ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

101 / 213
第97話 世界を変える弾丸

 

 

モルゲンレーテ社内には、その広大な敷地内に、無数の売店や作業員用の休憩所を兼ねたカフェなどが併設されている。

 

カフェではモルゲンレーテ社の社員証で支払いなどを行うが、それさえごまかして仕舞えば絶好の隠れ場所となる。基本的なサービスは社員のセルフサービスに任されているし、そこで働く給仕員も外部から雇われた者がほとんどで、忙しなく行き交う作業員の顔を覚えていることはまず無い。

 

そして何人かの作業員が給仕員の目をそらせれば、完全に休憩中の社員の仲間入りだ。

 

社員の出入り口で出待ちするよりも最も安全な場所。まさに木を隠すなら森の中といったところだ。

 

「予想はしていたが…こんなにもザフトの内通者がいるとは思わなかったな」

 

その鮮やかな手際を見せられて、ラリーは呆れたように目の前に座るクルーゼにそう呟くと、彼は手持ちぶさだったのか、腹が空いていたのか、頼んだカレーライスを頬張りながら、ラリーの問いに答えた。

 

「いや、彼らは半々だよ」

 

役目が終わると早々に自分の持ち場に戻っていった作業員たち。彼らの約半分がザフトの内通者であるが、残りの半分はその内通者の部下や後輩だ。その答えにラリーはあぁ、と納得したように頷く。

 

「技術者というのは、いつの時代でも上下関係がはっきりとしているからね。まぁ彼らが上手く言いくるめたのだろうな」

 

クルーゼの言う通り。おそらく、「自分たちの知り合いがお見えになるからうまく誤魔化すのを手伝え」と言われたのだろう。アストレイなどを作る超機密区画の作業者ならいざ知れず、内通者が務められるレベルの区画ならば、そういうことがあっても別段不思議ではないだろう。

 

リークも妹たちの最寄りの港に寄港したときは、なんとかうまく渡りをつけて、メビウスの格納庫やハリーたちを紹介していたものだ。

 

それに、いくらモビルスーツ、いくらAI、いくらオートマチックが成長しようとも、それを作るのは人間。それを管理するのも人間だ。

 

簡単な流れ作業ならいざ知れず、モビルスーツという小ロットの量産品、しかも細密機器の塊となれば、それを組み立てるだけでもかなりの技術レベルが必要となるだろう。

 

現に、今ではストライクの配線取り替え作業など目を瞑ってでもできるフレイでも、まだアームの駆動軸の交換などはおぼつかない。技術というのは一朝一夕で培われるものではないのだ。

 

それを行う、それを成すためには莫大な労力と時間、そして金がかかる。それを弁えているからこそ、彼らの下に部下や弟子がつく。その上下関係はたとえ立場が変わろうが揺るがないものだ。職人というものはそういうものなのだろう。

 

「食べないのか?」

 

クルーゼが顎でしゃくる先にあるのは、簡単なサンドイッチとコーヒーだ。

 

「いや、普通にできるほど俺は神経図太くないぞ」

 

「はっはっはっ。流石の私でも、ここで騒ぎを起こそうとは思わんよ」

 

なんだ、警戒してるのは丸わかりかとラリーは力んでいた体から力を抜いた。

 

ここでクルーゼと一悶着起こすことは容易だが、自分もクルーゼも、オーブにいることが知られたら後が大変まずいことになる身だ。ここは大人しくするしかあるまい。

 

「それで?なんだ?俺に会いにここまで追ってきたのか?」

 

「そうだと言ったらどうするかね?」

 

カレーを食べ終えて微笑むサングラスをつけたクルーゼに、ラリーは盛大に呆れため息をつきながら、机に頬杖をついた。

 

「底なしの阿呆だなと言ってやろう」

 

それを聞いてクルーゼは、おかしい様に口元を手で隠して含み笑いをする。そうだろう、そうだろう、そんな単純な目的でこんな所に来るわけがない。ラリーはそう思って、彼が言うかもしれない目的を知るために身構えた。

 

「では、その底なしの阿呆から流星に質問だ」

 

ガクンとラリーは机に顔を落とした。額を真っ赤に染める勢いでぶつかったラリーは恨めしそうにクルーゼを見る。そんな相手は、ラリーとの会話を楽しみ、噛みしめる様に彼の目を見つめながら言葉を出した。

 

「君は、この世界の先に何を見つめている?」

 

それはクルーゼがラリーに惹かれてから、心の中にあった疑問だった。

 

「国、言葉、価値観、生まれ、信ずるもの。様々な多様性、すべてが違うこの世界に君は何を見ている?」

 

何を見て、何を感じ、何を信じてその力を身につけ、戦っている?人を蹴落とし、不平等と嘆きながら不平等を愛するこの矛盾した世界で、ラリーは何を見つめているのか。クルーゼの興味はそこにしかない。

 

「他者より強く、他者より先へ、他者より上へ。競い、妬み、憎んで、その身を食い合う世界を身をもって知ったとて、時は既に遅い」

 

自分がそうであったように。優劣を求めて、それを維持するため、権力、力、金、この世のすべての唾棄すべき下らない執念の下に生み出された自分には、その世界しか見えなかった。

 

「ナチュラル、コーディネーター、人としての根源。そこまでを手にしたと言うのにーーーなぜか人の心は満たされず、変わらない。持つ者に持たざる者の思いは分からず、持たざる者は持つ者を妬む」

 

そして戦いが起こり、破滅が呼ばれた。互いを見ようともせず、知ろうともせず、聞かず、知らずーーーそうやって互いの身を燃やし合う世界。そんなくだらない世界。

 

己と違う者、だが愛せようもあるはずの者。しかし世界は変わらずに人と人とを撃ち合わせる。

 

「そんな苦しいだけの世界で、君はーーー」

 

「それでも、人は前に進んでる」

 

そんなクルーゼの独白に、ラリーは一刀のもと、その闇を断ち切った。

 

「明日がほしいからーーなんて俺は大それた事は言わない。だが断言できる。そんな世界が続いても人は滅びない」

 

ラリーは、人の胆力の強さを知っている。あらゆる意味で、人は根強く、しつこいのだ。

 

「たとえ種の数を減らしても、文明を後退させても、すべてをゼロからやり直すことになっても、人は営みを続けていく。それは絶対だ」

 

今、この瞬間、この時、この時代、この歴史が黒に覆われても、世界は続く。新しいステージとなって、新しい誰かに引き継がれて、世界は動き続けていく。

 

そういう世界を、ラリーは知ってるから。

 

「俺が何を見てるか。ーーまぁ強いて言うなら」

 

そこで一息置くようにコーヒーを口に含んで、ラリーは少し恥ずかしそうに笑った。

 

「こんな俺の力で何かを変えれるなら。そうだな……俺の手が届く範囲の人のこの先を、どうにかマシなものに変えたい……くらいだな」

 

そんなラリーの答えを聞いたクルーゼは。

 

「ふふふ…はっはっはっは!!」

 

心底、楽しそうに笑った。何人かの給仕員がこちらを見たが、それも気にしない様子でサングラスの奥の瞳を細めて、クルーゼは心から笑った。

 

「君は…君ほどの本物の力を持ちながら!周りのものしかマシにしないか!これは傑作だな!」

 

人が憧れ、望み、切望するほどの「本物」でありながらーーそう言うクルーゼにラリーは肩をすくめる。

 

「俺にとって人類の救済なんてどうでもいいからな。ただ、もしもあの時ーーと、後悔するくらいなら、俺はマシになる道を選ぶ。そのために戦っている」

 

なんの躊躇いもなく言うラリーに、クルーゼはまた可笑しそうに笑みを浮かべてあえて問いかける。

 

「それがイバラの道だったとしてもか?」

 

「踏み倒して歩くさ。そのための力だ」

 

そう真っ直ぐと言うラリーを見て、クルーゼは沸き立つような狂喜に襲われながらも、どこかで疑っていた自身の感情を完全に確信した。

 

この男は、自分の闇を、拭い去ることができる器を待っている、と。

 

「面白い」

 

そう言ってクルーゼは、決意表明をするようにラリーの前で、瞳を覆い隠していたサングラスを外した。

 

ムウと同じ青い目、そしてテロメアの影響で老いたその顔でラリーを見つめる。

 

「ならば、私を倒してみろ。君が言うマシになる行き先…それを実現する覚悟があるならな」

 

その言葉にラリーは驚いたように目を見開いた。その言葉を発したクルーゼが、今まで知っていた「ラウ・ル・クルーゼ」と決定的に違っていたのだから。

 

「私が君を討ったなら、私はこの身にある憎悪とともに、世界に終焉の鐘を鳴らそう。だが、君が私を討ったなら、私は君の言うマシな未来に全霊を以って協力すると誓おう」

 

「なんとも……大げさだな」

 

「だが、事実だ。こんな世界に灯った君と言う希望に、私は賭けてみたくなったのだよ」

 

この手で、あるいは誰かの手によってラリーを失ったなら、自分は思い描いていた終局に向かって歩き出すだろう。だが、自分の前にこの男がいる限り、あまつさえ、自分を討つというなら、これほど信頼できる楔はあるまい。

 

クルーゼにとってラリーは、この腐りきった世界を壊すためのたった一つの弾丸なのだから。

 

「さて、そろそろ迎えが来る。私はここで失礼するよ」

 

そう言ってサングラスをかけ直して立ち上がるクルーゼ。外を見ると、先ほど自分のいく先を遮っていた作業員の何人かが迎えに来ているのが見えた。ラリーは分かっているように首をかしげる。

 

「おい、俺のことをどうにかしなくていいのか?仲間に示しが付かんだろ」

 

そう言うラリーに、クルーゼもわかっているように鼻を鳴らすように笑った。

 

「構わんよ。次会う時は戦場だ。楽しみにしているよ、流星」

 

次もまた、最高の戦いをしよう。

 

そう言って、クルーゼはラリーの元から去っていく。カフェの窓から小さくなっていくクルーゼの後ろ姿を眺めながら、ラリーは自分の席に残ったサンドイッチを頬張りながら呟いた。

 

「ほんと、自由なやつだな……アイツ」

 

 

////

 

 

アークエンジェルで、二等兵であるミリアリアと同室であるフレイに与えられた個室に招かれたアイシャが、フレイのタンクトップ姿に鼻下を伸ばしたオーブの作業員に強請って持ってきてもらった茶菓子とコーヒーに舌鼓を打っているとーー。

 

「ええ!?バルトフェルドさん、オーブで降りるんですか!?」

 

部屋にやってきたバルトフェルドが、マリューから貰った承認書類を見せながらフレイたちにそう告げたのだ。

 

「ああ、ラミアス艦長からも正式に許可は出たからな。明日の出港前に私はオーブから民間航空を利用してプラントに戻ることになる」

 

まぁ戦死扱いになってるだろうから、入国には一手間か二手間はかかるだろうがなと、バルトフェルドは肩をすくめた。

 

「あくまで私たちは捕虜扱い。オーブで降ろせるうちに、厄介な種をどうにかしておきたかったのでしょうね」

 

「ええーせっかくアイシャさんとも仲良くなれたのに…」

 

「私もフレイちゃんに会えなくなるのは悲しいわぁー」

 

そう言って悲しげにフレイと抱き合うアイシャ。それを見ていたミリアリアも悲しくなりそうな心を抱えながら、本当に懐かしそうにフレイに語りかける。

 

「けど、フレイもかなり変わったよね。前なら嫌だーコーディネーターなんかーとか言ってたくせにぃ」

 

「い、いいじゃない別に!昔は昔!今は今よ!」

 

キラにコーディネーターがどうとかなんとかーとミリアリアが言うと、そんな昔のこと忘れたんだから今度言ったら許さないわよ!とフレイが真っ赤な顔で言い返す。すると、ミリアリアは心から嬉しそうに目を細めた。

 

「まぁ、私も今のフレイの方が好きだけどね」

 

そう言われ、一瞬言葉に詰まったフレイは誤魔化すように、目の前にあった茶菓子をミリアリアに差し出す。

 

「ふ、ふふーん!正直者なミリィにはこのクッキーを分けてあげよう!」

 

「わーうれしいなぁー」

 

そんな2人を見ていたバルトフェルドとアイシャは、いつものように快活な笑い声を上げた。

 

「はっはっはっ!君たちと馬鹿騒ぎしたのはーーまぁ楽しかったよ。礼を言わせてくれ」

 

そう言って頭を下げるバルトフェルドに、フレイは少しだけ悲しそうに顔を沈めた。

 

「次に会った時はーーまた敵同士なんですか?」

 

彼がプラントに戻ると言うことは、そういう事なのだろう。アークエンジェルで捕虜として過ごした彼は、この船を追う任を任されるかもしれない。そう思うと、フレイの手はわずかに震えた。

 

するとバルトフェルドは不思議なまでに何気ない声でこう言った。

 

「さてなぁ。あとは君たち次第と言ったところだな」

 

こちら次第?そういう言い方に、フレイもミリアリアも首をかしげると、アイシャが得意のアイコンタクトでバルトフェルドを見た。彼も失言だったと咳払いをして誤魔化すように続ける。

 

「なんでもない、気にしないでくれ」

 

彼女らがそうなるかは、バルトフェルドには分からなかった。だが、この船に流星がいる限りーーバルトフェルドと、彼が協力する者が描く未来に、この船も加わるということは何と無くではあるが想像できたのだった。

 

 

 

 

 

 

キャラデザイン

  • 他キャラも見たい
  • キャラは脳内イメージするので不要
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。