ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

140 / 213
第135話 流星と流星 2

 

 

 

リーク率いる地球軍の新型機部隊と、ラリー率いるメビウスライダー隊の激闘が目と鼻の先で繰り広げられる中。

 

後方から上がってきた戦艦アークエンジェルは、完全に先手を取られたオーブ艦隊の先頭へと躍り出て、士気を鼓舞しながら、オーブ艦隊旗艦へ通信をつなげた。

 

「アストレイ隊と艦隊はモビルスーツの戦闘から後退してください!」

 

指揮はジーン三佐へ!アストレイ隊も立て直せ!そんな怒声に似た指示が、旗艦を指揮する老歴の艦長の元から飛ばされており、オーブ艦隊は次第に混乱を収めながら、本来の役割へと戻っていく。その様子を見たマリューも、アークエンジェルを艦隊の前へ配置して指揮をとった。

 

「アークエンジェルは艦隊の護衛に回ります!取り舵30!ナタル!」

 

目の前に広がる地球軍の艦艇。マリューが声を出すや、後方の火器管制システムを仕切るナタルが、間髪入れずに指示を放った。

 

「1番から12番、コリントス、15番から18番、ウォンバット、てぇ!アンチビーム爆雷展開!バリアント、ゴットフリート、敵艦照準、順次打て!弾幕薄いぞ!敵を近寄せるな!!」

 

まさに阿吽の呼吸だ。艦長と副艦長の多くを必要としないコミュニケーションにより、アークエンジェルの防備はハリネズミのように強固になり、その危機察知力はどの艦よりも鋭くなる。

 

戦いはまだ始まったばかりだ。

 

マリューは前方で切り結んでいるモビルスーツ隊同士の戦いを見つめながら、傍にあった地球軍の帽子を深くかぶった。

 

 

////

 

 

「メビウス隊、メビウスライダー隊と交戦開始しました!よろしいですね?アズラエル理事」

 

AWACS担当であったニックが、艦長席に座りながらすぐ後ろにいるアズラエルへ問いかける。その声に、アズラエルは頬杖をついて戦局を見つめながら、緩やかな声で答えた。

 

「ええ、データの測定は任せますよ。ランドール艦長補佐」

 

アズラエルが見つめるのは、拡大望遠で映し出される流星と流星の戦いだ。武器商人であり、武器を売ることに長けていても軍人としては素人であるアズラエルでも、一目見てその戦いの異常性が理解できた。

 

速いのだ。とにかく速い。今まで何度かリークの行う訓練を視察したことはあるが、いざ実戦になってみてどうだ?訓練の時に見せていた動きよりも格段に速い速度で、向かってくるオーブの流星と切り結んでいるではないか。

 

リークが鍛えたあの三人。強化措置をしていたときは、これが商品になるかと言う不安があったものだが、彼らも素晴らしい戦いを繰り広げている。だが、敵も一筋縄ではいかない。

 

あの盾で全身を覆った機体。いびつな姿をしているくせに、切り結ぶどの機体よりもずっとキレがある動きをしている。見たことがない青い機体と紅い機体はオーブの新型だろうか?あの二機も息を合わせたコンビネーションで、カラミティとフォビドゥンに迫る気迫を見せている。

 

なにより、アズラエルが予想してなかったことは、戦闘機にレイダーが抑えられていると言うことだ。これは屈辱?いいや、とんでもない。はっきり言ってあの敵の中で最も異常なのは、レイダーが追う戦闘機の動きだ。

 

なんだあれは?あんな動きが戦闘機に、ましてや戦闘機がモビルスーツを凌駕できるのか?

 

素晴らしい。とても美しい。

アズラエルが焦がれて、待望した存在が目の前にあった。自分が抱えていたナチュラルのコンプレックスなど吹き飛ばすほどの衝撃だ。ナチュラル、コーディネーター。そんな些細な種族の違いすら超越した戦い。まさにエース同士の戦いだ。

 

頬杖をつきながら平静を装うアズラエルの手には、汗が流れている。

 

まさに手に汗を握るとはこのことだと思い、アズラエルは沸々と湧く自分の中の歓喜を表情の内に押し込める。

 

まだだ。まだ気を緩めるわけにはいかない。

 

アズラエルは自分の役割をよく理解している。こんなところで気を緩めるのはスマートなビジネスではないのだ。

 

(バーフォード艦長…頼みましたよ)

 

水面下で動く自分の部下たちと思惑に思いを乗せて、アズラエルはぐっと汗がにじむ手を握りしめる。

 

「やれやれ、ザフトが来る前には、なんとか終わらせたいところですがねぇ」

 

そう呟き、戦闘が激化していくオーブの戦いを、アズラエルはその眼差しで見つめているのだった。

 

 

////

 

 

「くぉのおおお!!」

 

「数だけぞろぞろと!!」

 

「その程度で落とされるわけにはいかないんですよ!!」

 

マスドライバーから僅か数十キロの地点では、ガルーダ隊と上陸した地球軍のモビルスーツ隊との激しい戦闘が行われていた。

 

イザークのデュエル、ディアッカのバスター、武装を高射砲に変えたニコルのブリッツによるチームにより、敵を一掃していくが、投入される物量差があまりにも大きい。

 

「PJ!!」

 

モルゲレーテ社にも軍勢は押し寄せていた。戦線が重なったPJと合流したムウは、苦戦するアンタレス隊とグリフィス隊を連携させながら、PJが駆るM1アストレイと背を合わせる。

 

「フラガ少佐!!そちらは!?」

 

「なんとか保ってるが南側の戦線がまずい!手は回せるか!?」

 

「活きがいい男たちを回しますよ!!」

 

では、期待しようか!そう言って二人は離れては、向かってくるストライクダガーのコクピットへ風穴を開けていく。

 

「このぉおお!!」

 

海岸沿いでは、アサギが乗るアストレイR型で編成された小隊が防衛網を構築していた。機動力と航続力があるエールストライクは穴が開きそうな戦線に向かい、臨機応変に立ち回っている。

 

「甘く見ないでよね!!」

 

「てえええい!!」

 

マユラとジュリのコンビネーションも加わり、防衛網は一定の均衡を保っていたが、押し寄せる物量の差は広がる一方だった。

 

 

////

 

 

「はい、はい、戦闘は西アララギ市街に移動…」

 

「ヒイラギ市に医療班を回せ!負傷兵はそこに集めさせろ!」

 

「第六迫撃砲隊、通信途絶!」

 

オーブ軍司令室で戦況を見つめていたカガリは、悔しそうに握りこぶしを震わせていた。

 

「カガリ…」

 

「わかっている…!けれど、自分だけこんなところで見ていていいのか…!」

 

キサカの言わんとしてることを察して、カガリは苦しい声で答えた。指揮官として、カガリは父にここを任されたのだ。アフリカで見てきたこと、アークエンジェルに乗ってから見てきたことを活かすために。

 

今にも現場に走り出してしまいそうな気持ちを必死に押し込めて、カガリは目の前のモニターを見つめた。

 

「指揮官は…」

 

父の助言を、カガリは小さく呟く。そうだ、銃を撃つだけが戦いではない。そう父は言っていたではないか。

 

「指揮官は…持ち場を離れてはいけない…!私は…!」

 

ガンっと震える拳を額に打ち付けて、カガリは熱くなった自分を冷ます。ここで冷静さを失ってどうすると言うのだ。

 

「…アンタレス隊に応援を!西アララギ市街にはガルーダが向かう!我々は他施設の防衛だ!みんな!苦しい戦いだが……敵は一人たりとも通すな!!」

 

響いたカガリの声に、オーブの指揮官隊は勇猛な声で答えた。オーブはまだ折れていない。それだけははっきりとわかっていた。

 

 

////

 

 

司令室をカガリに任せたウズミは、国を動かす首脳陣と共に地下の施設へと足を運んでいた。

 

「ウズミ様。準備は整いました。作業には2時間ほどあればと…」

 

作業員がそう伝えると、ウズミは難しそうに顔をしかめる。自分がしていることは、地球軍から見れば愚かな真似だろう。しかし、オーブという灯火を守るために、後の世に暴力による支配と悲劇を及ぼさないために、自分がなそうとしていることは必要であった。

 

「掛かりすぎるな。既に時間の問題なのだ。よい、私も行こう。残存の部隊はカグヤに集結するよう命令を」

 

ウズミの言葉を重く受け止めて、作業員は敬礼をして部屋を出て行く。彼は首脳陣を見渡すと、志は同じと言わんばかりに首脳陣も皆が頷いて答えた。

 

「現時刻を持ってオノゴロは、放棄する!」

 

 

 

キャラデザイン

  • 他キャラも見たい
  • キャラは脳内イメージするので不要

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。