ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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宇宙編
第140話 ムルタ・アズラエル


地球軍、ビクトリア基地。

 

旧国家体制だった頃にケニア、タンザニア、ウガンダに囲まれた、アフリカ最大のビクトリア湖。その付近に建造された地球連合軍の基地だ。

 

地上の要所に建造されたマスドライバー施設の一つ、「ハビリス」が設置されている基地で、月面プトレマイオス基地に対する補給路の一つであり、プラントとの戦争の際は度重なる攻撃の対象になった。

 

元々はユーラシア連邦と南アフリカ統一機構の共同国家プロジェクトで、C.E.21年にビクトリア湖の一部を干拓して建設されたため、広大な敷地を有している。

 

宇宙へと繋がるために、人々の希望と祈りを込められて作られたマスドライバーは、いつしか地球と宇宙との争いの象徴になった。

 

C.E.70年3月8日。

 

ザフト最初の地上侵攻である第一次ビクトリア攻防戦。

 

それは、プラント側の地上戦の経験不足と、降下作戦のみで地上支援を考慮しなかったことから失敗に終わった。

 

ザフトは作戦の失敗を踏まえて、Nジャマーの散布と、建造したジブラルタル基地を中心とした戦力によるアフリカ戦線を構築する事で、盤石の態勢を整えることになる。

 

C.E.71年2月13日。

第二次ビクトリア攻防戦。

 

民間人の被害も厭わずに展開されたその作戦では、地球連合軍がザフトの攻勢を抑えきれずに基地は陥落。地球連合軍は地上に順応したモビルスーツの脅威の前に為す術なく敗走した。

 

逃げ遅れた地球連合軍兵士の多くがザフトにより射殺され、両陣営の憎しみは一層深いものとなる。

 

 

 

 

そしてーーーC.E.71年6月18日。

 

第三次ビクトリア攻防戦。

 

 

 

アフリカを手中に収める立役者となったアンドリュー・バルドフェルド、そして紅海の鯱と恐れられたマルコ・モラシム隊の全滅。

 

アラスカ・パナマ攻略戦でアフリカ戦線を縮小したため、大きく弱体化したザフト軍。

 

それに対してモビルスーツを一斉投入した大西洋連邦と、ユーラシア連邦を中心とする地球連合軍の攻撃により、戦闘は地球連合軍有利に動いた。

 

ザフトは「ハビリス」を自爆させようとするが、地球連合軍特殊部隊の突入で失敗。

 

暫定オーブ政府が停戦協定に応じた僅か6日後。6月25日に基地は奪還された。

 

////

 

《いやいや、お見事でした。流石ですな、サザーランド大佐》

 

ビクトリア宇宙港に向かう艦船の中から通信に応じていたアズラエルは、まずビクトリアを押さえたサザーランドに労わりの言葉を投げかけた。

 

「いえ、ストライクダガーは良い出来ですよ。オーブでアズラエル様が苦戦されたのは、お伺いした、予期せぬ機体のせいでしょう」

 

皮肉めいた言い方をするものだと、サザーランドは内心の疑念をやんわりと表して、アズラエルの上辺だけの世辞に切り返した。

 

なにが流星だ。

 

あれほど自慢げに公言し、自分の資源を潤沢に投入した部隊だというのに、敵側に現れた不明機を落とすこともできなかったと聞く。流星も噂ほどではない。聞いて呆れるものだ。

 

《いやぁ、まだまだ課題も多くてねぇ。こっちも。しかしよもや、リベリオン、カラミティ、フォビドゥン、レイダーで、ああまで手こずるとは思わなかった。本当にとんでもない国でしたねぇ》

 

サザーランドの言葉になんら気を悪くした様子もなく、さも「あれに勝てないのはあたり前です」と言わんばかりに、相手の力量をアズラエルは賞賛した。

 

たしかに、サザーランドが莫大な予算を投じて建造した黄色部隊のモビルスーツの三機が、手も足も出ずにやられたという。

 

まぁいい。投入した奴らは黄色部隊でも跳ねっ返り扱いされていた厄介者たちだ。

 

手札はまだ残っている。自分の闇を知るものたちを逃したのは痛いが、オーブの首脳陣が行方不明になったというなら、なんとか体面は取り繕えたというところだろう。

 

「上手く立ち回って、甘い汁だけ吸おうと思っていたんでしょう。コーディネーターを匿う卑怯な国です。プラントの技術も相当入っていたようですからなぁ」

 

地球ともプラントともパイプを持っていた国。あるいはプラントにすでに囲い込まれ、それをひた隠していた裏切りの国。どちらにしろ、厄介なことこの上ない。

 

「いや、もしかしたらその不明機、実は、ザフトのものだったのかも知れないですな?」

 

そう言うザザーランドに、アズラエルは表情を変えずに「推測でしかありませんが」と肩をすくめる。

 

《まぁ、どちらにしろあれは何とかしなきゃねぇ。今後のことも含めて、ね》

 

「ーーそれでアズラエル様もご自身で宇宙へと?」

 

そう問いかけるサザーランドに、アズラエルは頷く。

 

《あの機体もしかしたら、核エネルギー、使ってるんじゃないかと思ってさ。確証はないけど。でもあれだけのパワー、従来のものでは不可能だ》

 

彼らと戦った僕の部隊のデータを見る限り、現存のもので、あれだけの戦闘時間を可能にする技術は考えられませんよ、と言うアズラエルに、サザーランドは目を見開いた。

 

Nジャマーを無効化できる?そんなものが存在するのか?あの宇宙の野蛮人たちは…そんなものまで作っているのか?

 

「たしかに、Nジャマーも、コーディネイターの作ったものです。奴等なら、それを無効にするものの開発も可能でしょうが…」

 

震える声でサザーランドは呟く。

 

もし、Nジャマーを無効化できるとしたら?

奴らがこの地球に核を打ち込んできたら?

 

Nジャマーで目隠しをされた自分たちを、滅ぼすには充分すぎる力だ。

 

なんとかしなければならない。奴らに滅ぼされる前に、なんとしてもーー。

 

《どちらに転んでも、核エネルギーを再利用できる技術があるというのが問題なんですよ、サザーランド大佐》

 

真っ直ぐとした目でそう言うアズラエルに、ハッとサザーランドは思考の海から目の前の通信へと意識を切り替えた。そんなサザーランドを見て、アズラエルは小さく息をつく。

 

《我々、人間という種族は元来から弱い生き物なんだからさ。強い牙を持つ奴は、ちゃんと閉じこめておくか、繋いでおくかしないと危ないもんですよ》

 

その言葉には、サザーランドも同感だった。

 

「宇宙に野放しにした挙げ句、と言ったところですかね?」

 

あの宇宙人どものいいようにはさせまいよ。そうほくそ笑むサザーランドに、アズラエルはええと肯定しつつ、細くした眼差しでサザーランドを見つめる。

 

《仮に、それが高級な革椅子に腰掛けて、葉巻を吸ってる偉そうなおじさんでも、ですよ》

 

なにか。なにかを鷲掴みにされた。そんな嫌な感覚がサザーランドの中に流れ込んできた。

 

なんだ?この若造はーーこの男はなにを言っているんだ?そんな思考の渦に陥ったサザーランドに、アズラエルはいつもの商人めいた笑みを浮かべて言葉を続ける。

 

《貴方も、ひとりの地球軍人として、この戦争の行く先に思考を向けるべきだと僕は思いますがねぇ》

 

この…小僧…!!

 

サザーランドの中に植え付けられたのは、確信には届かない自覚。こいつはーーあろうことか、自分の闇を知っていると言うのか?だが証拠は?彼が自分のなにを知っていると言うのだ?なんだ?なにを知っている…!!

 

「言ってることの意味がよくわかりませんが、前向きに考えさせて頂きますよ」

 

そんな混乱にも似た心を覆い隠すように、サザーランドは帽子を深くかぶった。それを見たアズラエルは、満足したように足を組んで笑みを浮かべる。

 

《では、御機嫌よう。サザーランド大佐》

 

通信が切れ、真っ暗になったモニターを数秒眺めていたザザーランドは、肩を震わせて執務室の机に置かれていた通信機器を地面に叩きつけた。

 

くそっ!!あの小僧めが!!

 

もし、彼がなんらかの証拠を、手かがりを、モルガンに関する事を知っていたとしたら、自分はどうなる?戦争が終わった後、兵器と軍は切っても切り離せないものとなる。いずれはジブリールとの癒着をダシに使われ、高官としての自分はアズラエルのいい傀儡に成り果てることになるだろう。

 

そんなのはごめんだ。自分は、あんな若造に使われるつもりなど毛頭ない。青き清浄なる世界に、そんな不純物などあってはならないのだ。

 

どうする?

 

どうすればいい?

 

「サザーランド大佐」

 

「なんだ!!」

 

思考の堂々巡りに陥っていたサザーランドの元へやってきたのは、彼の秘書を務める士官だった。いつもは見せない怒りに満ちた表情と怒号に、士官の顔は恐怖に染まったが、それでも彼は自身の仕事を全うした。

 

「通信が入っておりますが…機密回線に」

 

「なにぃ?」

 

そう訝しんでから、サザーランドは士官が持ってきた通話内容より、データをひったくるように奪って目を通す。それを見て、怒りと混乱に満ちていたサザーランドの思考は一気に加速した。

 

「なんでも、オーブの心臓を持ってきたとか…」

 

そう億劫そうに伝える士官に、サザーランドは帽子の下で目を細ばせながら声を紡いだ。

 

「 ……通信をつなげ、今すぐにだ」

 

 

////

 

 

タラワ級、モビルスーツ搭載型強襲揚陸艦、パウエルのブリッジで、通信を終えたアズラエルはめんどくさそうにネクタイを解いた。

 

「いやぁ、カマをかけるだけで出てくる出てくる。彼は政治屋には向かなさそうです。ビジネスマンにもですけど」

 

隣で艦の指揮を執る立場に戻っていたドレイクは、そう呟くアズラエルにくたびれた帽子のツバをなぞりながら声をかけた。

 

「お疲れ様でした。アズラエル理事。しかし、あの反応を見る限り、やはりパナマとアラスカで起こった正体不明の爆発はーー」

 

「同族に放った口止めの火と、同族を餌に放った火ですねぇ。どちらも下衆さで言えば大差はありませんが」

 

そう答えるアズラエルに、ドレイクのとなりに並ぶウズミ・ナラ・アスハは大きく息をついた。

 

「青き清浄なる世界。言葉は立派だが、そのために人を核で焼こうというのならば、その言葉は欺瞞に満ちていると言わざるを得ませんな」

 

ウズミは、結論から言えばアズラエルーーひいては彼の背後にいる宇宙の地球軍、デュエイン・ハルバートンの言葉を了承したのだ。

 

彼を除く首脳陣の人間は、アズラエル財閥の保護のもと、比較的戦火が無いアジア地域へと雲隠れすることになった。

 

ウズミの役目は、自身の存在を適切な時期まで隠しつつ、その身を宇宙へと上げる事だった。特徴的な長髪と髭を切った彼は、身分を偽ってアズラエルとともに宇宙へ向かうことになる。

 

よもや行方不明になった首脳陣のトップが、アズラエルの側近に扮するなど、大西洋連邦も思うまいよ。

 

「コーディネーターが滅んだ世界。ナチュラルによる世界の再編。宇宙開拓。その野望を求めて、人はまた禁忌に触れる」

 

「そうやって繰り返されるのですよ。戦争と虐殺の歴史というものは」

 

ウズミの言葉に、アズラエルは感情のない言葉で返す。分かり切っている事だ。そうやって多くの血を流し、大国の秩序やら安定がもたらされてきたのだ。自分たちが向かうビクトリア宇宙港も、そうやって繰り返されてきた歴史を持つ湖の上に建設されているのだから。

 

「そんな中で核がまた使える、その事実が敵の手に渡ったら、今度は同族すら燃やしますよ、彼らなら」

 

青き清浄なる世界のために、とか言ってね?そう肩をすくめるアズラエルにウズミは疑問を抱いた。

 

「ムルタ・アズラエル。君はブルーコスモスの盟主のはずだ。なぜそのようなことを言う?」

 

そう問いかけるウズミに、アズラエルは「当然ですよ」と呆れたような顔をして返した。

 

「優れたものが生き残り、劣るものは死ぬ。その理屈が通ずるのは、動物社会くらいだ。だが、我々は人間。足りないものを補い、支え合うことができる生き物。彼らが作ろうとする未来はーーもはや人という種族が機能する世界ではないのですよ」

 

そう言うアズラエルの言葉に、ドレイクは小さく笑みを浮かべる。それを彼に言ったのは、他ならぬ自分の部下だ。ドレイクの表情に気がついたのか、アズラエルも少し気まずそうに顔をしかめる。

 

憧れの英雄に否定された自分のコンプレックス。それを上塗りする力を見せつけてくれる同族の星。自分ではありえないと思っていた鎖と柵を引きちぎり、こじ開け続ける彼らだからこそ、アズラエルは魅入られていたのだ。

 

「我々は思い出さなければならないんです。守りたかった世界を。優劣でしか事が計れない世界ではなく、足りないものを補い合い、新しい場所へ向かうために」

 

そう言葉を繋げたドレイクに、ウズミは驚いたようにアズラエルと彼の顔を見渡す。

 

「この話をしたときの貴方の反応。私は今でも覚えてますよ」

 

そう言って懐かしそうにブリッジから海を見つめるドレイク。彼の受けた命令は、なにもアズラエルの秘密プロジェクトに参加することだけではなかった。

 

月面基地で、地球に降りる間際に言付かったハルバートン提督からの依頼だ。

 

できることなら、アズラエル理事をこちら側に引き込みたい、と。

 

その真意を彼に伝えた時、リークと三人のパイロットの成長に驚きを隠せない日々を送っていたアズラエルの心は揺れた。

 

〝なんでだ…なんでだよ!!アイツらは野蛮で、傲慢で、ナチュラルをあざ笑うんだぞ!!〟

 

人払いした執務室の中で、ドレイクに銃口を向けながら取り乱したように叫ぶアズラエル。その言葉が、彼をブルーコスモスの盟主へと押し上げた心であり、彼の弱点でもあった。

 

〝そんな奴らを…!!僕を笑い者にした奴らを!!許せと言うのか…!!ふざけるな!!僕は勝ってきたんだ!!いつだって!!アイツらに二度と負けないために…僕は…!!〟

 

その言葉を、コンプレックスを超えて、アズラエルはハルバートンの要求を飲んだのだ。鎖と柵を無くしたアズラエルは、元から培ってきたビジネスマンとしての矜持を持ってして、彼らの思惑に加担することにした。

 

〝私は、悪党ですからね。〟

 

そう言ってハルバートンに微笑むアズラエルの潔さを、ドレイクはよくわかっていた。だからリークも自分も、腐らずに彼に付き従っている。彼に取り入るためじゃない。彼のあり方を信じ、二人は従うことを、守ることを決めたのだ。

 

「やれやれ、バーフォード艦長には流石の僕も敵いませんよ。まぁ、若気の至りってことにでもしておいてくださいよ」

 

そう困ったように笑うアズラエルに、ドレイクはあの時、アズラエルに銃口を向けられながら伝えた言葉を繰り返す。

 

「許さなくてもいいんですよ、アズラエルさん。ただ、信じましょう。彼らを」

 

そう静かに言ったドレイクに、アズラエルは震える銃口を下ろしながら、乱れた髪の合間に悲しげな目を浮かべて問いかける。

 

〝コーディネーターもナチュラルも、ですか?〟

 

いいや、違いますよ、そうドレイクは静かに否定した。コーディネーター?ナチュラル?地球?プラント?そんなもの、ドレイクにとっても、ハルバートンにとっても取るに足らないことだ。

 

アズラエルの肩に手を置いて、ドレイクは微笑んだ。

 

「いいえ、人間ってやつをですよ」

 

 

 

 

 

 




アズさん「ナチュラルだからって馬鹿にしやがって!アイツらヌッ殺す!!」

流星「モビルアーマーでジンを撃破しました」

アズさん「えっ」

流星「ザフトのエースたちを退けました」

アズさん「あの…」

流星「理事のパイロット育てるねー」

研究者「投薬なしでこの記録…私たちの研究はいったい…」

アズさん「えっと…」

ドレイク&ハルバートン「ウェルカム」

アズさん「ひえ」


流れ的にはこう

キャラデザイン

  • 他キャラも見たい
  • キャラは脳内イメージするので不要

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