ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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第127話 エースたちの戦い2

 

 

 

「こぉのぉぉ!!」

 

イザークたちが戦うエリアは、まさに孤軍奮闘と言えた。

 

押し寄せるはモビルスーツの波、波、波。

海と空からやってくる敵の数は減るどころか、まるでバケツで投入される水のごとく押し寄せる量を増やしていく。

 

まだアストレイ隊での防衛網は維持しているが、奮戦していた陸上部隊や、新兵が駆るM1アストレイでも撃破されていく者が現れ、少しずつガルーダ隊の首は締まりつつあった。

 

「ガルーダ1より各機へ!戦線を押し戻せ!!物量は多いが敵の動きは大したことはない!!」

 

そんな中、敵の攻めを押し返す勢いで戦うイザークが怒声に似た声で隊員を奮い立たせていく。まだ全員の戦意は落ちていない。ここが勝負どころだった。

 

「イザーク!友軍が!」

 

ニコルの叫びに視線を彷徨わせると、左側面で防衛していたオーブ軍パイロットたちのアストレイが囲まれつつあった。

 

「俺とディアッカで援護する!ニコルは沿岸部のフォローだ!!」

 

撃破されたアストレイのビームライフルを両手に構えたニコルのブリッツが、次々と地球軍のストライクダガーを穿つ。

 

「でぇえい!!」

 

「こんな奴らに!!」

 

囲まれたアストレイの前に出て、イザークとディアッカが息を揃えたコンビネーションで敵を一掃していく。だが、均衡していた戦況は刻一刻と傾きつつあった、

 

 

////

 

 

トールが駆るスーパースカイグラスパーは、ハリーから言えばラリーのスーパースピアヘッドのデチューンモデルだった。航空力学的に多少の無茶ができたスピアヘッドに対して、スカイグラスパーは加速性と安定性を目指した機体だ。エールストライカーの可変翼もない為、低速域での安定性はスーパースピアヘッドより大きく劣るものとなっている。

 

その代わり、スーパースカイグラスパーでは、背部に同型エンジンによるブースターユニットを搭載し、抜群の加速性と加速時と減速時の安定性を手に入れており、フラップ展開も従来の物よりも可能な限り大型化し、揚力を稼ぐ効率を上げているため、急制動のレスポンスも向上している。

 

また、武装面でもノンオプションのストライカーパック装備と、標準装備のビーム砲とミサイルコンテナを搭載したまま、翼端に大型ミサイルを懸架できるミサイルラックと、機体下部に兵装選択型の武装用ハードポイントが追加されている為、戦況に応じてスカイグラスパーの兵装を変更でき、更なる汎用性を獲得している。

 

今回の兵装は、ストライカーパックにランチャーストライカー、翼端に大型ミサイル、ハードポイントにはオーブ製の80ミリ重突撃機銃が装備されている。

 

その機体性能に加え、姿勢制御と空戦CPUにはラリーとアイクのデータから得られた情報がエリカ・シモンズとキラの手によって組み込まれている為、機体の扱いは極端にピーキーとなっているが、手懐ければ驚異的な機動力を発揮するモンスターマシンへと変貌したのだ。

 

「ぐぅ……がぁ……ーーはあっ!!」

 

トールはその高機動性の代償に、旋回時に発する高負荷を一身に受けながら、視線は迫る四機のモビルスーツを捉えたままだった。

 

どんな環境でも、敵機から目を離すな。

 

これは恩師であるアイクからの教えであり、この旋回のテクニックは未だに教えを乞うラリーから伝授されたものだ。

 

紅海で訓練を受けた最初の頃は意識を飛ばしていた旋回Gだったが、ラリーの「やっていれば慣れる」という言葉通り、今は何とか飛びそうになる意識を繋ぎ止めることが出来るようになった。

 

急旋回でカラミティからの連射撃から逃げ果せたトールは、機体をすぐさま安定させて、反撃に出る。

 

「あの戦闘機……動きが似ている……はっ!!」

 

トールからのアグニの砲撃を躱したと同時に、側面から新たに加わる敵機の反応をリークはキャッチした。

 

「無事か!ライトニング2!ありゃあ地球軍の新型機か!?」

 

現れたのは、大西洋連邦からの報告書にあった未確認のモビルスーツとーーー。

 

「なんだ!あれは……モビルアーマー…似ている…メビウスに!!」

 

リークの目に間違いがなければ、現れたもう一機の影ーーモビルアーマーとも言える外観をしたそれは、あきらかに自分がよく知る人間が駆っていた機体と酷似していた。

 

すると、合流したフリーダムを追ってきたであろう、地球軍のモビルスーツの編隊が、リークたち四機のモビルスーツの援護に入ろうと戦場へと加わってくる。

 

「く……ぐぅ……はぁっ!!このぉお!!」

 

しかし、そのストライクダガーたちは運が悪かった。シャニの攻撃を躱したトールの前方に彼らは布陣してしまったのだ。

 

急制動を繰り返したトールは、眼前に現れたストライクダガーの編隊を見てすぐに行動に出る。翼端に備わる大型ミサイルを放ち、アグニとビーム砲を用いて直線上に無防備に立つダガーを次々と穿ったのだ。

 

「なっ!モビルスーツが戦闘機に!?」

 

直撃を免れた敵機のパイロットが驚愕の声を上げたが、トールはそれに答える余裕など無かった。

 

「くぅう……!この機動は!!」

 

合流したフリーダムとホワイトグリントも、即座に地球軍の新型機であるリベリオンたちへの迎撃行動を開始していた。

 

その動きを見て、リークは更に驚くことになる。さきほどまで確信に似た感覚があったスカイグラスパーの動きよりも、目の前にするホワイトグリントの動きが何倍もキレがあり、そして速く、力強かったからだ。

 

まだリベリオンの操縦に慣れていないリークにとって、ホワイトグリントとフリーダムの動きは、異次元的な感覚を覚える。

 

「兄貴!くっそおお!シャニ!右側から回り込め!」

 

「はん、了解」

 

二機の翻弄を受けるリベリオンに気がついたクロトたちは、リークに叩き込まれたフォーメーションを組み、即座に反撃を開始する。

 

52ミリの高速射撃砲を放ちながら立ち回るクロトの横から、シャニがフリーダムに向けて誘導型プラズマ砲「フレスベルグ」を放った。キラは向かってくる閃光を避けようと飛翔したが、その真下を通ったビームは曲線を描いて曲がったのだ。

 

「この機体…ビームが…曲がる!?」

 

あのまま横に避けていたら…そう思うと背中に嫌な汗が伝う。垣間見た自身の運の良さに思考が固まりかけるが、キラはすぐに振り払って戦いへ集中する。

 

「上手く動くな…!よく訓練されている…それに…!」

 

「てぇりゃああああ!!必殺!!」

 

「おらおらおらぁ!!」

 

レイダーからの放たれるツォーンの閃光と、カラミティからの吐き出されるビームの嵐を変速マニューバで避けながらラリーは相手の旨さに舌打ちをした。

 

そしてその動きは、自分もキラも、そして訓練を受けていたトールもよく知っている。よく分かっていたし、直感的に次に何が来るか予測できた。

 

それほど似ているのだ。驚くほどに。

 

「うぐぅうう!!に、似ている…!俺たちの動きに…!!」

 

キラも、戦線に加わったトールも、驚くラリーと同じ感覚だった。相対するお互いの織りなす戦術が異常なまでに噛み合ってしまっている。今まで感じたことのない異常さに全員が戸惑っていた。

 

「よく狙うんだ!敵の動きを見ろ!」

 

リークの指示のもと、悪の三兵器はさらに動きに磨きがかかっていく。

 

「わかってるよ!オルガは兄貴の援護だ!」

 

「うっせーよ!わかってる!」

 

そう答えながら放ったビームは、旋回していたトールのスーパースカイグラスパーのファストパックのギリギリを通り過ぎていく。

 

「ちぃ……!!」

 

直撃はしなかったが、熱伝導でミサイルパックだった外装は溶け始めており、トールはすぐさま両翼に備わるパックをパージし、離れる。空中に投げ出された二つのパックは程なくして誘爆し、海の藻屑と消えた。

 

「このぉおお!!」

 

もつれ合う七機の空中戦は、苛烈を極めようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

キャラデザイン

  • 他キャラも見たい
  • キャラは脳内イメージするので不要

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