ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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リーク・ベルモンドのイメージが固まりましたので!!


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第141話 空と宇宙の間で

青く光る地球を眼下に見下ろせる軌道上。オーブからの脱出に成功したアークエンジェル、クサナギ、ヒメラギは急ぎ羽ばたいたその翼をほんのわずかな時間ではあったが、休めることができていた。

 

《距離200、軸線よし。ランデブー軸線、クリアー、アプローチ、そのまま。ナブコムをリンク。各員退去。アプローチ、ファイナルフェイズ。ローカライズ、確認します》

 

艦橋とモビルスーツ搭載格納庫のみで上がってきたクサナギとヒメラギは、軌道上で待っていたオーブ宇宙軍と合流、推進部・カタパルト部分を受領し、軌道上でのドッキングシークエンスへと移行していた。

 

《全ステーション、結合ランチ、スタンバイ》

 

PJたちやほかのオーブ軍のM1アストレイが周辺警戒や護衛をする中、船外に取り付いていたフリーダム、ジャスティス、ホワイトグリント、そして翼が折れてしまったスーパースカイグラスパーはすぐに格納庫へと搬入されていく。

 

 

////

 

 

「了解した。クサナギ、ヒメラギ、両艦のドッキング作業が終了したそうだ」

 

ブリーフィングのため、アークエンジェルからランチでクサナギへと乗り込んだマリューとムウに、キサカはオペレーターからの報告を伝える。

 

「キサカ一佐、カガリさんの様子は?」

 

「だいぶ落ち着いてはいるが……いろいろあってな。泣くな、とは言えぬよ、今は」

 

自室に引きこもってしまったカガリを案じているのか、キサカの表情はどこか暗いものだった。降りてきたキラたちが様子を見に行くとは聞いてはいるが、当面はメンタル面のケアも必要だろう。

 

「オーブは事実上の敗北、停戦協定も残られた氏族による暫定政権によって締結されたようだ」

 

暗号通信で届いた伝聞では、オーブはあの後すぐに降伏。首脳陣営はヘリコプターで脱出を試みたらしいが太平洋上で行方不明となっている。カガリが引きこもってしまった理由の一つだ。

 

暫定政権は、残った氏族たちが立ち上げ、今は協定に応じた地球軍との向後のことについての取りまとめを急いでるらしい。戦後の復興や賠償金、やることは山積みだ。

 

「しかし、問題はこれからだな」

 

そう言ってブリッジに身を浮かせるキサカは顔をしかめる。この宇宙に上がった以上、下は残ったものたちに任せるしかあるまい。

 

「このクサナギは以前から、ヘリオポリスとの連絡用艦艇として、そしてヒメラギは試作艦、臨時連絡艦艇として運用されていた代物だ。モビルスーツの運用システムも、武装も、それなりに備えてはいるが、アークエンジェルほどではない」

 

そう言うキサカに倣うように、マリューもムウもクサナギのブリッジの姿を見渡している。

 

「アークエンジェルと似ているわ」

 

「アークエンジェルが似ているのだ。親は同じモルゲンレーテだからな」

 

そう笑みを浮かべながら言うキサカ。そんな中、ブリッジには続々とメビウスライダー隊やオーブ軍の指揮官たちが集まり始めていた。

 

「集まってるようだな?」

 

ディアッカとニコルを連れて入ってきたイザークも、オーブの作業用ジャンパーを身につけながら足をつける。

 

「各隊の分隊長と指揮官は全てここに」

 

「助かる。シモンズ博士、宙域図を出してもらえるか?」

 

そうキサカが問いかけるとヒメラギに乗艦しているエリカがモニターに映った。

 

「エリカ・シモンズ主任?」

 

《こんにちは、少佐。慣れない宇宙空間でのM1運用ですもの。私が居なくちゃしょうがないでしょ?》

 

驚いたように言うムウに、エリカは悪戯っぽく微笑みを送りながら言葉を交わした。隣にいるマリューが少し不満そうに目を細めたのをムウは困った笑みを浮かべてなんとか誤魔化す。

 

ほどなくして、ヒメラギとリンクするモニターに地球圏からプラント圏への宙域図が展開された。

 

「現在我々が居るのはここだ。知っての通り、L5にはプラント、L3にはアルテミス。だからここに向かう」

 

「L4のコロニー群?」

 

キサカがポインタで示した場所を見つめて

マリューは首をかしげる。

 

「クサナギ、ヒメラギーーそしてアークエンジェルも、当面物資に不安はないが、無限ではない。特に水は、すぐに問題となる」

 

顎に手を添えながら、目先の問題である項目をキサカは表にまとめてモニターに出した。やはり宇宙に出てきた以上、水というものはどこにでも付いてくる問題となる。

 

すると、閉まっていたブリッジの扉が開き、キラとアスラン、ラリーとトールに続いて、オーブのジャンパーに腕を通したカガリがブリッジに現れた。

 

「カガリ、大丈夫なのか?」

 

キサカの問いかけに、カガリは小さく頷く。

 

「ああ、心配かけたな…大丈夫だ」

 

「キラ」

 

確認するようにムウに問いかけられたキラは、困ったように笑った。

 

「側についてたんで、大丈夫だと思います」

 

「おい、ラリー。私ってそんなに信用ないのかぁ?」

 

そんなやりとりを見て不満を覚えたのか、カガリは隣に立っているラリーの小脇を肘で突く。カガリを横目で見ながら、ラリーはわざとらしくため息をついた。

 

「ああ、ぎゃーぎゃーうるさい姫君だもんな」

 

「なんだと!?」

 

お返しと言わんばかりに言うラリーにカガリはさらに突っかかる。その光景を見ていたイザークがワナワナと腕を震わせて声を荒げた。

 

「うるさいぞ貴様ら!ブリーフィング中くらい静かにできんのか!」

 

「はいはいストップストップ」

 

イザークとトールの仲裁を受けて、ヒートアップしそうになっていたカガリとラリーはようやく全員から視線を集めていることに気がついて肩をすくめ、閉口する。

 

「はぁ、続けるぞ?L4のコロニー群は、開戦の頃から破損し、次々と放棄されて今では無人だが、水庭としては使えよう」

 

その内容を聞いてマリューは少し懐かしそうな顔をした。

 

「なんだか思い出しちゃうわね」

 

「大丈夫さ。ユニウスセブンの時とは違う」

 

そう言ったムウの言葉を聞いて、ディアッカはうげぇと驚いた様子で「ユニウスセブンから水を取ってたのかよ、そりゃあ見つかんないわけだ」と呟いた。あの時はデブリ群をくまなく探してはいたが、まさかユニウスセブンで水を取っているとは夢にも思わなかった。

 

「貴様ら、いつか祟られるぞ…」

 

「イザークって割とそういうの信じますよね?」

 

青い顔をしながら呟くイザークに隣にいるニコルが思わず口にする。

 

「こ、怖がってなんかない!!何事にも礼節があると言ってるだけだっ」

 

変に強がってみるが、顔色が悪いのは一目瞭然のイザーク。そんな彼を見て、ニコルとディアッカはやれやれといった様子だった。

 

「まぁ、コロニーなら非常貯水施設とかもあるはずだから、それさえ押さえれれば…」

 

「待ってくれ」

 

ラリーの言葉を遮ったのはアスランだった。

 

「L4にはまだ、稼働しているコロニーもいくつかある」

 

「マジかよ、初耳だぜ?」

 

ディアッカの言葉に、アスランは頷きながら宙域図を更に拡大して、とあるコロニーの場所をいくつかマーキングしていく。

 

「極秘任務だったからな。俺たちがヘリオポリスに乗り込む前の話だ。不審な一団がここを根城にしているという情報があって、当時パトロール隊に研修配属していた俺は、調査したことがあるんだ。住人は既に居ないが、設備の生きているコロニーもまだ数基あるはずだ」

 

なぜ電力が供給されているかは謎だが、おそらくコロニー再利用計画の一環だったんだろうとアスランが結論づけたところで、ひとまず今後の方針というものが決まった。

 

「じゃあ決まりですね」

 

そういうキラに、ムウは少しだけ真剣な眼差しでキラの隣にいたアスランを見つめた。

 

「しかし、本当にいいのか?アスラン」

 

「え?」

 

ムウの突然の言葉に戸惑うアスラン。そんな彼とムウを交互に見て、キラは戸惑ったように声を上げる。

 

「隊長!」

 

「聞いておきたいとは思っていた。イザークたちのガルーダ隊はとにかくとしても、君はフリーダムの奪還を命じられているんだろ?」

 

キラの声を遮って、ムウは言葉を続ける。それを聞いて、アスランがどんな反応をするのかがムウには気になっていた。

 

「オーブでの戦闘は俺だって見てるし、状況が状況だ。だから着ている軍服に拘る気はない。だが…俺達はこの先、状況次第では、ザフトと戦闘になることだってあるんだぜ?オーブの時とは違う。そこまでの覚悟はあるのか?君はーー言いたくはないが、パトリック・ザラの息子なんだろ?」

 

「だ、誰の子だって関係ないじゃないか!アスランは…」

 

ムウの言葉に、カガリが俯くアスランを庇うように声を返したが、ラリーもその点で言えばムウに同感でもあった。

 

「カガリ。軍人が自軍を抜けるってのは、お前が思ってるより、ずっと大変なことなんだ。ましてやそのトップに居るのが、自分の父親じゃ尚更だ」

 

自分の陣営を抜けること。それがなにを意味するのか、この場にいる爪弾き者たちはよく理解していた。ラリーは無重力の中でわずかに浮く体を地に着かせて、言葉を紡ぐ。

 

「確かに、俺たちは自軍の大義を信じられなくなった。だから探しているんだ。大義を見失った戦争なんて碌なもんじゃない。今まで自分が戦っていた意味そのものがひっくり返るんだ」

 

大量虐殺、大量破壊兵器、味方の命をなんとも思わない命令。戦争末期になればなるほど、兵士が思考停止しなければ従事できないような命令が平然と下されるようになる。その歪みに気がついたから、自分たちはここにいる。

 

だがアスランは?

 

その歪みを前にしても、それでもと言って戦う覚悟があるのだろうか?ムウが危惧をしているのはその点だった。

 

「ひとりの隊長として、俺は一緒に戦うんなら、君を当てにしたい。どうなんだ?」

 

ムウの言葉に、その場にいる全員の視線がアスランへ集まる。しばらくの沈黙の後、彼はゆっくりと自分の思いを話した。

 

「俺はオーブでーーいや、プラントでも地球でも、見て聞いて、思ったことは沢山あります。それが間違ってるのか正しいのか、何が解ったのか解っていないのか、俺が探すべきものは何か、果たすべき使命も……それすら、今の俺にはよく分かりません」

 

ただ、漠然としか見えていなかった未来。ただ、妄信的に付き従ってきた自分の中の憎しみ。それが消えているかと聞かれたらNOだ。まだ母を殺された痛みはある。それは父も同じだとアスランは信じたい。

 

だからこそだ。

 

「ただ、俺は俺の心に従ってます」

 

真っ直ぐとした目でムウに答えるアスラン。その憑き物が落ちたような様子を見てイザークは小さく笑った。

 

「俺はもうキラを撃ちたくない。撃たれたくも…殺し合うのも。だから、自分が願っている世界は、あなた方と同じだと、今はそう感じています」

 

「ふっ、しっかりしてるねぇ君は。キラとは大違いだ」

 

嬉しそうにいうムウに、キラも笑顔で頷いた。

 

「昔からね、アスランはしっかりものだから」

 

「どこかボケてるけどな」

 

「あ、それわかるかも」

 

「アスランはそそっかしいから」

 

カガリのツッコミに思わずキラもニコルも同意する。そんなアスランの前にイザークは組んでいた腕を解いて向き合った。

 

「甘っちょろい戯言だと、昔なら切り捨てていたがーーーそれを見つけないとダメなんだな、俺たちは」

 

「違いないな」

 

ディアッカも肩をすくめながら息をつく。ザフトから離れて、地球軍とオーブ軍と共に、自分たちは探さなきゃならない。この世界が、本当は何と戦い、どこに向かうべきなのかを見定めるために。

 

「さて、俺達がオーブから託されたものは大きいぜ?こんなたった3隻で、はっきり言ってほとんど不可能に近いーーーでも、行くんだな?」

 

ムウの言葉に、その場にいる全員が頷いた。

 

「信じましょう。小さくても強い灯は消えないんでしょ?」

 

ムウの隣にいるマリューがそう言って微笑む。

 

「俺たちは生きる。生きて、生き延びて、使命を果たす。その先の道を切り開くために」

 

「全く、揃いも揃って頑固者の集まりだな、ここは」

 

「そういう少佐こそ」

 

「あれ?バレてた?」

 

そんなやりとりの中で、ブリッジに笑い声が響いた。ひとしきり落ち着いたところで、アスランは切り替えたように話を切り出す。

 

「みんな。プラントにも同じように考えている人は居る」

 

「ラクス・クラインか」

 

「あのピンクのお姫様?」

 

ハインズとムウの言葉にアスランは頷く。

 

「彼女が俺とキラに、ホワイトグリントとフリーダムを託してくれた。その未来を切り開くための力としてな」

 

ラリーの言葉が何よりの証拠だった。事実、彼女がいなければ自分たちはアラスカの作戦に間に合わなかっただろうし、今の状況にもたどり着けなかったはずだ。

 

「そしてアスランの婚約者だよね」

 

「ええ!?」

 

キラの一言に素っ頓狂な声を上げるカガリ。そんな二人を見るアスランの顔はどこか浮かないものだった。その理由、彼女がやったことがすでにプラント最高評議会のーーー父の元へ入っているということだった。

 

「彼女は今追われている。ホワイトグリントとフリーダムを敵に渡したプラントの反逆者として。俺の父に…」

 

 

 

////

 

 

 

《私達は何処へ行きたかったのでしょうか?何が欲しかったのでしょうか?》

 

街灯の映像モニターには、花畑をバックにしたラクスが映っていて、その優しげな語り口でプラントの市民へ語りかけていた。

 

《戦場で今日も愛する人達が死んでいきます。私達は一体いつまで、こんな悲しみの中で過ごさなくてはならないのでしょうか。戦いを終わらせることが…》

 

そんなラクスの問いかけは雑踏に紛れ、人々の行く先には演台が設けられた広場。そこには万雷の拍手の元、壇上へと上がるプラント最高評議会、最高議長であるパトリック・ザラの姿があった。

 

「ラクス・クラインの言葉に惑わされてはなりません。彼女は地球軍と通じ、軍の重要機密を売り渡した反逆者なのです!!」

 

拳を握り、掲げ、勇ましく演説する彼の言葉に、コーディネーター至上主義に傾倒する人々は心を酔わせていく。

 

「戦いなど誰も望みません。だが、では何故このような事態となったのでしょうか?思い出していただきたい!」

 

それをザラ議長は巧みな話術で人々の心から憎悪を引きずり出していく。今の苦しみを与えたのは誰か?取り戻せない苦痛を味合わせたのは誰か?敵は誰か?滅ぼさなければならない相手は誰か?それを彼は人々の心に刷り込んでいく。

 

「自らが生み出したものでありながら、進化したその能力を妬んだナチュラル達が、我等コーディネイターへ行ってきた迫害の数々!にもかかわらず、我等の生み出した技術は強欲に欲し、創設母体であるプラント理事国家から連綿と送りつけられてきた、身勝手で理不尽な要求!それに反旗を翻した我々に、答えとして放たれたーーユニウスセブンへ放たれた一発の核ミサイル!」

 

全てはそこに帰結する。放たれた狂気の光の矢は、ザラ議長の言葉に正当性を持たせてしまった。いかなる蛮行もその正当性の前では霞み、判断力を鈍らせ、価値観も狂わせていく。

 

撃たれたのはこちらだ!ならばこちらにも相応にやり返す権利がある!

 

そう言わんばかりに、その憎しみの火を灯していく。

 

「この戦争、我々はなんとしても勝利せねばならないのです!敗北すれば、過去より尚暗い未来しかありません!!悪意に満ちた情報に惑わされてはなりません!!我等はもはや、ナチュラルとは違う新たな一つの種なのです。現状を抱える様々な問題も、いずれは我々の叡知が必ず解決する!!」

 

問題は先送りされていることに誰も気がつかない。今よりもより良く、ナチュラルという蛮族が滅んだ世界が理想郷であるように語る。そんな怒りと憎しみに満ちた演説の彼方。

 

そこには、祈りにも似たラクスの声が響く。

 

《地球の人々と私達は、同じ人という種族の同胞です。コーディネイターは、決して人という種族よりも進化した存在ではないのです。婚姻統制を行っても尚、生まれてこぬ子供達。既に未来を創れぬ私達の、どこが進化した種だと言うのでしょうか?》

 

憎しみに囚われてはいけない。

 

憎しみをバネにナチュラルを滅ぼせ。

 

ナチュラルもコーディネーターも同じ人なのだ。

 

ナチュラルは非力でコーディネーターがより進化した種族だ。

 

戦いをやめてください。

 

戦わずして我々には未来はない。

 

ナチュラルと共にーーー

ナチュラルに破滅をーーー

 

《戦いを止め、互いに認め合える道を探しましょう。そこに誰かがいることを認めることから始めましょう。共に、新しい場所へ向かうためにーーー》

 

その二極化された思想に、プラントは覆い尽くされようとしていた。

 

 

 

 

キャラデザイン

  • 他キャラも見たい
  • キャラは脳内イメージするので不要

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