「しかし、お前がオーブに加わるなんてな」
ガルーダ隊の中核を担うイザークたちの機体は、遭遇した黄色部隊との交戦で少なからずの損傷を受けていた。
とくに、バスターの損傷は肩部のミサイルコンテナに右腕とひどく、ビームライフルを破損したイザークのデュエルもモルゲンレーテの第六工廠に運び込まれ、応急的な修理を受けていた。
「俺も驚いたよ、イザーク」
「パナマの一件があって、僕らもこちらに加わったんです」
キラと共にいたアスランも、訪れたイザークたちと予想外の再会を果たすことになった。パナマ攻略作戦に参加していたとは聞いてはいたが、まさかザフトから離れオーブに身を寄せていたとは思いもしなかった。
ニコルの言葉に頷きながら、アスランはジャスティスの横に並ぶG兵器群を見上げた。
「オーブの戦いに参加してるのは成り行きだけどな」
不機嫌そうにいうイザークは、破損したデュエルのビームライフルの代わりに融通されたストライク用のビームライフルとの同調率を調整しながら呟く。
「俺はパナマでの借りを返してるだけだ。事が済めば俺は…」
「ザフトに戻って、また言うこと聞く兵隊さんに戻るか?」
そうディアッカが言うと、イザークの手は止まり口も閉ざした。
「今は、俺の父に…イザークの母にも、俺たちの声は届かない」
まるでトドメを刺すように言うアスランに、イザークは「そんなこと、言われなくてもわかっている!」と打ち込んでいた端末を閉じてアスランを睨みつけた。
母や、アスランの父の在り方はイザークもよくわかっている。コーディネーターより劣るナチュラルと見下している以上、自分たちの行動を親が理解するわけがない。
「本当に…俺たちの親はナチュラルを滅ぼしたいのかねぇ」
「滅ぼして…その先に何があるんですかね」
それはディアッカもニコルも同じだった。ザフトに入ったのも親の影響があったからとはいえーー戦場で傷ついた仲間たちと、それを命を投げ打ってまで助けに来てくれた、敵だった地球軍の兵士。
親が言う価値観の一言で片付けられる問題じゃない。
「いっそ聞いてみるかぁ?コーディネーターが統治する素晴らしい世界とか?」
「俺たちだけになっても、また戦争は起こるさ」
ディアッカの皮肉げな予想を、アスランはバッサリと切り捨てた。
「ナチュラルを破滅させた急進派と、ただ平和に暮らしたい穏健派との小競り合いとか?」
そんな簡単なものじゃないさ。とアスランは物憂げな顔つきで言う。もしナチュラルを滅ぼしてしまえば、後はコーディネーターだけで仲良く暮らして世界は良くなる?答えはノーだ。きっと生まれた軋轢は形と概念を変えて自分たちを縛り、戦いを強制し続けるだろう。
「ここで止まらなければ、きっと繰り返しになる」
同じことの繰り返しだ。滅ぼそうとして、滅ぼされて、また繰り返す。そうやって人は進化してきたとも言われるが、そうして流された血の量は計り知れず、如何にしても拭いさることはできない。
「ふん、貴様がどう思おうが勝手だ」
「イザーク」
そう言ってイザークは立ち上がると、デュエルを見上げた。
「俺はただ、手を取ってくれた相手の敬意に答えるだけだ。それに、俺を信じて付いてきてくれる奴らに、コーディネーターだの、ナチュラルだのと言って足踏みなどしてみろ。それこそ顔向けできんだろうが」
そう言うイザークを、アスランは驚いた顔で見つめていた。ニコルとディアッカは、それを聞いて小さく笑っている。
ここに来てーーいや、地球軍との共闘を目にしてから、イザークの在り方は少しずつ、しかし決定的なまでに変わってきている。
「今はとにかく、次の戦闘に備えるしかあるまい。アスラン、貴様にも働いてもらうぞ。その新型とやらでな」
メビウスライダー、ガルーダ隊の隊長として貫禄がついてきたイザークを見て、アスランは困ったように笑ってからイザークへ手を差し伸べた。
「わかってるよ、イザーク隊長」
差し出されたアスランの手を、イザークは顔と交互に見比べてから手早く握り返してすぐに振りほどく。
「ふんっ」
鼻を鳴らして、彼は「データをシモンズ女史に見てもらう」と言って急ぎ足でアスランの元を離れた。
「そもそもアスランがガルーダ隊に来るかどうかも…」
「待てよーイザークー」
その後をニコルとディアッカも追いかけていく。変わらないなぁ、あいつらはーーそんな安心感に似た感覚を、アスランはゆっくりと噛み締めてから、後ろでじっとこちらを見てくる人物へ振り返った。
「で、お前はなんでずっとくっついている?」
物陰からのぞいていたカガリは、バレたと言った風に一旦隠れたが、すぐに咳払いをしながら堂々とアスランの前へと姿を現した。
「気にするな。見張ってるだけだ」
「……そうか」
そう答えると、アスランもジャスティスの戦闘データを元に調整を施していく。専用機としてOSの改修はしたが、実戦データ不足でレスポンスを合わせる必要がある。そんなアスランの元に近づいたカガリは、少し離れた場所にあるフリーダムを見ながら呟いた。
「キラが生きてて、良かったな」
「え?あぁ…あの時、俺は礼も言わなかったな」
アスランもオーブに救助された時のことを思い出していた。恥ずかしくも、カガリの前で大泣きしてしまった身だ。礼の一言も言えなかったと今になって恥ずかしい気持ちになる。
そんなアスランにカガリは柔らかい笑みを浮かべて答えた。
「言ったさ、ちゃんと。一応な」
「そうか?」
「ボケてたからなぁ。覚えてないんだろ?」
「ふ…ああ」
すると、フリーダムのコクピットが開いてキラが降りてくるのが見えた。足元ではマードックやハリー、フレイと円を作ってなにかの打ち合わせを真剣な眼差しで行なっている。
「キラ、変わったろ」
「…いや」
そう言うカガリに、アスランは遠くを見る目で答える。
「……いや、やっぱりあいつはあいつだよ」
月で別れた時から変わってない。分からず屋で、優しそうに見えて頑固で、けれど手を抜くどこか間抜けな頃のキラ。今でもその本質は変わっていない。そんなことを思っているアスランに、カガリは少し言い淀んだ声で問いかけた。
「お前…どうするんだ…これから?」
その言葉の意味を、アスランはよく考えた。きっと彼女としても、自分がキラと共に戦うことを望んでいる。そして、自分も──。
「俺は、俺の心に従うよ」
「なんだよ、それ」
そう問い返したカガリを見て、アスランは笑った。たしかに答えにはなっていない。
「さぁな。だが…もう答えは出ているのかも知れない」
そう言ってアスランは遠くにいるキラを見つめた。いつのまにか現れたメビウスライダー隊のパイロットたちに揉みくちゃにされている姿を見て。
そして、自分の父のことを思い返した。
父はーーこの心になんと言うだろうか。そんなことを思うと、心が苦しくなる。あの熱のない機械のような目を思い返して、手が震えそうになる。
そんなアスランのとなりにカガリは腰を下ろした。
「苦しいな」
そう言ってカガリはそっとアスランの震える手に、自分の手を重ねてやるのだった。
////
「メビウスリーダーより各機へ」
夜が明ける。朝焼けを待つパウエルのモビルスーツハンガーの中で、リークはリベリオンのコクピットに乗りながら、残りの三機に搭乗するオルガたちへ通信を繋いだ。
「敵の戦力は昨日で把握したね?僕らの役目は、メビウスライダー隊の足止めだ」
その言葉の後、通信用のモニターには細分化されたオーブ、オノゴロ島の見取り図が、立体映像として表示される。
《第1目標であるマスドライバーの制圧。これが今作戦の要となる》
ドレイクの声が通信機に響いた。夜明け前だと言うのにピリリとした鋭い声が、オルガたちの中にあった眠気を素早く追いやっていく。
「モルゲンレーテはどうなんだ?」
オルガの返答に、ブリーフィングに加わっていたアズラエルが「あー」と声を通してから言葉を繋ぐ。
《モルゲンレーテは、とりあえず無視しましょう。地球軍にとっても今は宇宙への足がかりが必要です。今回の作戦ではマスドライバー施設の確保と、それをカードにオーブとの使用権の交渉に持っていくのが第1目標となります》
「第2目標は?」
《昨日のオーブ製量産型モビルスーツ。あれで全てだと言うなら各個に制圧し、モルゲンレーテ社を目指す。こちらはストライクダガー隊の仕事だ》
シャニの問いに答えたニックの返答を聞いて、クロトはレイダーのコクピット中、ヘルメットの後ろで手を組んだ。
「で、俺たちの仕事は、ストライクダガーに邪魔がいかないように、メビウスライダー隊を足止めするってことか」
「落としてもいいの?」
そう言うシャニに、リークは困ったような笑みを浮かべる。それが簡単にできれば苦労はしないだろう。ザフトも、それに地球軍も。
「落とせるものならね。けど相手は僕の古巣だ。手加減もしてくれないだろうし、昨日よりもヤバくなるかもね」
「じゃ、死なないように頑張りますか」
「しぶとく生き残るのが僕ららしいし」
「聴きたい新曲も出る」
そういう三人の乗るモビルスーツのデュアルアイが光り輝く。満足な答えを聞いてリークは頷いた。
「そういうことだ。生きて、生き抜く。それがメビウス隊の第1モットーだよ」
メビウスライダー隊にいた時の教訓だ。生きて、生き延びて使命を果たす。それが兵士であり、戦士である自分たちに与えられたミッションなのだ。
《スカイキーパーよりメビウス隊へ。発艦準備が整った。これよりオーブ攻略作戦を開始する。時間を合わせろ》
《では、始めましょうか》
ニックとアズラエルの声が響くと、モビルスーツハンガーのハッチも緩やかに開いていく。
「メビウス隊、発艦します!!」
「 「 「昨日のリベンジマッチだ!」 」 」
パウエルから飛び出した四機の機影は、そのままオーブのマスドライバー目掛けて暁の空を舞い上がっていくのだった。
////
〝我々としても体裁的にはマスドライバーは確保したいところです。それに、こちらにも曲げられぬ事情がありましてね〟
停戦協議に臨んだ時にアズラエルから言われた言葉だ。ウズミは彼の言葉を素直には信用していない。しかし、地球軍側から提案された休戦協定を律儀に守った相手だ。逆に深く読み過ぎれば深みに嵌る危険性もある。
(ムルタ・アズラエルめ…何を考えている)
弄ばれている感覚が否めない。そう歯がゆい気持ちを押し殺しながら、ウズミは司令室で地球軍の動向に目を見張っていた。
「レーダーに機影!」
「ミサイル接近!計画通り、マスドライバーが優先して狙われています!」
やはり勧告通りかーーそうウズミはモニターを見つめてから、的確に防衛陣地を構築していくよう指示を飛ばした。
「モビルスーツ群、ならびに航空機隊、オノゴロを目標に侵攻中!」
「迎撃!モビルスーツ隊発進急げ!チャーリーの部隊を展開しろ!一機たりとも通すな!!」
夜明けとともに、また新しい戦いが始まろうとしていたーー。
////
「くっそー!おいでなすったか!」
アークエンジェルの食堂で簡単な作戦会議をしていたムウとPJたちは、第1戦闘態勢の連絡を聞き、すぐにハンガーへと飛び出していく。
オーブの第六工廠でも、整備を終えたキラたちのモビルスーツの発進準備が進められていた。
「キラ!」
パイロットスーツを着用したキラがフリーダムの足元まで駆け寄った時、となりに格納されているジャスティスのパイロット、アスランが呼び止めた。
「行くのか」
「……うん。大切なのは、何の為に戦うかで。だから僕も行くんだ。戦わなきゃ守れないものもあるから」
そう言って、ワイヤーウィンチに掴まってコクピットへ上がっていくキラを見上げているアスランに、白いノーマルスーツに身を包んだパイロットが語りかけた。
「まいったねぇ」
「あなたは…」
アスランに声をかけたのは、ホワイトグリントのパイロット、ラリーだった。彼はアスランの目を見つめながら、計るような口調で声を紡いだ。
「アスラン・ザラ。お前は、キラのフリーダムと俺のホワイトグリントの奪還命令を受けてるんだろ?」
お前はどうする?そう言われているような気がした。己の何に殉じて行動するのかーーーそんなもの、アスランの中ではとっくに答えは出ていた。
「俺はあいつを…あいつらを死なせたくない!」
そう答えると、ラリーはニッと微笑んで、アスランの肩を叩いてホワイトグリントへと向かっていく。
「めずらしく意見が合うな。アスラン」
「ディアッカ…それに…」
ラリーを見送ったアスランが振り向くと、そこにはザフトの軍事学校時代から苦楽を共にした戦友たちがいた。
「気持ちはみんな一緒ですよ。だからここにいるんです」
「ニコル…」
「足を引っ張るなよ?アスラン」
「そっちこそ」
「なにをぉ!?」
そう言って突っかかりそうになるイザークを、手を叩いて意識をこちらに向けるように、ヘッドインカムを付けたハリーが声をあげた。
「はいはい、静かにする!さて、では各員!搭乗機へ!コクピットでブリーフィングを始めるわよ!」
////
これよりオーブ防衛作戦の概要を説明する。
我々の任務は、昨日と同じくオーブ軍と合同で、敵の目標であるマスドライバーと、モルゲンレーテ社の防衛だ。
避難民の全退避は完了しているため、昨日のように相手が止まってくれることはない。今回は総力戦となる。
開戦前の意見交換により、地球軍の第1目標はマスドライバーだという情報も入っている。よって、我々は二班に分かれてマスドライバーとモルゲンレーテ社への二段防衛網を構築。
敵への尖兵隊はラリー、君のライトニング隊に頼みたい。
また、昨日合流したアスラン・ザラの処遇だが、ウズミ様の進言もあり、メビウスライダー隊預かりとなった。アスラン、君はライトニング4としてライトニング隊に参加してくれ。
おそらく、昨日の新型機たちも出てくるだろう。ライトニング隊は、あの機体との戦闘になる。相手は同郷の者たちだがーーー我々にも守るものがあるということを忘れないでほしい。
ガルーダ隊はマスドライバー。グリフィス隊、アンタレス隊はモルゲンレーテ社への防衛エリア担当だ。敵のモビルスーツ部隊を食い止めてくれ。
アストレイ隊も増員されているが苦しい戦いになるだろう。だが、我々がここで折れればオーブを始め、世界に戦火が燃え広がることになる。
ここが防波堤だ。
我々の後の世界のため、諸君らの健闘を願う。
以上、ブリーフィングを終了する。
メビウスライダー隊、発進せよ!!
キャラデザイン
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他キャラも見たい
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キャラは脳内イメージするので不要