ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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次回からG兵器との戦闘です


第12話 戦う理由

「どこに行くのかな、この船」

 

アークエンジェルの食堂でぼやいたのはカズイだった。

 

キラの友人であるサイやトール、ミリアリアたちは、同じく学友であるフレイ・アルスターとの再会を喜んだが、彼らの身は未だにアークエンジェルに置かれたままだ。

 

ヘリオポリスは無事なのだから戻してほしいと、下士官に声をかけたが、ヘリオポリス内部は致命的な酸素不足と、隔壁が閉鎖されている状態のため、下船するのは不可能だと告げられた。彼らはこの船の行く末に身を委ねることになっている。

 

「まだザフト、居るのかな?」

 

「この艦と、あのモビルスーツ追ってんだろ?じゃあ、まだ追われてんのかも」

 

先の戦闘の一部始終を目撃していたトールとサイがそんな話をしていると、隣で水をあおっていたフレイが心底嫌そうに眉をしかめる。

 

「えー!じゃあなに?これに乗ってる方が危ないってことじゃないの!やだーちょっと!」

 

フレイの叫びに、誰も何も答えなかった。彼女の叫びが、サイたちにとってはどこか軽い声に聞こえたからだ。ヘリオポリスの中で、まだ逃げ回っていたか、フレイと同じく避難船に乗っていたら、彼女の悲鳴に共感できただろうが、サイたちは見てしまった。

 

命をかけて戦う者たちと、戦争によって破壊されるコロニー。そして、死んでゆく者たちを。

 

「壊された救命ポッドの方がマシだった?」

 

普段は見せない怒気をたぎらせたミリアリアの瞳が、フレイを射抜く。

 

「そ、そうじゃないけど…」

 

「親父達も無事だよな?」

 

「避難命令、全土に出てたし、大丈夫だよ」

 

サイたちが話題を変えようと、気になることを思い思いに口にしていたら、食堂に疲れた様子のキラが戻ってきた。後からパイロットスーツ姿のムウも入ってくる。

 

「キラー」

 

水を飲むキラへ、トールが呼びかける。

そのままキラは無重力の浮遊感を使って、トールたちが陣取る席へと向かった。

 

「さっきから戻っても来ないで何をやってたんだよ?」

 

「うん…モビルスーツの整備を、ね」

 

そう答えるキラは、なんとも言えない微妙な顔をしていた。顔では嫌そうな表情をしているものの、どこか使命感のようなものを抱いてる…そんな複雑な表情だ。

 

「そりゃ、そうだろ?今のストライクはボウズの機体なんだからな」

 

その会話にムウも加わった。ムウはラリーたちと違い、アークエンジェルで補給と整備を受けていたのだ。メビウス・ゼロはガンバレルという特殊兵装があるため、ドッキングして整備するクラックスよりも、アークエンジェルで整備した方が効率が良かった。

 

「僕の機体…?え、ちょっと僕の機体って…」

 

キラの動揺する声に、ムウは何を今更といった風に呆れたように答える。

 

「今はそういうことになってるってことだよ。実際、あれには君しか乗れないんだから、しょうがないだろ」

 

「また…戦闘が…けど、僕は…」

 

「"アイツは、引き金を引いた重みをわかってる男だ"」

 

「え?」

 

ムウが語った言葉は、彼の意思で発せられた言葉には聞こえなかった。キラのこぼれた声に、ムウは微笑む。

 

「ラリーがそう言ったんだよ。お前のことを見てな」

 

「レイレナードさんが…」

 

それは哨戒任務から帰還した後のことだ。

 

ラリーとしても、民間人に戦場をウロウロして欲しくない気持ちはあったのだろう。

 

過去にも軍人じゃないゲリラや民兵が、簡易な武装を施した作業用ポッドで出てきたことがあった。

 

その時、ジンは無情な眼差しでそれを蹂躙した。統率も取れない、指示を出しても聞かない、そして殺されそうになったらこちらにすがりついてくるが、そうなった時にはもう遅いのだ。

 

ムウやラリーは何もできずに、無線機から聞こえてくる断末魔の叫びを浴びながら任務を遂行した。

 

戦うことも、戦争に加担することも拒絶するキラを、モビルスーツに乗せるのはどうかという考えはあった。しかし、ラリーはムウと別れる前に言ったのだ。

 

アイツは引き金を引いた重みをわかっている、と。

 

「勇んで戦ってくれとは言わん。けど、今は、出来ることをやるんだ。敵が待ってくれるような、時間はないぞ。悩んでる時間もな」

 

そう言って食堂を後にしようとしたムウに、サイが問いかける。

 

「あの!この船はどこに向かってんですか?」

 

「ユーラシアの軍事要塞だ。ま、すんなり入れればいいがな。ってとこさ」

 

ユーラシアの軍事要塞。そんなところに船は向かっている。その現実がサイたちに重くのしかかった。

 

「おい!キラ!」

 

キラもムウに言われた言葉に何か思うところがあったようで、水を飲み終わるとフラフラと食堂を後にしていった。

 

「え?なに?今のどういうこと?あのキラって子、あの…」

 

一人だけ状況についていけないフレイに、ボーイフレンドであるサイは、深く息を吐いて気持ちを切り替え、戸惑うフレイを見つめた。

 

「君の乗った救命ポッド、モビルスーツに運ばれてきたって言ってたろ。あれを操縦してたの、キラなんだ」

 

えー!あの子…?とフレイは意外なものを見るように、キラが出て行った食堂の出口を見つめる。

 

「でもあの…なんでモビルスーツなんて…」

 

フレイは父に聞いたことがある。地球軍はモビルスーツを持っていない。モビルスーツを操るのは人理に反した存在であるプラントのコーディネーターたちだけだと。

 

自分が保護されたのは、地球軍の船だ。

じゃあ、モビルスーツを動かしたキラという人物は何者なのか?

 

「キラはコーディネイターだからねー」

 

その答えは、カズイの軽率な一言で得ることができた。トールに咎められ、首をすくめるカズイだが、フレイの中には父から影響を受けてコーディネーターへの拒絶が生まれつつあった。

 

「うん…キラはコーディネイターよ。でもザフトじゃない。あたし達の仲間。大事な友達よ」

 

そう言うミリアリアとサイだが、フレイは表面上で頷きながら、心の奥底で差別的な感情が渦巻いていくのだった。

 

 

 

 

 

その一方、避難用として割り当てられたベッドの上で、キラはムウや、ラリーから言われた言葉を頭の中で反復させていた。

 

「ただ、モビルスーツを動かせたって…戦争が出来る訳じゃないのに…なんで僕は…クソっ」

 

戦いは嫌いだ。怖いのも、辛いのも嫌だ。

戦争になんて関わりたくもない。

 

けれど、この船には大切な友人がいる。

そして、ラリーたちと飛んだ時に感じた感情。あれは充実感だったのか、それとも感謝された喜びだったのか。

 

キラはその答えを出すことができずに、ただ広がる目の前の現実を重く受け入れるだけだった。

 

 

/////

 

 

 

「大型の熱量感知。戦艦のエンジンと思われます。距離200、イエロー3317、マーク02、チャーリー、進路、0シフト0」

 

レッドアラート。

 

突如として飛び込んできた情報を掴んだのは、アークエンジェルだった。

 

「やはり追ってきたか、クルーゼの野郎…」

 

ブリッジでいつでも出られるよう臨戦態勢を整えていたムウが恨み言を言うかのように呟く。

 

「目標、本艦とクラックスを追い抜きます。艦特定、ナスカ級です」

 

「チィ!先回りして、こっちの頭を抑えるつもりだぞ!」

 

「ローラシア級は?」

 

「待って下さい。…本艦の後方300に進行する熱源!…いつの間に…」

 

「このままでは、いずれローラシア級に追いつかれるか、逃げようとエンジンを使えば、あっという間にナスカ級が転進してくるぞ」

 

アークエンジェルの索敵範囲は、現行の艦船のものを遥かに凌駕している。先行して行ったナスカ級の動きと、ローラシア級の動きを見る限り、サイレントランをしているこちらを完全には捉えきれていないようだった。

 

《悪いが、2番のデータと、宙域図、こっちに出してくれ。ムウを含めたメビウスライダー隊は直ちに第一戦闘配備で待機だ》

 

静寂に包まれていた中で、口火を切ったのはクラックスの艦長であるドレイクだった。その目つきには焦りはなく、どこか余裕すら感じられる。

 

「バーフォード艦長、なにか策が?」

 

マリューの不安げな声に、ドレイクは小さく笑って言った。

 

《それは、これから考えるのだよ》

 

 

////

 

 

《各員、第一戦闘配備!メビウスライダー隊は出撃できるように待機せよ!》

 

「もー!こっちの気も知らないで!まだ調整が済んでないのよ!!」

 

予想はしていたが、あまりにも早い敵の出現に、メビウス・インターセプターにサブブースターを取り付けていたハリーは、苛立ったようにオペレーターに叫び返した。聞こえてはいないだろうが。

 

「オペ子!コントロールをこっちに繋いでくれ!出力調整は飛びながらやる!」

 

コクピット内で出力調整の入力を行なっていた俺は、ハリーへ早く艦の中に引っ込むようにとそう言った。第一戦闘配備ともなれば、相手の艦からいつ砲撃が飛んできてもおかしくないからだ。調整をするとき、むき出しの甲板上でやっている作業員たちにとっては致命的だ。

 

そんな俺の進言を、ハリーは真っ向から反抗する。

 

「バカ言わないで!モビルスーツとの戦闘なのよ!?そんな真似したら今度は生きて帰ってこれないわよ!」

 

「今からサブブースターを外す時間はない。やるしかないんだよ、ハリー」

 

いつもは呼ばない彼女の名前を呼ぶ。

それは本気の時だ。ハリーは少しだけ口を噤んだ。

 

「…せめてギリギリまで調整させて。アンタの腕は信じてるけど、機体が言うこと聞かないとどうにもならないんだから。だから今回も生き残って帰ってきて」

 

彼女は、ゲイルの機体の調整もしていた。

自分が手がけた機体が帰ってこなかったのは何度目だろうか。何度重ねても、その喪失感や悲しみに慣れることはない。

 

刺々しい言葉の裏側に隠れた彼女の悲しみを汲み取り、俺はいつものように答える。

 

「了解した」

 

 

////

 

 

 

「ほぉー」

 

ムウはアークエンジェルのブリーフィングルームに現れた、パイロットスーツ姿のキラを見てそんな声を出した。

 

キラは居心地が悪そうに目を泳がせているが、部屋から逃げ出すような真似はしなかった。それだけでも、ムウからすれば合格だ。

 

「やっとやる気になったってことか。その格好は」

 

「友達が、船の仕事を手伝うからって…だから、僕も」

 

キラの友人たちも、できることを成そうと人手が足りないアークエンジェルのオペレーターや、観測官の手伝いを申し出たのだ。

 

お前ばっかりに戦わせて、守ってもらうわけにはいかないと、笑顔でそう言って。

 

《キラ君、本当に良いのかい?》

 

ブリーフィングルームに設けられたモニターには、出撃準備を整えたラリーとリークが映し出されている。リークの優しい声が、キラのことを本気で心配していることを窺わせたが、キラはそれに頷いて答えた。

 

「今この船を守れるのは、僕たちだけだって。戦いたい訳じゃないけど、僕はこの船は守りたい。みんな乗っているんですから」

 

《…それでいい。戦うよりも、生き残ることを考えればいい》

 

それにいざとなれば逃げ回っていれば死にはしない、とラリーも冗談ぽくそう言った。

 

「俺達だってそうさ。意味もなく戦いたがる奴なんざ、そうは居ない。戦わなきゃ、守れないから戦うんだ」

 

殺しあうために戦うんじゃない。

大切なものを守るために戦う。

 

キラはムウの言葉に力強く頷いた。

 

《よし、全員揃っているな。じゃあ、作戦を説明するぞ》

 

ドレイクが立案した作戦。

 

それは大きな危険が伴うものだが、今のアークエンジェルとクラックスには、他を選ぶ時間も戦力もない。

 

それでも、生き残る。

 

その場にいる全員が、その気持ちを強く心に抱いていたのだった。

 

 

 

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