第106話 新たなる夜明け
「ハリーさん、少しは休んだほうがいいです」
ゴットフリートの制御ユニットの修理をするハリー。それを補佐するフレイは、ラリーが消息不明になってから、不眠不休で働き通しのハリーを見つめながら、ハッキリとした口調でそう言った。
「大丈夫、フレイちゃん。私は大丈夫だから」
壊れたラジオのようにそれしか言わないハリーの手を、フレイは無理やり掴み上げた。
「どう見ても大丈夫じゃないじゃないですか!」
ハリーが作業していた箇所は、修理というにはあまりにもお粗末なもので、配線を繋ぐユニットは無茶苦茶だし、漏電を防ぐ処置も満足にできていない有様だ。
そう言うフレイに、ハリーは深い隈を作った目で、申し訳なさそうにフレイを見つめる。
「ごめん…でも、止まったら…もう何もできなくなりそうなのよ」
だから、ごめんね。と、ハリーは再び、おぼつかない手つきで工具を掴もうとする。
「MIA…戦闘中行方不明。未確認の戦死…」
フレイの言葉に、ハリーの手は止まり、肩が震えた。今は1番聞きたくない言葉。顔を上げると、フレイは困ったように笑いながら、ハリーの肩に手を置いた。
「ハリーさん。ラリーさんなら、きっと大丈夫です。キラも」
「……フレイちゃん」
「だって私想像つきませんもん。あの二人が怪我をしてるところさえ」
かたや機体がボロボロになるまで乗り回して、ケロリとしている流星と呼ばれるパイロット。かたやストライクを操るコーディネーターだ。不死身じゃないかと思える二人が、そんな簡単に居なくなるとはフレイには思えなかった。
むしろ、こんなときこそコーディネーターの底力というものを発揮して欲しいものだと、フレイは心の中で頷く。
「きっとオーブ軍に保護されて、いつものように何もなかったように帰ってきますよ!その時は、今までで1番長い説教をしてやりましょう!」
そう笑いかけるフレイに、ハリーは目に涙を溢れさせた。そうだ。彼は約束してくれたのだ。必ず帰ってくると。ならば、信じよう。自分が信じるラリーという一流のパイロットを。
「そうね…ありがとう、フレイちゃん。少しだけ、休むわ」
そういってふらふらと自室に戻っていくハリーを見送って、フレイはよし、と腕まくりをすると、仕様書を片手にハリーがやっていた仕事の続きをし始めるのだった。
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半舷休息の中で交代で休息に入ったサイは、トールの自室から出てくるミリアリアとばったり出くわした。
「トールは?」
「今は寝てるわ。ーーよほどショックだったのね、ボルドマン大尉のこと。レイレナード大尉と、キラは?」
ミリアリアに、サイは少し顔を強張らせてから首を横に振った。
「わからない…でも、艦長がオーブに捜索を頼んで…本部へ行けば、なんか解るかも知んないし」
「そう…そうよね……そんなはずないもの…」
トールが生きていたのは嬉しい。けれど、ボルドマン大尉も、レイレナード大尉もーーそしてキラも帰ってこなかった。
あまりにも大きくて、あまりにも悲しいことだ。ミリアリアにとってもショックが大きいのだろう。
「食堂行こ。何か食べれば気分も和らぐからさ。フレイも待ってる」
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「なんともまぁ…不思議な感じだよな」
包帯だらけのディアッカは、待合用に置かれたベンチに腰を下ろしたまま、疲れたように呟く。
「何がですか?ディアッカ」
「いや、あんな風に、俺たちが追ってきた奴らと決着が着くなんてさ」
わざわざ宇宙から降りてきたと言うのに、散々な目にあわされた上で、ミサイルの爆発に巻き込まれて、怪我をするわ、機体を失うわで、ロクな目に遭わなかった。
そんな不満を漏らすディアッカに、アスランは虚ろなままで、カガリから聞いたことを話した。
「あのミサイルはーーアイツらの味方から打ち上げられたんだ」
その言葉に、ディアッカもニコルも驚いたように目を剥いた。
「マジかよ」
「地球軍も…一枚岩ではないということでしょうか」
そんなにまでしてこちらを倒したかったのかねぇ、向こうは。と、ディアッカは呆れたように空を見上げた。
「ほんと、嫌になるよね…こんな戦争なんてさ」
その呟きに、アスランとニコルも何も言えなかった。
すると、飛行艇の入り口から、話を終えたであろうカガリと護衛の兵士が姿を現した。
「おい、迎えが到着した。アスラン、あとそこの二人。迎えだ」
そう言って3人それぞれに、着ていたパイロットスーツが入ったカバンを渡す。それとカガリを交互に見るアスランに、カガリは困ったように笑った。
「ザフトの軍人では、オーブには連れて行けないんだ。お前、大丈夫か?」
「やっぱり…変な奴だな、お前は…。ありがと、って言うのかな。今よく解らないが…」
世話になったよ。と、ディアッカたちと船を後にしようとするアスラン。
「ちょっと待て」
そんなアスランをカガリは呼び止めた。立ち止まったアスランを心配したのか、ディアッカたちも足を止めたが、アスランが手でジェスチャーをすると、二人は先に飛行艇を降りていく。
カガリは首にかけていたネックレスを外すと、アスランに手渡す。
「ハウメアの護り石だ。お前、危なっかしい。護ってもらえ」
その言葉を聞いて、アスランは弱々しくカガリを見た。
「俺はキラを…見殺しにしたのにか?」
そう言うアスランに、カガリは優しく微笑む。
「もう、誰にも死んで欲しくない。ただそれだけさ」
さぁ、もう行けよとカガリが催促して外に出ると、すでにそこにはザフトの輸送機が到着していて、入り口から伸びるタラップにはイザークが立っていた。
アスランは振り返ったが、そこにはカガリの姿はもう無かった。
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眼が覚めると、そこは白い大理石でできた天井があった。僅かに香る花の匂い。草、土の匂い。キラは意識を取り戻しながら、そのおかしさに気がついた。自分はさっきまで、オーブの近海にいたというのに。
最後に見た島の光景には、花などなかった。あったのは白く光る大きな爆発だけだ。
体を起こすと、身構えてなかった痛みが全身を襲った。その痛みに、キラは顔をしかめる。すると、遠くの方から何かが跳ねる音が聞こえてきた。
「テヤンデー」
ピンク色の球体が飛び跳ねながら、こちらに向かってくる。そのすぐ後ろを、人影が追ってきていた。
「ぁ…ピンクちゃん、いけませんよ、そちらは」
聞いたことがある声だった。かすれる目を凝らしてみると、そこには久しぶりに見る少女の顔があった。
「あ!おはようございます。お二人方!目を覚まされましたわ」
ピンクの髪を揺らす少女ーーラクス・クラインは、そう言って来た道を戻っていった。キラがあっけに取られていると、すぐにラクスは二人の人物を連れて戻ってくる。
「やぁ、少年。こっぴどくやられたものだな」
そこには、オーブで別れたばかりのバルトフェルドがいた。ザフトの軍服姿でなく、私服姿だったのが気になったが、優しく肩に手を置くバルトフェルドに、キラは小さく会釈を交わす。
「バルト…フェルドさん…それに」
そして、バルトフェルドよりも驚いくべき人物が隣に立っていた。バルトフェルドと同じく私服姿だが、その老齢に似合う気品が感じられる。
「久しぶりだな、キラ・ヤマトくん。無事で何よりだ」
そう言って微笑みかける人物に、キラは戸惑ったように声を出した。
「ハルバートン…提督…?」
キャラデザイン
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他キャラも見たい
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キャラは脳内イメージするので不要