ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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第112話 指令、スピットブレイク 2

 

 

第一戦闘配備。

 

そう放送が流れる中、ムウは司令室からの伝令を伝える詰所に向かって走っていた。

 

ついさっき、後方へ向かうための船に乗ろうとしていたところで、この戦闘がはじまったのだ。状況が何も掴めない。

 

とにかく、詰所か作戦室か、どこかに行って今の状況を把握しなければーー!!

 

そう一心不乱に走っていたムウは、ある部屋を通り過ぎたことに気がついた。足を止めて、部屋を覗いたムウの表情は驚愕に染まる。

 

「くっそー!どうなってんだ、こりゃ…蛻けの殻だ」

 

そこはアラスカ基地の通信を担う重要区画だった。こんな戦闘中だというのに、席のすべてがもぬけの殻。部屋に入ると、いたるところに放置されている通信機から声が聞こえてきた。

 

《こちら、イーストエリアのハインド隊!敵の攻勢強く、援護を求む!》

 

《伝令室は何をやってるんだ!航空支援を!》

 

無人の部屋で助けを求める声が鳴り響く。ふと、ムウは一際大きなモニターに映る映像に目が止まった。よほど急いで部屋を後にしたのか、そこには信じられない事実が記されていた。

 

「なんだよ…これは…!!」

 

 

////

 

 

「でええい!」

 

トールが出撃した空は、グゥルに乗ったモビルスーツや、ディンで溢れかえっていた。アークエンジェルや、ほかの護衛艦からのミサイル攻撃による援護はあるが、敵を落とすには充分と言える物量ではない。

 

トールはスカイグラスパーを鋭く旋回させて、ディンの攻撃を避けながらアグニでグゥルを撃ち抜き、近づくものにはファストパックに備わる小型ミサイルで応戦していく。

 

ディンを除いて、ジンなどはグゥルにその飛行能力を頼っている。足を止めるつもりなら積極的にグゥルを狙うべきだと、教導されている中でアイクから教わったことを、トールは忠実に守っていた。

 

深追いはせず、されど機体は鋭く動かし、射線が敵を捉えた瞬間のみ引き金を引く。

 

機動力はラリーが、射撃や地球の風を読むことはアイクがそれぞれ教え、学んだことはトールの中でしっかりと活かされていた。

 

その証拠に、ザフトのコーディネーターたちは弾がカスリもしないトールのスカイグラスパーに目を剥いていた。

 

『なんだ!?あの機体!!』

 

『気をつけろ!敵に一機、動きが違うやつがいる!!』

 

警戒したディンの編隊が、トールの行く手を阻む。

 

「くそー!!なんでここに攻めてくるんだよ!!」

 

打ち出されたそれぞれのライフル弾の隙間を縫って躱したトールは、アグニとバルカン砲でディンを牽制しながら叫んだ。

 

「ランダム回避運動!1番から6番、ウォンバット、バリアント、てぇ!!」

 

アークエンジェルも負けじと残った弾薬で応戦していくーーしかし、敵の攻勢は凄まじいものだった。

 

突破されるのも時間の問題だというのに、要請した増援は未だに姿を現そうとしない。

 

マリューは艦隊の指揮を執りながら、言いようのない不安に駆られていた。

 

 

////

 

 

第八エリアでフレイを待っていたナタルは、非常事態で隔壁が閉まったことで、行先を遮られてしまっていた。

 

ナタルと同じ境遇の地球軍兵士たちと共に、一旦基地内部へと戻り、現状を知ろうと行動をしていたがーー。

 

「くそ!司令部との連絡が…これは!?」

 

通路を抜けてたどり着いたナタルが目撃したのは、閉まっていたはずの隔壁が爆破物でこじ開けられ、その穴からザフト特有の緑色のノーマルスーツを着た兵士たちが基地内に侵入してくる様子だった。

 

「ザフト兵だ!」

 

「侵入されているぞ!」

 

士官たちは携帯している拳銃で応戦していくが、相手はアサルトライフルやバズーカなど、装備が桁違いだ。

 

「応戦しろ!!ええい!なぜこうも簡単に!!」

 

こちらの応戦では足止めも難しい。徐々に後退しながら、ナタルたちは攻め入るザフト兵に手をこまねいていた。

 

壁際に隠れて応戦していたナタルの隣で、仲間の一人が胸を撃ち抜かれて倒れた時だった。

 

「無事か!バジルール中尉!」

 

いきなり肩に手を置かれたため、反射的に拳銃を構えようとしたが、相手の顔を見た途端、ナタルは安心したように強張った顔を緩めた。

 

「フラガ少佐!!」

 

「とにかく戻るぞ!こんな状態じゃどうにもならん!!」

 

途中で拾ってきたウェポンバックを漁るムウに、ナタルは反論気味の言葉を返す。

 

「しかし!私は転属を!!」

 

「早くしろ!死にたいのか!?それともこのまま訳もわからん軍に付き従うか!?」

 

いくつかの手榴弾を取り出して、ムウは一気にピンを抜くと、ザフト兵が侵入してきている通路めがけて投げ放った。大きな炸裂音と轟音が、ナタルたちのいる場所を大きく揺らした。

 

ここで行くか!ここで死ぬかだ!とムウがナタルに手を差し出す。

 

「ーー行きましょう!!」

 

ナタルは迷うことなく手を掴み取り、ムウと一緒に格納庫に向かって走り出した。

 

 

 

////

 

 

キラはラクスとバルドフェルドと共に乗り込んだ車で、過ぎ行くプラントの景色を眺めていた。

 

一体、自分たちはどこに向かっているのだろうか。ラクスが言うには、キラに損はさせないという話であったがーー確証が得られないキラはやきもきした気持ちのままで。

 

そんなキラを乗せた一行の車は、とあるビルの一角で緩やかに停止する。ふと外を見れば、何人かのザフト兵士の姿が見えて、キラは咄嗟に窓から身を伏せて隠れるような仕草をした。

 

そんなキラにお構いなく、ラクスは扉を開け放って笑顔を向ける。

 

「こんにちは。さぁ、どうぞ」

 

ラクスに導かれるまま、乗り込んできたザフト兵士。呆気に取られたが、その兵士の顔を見た途端、キラは目を見開いた。

 

「ラリーさん!?」

 

「おお、キラ。元気だったか?」

 

「元気だったかって……」

 

まるでついこないだ会ったような態度を見せるラリーに困惑していると、隣に座っていたバルドフェルドが意地悪そうな笑みを浮かべてラリーに話しかけた。

 

「たしかに、君にもらったものは大いに役だったよ。いけ好かない奴だったが、お前さんを匿うとは大した奴だ」

 

「政治ごとは興味がないから、あとの尻拭いはまかせる、だってさ」

 

そう言って肩をすくめるラリーに、バルドフェルドは愉快そうに笑い声を上げた。

 

「はっはっは!こりゃあ手厳しいな」

 

そう会話が盛り上がったところで、ラクスは真剣な表情をしたまま、口元に人差し指を当てた。

 

「静かに。今はこちらに集中を」

 

ラクスたちが到着したのはーーザフトの設計局だ。ザフト兵に連れられるまま、敷地内から施設の中へと入っていく。

 

エレベーターで深く、深く降りていく。そしてたどり着いた場所は、モビルスーツを格納するハンガーだった。

 

「これはーーガンダムと…モビルアーマー?」

 

「ちょっと違いますわね。これはZGMF-X10A、コードネームはフリーダム。あちらは、ZGMF-S07、コードネームはホワイトグリント。でも、ガンダムの方が強そうでいいですわね」

 

キラは機体を見上げたまま、ラクスの言葉を聞いていく。

 

フリーダムと呼ばれた方は、どこかストライクを彷彿とさせるシルエットと、大きな背中の翼が特徴的でーー対するホワイトグリントと呼ばれた機体は、フリーダムよりも一回り大きな戦闘機を模したモビルアーマーのようで、そのシルエットはどこか、ラリーが乗っていたメビウス・インターセプターと似通った点を感じられた。

 

「この二機は、奪取した地球軍のモビルスーツの性能を取り込み、ザラ新議長の下、開発されたザフト軍の最新鋭の機体だそうですわ」

 

そう説明するラクスに、キラは振り返って視線を向ける。

 

「これを、何故僕らに?」

 

「今の貴方達には、必要な力と思いましたの」

 

即答するラクスが、今度はフリーダムとホワイトグリントを見上げた。

 

「想いだけでも…力だけでも駄目なのです。だから…お二人の願いに、行きたい場所に、望む場所に、これは不要ですか?」

 

想いだけでも。

戦いなんて嫌だ。けれど戦わなければ大切なものは守れない。

 

力だけでも。

守るために手に入れた強大な力。けれど、その力で多くの人を傷つけ、悲しませる。

 

だから、どちらかだけではダメだし、両方を持っていてもまだ足りない。

 

その先にある、もっと大切なものを、自分たちは見つけなければならないーー。

 

「キラ」

 

ハッとして、キラはラリーを見た。彼の目はいつもと変わらないままで、迷いもなく、淀みもない。ラリーはいつも、真っ直ぐにキラの行く道を指し示してくれた。

 

だからーー。

 

「行くぞ。俺たちの使命を果たすために」

 

生き残る。

 

生きて、使命を果たす。

 

この戦争を、地球とプラントを、ナチュラルとコーディネーターを、お互いを滅ぼし切る前に止める。この戦争を終わらせるためーー。

 

「わたしも歌いますから。平和の歌を」

 

そう微笑むラクスに、キラとラリーは敬礼をした。

 

「ありがとう、ラクス。気を付けてね」

 

「ええ、キラも、ラリーさんも。私の力も共に」

 

そう言って、ラクスはスカートの両端を持って美しく頭を下げてお嬢様ーーいや、姫のような仕草で二人に挨拶を送った。

 

「では、行ってらっしゃいませ」

 

 

////

 

 

「Nジャマーキャンセラー?凄い!ストライクの4倍以上のパワーがある…ラリーさん!そっちは!」

 

自分用にOSを書き換えるキラは、乗り込んだフリーダムの性能に驚きながらも、隣のモビルアーマーに乗り込んだラリーに問いかけた。

 

ラリーはクルーゼが組み、キラが最適化してくれたナチュラル用OSを把握しながら、ホワイトグリントの性能を確かめていた。

 

こっちにはNなんちゃらは無いが……あの野郎、とラリーは顔をしかめる。機体のスペックを見る限り、これはモビルアーマーではない。そのカスタマイズを見て、ラリーはまさに〝対流星用〟の機体だなと納得する。

 

「ああ、これなら……行けるな?キラ!」

 

「はい!ーー想いだけでも…力だけでも…!」

 

その答えを互いに聞いて、キラとラリーは機体の出力を上げていく。閉まっていくエアロックの向こうには、バルドフェルドとラクスが手を振っているのが見えた。

 

『おいなんだ?』

 

『フリーダムとーーホワイトグリントが…動いている?』

 

その言葉を聞いたラリーが、キラに急ぐように伝える。エアロックを止めろ!と誰かが叫んでいたが、それはもう、もはや手遅れだ。

 

機体にかかるワイヤーを振りほどいて、キラのフリーダムは格納庫の外へと飛び出しーーラリーのホワイトグリントはブースターを噴かして機体を固定するシャトルともに宇宙へと登っていく。

 

無事にプラントから飛び立ったキラとラリーだが、そこにはすでに最初の障害が待っていた。

 

『誰だ貴様!止まれ!』

 

2機のジンがこちらに銃口を向けてきたが、キラのフリーダムがビームサーベルを抜き放ち、ジンのライフルを切断したあとに、ラリーのホワイトグリントが機体を吹き飛ばしながら、キラの後を追従していく。

 

『うわぁああ!なんだあのモビルスーツは!』

 

「キラ!掴まれ!地球圏までアフターバーナーを焚くぞ!!」

 

ラリーの指示に従って、ホワイトグリントの背面部にある牽引用のブラックをキラが掴むと、流星は凄まじい速さで地球圏へと進み出した。

 

「なんだよあれ…速い!!」

 

自分たちを足止めしていた敵のモビルスーツすら追い抜き、キラとラリーは懐かしき地球に向かって飛翔していくのだった。

 

 

 

 

 

 

キャラデザイン

  • 他キャラも見たい
  • キャラは脳内イメージするので不要

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