ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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2話連続です。


第114話 指令、スピットブレイク 4

 

 

「この戦力では、防衛は不可能だ!パナマからの救援は間に合わない!やがて守備軍は全滅し、ゲートは突破され、本部は施設の破棄を兼ねて、サイクロプスを作動させる!」

 

マリューは、ムウから聞いた内容に衝撃を受けたが、考えれば考えるほど、この無茶苦茶な戦闘状況と辻褄があうのだ。

 

まるで当てにされてもいない。各員が臨機応変に防衛せよという、まるで他人事のような命令。

 

それもそうだ。

 

すでにアラスカを脱出した軍の高官からしたら、自分たちの戦いなど他人事に他ならないのだから。

 

「それで、ザフトの戦力の大半を奪う気なんだよ!それがお偉いさんの書いた、この戦闘のシナリオだ!」

 

くそったれが!命を何だと思ってやがる!!そうムウが吐き捨てた姿に、マリューは悲痛な目を向ける。

 

「俺はこの目で見てきたんだ。司令本部は、もう蛻けの殻さ。残って戦ってるのは、ユーラシアの部隊と、アークエンジェルのように、あっちの都合で切り捨てられた奴等ばかりさ!」

 

その言葉に、マリューは最後まで堰き止めていた何かが外れたような気がした。信用、軍としての機能、そして戦争を終わらせるために戦っている者達。

 

アラスカを早々に逃げ出した彼らはーー軍に、必死に戦う若者達に、戦争を憂う軍人に向かって、唾を吐きかけ、捨て駒になれと言ったのだ。

 

「どこまで…どこまで腐っているというの…!!」

 

バン!!と艦長席の肘掛に拳を落とすマリュー。怒りを露わにするマリューに続くように、アークエンジェルの士官達も驚愕の声を上げた。

 

「俺達はここで死ねと!?」

 

「こ、こういうのが作戦なの…?戦争だから…私達が軍人だから…そう言われたら…そうやって死ななきゃいけないの…?」

 

「ミリィ…」

 

このままでは、自分たちは囮になって、ザフトを道連れにしてサイクロプスの火に焼かれるのを待つだけだ。

 

果たして、それでいいのか?

 

ハルバートン提督に託されて、ここまで戦ってきた自分たちの終わりが、そんな呆気ないものでいいのか?

 

軍人としてーー利用されてーー殺されていいのか?

 

《諦めるな!》

 

暗い空気に苛まれていたアークエンジェルのブリッジに、トールの大きな声が響き渡った。

 

「トール…!」

 

ミリアリアがモニターを見ると、トールはまだデュエルや、ディン2機と空中戦を繰り広げていた。ハイG旋回の負荷に歯を食いしばりながら、トールはアークエンジェルに向かって叫んだ。

 

《ーーくっ!!キラや、レイレナード大尉……ボルドマン大尉は諦めなかった!!だから、俺は最後まで足掻く!!生きて!使命を果たすんだ!!》

 

〝君たちは、君たちの使命を果たせ。生きろ。生きて、使命を果たすんだ。ラミアス艦長、メビウスライダー隊のことを頼む。いい艦長になれよ〟

 

トールの言葉を聞いて、マリューは低軌道で最後に聞いたドレイクの言葉を思い出した。

 

そうだ。自分たちは託されたのだ。

多くの者から何かを預けられて戦っている。

使命を引き継いで、それを果たすために。

 

ならば、今ここで自分ができる最善の行動とは?マリューは目を閉じると、傍に置いていた帽子を深くかぶって、大きく息を吸った。

 

「ーーザフト軍を誘い込むのが、この戦闘の目的だと言うのなら、本艦は既に、その任を果たしたものと判断する!!」

 

勇ましくそう言うマリューの姿に、ムウもナタルも、歴戦の艦長の姿がダブって見えた。

 

「アークエンジェル艦長、マリュー・ラミアスの独断であり、乗員には、一切この判断に責任はない!!」

 

彼女は覚悟したのだ。

 

船を預かる者として。1軍人として。そして、戦争を終わらせることを願う者としての覚悟を。

 

「ラミアス艦長…」

 

声をかけたナタルに、マリューは振り返って笑みを向けた。

 

「付いてきてくれるわよね?」

 

その言葉に、ナタルもムウも、アークエンジェルクルー全員が敬礼で答えた。

 

「当然」

 

「では、本艦はこれより、現戦闘海域を放棄、離脱します!僚艦に打電!我ニ続ケ。機関全速、取り舵!!」

 

 

////

 

 

「キラ!アークエンジェルの位置は!!」

 

地球圏に到着したラリー達は、自分たちが降りるための適正コースを模索していた。

 

闇雲に大気圏に突っ込んでも、肝心のアークエンジェルがいない場所に行ってしまってはなんの意味もないのだ。

 

「位置アラスカ!適正コース!このままーーえ!?大尉!!この反応は…!!」

 

キラの驚いた声に、ラリーはどうしたと返事をすると、しばらくの沈黙のあとに、キラは焦った様子で計測した反応の正体を伝えた。

 

「戦闘中です!!それも大部隊相手に!」

 

その言葉を聞いて、ラリーの操縦桿を握る手に力が篭る。ド派手な帰還になりそうだ。

 

「キラ、どうやら俺たちは鉄火場に突っ込んでいくことになりそうだな!!」

 

青く光る地球に向かって降りていくフリーダムとホワイトグリント。その途中で一機のシャトルとすれ違ったが、キラはそんなことも気づかずに通信先のラリーに頷いた。

 

「もとより覚悟の上です!!」

 

「上等!!しっかり掴まっておけよ!!」

 

その言葉を皮切りに、フリーダムを乗せたホワイトグリントは大気圏に突入し始め、機体下部に設けられた断熱材と、摩擦熱を防護するシールドが赤く染まり始めるのだった。

 

 

////

 

 

アークエンジェルを旗艦にした守備隊の脱出劇は困難を極めていた。持ち場を放棄したとはいえ、引き返せばザフトの追撃と、サイクロプスの熱が待っている。

 

そのため、守備隊に残された脱出経路は、ザフト軍を正面突破し、安全圏に逃れることだ。だが、敵もそこまで甘く通してくれるはずもない。

 

「10時の方向にモビルスーツ群!」

 

「クーリク、自走不能!ドロ、轟沈!64から72ブロック閉鎖!艦稼働率、43%に低下!」

 

揺れが収まらないアークエンジェルは、まさに風前の灯だった。守備隊も次々とザフトに襲われていく中で、エンジンに損傷を受けたアークエンジェルもまた、その翼を折られつつあった。

 

「ううわぁぁもう駄目だぁぁ!!」

 

「落ち着け!バカやろう!」

 

あまりの恐怖に頭を抱えるカズイを、背中越しに座るオペレーターが一喝する。

 

「ウォンバット!てぇ!機関最大!振り切れぇ!!」

 

「このぉおお!!」

 

『でぇええい!!』

 

敵陣突破。その言葉しかない。トールもイザークを筆頭としたデュエルとディンの攻撃隊と激戦を繰り広げながら、アークエンジェルの周辺から離れないように飛び回っている。

 

しかし、限界は近づきつつあった。

 

「推力低下…艦の姿勢、維持できません!」

 

ノイマンが必死に舵を操ろうとした時だった。

 

一機のジンが、弾幕をくぐり抜けてアークエンジェルのブリッジに迫ったのだ。黒光りする銃口が向けられて、マリューは目を見開く。

 

ナタルが何かを叫んで、ムウがエンジェルハートのインカムを外してこちらに駆けてくるのが見える。

 

逃げ出そうとする者。

 

死を覚悟する者。

 

そして、それでもーーー

 

こんなところでやられるわけには……!!

 

マリューの中にその言葉が波紋のように広がったとき。

 

 

 

空から閃光が走ってきた。

 

構えていたはずのライフルは熱で溶けて爆散して。

 

気がついたらアークエンジェルのブリッジの前に、一機のモビルスーツがいた。

 

 

「なんだ!あのモビルスーツは!?」

 

青と黒を基調にし、大型の可変翼を持ったそのモビルスーツは、神々しく光を瞬かせながら、大空を舞うために、翼を広げてその場に存在を知らしめた。

 

 

 

《こちら、ライトニング2、キラ・ヤマト!援護します!》

 

 

そして、懐かしい声がアークエンジェルの艦内に響き渡ったのだった。

 

 

 

キャラデザイン

  • 他キャラも見たい
  • キャラは脳内イメージするので不要

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