勇者。現代日本でJKやってます   作:猫ニャンニャンニャンニャンニャン…etc

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そして歯車は回りだす

 その後、屋上が荒れ果て学校中の窓ガラスが割れていた件には警察が出動し、しまいには不可解な事件としてニュースに取り上げられるまでの騒ぎとなったが、1ヶ月も経つと事件の事について噂する人間は見なくなった。

 

 そんな今の時期は6月の下旬に差し掛かろうとしている頃。

 

 あれ以来、魔王こと漆羽(うるしばね)京子(きょうこ)耀(ひかり)に絡んで来ることはなく、耀(ひかり)と目を合わせることもない。

 彼女はすっかりクラスの中心的なポジションに居座り、人気者として日常へ溶け込んでいた。

 

「この前の体育の授業、漆羽(うるしばね)さん凄かったよね〜。サッカー習ってたの?」

 

「特に習っていた訳ではないな。単純に運動神経が良いだけさ」

 

「凄い! 漆羽(うるしばね)さんって何でも出来て欠点がないみたいだね!」

 

「ふふ…ありがとう。でも私にだって欠点はいくつかある。たとえば、辛いものが苦手だったりね」

 

「あははは! 漆羽(うるしばね)のそれは欠点って言わねぇよ! お茶目ポイントだな!」

 

 耀(ひかり)は休み時間中の漆羽(うるしばね)をジッと見つめる。

 

 ああして楽しそうに談笑しているが、耀(ひかり)には彼女が人間と言う化けの皮を被った怪物にしか見えなかった。

 前世で 耀(ひかり)は、人々が魔族の手によって苦しむ姿を嫌というほど見せられているのだ。

 

 漆羽(うるしばね)が何か妙な気配を見せれば、耀(ひかり)は刺し違えてでも漆羽(うるしばね)を殺そうと覚悟を決めていた。

 流石に漆羽(うるしばね)と言えども近代兵器が配備された軍隊に敵う訳はないだろうが、前世のように好き勝手はさせられない。

 

耀(ひかり)ちゃん。どうしたの?」

 

 と、ここで城咲(しろさき)に声を掛けられ、耀(ひかり)は現実に戻された。

 

「ふぇ…? な、なんだ城咲(しろさき)?」

 

「なにって…前から気になってたけど耀(ひかり)ちゃんって時々凄い怖い顔で漆羽(うるしばね)さんのことを見つめてるよ?」

 

 城咲(しろさき)が心配そうに耀(ひかり)の顔を覗き込む。

 

「そ…そうか? そんなことないと思うが……」

 

「嘘だよ。もしかして漆羽(うるしばね)さんに何かされたの?」

 

「えっ…それは……」

 

 耀(ひかり)は眼を泳がせた。

 

 確かに耀(ひかり)漆羽(うるしばね)に何かされたと言えばされた。

 主に前世での話にはなるのだが……。

 

「ほら、やっぱり。いったい何されたの?」

 

 城咲(しろさき)が少しだけ怒った様子で問い詰めてくるのに対して、耀(ひかり)は慌てたように否定した。

 

「だ、大丈夫だ! 城咲(しろさき)が心配するような事じゃない!」

 

 流石に「実はオレには前世があってさ…」などとは切り出せない。

 完璧に痛い奴である。

 

「……。……」

 

 ジッと目を見つめて来る城咲(しろさき)に、申し訳なさそうに 耀(ひかり)は手を合わせた。

 

「ごめん城咲(しろさき)! 心配してくれるのは有り難いけど本当に大した事じゃないんだ…」

 

「……。……」

 

 無言で見つめ続けてくる城咲(しろさき)であったが、やがて溜息を吐くと口を開いた。

 

「はぁ……今みたいな耀(ひかり)ちゃんは頑固だからね。分かった、これ以上は追求しない。…だけど大変な時は必ず私を頼るんだよ?」

 

 そう言われた耀(ひかり)はニッコリと微笑えむ。

 

「ああ! 分かった! ありがとう城咲(しろさき)!」

 

「全くもう……約束だからね?」

 

 つられて城咲(しろさき)も優しく微笑んだ。

 

 

 ★

 

 

 放課後。

 

 いつも通り部室へ向かう城咲(しろさき)と別れた耀(ひかり)は、昇降口で下駄箱を開けた。

 するとそこには靴の上に置かれている白い封筒。

 

 耀(ひかり)はそれを手に取ると、辺りをキョロキョロと見回した。

 

「凄いデジャヴだ…まさか奴じゃないだろうな?」

 

 耀(ひかり)は例の転校生の顔を思い浮かべながら、封筒を開く。

 するとそこには、やはりと言って良いか印刷と見紛う達筆な文字で、『放課後、体育館裏で待ちます』と簡素に書かれていた。

 

「あの野郎…。今度はいったい何を企んでやがる…」

 

 また学校中の窓ガラスを割られては堪らないので、今度ばかりは話し合いの意思を見せようと耀(ひかり)は思う。

 漆羽(うるしばね)には質問したい事も山ほどあったから良い機会だ。

 それに学校中の窓ガラスが割れてしまった件については、自分にも責任の一端があると耀(ひかり)は罪悪感を感じていた。

 何の用があるかは知らないが、なるべく漆羽(うるしばね)を刺激しないように耀(ひかり)は話し合いを進めることを決意した。

 

 

 ★

 

 体育館裏とは校舎と体育館の間に出来た閉鎖的な空間の事である。

 耀(ひかり)が体育館裏へ向かうと予想通り漆羽(うるしばね)はそこに居た。

 

 彼女は胸の下で腕を組み体育館の壁へ背を預け目を閉じている。

 厨二臭い格好ではあるが、彼女のプロポーションでそれをやられると絵になっていた。

 

 漆羽(うるしばね)の少し前で耀(ひかり)は立ち止まると、睨み付けながら口火を切った。

 

「オマエ…今度はいったい何の用なんだよ…」

 

 それに対して漆羽(うるしばね)は瞼を緩慢に開いて耀を見ると、愉快げに笑みを浮かべた。

 

耀(ひかり)、貴様もか…するとこれは中々に興味深い状況だな」

 

 よく分からない事を呟く漆羽(うるしばね)に、耀(ひかり)はさらに強く目尻を立てた。

 

 それに耀(ひかり)って何だよ耀(ひかり)って…!

 人を下の名前でサラッと呼ぶな気色悪い…!!

 

「あ? オマエ何いってんだ。呼び出したのはオマエだろ?」

 

「ん…? あぁ…私も呼び出された側だ」

 

 そう言って漆羽(うるしばね)は先程から手に持っていた紙を耀(ひかり)にピラッと見せた。

 するとそこには耀(ひかり)が貰った手紙と同じ内容が書かれていた。

 構図なども同じで、まるでコピーしたようである。

 

「な、何いってんだよ。この字ってオマエのだろ?」

 

 耀(ひかり)はそう言ってポケットから手紙を取り出した。

 

 その様子をチラッと見た漆羽(うるしばね)が腕を組み直す。

 

「よく見ろ。それは印刷された文字だ」

 

 言われた通り耀(ひかり)は指で触ったりして、よく確かめた。

 

「ホントだ…。印刷されてる…」

 

 だとすれば一体誰がオレとコイツを…。

 

 耀(ひかり)の頭の中が疑問で埋め尽くされた。

 

「ふん…完璧すぎる文字と言うものも罪か…」

 

 漆羽(うるしばね)が少しだけドヤ顔で呟く。

 彼女の整った顔はドヤ顔でさえも絵になっていた。

 

 それを見た耀(ひかり)の額に血管が浮き出る。

 

「オマエは存在自体が罪だから安心しろよ魔王」

 

「そう目くじらを立てるな耀(ひかり)。私が完璧すぎると言う事実はすでに把握している」

 

 漆羽(うるしばね)耀(ひかり)をクツクツと喉を鳴らしながら言った。

 

 な…コイツは大陸で何百万人の命が犠牲になったのかを知っているのか!?

 

 耀の胸の内からフツフツと怒りが湧いてくる。

 

「な…おま…こ、この…」

 

 プルプルと震える耀(ひかり)の顔がみるみる赤くなっていく。

 

「少しからかっただけだろう? 面白い奴め。しかし…戯れもそろそろ中断しなくてはな…」

 

 そう言って漆羽(うるしばね)は壁から離れ腕を組む事を辞めると、先程に耀(ひかり)の来た方を向く。

 耀(ひかり)も釣られて見ると、そこにはコチラへ向かってくる人影があった。

 

「どうやら私達を招待したホストがお出ましのようだ」

 

「クソ…胸糞悪い奴だオマエは」

 

 耀(ひかり)はそう呟くと、人影を観察する。

 

 人影は中等部の白いセーラー服を着用した少女だった。

 癖っ毛のあるショートボブに隈のある目元。

 眉根は神経質そうに歪んでいる。

 

 見るからに面倒臭そうなタイプであると耀(ひかり)は思った。

 

 やがて、耀(ひかり)漆羽(うるしばね)に近付いて来たその少女はビシッとコチラを指差すと高圧的な金切り声を上げる。

 

「1ヶ月前にこの学校を荒らした犯人は貴方達ですね!!」

 

 そう言われた耀(ひかり)は全く表情を変えなかったが、内心では酷く動揺していた。

 

 な、なんでそのことを…いや、実行犯は隣に居るコイツだけなのだが問題はそこじゃない。

 まさか目撃されていたのか…!?

 

 少女が言う1ヶ月前の出来事とは、屋上で漆羽(うるしばね)が行った魔力放出のことだろう。

 あれのせいで学校中の窓ガラスが割れて、警察が来る騒ぎにまでなったのだ。

 

 問題はどうしてこの少女はその事件の中心人物が耀(ひかり)漆羽(うるしばね)である事を知っているのかである。

 

 耀(ひかり)がどうして良いか分からずに身動きが取れないでいると、漆羽(うるしばね)がお得意なニヤケ面を顔に貼り付けて肩をすくめた。

 

「さぁ…なんのことやら…」

 

 どうしてオマエは何かを知ってそうな悪役風に(とぼ)けるんだよ!!

 B級映画か!!

 

 耀(ひかり)漆羽(うるしばね)を横目に内心でそう叫んだが、漆羽(うるしばね)がその方針で戦端を切ってしまった以上は耀(ひかり)もそれに乗るしかなかった。

 

「ああ…漆羽(うるしばね)の言う通りだ。君が何を言っているのかオレ達には理解出来ない」

 

 漆羽(うるしばね)と同じように知らない振りをする耀(ひかり)

 しかし少女は予想通りとばかりに強気の姿勢で糾弾を続けた。

 

(とぼ)けても無駄です!! 貴方達があの日、校舎の屋上で魔力を使ったことについては証拠が出ています!!」

 

 魔力…そのことを知っているなんて何者だ?

 前世の関係者か…あるいは別の存在か…。

 

 それに魔力に証拠なんて物が残るのか?

 魔力とは物理的な存在ではない。

 

 耀(ひかり)が数巡していると、またも勝手に漆羽(うるしばね)が話を進めてしまった。

 

 クツクツと伏せた顔に左手を添えて笑う漆羽(うるしばね)

 

 厨二くさい。

 

「な、何がおかしいんですか!? どうやら事の重大さが分かっていないようですね…!!」

 

「いや…愉快でな。なかなかどうして…現世も捨てたものではない」

 

「い、一体なにを…」

 

 少女は不気味なものを見る目で半歩だけ後ずさっだが、瞳に力を戻して踏みとどまる。

 

「なにを言いたいんですか…!!」

 

「ククク…いや、私達が犯人だが?」

 

 顔を上げた漆羽(うるしばね)が不敵な笑みを浮かべながら、それがどうしたのかと言わんばかりにあっさりと真実をカミングアウトした。

 

 そう…耀(ひかり)を道連れにして…。

 

「……今日は両名共に私の家へ来てもらいます!! 拒否権はありません!!」

 

 少女は耀(ひかり)漆羽(うるしばね)を交互に睨みながらそう言った。

 

 オマエ…絶対に後で覚えておけよ。

 大変なことになったら呪ってやる。

 

 耀(ひかり)は魔王の再討伐を静かに決意した。

 

 


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