ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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第139話 カグヤの光 2

 

上下前後左右、あたりから眩い光がいくつも交差する。カラミティから放たれる圧倒的な火力、フォビドゥンが援護射撃に放つ曲がるビーム砲、それらをギリギリで避けてはフォビドゥンの振るう大鎌をシールドで受け止めて、距離を稼ぐためにビームライフルを放つ。しかし、フォビドゥンのエネルギー偏向装甲のせいで、フリーダムとジャスティスの攻撃は相手2機を捉えることはできない。

 

「ええい!こいつらぁ!!」

 

「こんのぉおおお!!」

 

迫るビームの嵐を、キラとアスランの駆る機体は鋭く躱した。しかし離れようとしても、カラミティのビーム砲がそれを阻止し、迂回して回った先にはフォビドゥンが大鎌を構えて退路を絶ってくる。キラとアスランは二機に釘付けにされていた。

 

『てりゃあああ!!滅殺!!』

 

そんな二人の真上では、トールとクロトの空中戦が苛烈さを増していた。モビルスーツとモビルアーマー形態を駆使して機動戦を仕掛けるクロトに、戦闘機という利点を最大限生かしながら、トールはマニューバを駆使して迫る。人型に変わる間際の隙を突くようにトールがファストパックに備わる小型ミサイルを発射すると、クロトは破砕球を振り回してミサイル群を破壊する。

 

その背後に回ったトールは、レイダーの背中めがけてバルカン砲を叩き込むが、トランスフェイズ装甲の前では装甲を凹ませるほどくらいしか効果は与えられない。

 

『こんのぉおお!!ちょこまかと!!』

 

「しつこいんだよ、お前ら!!いい加減に!!」

 

レイダーの高初速砲の合間を縫って躱したスーパースカイグラスパーは、打ち尽くしたミサイルコンテナをパージして雲の合間へと機体を翻す。

 

『おらおらおらぁああ!!』

 

ビームの閃光が雲を裂き、海に柱を打ち立て、風を切る。絶え間なく空を色鮮やかに照らし、三人の流星に属するパイロットは互いの全てをぶつけ合う。それを観測していたオペレーター達は、戦場に居る事も忘れその戦闘に魅入られてしまっていた。

 

思考は半ば、体に染み付いた動作で記録を撮り続けながら、その場にいる誰の意識も流星の戦いに向けられていた。

 

 

 

////

 

 

カグヤの艦船ドックの中で、クサナギとヒメラギの打ち上げ準備が進められる中、ウズミに半ば無理やり手を引かれて連れてこられたカガリは、乱暴にクサナギへ繋がるタラップへと放り込まれる。中でカガリを待っていたキサカが咄嗟に飛び込んできたカガリを受け止める。

 

「ウズミ様!」

 

「急げキサカ!このバカ娘を頼むぞ!」

 

そう言うウズミに、カガリはすがりつく力すら無くしていた。ただ瞳に涙を浮かべて、共に居たいという心と、離れがたい苦痛でカガリの思考はぐちゃぐちゃになっていた。

 

「お父様!うぅ…」

 

声が震える。手も、体も。とても冷たいものに体が包まれていくような感覚。そんな震える子供のようなカガリを見て、ウズミは小さく笑みを浮かべた。

 

「そんな顔をするな。オーブの獅子の娘が」

 

「でも!私はぁ…!」

 

こんな自分を見て、父は失望するのだろうか、また突き放すような言葉を言われてしまうのだろうか。ーー父がいなくなる。そんな未来を想像し、想像しただけで絶望感が込み上げて来る。

 

そう思考が暗くなるカガリの頭をウズミはそっと撫でると一枚の写真をカガリへと渡した。

 

「ーー父とは別れるが、お前は一人ではない。兄妹もおる。そなたの父で、幸せであった」

 

戸惑うような声で「え?」と言うカガリの言葉は、閉まる防護壁によってウズミに届くことは無かった。扉の向こうで窓を叩く娘を見るウズミには、もう別れを惜しむ時間がない。故に声高らかに言った。

 

「行け!若き希望たちよ!あとは頼んだぞ!」

 

ゆっくりと動き出していく二つの灯火は、先に登った光を目指して共に宇宙へと上がっていくだろう。それを見届けることがウズミにとっての最期の仕事だった。

 

 

////

 

 

緊急避難命令が発令されているヤラフェス島では、オノゴロから避難してきた住民も含めた多くの市民達が、オーブ軍の指示に従ってシェルターへと避難を行なっていた。だが、あまりにも遅すぎる避難だった。地球軍のモビルスーツ部隊は、協定を無視し、真っ直ぐにこちらに向かってくる。住人への被害は免れないものだと誰もが思っていた。

 

そんな中で、避難に必死だった市民達の足は止まっていた。天災が多い南国のオーブならではの島の高台に設けられたシェルターに登る道中、あるいはリニアレール、あるいは階段、あるいはそこに至る道中。

 

多くの市民も、そして誘導していたオーブ軍の兵士も、ヤラフェス島から目と鼻の先である沖合で光る光景に目を奪われていた。

 

「お兄ちゃん!あの光はなに?」

 

マユを連れて家族と共にシェルターへと向かっていたシンもまた、その光景に見とれる者の一人だった。

 

遠くで朧げにしか見えないが、人型のモビルスーツ群が戦いを繰り広げている光景が見える。群のようにひしめいていた中でも、肉眼でもはっきりと見える二機は異常なまでに動きが異なっていた。

 

その二機はほかの機体を寄せ付けない圧倒的な速度と機動力を以て、ヤラフェス島に攻め入ろうとしていた部隊をすり潰していく。蹂躙、翻弄、そんな言葉が生ぬるくなるほど、その二機の力は圧倒的だった。

 

流れ弾すら飛んでこない状況の中、その異様な戦闘の光景に気づいた市民達が足を止めたのも必然だった。

 

シンは、目まぐるしく動く一機に見覚えがあった。多重装甲に覆われ、人型と言うよりは城壁と比喩してもいい機体。その機体は凄まじい速度を以て敵を叩き、砕き、潰している。

 

家族を救ってくれた英雄の力を目の当たりにして、シンは何も言えないまま、ただその光景に魅せられていたのだった。

 

そして、その光景を別の場所で眺める者たちもいる。ザフトの船の中で広域通信を拾ったクルーゼたちも、偶発的であるがその戦闘を目の当たりにすることになる。

 

ザフト兵が、その圧倒的な力の暴風に潰されていく地球軍の精鋭モビルスーツを見つめながら絶句する姿を横目に、クルーゼは一人、その空戦を見つめながらほくそ笑む。

 

着実に、ラリーは何かに目覚め始めている。

 

デュランダルが言っていたSEEDの目覚め?それとも人類の新たな先を体現した変革者?それともーーそれ以外の別の存在…。

 

どうでもいい。クルーゼは仮面の下でそう切り捨てる。そんなこと、どうでもいい。ラリー・レイレナードがどんな存在になろうと、在り方は変わらない。現に市民がいるであろうヤラフェス島に進路を向けた地球軍をすり潰しに来た彼だ。

 

守れる範囲の者たちの未来をもう少しまともなものにするため。

 

彼はそう言って今も戦い続けているのだ。

 

それでいい。

 

それだけわかれば十分だ。

 

それで新しい力に目覚めていくなら、それもいいだろう。手の届くものに挑んでも面白くはない。潰されるか、潰すか。殺すか、殺されるか。滅ぼすか、滅ぼされるか。

 

ラリーとクルーゼの戦いに、思想も、理由も、信念も、理念も、ましてや大義名分などもいらない。

 

どちらが強く、どちらが殺せるか?

 

それだけの理屈でクルーゼは感じたことのない思いを漲らせることができるのだから。

 

 

////

 

 

『損害率…98…!?』

 

僅かに生き残ったダガーのパイロットは、すり潰され尽くした味方機のデータを見て恐怖に慄いた。

 

ありえない…こっちは100機いたんだぞ?

 

100機という圧倒的な自軍を、二機は個にしてすり潰して行ったのだ。それも圧倒的な速さと力を以てして。ふと、ダガーのパイロットは言葉をつぶやく。

 

『ば、バケモノ…』

 

その言葉を最後に、前方から迫ったホワイトグリントの突貫をその身に受けたダガーは、機体の前方を大きく歪め、凹ませ、潰されたまま海へと叩き落される。

 

その光景を見つめた黄色部隊のカテゴリー9 ラムダは、自身の置かれている状況をまるで理解できなかった。

 

『そんな馬鹿な…何かが違う…何かが違いすぎる…!!』

 

おぞましいものに対する恐怖とも言える叫び。彼が乗るモビルスーツは、すでに風前の灯だった。片腕はひしゃげ、頭部の半分がすでに機能せず、脚部もボロボロ。武装は破壊され、背中に背負っていたユニットも煙を上げて大破しており、コクピットには許容限界を超えつつあるとアラームが響きわたっていた。

 

そんなラムダの前で、残りの抵抗するダガーを屠ったホワイトグリントに乗るラリーは、潜在的な危険性を孕む自己顕示欲の高いラムダのパイロットに、通信で言葉を発した。

 

「失せろ、俗物。貴様では話にならん!俺を殺したければ、ザフトのクルーゼを呼んでこい!!」

 

その言葉を皮切りに、両手に備わるビームマシンガンがラムダめがけて火を吹いた。ビームの雨を受ける機体は赤く染まり、火が上がる。コクピットの中にいる彼はシートから立ち上がって、目の前で悠然と攻撃してくるホワイトグリントの姿を殴りつけた。

 

『そ、そんな…私がこんな…!なぜ?なぜだぁ…!!』

 

認めない。たかがモビルアーマー乗りの時代遅れに、この自分が負けるなどーーあってはならないのだ!!

 

その言葉を最後に限界を超えたラムダはコクピットから火を吹き出し、部品を燃え上がらせながら糸が切れた人形のように海へと没していく。

 

リークも最後のダガーを仕留めたようだった。コクピットがビームサーベルで穿たれ、残骸と化したダガーは水しぶきをあげて海に沈む。

 

そして、ラリーとリークだけが残った空に静けさが戻ってきた。

 

「リーク…」

 

まだ通信が繋がったままだった。目の前にいるのはかつての相棒であり、戦友であり、刃を交えた敵という立ち位置にいるかけがえのない存在。そんな彼は、海面に浮かぶラリーを見下ろしながら、深く息をついた。

 

「ラリー、互いに果たすべき使命を果たそう。向かう道の先は繋がってるはずだよ」

 

多くは語らない。けれど、メビウスライダー隊で受け継いだものをリークは捨てずに今も持っている。きっと、リークと共にいる多くの戦友にも、それは伝わり、繋がっているのだろう。

 

その言葉だけで、ラリーは彼の言いたいことを理解した。

 

「わかった、お前を信じてるぞ、リーク」

 

それだけ言ったラリーに、リークは何を思ったのか。映像通信を切った彼の機体は、くるりと反転するとエンジンの出力を上げて、ヤラフェス島を背にして空域を離脱していく。

 

ラリーはただ、その去っていく背中を見えなくなるまで見つめていた。

 

《ラリー!!急いで!!打ち上げが始まる!!》

 

急に思い出したかのように耳に届いた、オペレーターとハリーからの声に気がついたラリーも、機体を急反転させて、ヤラフェス島からカグヤに向かって機体を奔らせた。

 

「クサナギは……マスドライバーはあっちか!」

 

「レイレナード大尉!」

 

遠くに見えるマスドライバーの柱に向かって出力を上げていくと、前方から一つの影がこちらに向かって飛んでくるのが見えた。

 

「トール!?」

 

それは、重い武装をほとんどパージし、加速性能に特化する形となったトールのスーパースカイグラスパーだ。

 

 

////

 

 

『ちっきしょー!どうなってんだよ!あの戦闘機は!』

 

クロトは黒煙をあげるスーパースカイグラスパーの武装パックを振り落とし、悪態をつきながら飛び去っていった機影を睨みつける。

 

さきほどまでレイダーと巴戦をしていたスーパースカイグラスパーだったが、発進間際だというのにまだ戻らないラリーのホワイトグリントを気にかけ、行動に出たのだ。

 

まずは機体を急反転させてレイダーの直上に合わせると、躊躇いなくトールは背負っていたソードストライカーのシュベルトゲベールをビーム武装を有効にしてパージしたのだ。

 

気流の影響でランダムな挙動をするシュベルトゲベールを躱したレイダーへ、さらに武装満載のファストパックをパージしてぶつける。まとまった質量と爆発をぶつけられたレイダーは、その衝撃でトールの機体を見失い、捕捉した頃には遥かに向こうへと逃げられていたのだ。

 

悔しがるクロトの視線の先で、三つの信号弾が水平線の向こうに打ち上げられるのが見える。

 

『信号…クロト!シャニ!そろそろ頃合いだ!』

 

それはフリーダム、ジャスティスと戦闘していたオルガとシャニにもはっきりと確認できた。

 

オルガの声に合わせて、二人は切り結んでいたフリーダムとジャスティスから離れてわざとらしく隙を作る。

 

「アスラン!」

 

「ああ!」

 

その隙を知ってか知らずか、発進準備完了の連絡を受けたキラたちもマスドライバーのレールめがけて飛び出していく。

 

その二機をオルガたちは追うことなく、ただ見送るのだった。

 

 

////

 

 

《リビジョンC以外の全要員退去を確認。オールシステムズ、ゴー。クサナギ、ヒメラギ、ファイナルローズ!》

 

《クサナギ、続いてヒメラギのシークエンススタート!ハウメアの護りがあらんことを!》

 

「お父様!お父様ぁぁ!!」

 

カガリの慟哭が響く中、クサナギとヒメラギがマスドライバーを突き進んでいく。どんどん離れていくカグヤの島を見つめながらカガリはとめどなく涙を流した。

 

「キラ!」

 

最初に出たクサナギの側面に追いついたフリーダムが取り付く。その後にはジャスティスがスラスターを吹かしてフリーダムから伸ばされた手を掴もうと必死に出力を上げていく。

 

「アスラン!」

 

なんとかたどり着いたジャスティスの手を掴んだフリーダムは、同じようにジャスティスを側面へと導く。そんな彼らの後方。続け打ち上げられるヒメラギの横に、トールのスーパースカイグラスパーとラリーのホワイトグリントが追いつこうと加速し続けている。

 

「うおおお!!」

 

「トール!!ラリーさん!!」

 

キラの呼び声に答える余裕もない。速度はいっぱいいっぱいだが、ヒメラギの方が出力が高い。その距離はじわじわと広がろうとしていた。

 

《ラリー!!》

 

《ラリーさん!!》

 

ハリーたちの声がコクピットに響く。くそ…追いつかないのか…!!そうラリーが目を細めた瞬間、隣にいたスーパースカイグラスパーから、残していたパンツァーアイゼンが放たれ、ヒメラギの側面に取り付いた。

 

「掴まって!」

 

トールの言葉に有無を言わずに従う。同調速度など細かな調整もせずにトールのスーパースカイグラスパーに掴まると、機体のフラップが大きくひしゃげた。そんなこと関係ないと、トールはエンジンが焼き切れるほどスロットルを上げてサブスラスターとメインスラスターを全開にした。

 

「いけえええええ!!!」

 

ラリーのホワイトグリントも全ての推進剤を出し切る出力で加速し、パンツァーアイゼンが火花を散らして巻き上げられ、二機は息も絶え絶えに何とかヒメラギに乗り込むことができたのだった。

 

 

////

 

 

『うひょー!!上がった上がった!』

 

打ち上がった二つの光を見上げながら、クロトが興奮したように言う。自分たちのミッションは打ち上げという一大オペレーションの間、オーブ軍と地球軍の目を引きつけるための〝囮役〟だったのだ。

 

『これで仕事終わり?』

 

汗をぬぐいながらいうシャニに、オルガは疲れた肩を回すような仕草をしながら言葉を返した。

 

『まじ疲れた。帰ってシャワー浴びてぇところだが、まだ一仕事残ってるぜ?俺たちには』

 

そう。まだ終わっていない。

アズラエル理事からのオーダーはまだ残っている。そう言って三機はカグヤから離れる方へと進路を取った。

 

 

////

 

 

「種は飛んだ。これでよい」

 

カグヤの司令室で打ち上がったクサナギとヒメラギを見つめるウズミ。彼の周りにはウズミに付き従ってきた高官たちがずらりと並んでいた。

 

残っているのは地球軍が喉から手が出るほど欲しがるマスドライバーとオーブの技術、そして自分たち老いぼれだ。後任である弟、ホムラには戦後に必要であろう情報の引き継ぎ全てを終えている。

 

「オーブも、世界も。奴等のいいようには…」

 

あとは、この老人たちが責めを負うためーーー。

 

「そこまでですよ、ウズミ・ナラ・アスハ様」

 

司令室に声が響いた。赤い起爆スイッチに手をかけようとしていたウズミたちが見上げると、そこには地球軍の軍服を着た初老の男性が、数名の兵士を引き連れてウズミたちを見つめていた。

 

「存外、早いものでしたな」

 

そう単調な声で言うウズミに、この司令部へたどり着いた軍人、ドレイク・バーフォードは被っていたくたびれた帽子を脱いで、敬礼で敬意を示した。

 

「ルートを確保するには苦労はしましたよ。けれど、それに見合う成果は得られました」

 

そう言う彼の両隣には、オーブ軍の兵士の姿をした者たちがいる。おそらく、裏ルートで潜入していた地球軍の兵士なのだろう。ウズミは眼光を鋭くして対するバーフォードへ、強い口調で言葉を放った。

 

「だが、オーブは貴様らの好きにはさせん」

 

「いいえ、私としてはオーブにもう興味はありません」

 

その言葉はバーフォードの声ではなかった。彼が体を横へとズラすと、バーフォードの影から淡い色を基調にしたスーツを身にまとう男が現れる。その男ーーームルタ・アズラエルを見てウズミは目を見開いた。

 

「アズラエル…!?いったいどうやってここに!?」

 

「バーフォード中佐が言ったでしょう?ルートを確保したと。Nジャマーというのは便利でしてね。潜水艦までは許容していなかったようだ」

 

バーフォードが艦を離れてやっていたことは、潜入だけではない。第7艦隊時代から培い、アズラエルの元でさらに豊かになった人脈を駆使して、オーブのこの場へ、アズラエルを案内する道筋を用意していたのだ。

 

アズラエルが乗り付けてきた潜水艦も、オーブの正規ドックに着艦しており、彼は堂々とオーブ軍の正面玄関からここへ乗り込んできたのだ。

 

ウズミの周りにいた高官たちが懐から拳銃を取り出して構える。だが、彼らは兵士ではなく政治屋。武器を手に持っているとはいえ、その手は明らかに震えていた。それをみて、アズラエルは小さな笑みを浮かべる。

 

「おっと、怖い怖い。私は軍人としてここに来たわけじゃありませんよ。あくまでビジネスのためです」

 

「どういうつもりだ?なぜ宣言通り、マスドライバーを狙った?目的はなんだ?」

 

この戦争すらビジネスというのか!?そうアズラエルの不可解な行動を問い質すウズミに、アズラエルは指を鳴らすと、打ち上がったクサナギらを映していた司令部の大型モニターが別の映像に切り替わった。

 

「ビジネスに必要なのは先を見る目ですよ。泥船となった大西洋連邦にもはや価値など残ってません。戦争の先すら見据えられない奴らに良いように使われては、こちらとしても堪ったものじゃありませんからねぇ。それに話の続きは、こちらの方としてもらった方が早いかと」

 

そう言って礼儀正しく一礼をするアズラエルの頭上。モビルスーツを中継機として、宇宙から傍受されにくいレーザー回線を用いた通信が繋がっていて、そこには勲章と少将を示す階級章を胸にぶら下げている一人の地球軍高官が映っている。

 

《お初にお目にかかります。私は、地球連合軍、第8艦隊司令官、デュエイン・ハルバートンです。映像越しですが、お会いできて光栄ですよ、アスハ代表》

 

地球連合軍第8艦隊を指揮する司令官。彼はアガメムノン級戦艦「メネラオス」からこのオーブに語りかけていた。

 

「地球軍…第8艦隊…?」

 

《オーブの獅子である貴方方に、ここで果てられては困るのですよ。貴方方にもまた、使命があるはずだ。来るべき時の、ね》

 

戸惑うウズミに、ハルバートンは笑みを浮かべながらそう告げる。彼らにはまだやってもらうこと、できることがある。アズラエルは満足そうにネクタイを緩め、バーフォードはそっと司令部の扉を閉じた。

 

 

 

 

 

 

その日、オーブ軍はマスドライバーの一部破壊とモルゲンレーテ社のデータ廃棄を行うと同時に、首脳陣が乗り込んでいたとされる輸送ヘリは、太平洋上で行方不明となるのだった。

 

 

 

 

////

 

 

 

『ええい!黄色部隊め…役立たず共が!作戦変更!ミサイル艦へ〝モルガン〟の発射準備をーー』

 

黄色部隊の母艦、ヘンリーグレスビーのブリッジでダミ声の艦長が苛立ったように喚き散らしていた。あれだけの戦力を投入したというのに、オーブの島にすらたどり着けないだと?これでは、サザーランド大佐に合わせる顔がないではないか。

 

モルガンと自分たちの秘密を知る者たちは、何があろうと排除しなければならない。

 

そう指揮をとっていた艦長に、青い顔をしたオペレーターが声を上げた。

 

『か、艦長!』

 

その瞬間、隣にいたミサイル艦のブリッジをビーム砲が貫いた。続いて放たれるビームの嵐を浴びて、ミサイル艦は音を上げて轟沈する。

 

『なんだ!?何が起こった!?』

 

『み、味方機からの攻撃です!これはーー例のアズラエル財団の新型…!?』

 

なんだとぉ!?そう癇癪を起こしたように叫んだ艦長は受話器を持ち上げる。

 

『通信を繋げ!』

 

『ダメです!Nジャマーがひどく…!!』

 

そう言ったのもつかの間、周りにいる護衛艦のブリッジにもフォビドゥンとカラミティから放たれるビーム砲が突き刺さった。

 

「死人に口なしってね」

 

砲台と化したカラミティを乗せながら、クロトはレイダーのコクピットの中でアズラエルが言った言葉を反復した。

 

彼からのオーダーは通信回線を封じた上での軍事協定違反者たちの粛清。地球軍ではないアズラエルが下せる決断ではないが、彼のバックにいる宇宙の地球軍が、サザーランドたちの暴挙を見過ごすわけがなかった。

 

「アンタらは超えちゃならない線を超えたんだよ」

 

シャニの小さなつぶやきとともに、輸送艦に取り付いたフォビドゥンが大鎌でブリッジを両断する。

 

「あとは兄さんやアズラエル理事たちの筋書き通り、サザーランドのおっさんにはオーブ軍に返り討ちにあったってことでさ。まぁここで沈んでいけや!!」

 

そう吐き捨てるオルガの放つ閃光が、ヘンリーグレスビーの船体を穿つ。隣で轟沈したミサイル艦に積まれたモルガンにも火がついていた。

 

『くそ!!ナチュラルの裏切り者どもめぇえええ!!』

 

艦長の呪詛のような断末魔は誘爆したモルガンの閃光によって太平洋の深淵へと散っていくのだった。

 

 

 

 

キャラデザイン

  • 他キャラも見たい
  • キャラは脳内イメージするので不要

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