五等分の食欲   作:N・E・O

3 / 3
五等分の食欲 後編

俺は肩をすくめて家に帰るための電車を待っている。

五月のヤツ俺の急な連絡とはいえキャンセルするならメールの一本でもくれっての…

せっかく急いで店の前で順番待ちをしていたのに…5万円がパアだ。

まあでもここのとこ連日チャレンジメニューばっかりだったしな、今日はOFFってことでいいか。

そういえばこの間の店で撮った写真は現像されただろうか、せっかく隣町に来たし寄ってから帰ろう…

そんなことを考えていたらケータイに着信が…一花からだ

 

ピピピピピピピ

 

「もしもし、一花か…」

 

「…ねえ、話したいことがあるの。家に来てくれる?」

 

なんだか真剣な様子だ。勉強に関して何か行き詰ったのだろうか?

わざわざメールではなく電話で聞いてくることから早急に解決したい問題なんだろうな。

だとしたらモチベーションが下がる前に早く会いに行って疑問に答えなくては…

 

「分かった、少し時間はかかりそうだがなるべく早く向かう。ちなみに五月はそこにいるか?」

 

「じゃあ待ってるから」

 

ピッ

 

…俺の質問には答えてくれないみたいだな。

急いで家に向かった方が良さそうだ。

 

____________________________________

 

「一花、邪魔するぞ…あれ、お前以外誰もいないのか?」

 

「うん、私以外みんな食事に出かけちゃってね。本当は私も付いて行きたかったんだけどどうしても君に話したいことがあって」

 

「そっ、そうなのか…ところで手に持ってる包丁はなんなんだ?珍しく料理してるのか」

 

「そうなの、今お蕎麦作ってるんだけどフータロー君も食べるよね?冷たいのと温かいのどっちが良い?」

 

絶対に断れない威圧感が一花から放たれているのを感じる…

もしかして話したいことって勉強のことじゃなくて料理の感想についてか?

ならば話は簡単だ。流石に三玖の手料理に比べれば遥かにマシなものが出てくるに違いない。

そうすれば俺の貧乏舌にかかれば心の底から美味いという感想を言えるだろう。

 

「じゃあ温かいので頼む」

 

「…分かった」

 

なんだかいつもの元気がないな。他の四人と飯を食いに行けなかったせいでテンションが上がらないのだろうか?

ここはひとつ粋なジョークで場を和ましてやろう…そうだな、こんなのはどうだろう

 

「お前が手料理振舞ってくれるなんてまるで俺たち新婚生活してるみたいだな!」

 

どうだ、いつもの一花なら『いくら私でもフータロー君と結婚なんてあり得ないよ』とか言って笑いながら軽く一蹴するはずだ…

しかし一花は返事をする訳でもなく俺にずっと背を向けたままだ。

よく見ると肩が震えている、もしかして笑っているのを悟られまいと我慢しているのだろうか?

だとしたら俺のジョークセンスは罪だぜ…

 

数分が経った後、俺の前に蕎麦が置かれた。

 

「お待たせ」

 

「で、話ってなんなんだ?」

 

俺は蕎麦を啜りながら一花に問いかける。

…普通に美味いな。三玖の手料理とは比べ物にならない。

俺は腹を空かせていたこともあってかあっという間に食べ終わった。

 

「今日はね、フータロー君にお別れをしに来たの」

 

「は…?もしかしてまた父親に何か吹き込まれたのか!?」

 

突然のパートナー解消宣言に戸惑う。

俺が一体何をしたっていうんだ!?

…と憤ったところで急に眠気に襲われる。この感覚初めてじゃない…一花…どうして…?

 

「フータロー君…さようなら」

 

__________________________________________________

 

うぅ…なんで俺眠らされたんだ…?

身体が動かない、どれだけ強い薬を盛ったんだ…

そしてこの柔らかい感触は…?

 

「フータロー君起きたんだね」

 

その声に反応しようと口を動かそうとした瞬間に違和感に気づく。

どうやら口をガムテープの様なもので塞がれているせいで喋ることができない。

そしてどうやら俺は膝枕されてるみたいだ。柔らかい感触はこのせいか…

俺がモゴモゴしていると一花が口を開く。

 

「私フータロー君のこと信じていたんだよ…利害の関係を超えたパートナーだって」

 

…いったい何の話をしているんだ?

 

「あんなに私たち仲良くやってきたのにどうして五月にあんなことを…」

 

そう言うと一花の目から大きな涙粒が零れ落ちた。

まったく状況が掴めない。俺が五月に何か酷いことをしたのか?

 

「やっぱり私たちバカだったからかな、簡単に騙せると思ったんでしょ?」

 

確かにお前たち五つ子はバカだ。しかし俺が騙す…?

 

「実は昨日五月ちゃんの電話に出たの私なんだ…って言えばもう分かるかな?そのあと五月ちゃんのお腹を見て確信したの」

 

なんてこった。五月のケータイを一花が取っていたとはな。

大食いのことに関しては五月の希望で他の姉妹には内緒にしていたんだが…

こうなっては仕方がない、五月には悪いが一花には事情を説明するか。

だがその事実確認をするためにわざわざこんなことする必要あるか?

 

「フータロー君の家に借金あるって前に言ってたよね。それの返済のため?五月ちゃんの取り分も中々多かったみたいだけどいくらピンハネして懐に収めたのかな?」

 

違う、俺はピンハネなんてしていない!

全部五月に賞金は渡している!

まあ俺とらいはの食事代くらいはその賞金から出してもらってたけど…

だが分かったぞ。一花は俺が五月を利用して金儲けを画策していたと勘違いして怒っているのか。

 

「それで寝ている間に君の上着から見つかったんだけど…この写真の人が相手なのかな?五月ちゃん笑顔が引き攣ってて…きっと無理やり…うぅ…」

 

それは完食記念に店主とツーショットで撮った写真だ。

相手という表現は良く分からないがそれは写真を撮るのに慣れてなくて笑顔が引き攣ってしまっただけだろう。

そうだよな、俺ももしらいはが同じ立場になったらたぶん滅茶苦茶心配すると思う。

なんにせよ誤解を解くためには口を塞いでいるものを取ってもらう必要がある。

 

「きっと五月ちゃんはみんなの前では気丈に振舞って事情を悟られまいと必死に勉強して…!」

 

まあ俺からすればあれだけ大量に食った後に家に帰って普通に夕飯食うって本当にすごいと思う。

そういう点では気丈に振舞っているように見えるかもしれないが…

 

「五月に問いただしても全部はぐらかされて…『上杉君は本当に恩人なんです』ってずっと言ってたの。自分の駒にするために洗脳までしてるなんて…」

 

俺と会う時はあんなにつっけんどんな態度なのに家ではそんなこと言ってくれてるのか…

俺は中野家の家計の手助けになれば勉強に回せる時間が増えると見込んでやっているだけだが少し照れるな。

もっと上手くサポートできるように俺も頑張らないとな…

 

えっ、洗脳?

 

「たぶんもう五月ちゃんは手遅れだよね…善悪の判断が付かないレベルでもう…妊娠まで…」

 

もう心の中で突っ込むのも疲れてきた…

全部誤解なんだって…

そう言いたいが一花は俺に発言を許可してくれない。

 

 

「なんかの漫画で見たんだ…吐き気を催す邪悪って何も知らない弱者を自分の都合で利用することだって」

 

「でも私は君のことが好きだった。大好きだったの、こんな状況でも…そして二乃も三玖も四葉もあなたのことが大好き」

 

「君は私たち五つ子の気持ちに寄り添って心を溶かしてくれた。私にはそれがお金目的とは思えなかった」

 

「何かの間違いだったと思いたい。これだけ証拠があっても君がそんな人じゃないって信じたい気持ちは本当なの」

 

「でも私はみんなのリーダー…お姉さんだから私がなんとかしないといけないの」

 

 

「だから君を殺すの」

 

____________________________________________

 

 

あーだんだん分かってきた、これ今度やる映画のセリフってことか。

前も夏祭りの時に相手役をやったっけな…

あの時俺の棒読みがあまりに酷かったから俺の口を塞いでるということか。

ならせめて俺をマネキンの相手役に見立てて演技の練習をしたかったということか。

それならば俺に睡眠薬を飲ませたのも少しは納得できる。俺が演技の練習ってことを知ったら意識しちゃって動きが不自然になっちまうからな。

そしてリアリティを持たせるために話を俺たちの関係に即して改変して演技してるとは。前々から思っていたがなかなか器用だよな一花。

それにしても演技が上手くなったな…たまちゃんみたいな役からこんな感じの愛憎物の演技までできるなんてな。

 

 

「殺すって言ったのにすごい落ち着いてるね。…最後に何か言い残したいことはある?薬で上手く喋れないと思うけど聞いてあげるよ」

 

 

一花が俺の口を塞いでいたガムテープをゆっくりと剥がし俺の口元に耳を寄せる。

この展開を踏まえて俺にも演技をしろってことか!よし、任せろ。

夏祭りでの汚名返上させてくれる優しさに応えるために俺の全力の演技を見せてやるよ…!

 

「はぁはぁ…よく俺の企みが分かったな、お前の言う通り五月は俺の忠実な駒に調教したのさ!」

 

一花は目を見開き口元を抑え驚いた表情をした。

ふっ、俺の迫真の演技に驚いた様子だな。

あまり認めたくはないが三玖曰く俺は悪人顔らしいからな。クズ野郎な感じで攻めるか

 

「…最後に謝るかと思ったのに」

 

「謝る?全てアイツが自分で望んでやったことだ。俺の責任ではないに決まってるだろ」

 

我ながら中々の屑っぷりだと思う。

まだまだこんなもんじゃないぜ…!

 

「五月を堕とすのはとっても簡単だったぜ…真面目な奴ほど何でも信じちまうからな!次は脳筋バカの四葉をターゲットにしようと思ってたのによぉ!」

 

「だが俺自身の手を下さずとも一花を除いた残りの三人ももう今頃俺の忠実な僕である五月によって堕とされてるだろうなあ!」

 

「そんな…!みんなが!?…もしもし!?」

 

あっ、本当に電話しなくても良いのに…

 

______________________________________________

 

「まさか五月が大食いチャレンジでお金を稼いでいるとはね…確かにアンタにしかできない芸当だわ」

 

「フータローと一緒に出掛けるなんてズルい」

 

「まあまあ、そのお金でこうして久しぶりに焼肉を食べれたんだから良かったってことで!…うっぷ」

 

今日は私の賞金で三人に焼肉をご馳走してあげました。

確かに家賃は二乃の言う通り五等分ですがこのような使い方なら良いですよね。

一花は昨日倒れてから気を取り戻した後、私に色々このバイトのことをすごい剣幕で問い詰められたせいでついはぐらかしてしまいました…

何か誤解をしている様子でしたがとりあえず一花以外の三人が事情を知っていればなんとか説明できそうです。

お母さん、私今とっても嬉しいんです。こうして家族を支えることができて…

今度はちゃんと上杉君と一花も連れてまたここに来ます。ではまた。

 

「…さて、お墓参りはこれくらいにしてそろそろ帰りましょうか」

 

「いやー食べすぎちゃった…五月は本当にすごいね、私以上に食べてるのに全然元気そう…うぷっ」

 

「四葉…お腹が五月以上の肉まんになってて妊娠してるみたいよ」

 

「四葉は無計画に食べすぎなんです。もっと上杉君のアドバイスを聞いて順序立てて食べないと」

 

「フータローはここに居ないよ」

 

最近はいつも上杉君が近くにいることが当たり前だったせいかつい彼の名前を出してしまいました。

きっと私の中で彼は大事な存在に…いえ、らいはちゃんのためです!

誤解しないでください!…って何自分でツッコミをしているのでしょう…

 

「五月なんか顔赤くなってるわよ、風邪でも引いたの?」

 

「いっ、いえ!それより一花のもとに行ってあげましょう!きっと寂しがってます!」

 

ピピピピピピピ

 

「一花から電話…?」

 

そういえば昨日着信履歴を見たら上杉君から電話がかかってきていたみたいでした。

何の用だったんでしょうか…もしかしてデートのお誘いだったんでしょうか?

…私ったら何を考えて…そんな訳ないですよね、たぶん大食いの案件紹介の電話だったんでしょう。

そんな考え事をしていると四葉が私のスマホをもぎ取って…

 

 

「一花…私妊娠しちゃいました~もっと早く上杉さんのアドバイスを聞いておけばこんなことにはって五月が~!」

 

 

「ちょっと!なんで四葉が電話に出るんですか!」

 

「にしし!五月が着信画面ずっと見つめてるだけで電話に出ないから一花が寂しがっちゃうと思って…あれ?もう電話切れてる」

 

_______________________________________________

 

ツーツー

 

「そんな…四葉まで…」

 

すごいな、姉妹全員巻き込んで演技の練習をしているのか…

一人に演技の才能があるってことはもちろん他の四人も演技できるってことだろうか。

確かに三玖の変装は見た目だけじゃなくて表情や仕草も完成度高いしな…

この際五つ子で女優デビューすれば話題に事欠かなさそうだな。

 

「ククク…これで分かったか!中野家五姉妹は上杉風太郎の手によってほぼ堕ちたということだ!フハハハハ!!!後はお前だけだ一花!!!」

 

「あなたどれだけ腐って…!もう絶対に許さない!!!!」

 

そう言ってどこにそんな力があるのか薬の副作用で動けない俺を浴槽まで抱えて運ぶ。

俺はバスタブの中に仰向けの体制で置かれる。もうちょっと優しく置いてほしかったな、

これ絶対後で腰がいてえよ…

 

「私が…私がみんなを救わなきゃ…」

 

そう言って一花は蛇口を捻る。

迫真の演技だな、俺以外じゃなきゃ演技って気づかない程に…

…顔にかかる水が冷たい。

役者って大変だな、こんな状態でも演技しなきゃならないなんて…

 

「ふはははは、たとえおれがしんでもだいにだいさんのあくとうたちがおまえたのまえにたちはだかるだろう」

 

…やばい、冷静になって役者の気持ちを意識したら棒読みになってしまった。

一花も鬼の形相で俺を見ている。怒らせてしまったようだな…くそっ、途中まで上手く行ってたのにな…

やはり俺には力不足だったみたいだ。お前の期待に応えられなくてすまなかった___

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

______________________________________________

 

「まさか一花がとんでもない誤解をしていたとはな」

 

数日後、俺は五月とチャレンジメニュー行脚を再開させていた。

今日はらいはが友達と遊ぶとかで俺と五月の二人だけで隣町へ来ている。

 

「あなたこそ一花が演技の練習に上杉君を利用しているって思うなんて相当ですよ、あなたは頭が良いのにどうしてそんなに他人の感情に鈍いのですか」

 

「うるせえ、国語の読解力とは話が別なんだよ」

 

俺はあの後駆け付けた五月達によってバスタブから救助された。

最初は一花が俺を本気で殺害しようとしていると聞いて驚いたもんだ。

まあそれよりも一花の誤解を解く方が大変だったから俺が殺されかけたことはあまり気にしていない。

ずっと一花は4人が洗脳されてるとしきりにまくし立ててきたがドメスティック肉まんお化け…五月のビンタでやっと目を覚ましてくれた。

 

「まあなんにせよこれから得られた教訓は『隠し事は良くない』ってことだな、特にお前ら姉妹はな」

 

「そうですね」

 

「…五月は俺に内緒にしてることは何もないか?」

 

「…あったとしても言えないから隠し事なんですよ」

 

「それもそうか…じゃあ俺がお前のこと好きだってことは隠し事にならないな」

 

「えっ…?わっ、ちょっと!フゴフゴ…」

 

顔を赤くして驚いた表情の五月の口にアップルパイを無理やり押し込む。

 

「これは俺の作ったアップルパイだ…見た目は悪いかもしれないが味には自信がある。…返事はそれ食い終わったらしてくれ」

 

俺今五月以上に顔真っ赤だろうな…恥ずかしすぎるぜ…ってうお!!

 

「なっ、どうした五月…フゴフゴ」

 

「…こんなに美味しいアップルパイを独り占めなんてできません。あなたと一緒にシェアしたいと思ったので口に突っ込みました。お返しです」

 

 

 

…色々あったけどこれってハッピーエンドでいいんだよな?

今度は誤解される隙もないくらい、胸を張って堂々と生きて行ける様に頑張ろうと俺は決意した。

 

 

 

 

 

 

 

 




あと一話番外編やって終わります。
ここまでお読み頂きありがとうございました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。