私…初めて報われた気がします。
あのマンションからこのアパートに引っ越ししてからというものの4人の足を引っ張っているばかりで…
私は頭も悪ければ要領も悪く、他の姉妹がアルバイトに勤しんでいるというのに私だけ何もせず食費の面で負担をかけてしまってずっと申し訳ないと思っていたんです。
でも上杉くんが私に大食いという道を示してくれたおかげで私にしかできない方法で協力することができるようになったのです。
今はまだ少し恥ずかしくて四人には黙っていますが…いつかきっと…
「お母さん…私は立派なフードファイターを目指します」
________________________________________
「よし、教えた通りにやればいける!五月、頑張れよ!」
あの辛味噌ラーメンの一件以来俺は五月のマネージャーの様な立場になっていた。
いくら常識外れの無尽蔵な胃袋とは言え無計画に食べ進めると体調不良の原因になってしまう。
そこで俺がインターネットや図書館の本で読んだ知識を元に体の負担を最小限に抑えつつ効率的な食べ方を五月にアドバイスしている。
「はい、分かっています。それでは行ってきますね」
「五月さん頑張ってね!」
今日のチャレンジは大盛唐揚げ定食である。
皿の上には尋常じゃない量の付け合わせキャベツと唐揚げ50個が盛り付けられている。これを制限時間の40分以内に完食できれば賞金3万円だ。
この店ではこのチャレンジに挑戦する際は専用のテーブル席に一人で通されるために今回は近くで時間配分のアドバイスや汗拭きなどのサポートは行えない。
だが俺はその情報を事前に仕入れているためにありとあらゆるテクニックを五月に叩き込んだつもりだ。
(大丈夫だ…俺のコーチングと五月の胃袋が合わされば絶対に負けない!)
そして…
「余裕でした」
「よっしゃあ!」
「やったー!」
無事に完食、賞金をゲットすることができた。
そしてチャレンジを達成した人はやけにフレンドリーな店主と記念撮影をするみたいで五月とのツーショット写真を撮った物が店に飾られるらしい。
この写真は次回来店時に現像して焼き増しをくれるらしいので近くを通ったら貰っといてやるか。
そして帰りの電車で…
「上杉君の言う通りまず野菜から手を付けてその後は卓上の調味料で味を変えつつ食べ進めることで最後までおいしく食べることができました!」
「言った通りに食べてくれたんだな、にしても味を変えたとはいえあの量を最後までおいしく食べれたって本当にすげえな…」
「あの店の近くにあったひげ面おじさんの悪目立ちする看板のハンバーグ屋さんがとっても美味しそうだったのでそのことを考えながら食べていたらあっという間に…」
大盛りの唐揚げを食べながらたまたま見かけた店のハンバーグのことを考えて食べるなんて想像しただけで胃が重たく感じる…
本当に食べることが大好きだな五月は。あの店でもチャレンジメニューをやってるか調べといてやるか。
「あの…いつもみたいに頭撫でてくれないんですか?」
「ん?いつも恥ずかしいからやめてくれって言うのに今日はして欲しいのか?」
以前一花が頑張ったらご褒美として頭をなでると喜ぶということを言っていたので
完食した折にはいつもらいはと五月の頭を撫でながら労っていた。俺単独でやると五月は嫌みたいでふくれっ面になるんだが。
今回は席が別だったこともあって完食する瞬間に立ち会えなかったため撫でるのを忘れていた。
「…やっぱいいです」
「なんだよ、じゃあ帰りの一問一答テストやるぞ!」
俺たちが電車やバスを使ってわざわざ隣町まで大食い出稼ぎをするのには知人にバレることを避けるためもあるが
もう一つの理由として移動時間を勉強に充てるためだ。この往復の移動中に行う一問一答形式の問題のおかげで五月の成績は他の姉妹よりも頭一つ抜けている。
まあ後はらいはが遠出したいってのもあるがな。
「お兄ちゃん、五月さん寝ちゃってるよ」
らいはに指摘され五月の方を見ると確かに眠っている。正確には舟を漕いでる感じで夢現な状態だ。
…腹が一杯になって眠くなっちまったのか?まあいいか、今日くらいは俺の肩を貸してやろう。特徴的な癖っ毛が顔に当たって少しくすぐったいが…
「おつかれさん」
そう言って頭を撫でてやると五月の顔が少し嬉しそうにほほ笑んだ。
…たく、普段からこれくらい可愛気があればな。
__________________________________________
「最近五月ちゃんの様子がおかしいと思わない?」
一花は五月以外の姉妹をリビングに集め五月についての話し合いを行う。
混乱を避けるために今はまだ上杉と五月が夜遅くに一緒に歩いていたことは伏せた上で。
「確かに最近の五月はおかしいわ、ここのところ毎晩バイト先から呼び出されては夜遅くに帰ってくるなんて…」
「それに最近はご飯のおかわりも控えめになってるし…バイトが忙しくて食欲不振なのかなあ?でも最近すごい楽しそうですよね」
「でも忙しそうにしてる割には私たちと違って成績が落ちてない、それどころか今じゃ私たちより頭一つ抜けてる」
「そっか…じゃあこの中で五月ちゃんがやってるバイトのこと分かる人!」
…誰も手を上げない
「聞いてもいつもはぐらかしてくるのよ、他人に教えられないようなバイトしてるのかしら」
「他人に教えられないお仕事って…えぇ!?」
「いや、五人の中で一番実直な性格の五月に限ってそんなことは…」
会議の雲行きが怪しくなってきたタイミングで玄関の開く音が鳴り響く。
「ただいま」
「あっ、いっ、五月ちゃんお帰りなさい!」
「一花どうしたのですか?声が上ずってますよ…それよりも見てください!今月のお給料です!」
厚みのある封筒を五月はこたつの上に丁寧に置く。
学業とバイトを両立させている普通の女子高生がとても稼ぐことのできない金額だと4人は瞬時に思った。
「これ全部千円札ってオチじゃないでしょうね…えっ、全部万札…?」
「五月すごいです!私にもそのバイト紹介してください!」
「…すごい、私ももっと頑張らなきゃ」
五月は目をキラキラさせながら言葉を紡ぐ。
「私一人でこれだけ稼げればみんなのアルバイトの負担を減らすことができます!上杉君の期待に応えられるように勉強に一層励みましょう!」
姉妹に貢献出来てとてもテンションが上がっているのだろう五月を一花は少し心配に思う。
一体なんのバイトをしているのだろう…そしてそこに上杉君が関係しているのだろうか。
「五月ちゃん、気持ちはとっても嬉しいんだけどその前にお姉さんになんのアルバイトをやっているのか教えてほしいな」
「えっ、えっと…職業に貴賎なしということですよ!とにかく頑張って稼いだんです!」
「…まあ五月ちゃんのことだから危ない橋を渡ることはないだろうけれど最近食欲ないみたいで私心配なの。アルバイト頑張りすぎないようにね」
「それに家賃は五等分だからアンタがいくら稼いでも私たちの負担は変わらないわよ、これに懲りたらこれからはアルバイトは控えることをおススメするわ」
「うぅ…私はみんなの役に立ちたくて…とりあえずお風呂入ってきます」
五月は肩をすくめて風呂場へ向かった。
「うーん、どうしたもんかなあ…」
ピピピピピピピ
「あっ、五月がスマホ置き忘れて…上杉さんからですよ!五月ー!上杉さんから電話だよー!」
頭を抱えて悩んでいる一花、そして置きっぱなしになった五月のスマホからフータロー君からの着信。
もうこの際フータロー君にあの夜のことを問い詰めれば自ずと五月のバイトのことも分かるだろうか。
いやでももし2人が付き合っててデートの約束のために電話をかけてきたとかだったら…
いや、これは長女としての使命だ、もし五月が大変なことに巻き込まれてたりしたら私は一生後悔するだろう。
「四葉スマホ貸して、私がフータローから用件聞いておくから…あっ」
三玖がスマホを四葉から渡される前に一花が無理やりスマホをひったくり電話に出る。
…心臓がバクバクしている。でも大事なことなんだ。ちゃんと聞かなきゃ。
「もしもし五月か、緊急の要件だ」
「五月ちゃんは今お風呂に入ってて…」
自分が五月ではないことを説明する前にフータロー君は話を続けてくる。
「明日17:00から30分で5万の仕事だ」
仕事…?フータロー君は五月ちゃんにアルバイトの斡旋をしてるのかな…?
とりあえずデートのお誘いって感じじゃなくて安心した…でも30分で5万円っていったい…
「前回の場所のすぐ近くで前に言ってたひげ面のいかにもって感じのヤツだ。昨日の今日でコンディション調整が難しいだろうが大口の案件は同業者にすぐ取られちまうからな、学校終わったらすぐに向かうんだ」
ひげ面…って人と会う約束してるのかな?コンディション調整って何?同業者に取られる…?
「身体を張るのは五月だ。俺はお前に最大限協力するが強制はしない。無理だけはするなよ、あと服は腹回りに余裕があるもの着て来いよな。じゃ」
ツーツー
用件を伝え終わったようで電話が切れた。
ひげ面…身体を張る…高すぎる報酬…コンディション調整…
会話の断片を整理して解釈していると嫌な予感が脳内に走る。
まさか五月は身体を売っている…!?
そんな…!
「五月!!!!」
一花は風呂場へ駆け込みドアを開ける…そして…
「きゃあ!一花!急に開けないでください!!!早く出て行ってください!!!」
五月の異様に膨れたお腹を見て一花は気を失って倒れた。