ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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第104話 狂気の光

 

 

風を感じる。

叩きつけられるようなその風圧に抗って首をもたげながら、トールはコクピットの中でゆっくりと意識を取り戻していく。

 

「…ぅ…ここは…俺は…どうなって」

 

重い瞼を上げた先に見えた光景。それは、雲を突き抜けて急接近する太平洋の海原だった。

 

「ーーはっ!!」

 

いくつも水面に反射する光点をみて、トールははっきりと意識を取り戻す。無意識に操縦桿に手が伸びて、目一杯引き上げると、機体は緩やかに水平へと戻り始め、水面に叩きつけられる前にスカイグラスパーは上昇姿勢へと機首を上げた。

 

「くぅうう!!い、今のはヤバかった…」

 

水面から離れながら、トールは自分の身に起こったことを思い返す。空が明るく光り、その光が大きくなったところまでは覚えているが、そこから強い揺れを受けてトールは意識を失っていたのだ。

 

バブルキャノピーは吹き飛んでおり、キャノピーを支える柱だけが太平洋の潮風に晒されている。操縦桿を操りながら目を通した機材もひどい有様だった。

 

「…高度計、各種測定装置は…ダメか…。通信機器とナビゲーションモジュールは生きてる。ボルドマン大尉!生きてますか!?返事してください!」

 

ハッと気づいてトールは複座に乗るアイクの安否を確認した。

 

キャノピーが吹き飛んだことで、時速400キロの風がダイレクトにトールに襲いかかっている。ノーマルスーツを着用していたのが唯一の救いで、息苦しさはなかったが顔を後ろに動かすことは叶わなかった。

 

声を上げてみるが、アイクからの返事はない。

 

「くそぉ…こんな状態じゃあ…」

 

トールはアイクからの教わった手順通りに、異常時のマニュアルを頭の中で呼び起こしながら、スカイグラスパーの状態をチェックしていく。

 

「エンジンもメインが死んでる…使えてサブスラスター…保って30分か…くっそー!なんなんだよ!」

 

はっきり言って今の状態で飛んでいるだけでも奇跡に近かった。高度計も水平器も機器のほとんどがダウンしている上に、Nジャマーのせいで通信もできない。頼りになるのはナビゲーションモジュールだけだ。

 

「トール」

 

途方にくれているトールに、後ろからアイクが緩やかな口調で語りかけた。

 

「ボルドマン大尉!」

 

「前を向け。サブスラスターを使えば何とかなる。出力調整は細かく行えよ?大丈夫だ。アークエンジェルまではたどり着ける」

 

アイクの言葉に従ってナビゲーションモジュールを見ると、なんとかアークエンジェルを捕捉できていた。うまく機体を飛ばせば、残った燃料でアークエンジェルに帰投することは可能だろう。

 

しかしそれは、あくまでもザックリとした計算でしかない。

 

「けど、大尉!俺…こんな操縦は…」

 

不安げに言うトールに、アイクは小さく笑って後ろの座席からトールの肩へ手を置いた。

 

「やれるさ、お前なら。なんたって俺が育てたパイロットだ。できるはずだ。信じろ、トール」

 

「はい…!俺、やります!見ていて下さい!」

 

アイクの励ましに答えるトールは、なけなしのサブスラスターのスロットルをゆっくりと動かし始める。

 

「いいか?スロットルは慎重に、なおかつ大胆に扱え。天使のように優しく、悪魔のように鋭くだ」

 

アイクの教導にトールは返事をしながら、懸命にボロボロになったスカイグラスパーを飛ばしていく。

 

必ず生き延びる。生きて、使命を果たす。

 

トールがメビウスライダー隊に入って教えられた信条。それに従ってトールも生へ執着し、操縦桿を握りしめるのだった。

 

 

 

////

 

 

 

「キラ!トール!レイレナード大尉!誰か聞こえますか?応答して下さい!メビウスライダー隊!応答願います!みんな!」

 

アークエンジェルからミリアリアが各パイロットに呼びかけるが、その返事は無かった。

 

想像以上の威力と範囲で、アークエンジェルもメビウスライダー隊も完全に意表を突かれていた。直撃とは言わないが、アークエンジェルも余波を受けていて、搭載された火器のほとんどが使用不能といった状態に陥っている。

 

《なんだったんだ、今の爆発は!》

 

なんとか飛んでいるムウも、南西で光った巨大な爆発に目を剥いていた。あんな兵器、誰も知る由もなかった。紅海でザフトが使ったSWBMよりも、もっと凶悪で強力であるようにも思えた。

 

「何の爆発かは分かりません。ですが現在、ストライク、スピアヘッド、スカイグラスパー2号機、共に、全ての交信が途絶です」

 

《なにぃ!?》

 

マリューの暗い返事に、ムウはただ驚くことしかできなかった。マップを見れば、たしかにキラもラリーも爆心地近くで反応が途絶えていて、トールのスカイグラスパーも自分よりも爆発範囲側で消息を絶っていた。

 

「キラ!キラ!応答して!レイレナード大尉!トール!ボルドマン大尉!」

 

「呼びかけ続けろ!艦長!」

 

ナタルの不安げな声に、マリューは静かに頷く。

 

「分かってます…艦の被害の状況は?ここで惚けていても、どうにもなりません!マードック曹長!」

 

「そう酷くはねぇです!ホースブラケットの応急処置さえ終わりゃぁ飛べまさぁ!」

 

ハンガーもまたひどい有様であったが、幸いにして死傷者は居なかった。マードックとハリーの指揮のもと、アークエンジェルの復旧作業が急ピッチで進められていく。

 

「ろ、6時の方向、レーダーに機影!数3!」

 

そんな中で、カズイが悲鳴をあげるようにレーダーが捉えた影を指差した。

 

「ディンです!会敵予測、15分後!」

 

「こんな時に!迎撃はできますか!?」

 

マリューの言葉に、ナタルはただ首を横に振るしかできなかった。

 

「無茶です!現在半数以上の火器が使用不能です!これではディン3機相手に10分と保ちません!」

 

「キラ!キラ!聞こえる!?応答して!ディンが!」

 

「ディン接近!会敵まで11分!」

 

「嘘!…ぅぅ…」

 

何度呼びかけても応じない仲間たち。どこか漠然と、絶対に大丈夫だと思っていた自分がいて、通信が途絶えたラリーやキラ、トールの姿を想像して、ミリアリアはひどく取り乱していた。

 

「ミリィ!」

 

サイが心配そうな声をかけるが、彼女は涙を拭きながらも必死にキラたちに呼びかける。

 

「パワー、戻ります!」

 

「離床!推力最大!2号機とストライク、スピアヘッドの最後の確認地点は?」

 

「7時方向の、小島です!」

 

マリューの問いに、今度はナタルが驚いたように目を見開いた。

 

「艦長!この状況で戻るなど出来ません!」

 

「フラガ少佐!」

 

ならば戦闘機で状況確認をと思ったが、通信に応じるムウも力なく首を横に振った。

 

《駄目だ!こっちも翼がやられてる!》

 

「艦長!離脱しなければやられます!」

 

「でも…もしかして脱出してたら…!」

 

情報が足りない。そのことにマリューは苛立ちを覚えながら、ミサイルが上がってきた方向にあるアラスカへの通信結果を聞いてみた。

 

「アラスカ本部とのコンタクトは?」

 

「応答ありません!」

 

全く!一体どうなっているんだ!そんな苛立ちを心の内に飲み込んで、マリューは一息吐くと今できる最善の策を言葉に紡いた。

 

「打電を続けて。…それと、島の位置と救援要請信号をオーブに!人命救助よ!オーブは請けてくれるわ!責任は私が取ります!」

 

ナタルが怪訝な顔をするが、もし彼らが生きているなら、オーブに頼るしかあるまい。

 

「ディン接近!距離8000!」

 

もう敵も目と鼻の先だ。マリューがフラガ機の回収を急がせようと指示を出した時だ。

 

《こ…ら……トニング3……アーク……ジェル……応…》

 

「ーートール?」

 

ミリアリアのヘッドホンに、かすかに声が聞こえてきたのだ。ボリュームと周波数を調整して、ミリアリアは必死に聞こえた声を手探りで探し出す。すると、かすれていた声はしっかりとした口調に変わった。

 

《こちら!ライトニング3!アークエンジェル!無事ですか!?》

 

「ケーニヒ二等兵!」

 

「トール!!良かった!!無事だったのね!」

 

《キャノピーが吹き飛んでいて計器もやられてるけど、何とか!着艦します!》

 

マリューがブリッジから外を見ると、ボロボロになったスカイグラスパーがふらつきながらも、何とかアークエンジェルへ帰投しようとしている姿が見える。

 

「微速前進!フラガ機とケーニヒ機を回収し次第、最大船速でこの空域を離脱します!!」

 

 

////

 

 

「ゆっくり…そのまま…!!」

 

アークエンジェルのハッチに飛び込んだトールのスカイグラスパーは、何とかランディングギアを下ろして着陸したが、ランディングが途中で折れて、機体は傾き、胴体着陸となっていく。

 

「うっ…ぐぅ!!」

 

「やりやがった!なんつー機体で帰ってきてんだ!」

 

マードックが心配から解放されたような笑みを浮かべて、ネットによって停止したトールの元へと走り出す。

 

「無事か!トール!」

 

すぐあとに着陸したスカイグラスパーから、ムウも飛び降りて破損したトールの機体によじ登る。

 

「隊長!俺…!」

 

ハシゴをかけてコクピットに登ったフレイは、トールの後部座席をみて、思わず口元を覆った。

 

「ボルドマン大尉!俺!やりまーー」

 

シートベルトを外して重くなった体を立ち上がらせたトールは複座でずっと励ましてくれていたアイクの元へ向き直った。

 

そこで、トールは初めて複座の状態を目にすることになった。

 

「ボルドマン…大尉…?」

 

複座は、トールの座っていた操縦席よりもひどい有様だった。

 

観測パネルは完全に吹き飛んでいて、ボディをえぐるように受けた損傷は、シートを根こそぎ吹き飛ばしていて。

 

ーーーそこには血まみれのシートベルトと、シートの残骸しか残っていなかった。

 

「そんな…」

 

「大尉が…」

 

顔を青くするフレイを、ハリーはしっかりと胸で抱きとめ、マードックやムウも悲痛な眼差しで、めちゃくちゃになった複座だった場所を見つめている。

 

「そんな…嘘だ…さっきまで俺を励ましててくれたのに…そんな…嘘だ」

 

トールはただ立ち尽くしていて、ふらふらになりながらも、後ろからずっと励ましてくれていたアイクの言葉を思い出していた。

 

あの時から、複座は、こうなっていたことが、トールには信じられなかった。

 

補佐として複座に座っていた時も、まだパイロットになる前に体力作りと称してトレーニングを指導してくれたことも、パイロットになってからもずっと気にかけてくれていた時も。

 

自分を一人のパイロットとして認めてくれたアイクの姿はどこにも無かった。その遺体すらもーー。

 

「嘘だ…嘘だぁ!!ボルドマン大尉!!大尉ぃいい!!!」

 

トールは、自分の座っていたコクピットシートにしがみついて、自分が目にした現実を受け入れられずに、ただ大声で泣き叫ぶことしかできなかった。

 

 

 

 

 

キャラデザイン

  • 他キャラも見たい
  • キャラは脳内イメージするので不要
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