ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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第98話 葛藤と揺らめき

 

 

 

「あぁ…すごい!」

 

アサギ・コードウェルは、ただひたすらに自分の思うように動くM1アストレイの挙動に感動していた。最初に見たぎこちない挙動はなく、難なく歩行や稼働をする機体の様子をモニタリングしながら、キラは自分が何をしたのかをエリカ・シモンズへ解説していた。

 

「ーーというわけで、新しい量子サブルーチンを構築して、シナプス融合速度を40%向上、一般的なナチュラルの神経接合に適合するよう、イオンポンプの分子構造を書き換えました。今回のバージョンアップでやったことは以上です」

 

「よくそんなこと、こんな短時間で。すごいわね、ほんと」

 

キラがOSの書き換えと並行して作っていた解説資料を眺めるシモンズは、その短文にまとめられた膨大な知識量とデータに感服する。並みのナチュラルの技師なら、このデータを揃えるために、一体どれだけのトライアンドエラーをしなければならないことか。

 

「俺が乗っても、あれくらい動くってこと?」

 

整備を終えたストライクのチェックをするために、マードックを連れてきたムウは、ついでに見学しながら軽快に動くアストレイを親指で指差す。

 

「そうですわ少佐。お試しになります?」

 

「んやぁ、遠慮しておくよ。ラリーはどうする?」

 

そう話を振られて、何食わぬ顔で戻ってきていたラリーは考えるように唸る。

 

「俺はーー」

 

「「レイレナード大尉はダメです」」

 

答える前にエリカとキラにダメと言われた。「ええー」と不満そうに顔をしかめるラリーに、キラは困ったように顔をしかめる。

 

「まぁ一応、大尉用のエグザンプルデータから、乗って何とかなる程度のプログラムは作ってますが」

 

それでもダメよ!とエリカが更に釘を刺した。

 

「あの時のスラスター瞬間加速度の値知ってます?なんと驚異の7.8G!7.8よ!?これ言うならば、時速60キロの輸送車と、正面衝突した時に生じる衝撃よ!?そんなの繰り返してたらパイロットがミンチになるわ!」

 

「あははー…ミンチは嫌だなぁ…」

 

エリカの言葉に、アサギもすっかり呆れた様子で呟いた。普段受けている対G訓練でも、良くて3Gくらいだ。7.8Gなど想像もできない。普段彼が操縦する戦闘機では、一体どれほどのG負荷が掛かっているのか…。キラは少し考えたが、すぐにやめた。だめだ、それを知ると、ラリーの操縦に訓練と称して嬉々としてついていくトールがやばい。色々な意味で。

 

「ということもあって、脚部アクチュエータだけを突貫強化改修をしたアストレイがこちらです」

 

そんなM1アストレイの訓練施設の反対側。ハリーがじゃじゃーんと言う風に紹介するのは、ボディを天井から吊るされたアストレイの試験機だった。ラリーが壁に向かって突撃させたアストレイの故障部品を全て取っ払った上で、ハリー監修の下、なんちゃって強化駆動アクチュエータとなったアストレイが、そこに鎮座している。

 

「作っちゃってるのかよ!!」

 

「足がかなり太いな。というか足しかねぇなこりゃ」

 

ラリーのツッコミと、技師として見学しにきたマードックが、宙づりにされてるアストレイだった何かを見ながら感想を呟くと、ハリーは豊富な胸を張って、えっへんと満足そうに微笑む。

 

「腕なんて邪魔です。むしろ翼をつけたいくらいです。偉い人にはそれがわからんのです」

 

「いや、普通にいるからな?ていうか翼つけるなよ?絶対だぞ?」

 

というか、これで翼をつけたらもう何かわからない。とりあえずアストレイではない別の何かになるのは確実だ。そんな不安を覚えるラリーの背中を、ハリーはぐいぐい押していく。

 

「とりあえず、ラリーにはこの機体の耐久テストをやってもらいます!!さぁ乗った乗った!」

 

宙吊りにしているのは、ラリーのステップ操作がまだ不安定であるのと、それで壁に突っ込んだときを恐れているためだ。宙吊りにしておけば、アクチュエータにかかる負荷を的確に測定もできる。

 

「アサギ、あの機体完成したら乗ってみる?」

 

「死んでもお断りです」

 

真顔で言うアサギに、エリカはそうよねぇと同意するように肩をすくめる。とは言え、エリカも一枚噛んでいるので深くは追求できない。

 

作れるから作った。まさにこれだ。

 

あの機体が完全なものになったとしても、誰もがおいそれと扱えるものではないと言うことは、データを見るだけでわかってしまう。

 

「お疲れ様、アサギはもう上がっていいわよ」

 

「はーい」

 

そう言ってアストレイの仕様試験を終えると、騒がしいラリーたちとは別に、エリカたちは試験内容のまとめに入っていく。

 

「じゃぁ僕、ストライクの方へ行きますから」

 

キラはそう言ってエリカに頭を下げると、ハンガーへと降りていった。ストライクも消耗が激しく、機体各所の駆動軸や消耗部品を交換してもらっていたのだ。マードックがやってきたのも、ストライクの最終引き渡しに伴う実戦向けの調整のためだ。

 

「キラ、お前さ」

 

「なんですか?隊長」

 

そんなキラについて来たムウは、心配そうにストライクに向かうキラに言葉を使う。

 

「家族との面会も、断ったっていうじゃないか。どうしてだ?」

 

そう言ったムウの言葉に、キラの足取りは止まった。

 

「今会ったって……僕は軍人ですから」

 

しばらくの沈黙の後、キラは誤魔化すようにそう呟いた。奥からマードックが手を振っているのが見える。

 

「おーボウズ。ハリー技師がオーブで支給されたスラスターの推力を18%上げたんで、モーメント制御のパラメーター見といてくれ!」

 

すぐに確認しますよ、とキラが歩き出そうとすると、黙っていたムウが思わずキラの肩を掴んだ。

 

「軍人でも、お前はお前だろうが。御両親と会える機会に会っとかないと……あとで後悔するぞ?サイもフレイも、お前のことを心配してたぞ?」

 

サイもカズイたちも、両親とは面会している。とても短い時間であったが、生きているうちに会えると言うのはとても大切なことだとムウは思った。

 

自分のようには、なるな。

 

そうムウはキラの目に訴えかけると、キラは観念したのか戸惑ったように目を潤ませる。

 

「ーーありがとうございます、隊長。けど、今会うと、言っちゃいそうで嫌なんですよ」

 

「何をだ?」

 

「なんで僕を…コーディネイターにしたの、って…」

 

その言葉を聞いて、ムウは何も言えなくなった。コーディネーターであるということが、どれほどキラ自身を苦しめたか、ムウはラリーたちと共にそれを見て来たからわかる。

 

どうして?なぜ?自分をコーディネーターにしたのか。それを聞いてしまう。その答えによっては、キラをまた深く傷つけることになるかもしれない。

 

それをキラ自身もわかっているのだろう。世の中にはわからなくてもいい答えがあるのだ。

 

そんな考えを巡らせていると、キラの肩に止まっていた鳥型ロボットであるトリィが急に飛び立った。

 

「あ!こら、トリィ!」

 

「トリィ!」

 

工廠から開けられた窓から飛び立っていくトリィを、キラは思わず追いかけていく。アスランから貰った大切なものだ。そんなトリィはキラの制止を聞かずに飛んでいく。

 

まるで何かを感じ、導かれるようにーー。

 

 

////

 

 

モルゲンレーテの区画外で、端末を弄るニコルに、アスランは画面を覗き込みながら問いかけた。

 

「軍港より警戒が厳しいな。チェックシステムの攪乱は?」

 

「何重にもなっていて、けっこう時間が掛かりますよ、これ。通れる人間を捕まえた方が早いかも知れないですね」

 

造船や既製品の製造ラインは難なく入れたが、この区画から機密エリアに入るのはかなり骨だ。ディアッカも何度かアタックをかけたが、全てが徒労に終わっている。

 

陽も落ちて来たし、今日はここで引き上げかとアスランが考えているとーー。

 

「トリィ!」

 

見上げていた夕暮れの空に一羽の鳥が舞っていた。それを見つけて、アスランは驚愕し、言葉を無くした。

 

「ん?アスラン?」

 

「……トリィ?」

 

消えそうな呟きだったが、飛んでいた鳥型ロボットはまるでアスランの声を感じたように降下し始め、その肩に止まった。

 

「ん?なんだそりゃ?」

 

「へぇ、ロボット鳥だ。可愛いですねぇ」

 

ディアッカとニコルが降りて来たトリィに目を向けているとーー。

 

「トリィー!」

 

区画されたフェンスの向こうで、オレンジ色のツナギを来た人影が、辺りを見渡しながらトリィを呼んでいる。

 

「ん?あー、あの人のかな?」

 

ニコルがそう言うと、アスランは何も言わずに腰掛けていたジープから降りる。足取りは重い、ただその人影に向かうことはやめなかった。

 

「あぁもうどこ行ちゃったぁ…ん?」

 

辺りを見回していた相手も、アスランに気がつく。夕暮れの光で見えなかった顔が、はっきりと見えた。

 

キラだ。

 

キラ・ヤマトがそこにいた。

 

アスランは乾いていく口で喉を鳴らしながら歩み寄っていく。

 

(アス…ラン?)

 

キラもアスランと同じように歩む。2人は区画されたフェンス越しに、久しぶりの再会を果たした。

 

「君…のかい?」

 

「うん。ありがとう…」

 

お互いに触れず、知らない誰かを装う。アスランの手から、トリィが元気よくキラの元へと帰った。それはまるでーーアスランと別れを告げることになった遠いあの日のようでーー。

 

「おーい!行くぞ!」

 

ハッと気がつくと、アスランの後ろにはジープに乗った何人かの姿が見えた。アスランを呼ぶように手を振る彼らに、アスランも「あぁ」と答えて、こちらを少し見てから踵を返した。

 

「これは昔、友達ーー親友に!」

 

キラは思わず声を上げた。アスランの足が止まる。

 

「大事な親友に貰った、大事な物なんだ…」

 

「そうか…」

 

「僕は……僕は今でも、彼を大切に思ってる。いつも心から。だからーー」

 

そう言うキラを背に、アスランは何も答えずに歩んでいく。彼がジープに乗り込むと、隣にいたニコルがキラに会釈してから車はどこかへ走り去ってしまった。

 

キラはその行く先をただ見送りながら、トリィを優しく撫でる。

 

「だから、僕は戦うよ。君とも、この戦争とも」

 

大切なものをーー守るために。

 

 

////

 

 

アラスカ基地。

 

アラスカのユーコン・デルタに建設され、地球連合軍の統合最高司令部が存在し、地球連合加盟国の一つである大西洋連邦の領内にある。

 

その施設の多くは地下に存在し、内部には「グランド・ホロー」と呼ばれる広大な地下都市までも建設されている。

 

地上部は全体に対空砲や対空ミサイルが配置され、単体でも強固な防衛力を持ち、核兵器の直撃にも耐えるとも言われている。

 

《これより、新型弾道兵器「モルガン」の最終試験運用テストを開始します》

 

そんな基地の隔離施設では、基地の上層部の人間が集められ、ある実験が行われようとしていた。

 

《「モルガン」の起爆までのカウント、10、9、8ーーー》

 

もともと、核実験場であったそこでは、ひとつの新型燃料気化爆弾がセットされており、その下には、ザフトのモビルスーツであるジンを模した模型がいくつも並んでいる。

 

《2、1ーーー起爆》

 

弾頭はカウント共に起爆し、起爆直前に拡散された気化燃料は急速に膨張、その衝撃波は下方に向けられ、下にあったジンのオブジェクトは、その全てが強力な衝撃波によって粉砕されていった。

 

《仕様工程、全てクリアです。最終試験を終了します》

 

おぉーと感銘の声が起こり、多くの上層部の人間から拍手が起こる。何人かの高官と握手を交わしたウィリアム・サザーランドは、自分が主催したこの実験結果に大変満足していた。

 

「ふっ、野蛮なコーディネーターどもが作った兵器だが……解析した甲斐があったというものだな」

 

マルコ・モラシム隊によって使われたSWBM。それによって被った損害は多大だったが、得られたものはあった。現に、その兵器の理論を用いて、こちらも対抗手段を用意することができたのだから。

 

「アズラエルは、かの流星部隊にお熱だ。そちらに目を向けているなら逆に好都合だ」

 

そう言ってサザーランドは、薄暗い鑑賞席で足を組んでほくそ笑む。この兵器があれば、地上を犯す害虫たるモビルスーツなど目ではない。

 

「次は奴らが、自らが作った兵器に焼かれる番だ。目にもの見せてやるーー青き清浄なる世界のためにな」

 

 

 

 

 

キャラデザイン

  • 他キャラも見たい
  • キャラは脳内イメージするので不要
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