ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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第143話 アスランの決意

 

 

 

 

「これが、メビウス?」

 

アークエンジェルに帰還したトールが見上げたのは、白とオレンジ色に塗りあげられた一機のモビルアーマー、メビウスだ。ボロボロになったスーパースカイグラスパーから使える部品を載せ替えて完成した機体を見上げながら、ハリーは満足そうに胸を張る。

 

「正確には、メビウス・インターセプターの改修機ーーーメビウス・ハイクロスね。元々はラリー用のメビウスだったけど、大気圏で大破したやつをコツコツと直してたのよ。フレイちゃんの勉強がてらね?」

 

メビウス・ハイクロス。

 

元々はラリーが乗りこなしていたメビウス・インターセプターであったが、低軌道上でクルーゼとの戦いによりフレームが断裂し、摩擦熱でエンジンはオーバーロードし、コクピットカメラもぐじゃぐじゃになるという廃品一歩手前の代物となっていた。

 

それを、ハリーは整備員になったフレイの教育ついでに少しずつ修理できるところは修理して、オーブに入港した際には、実験データとして地球軍から提供されていたメビウスのテスト機からフレームを借り入れ、修復したのだ。

 

「で、二人とも直していくうちに興が乗っちゃって…」

 

「で、こんな有様になったと」

 

わはははと笑うハリーの横で、ラリーは額に手を添えてため息をついた。メビウス・インターセプターはまだメビウスらしさが残っていたものだったが、スーパースピアヘッドといい、スーパースカイグラスパーといい、今回のハイクロスも外見のほとんどに手が加えられている有様だった。

 

「でもでも、性能面では格段にパワーアップしてるわよ?」

 

そう自慢げに言うハリーは、フレイと貫徹テンションで作ったプレゼン資料をラリーとトールに渡す。

 

スラスターはアストレイR型の物。

 

バッテリーはオーブで貰ったモビルスーツ用を搭載。そのおかげで加速性能も伸びて、ビームライフルも難なく搭載できるようになった。

 

加えてスーパースピアヘッド、スーパースカイグラスパーで使ったファストパックを踏襲したスーパーパックも装備している。

 

標準装備で小型多連装ミサイルとオーブ製の80ミリ重突撃機銃を搭載。翼端に高速域と低速域で稼働するウェポンラックを設け、オプションでビーム兵器か大型ミサイルを四基搭載可能。

 

もはやモビルアーマーに積載する武装ではない。なんだろうか、ハリネズミでも作ろうというのか?はたまた宙飛ぶ武器庫か。

 

「で、機体下部には大型リニアカノン、100mm無反動砲または、アグニとシュベルトゲベールの装備ーーーこれは?」

 

オプションの中にある武装とは異なる存在。目で見てわかるが、下部の武装を外したメビウスに、モビルスーツが横たわるように備わっている。しかもシールドやビームライフルをマウントできるハードポイントまで拵えてある。

 

そんなわかりやすいものをあえて指差すラリーに、ハリーはニヤリと笑みを浮かべた。

 

「モビルスーツ搬送用のオプションね。下部の武装はできなくなるけど、メビウスの下部にモビルスーツを格納して航続距離をぐんとあげてるの」

 

その言葉を聞いてラリーは更に顔をしかめた。オーブでハリーに言った言葉が頭の中でリフレインする。

 

「合体ってやつか」

 

「懸架よ、懸架」

 

手をひらひらさせて言うハリーに、再びラリーは「バカじゃないのか?」と言葉を漏らし、トールはこれが自分の愛機になるのかと思うと気が遠くなるような感覚に襲われるのだった。

 

「発進前点検、全部完了したわ。これなら月の裏側だって行けるくらいバッチリよ」

 

そんなメビウス・ハイクロスの横に置かれているのは、オーブ製の一人乗りシャトルだ。アークエンジェルにも地球軍のシャトルがあるが、敵対関係にある地球軍よりも中立の方が良いだろうというキサカの計らいで、オーブのシャトルをあてがってもらうことができたのだ。

 

点検を終えたフレイが、工具一式を担いでシャトルから離れると、ザフトのノーマルスーツに着替えたアスランが、見送りに来たメンバーを見渡し、その中にいるイザークを見つめた。

 

「イザーク。俺が戻らなかったら、お前がジャスティスを使ってくれ」

 

その言葉に、イザークは一瞬驚いたような表情をしたが、すぐに眉をひそめて鋭い目線でアスランを見つめ直した。

 

「断る。あんなもの、そうそう乗りこなせるものか」

 

「…イザーク」

 

彼なら快諾してくれるだろうと予感していたアスランは、予想外の答えに少し戸惑ったが、イザークは「それに」と言葉を続けた。

 

「帰って貴様が責任を持って乗れ。俺にはデュエルもある。託されたものだって…蔑ろにはできんよ」

 

「そうだな…すまない」

 

わかればいいんだと言って不満げに顔を背けるイザークに、アスランは黙って頭を下げた。彼が見てきたものも、アスランの想像を絶するものなのだろう。故にイザークは大きく成長できたのかもしれない。

 

そんなアスランに、人混みをかき分けて出てきたカガリが、涙を浮かべた目で彼のノーマルスーツにすがりつく。

 

「アスラン!お前、どうして!!なんでプラントなんかに戻るんだよ!」

 

「ごめん。けど、俺はまだ諦めたくないんだ」

 

「けど…だって…お前、あれ、置いて戻ったりしたら…」

 

なんとか引き止めようと言葉を探すが、カガリの声は少しずつ力をなくしていく。そんな弱々しいカガリの手を取ってアスランは微笑んだ。

 

「ジャスティスはここにあった方がいい。本当にどうにもならない時は、キラがちゃんとしてくれる」

 

「そういうことじゃない!私はお前のことを心配してるんだよ!バカ!!」

 

「ありがとう。でも…俺は、行かなくちゃならないんだ。俺が前に進むためにも」

 

「アスラン…」

 

「分かり合えないまま…このままには…できないんだ…」

 

そう溢れるように言うアスランに、今度はキラがカガリの手に自分の手を重ねた。

 

「カガリ。君にだって解るだろ?」

 

「キラ…」

 

そう言って、カガリは少し思考を巡らせてから、ゆっくりとアスランのスーツから手を離した。

 

「大丈夫、僕らが送って、そして連れ帰ってくるから」

 

そう力強く言うキラの言葉に、カガリはただ頷く。

 

アスランの言う通り、このまま戦い続ければ彼は自分の父の真意を知らぬまま、戦場に立ち、父と戦うことになりかねない。これまで繰り返してしまった過ちを清算するための、アスランなりのけじめなのだろう。

 

ラリーはヘルメットを肩にかけると、当然のようにキラとトールに言葉を放った。

 

「うっし。じゃあ、いくぞ。キラ、トール」

 

「 「 「了解!」 」 」

 

 

 

////

 

 

 

作戦を説明する。

 

今作戦は、ライトニング4、アスラン・ザラのプラントへの帰還に伴う護衛任務だ。

 

彼はオーブ軍のシャトルで帰還をするが、道中にザフト兵に撃たれるわけにはいかない。ライトニング隊は彼をヤキンドゥーエ防衛網前まで護衛し、確実にプラントへ送り届けて欲しい。

 

その後の判断はライトニング隊に一任する。こちらからのオーダーは全員が無事に帰還すること。

 

ライトニング4、我々は君たちと幾度と交戦はしたが、今は共に心を重ねる同志だと信じている。君が帰らなければ、キラも、そして我々も悲しむ。何があろうと生き延びることを考えて欲しい。

 

生きて、生き抜いて、君の使命を果たせ。

 

幸運を祈っている。

 

メビウスライダー隊、発進せよ!!

 

 

////

 

 

《ライトニング隊は、アスランのシャトル護衛のため、発進します。APU起動。カタパルト、接続。発進スタンバイ》

 

真空状態となった発進デッキで、アスランはヘルメット越しに感謝の言葉を紡いだ。

 

「艦長、そしてみんな。今までありがとう」

 

《必ず戻ってきなさい。いいわね?》

 

そう笑顔で言うマリューの言葉に、アスランはやや驚いたような顔をするが、隣にいるムウも同じように頷いて、笑みをアスランに向けた。

 

《お前が居ないとキラが寂しがるからなーーそれに、俺も寂しい。少しだけ、な》

 

そう、だな。アスランも心で思う。ここには、自分の無事を願い、帰りを待ってくれる人たちが大勢いる。そんな人を守るために、キラは戦っていたんだなーーーあの頃の俺には、想像できなかった。

 

アスランは操縦桿を強く握りしめて力強く答えた。

 

「了解した、アスラン・ザラ、発進する!」

 

ガシュっとリニアレールに牽引されたアスランのシャトルはアークエンジェルから飛び立ち、深淵の宇宙へと飛び立っていく。

 

続くように発進シークエンスに入ったのは、整備を終えたラリーのホワイトグリントだ。

 

《メビウスライダー隊、発進!ホワイトグリント、発進位置へ!進路クリアー!ホワイトグリント、どうぞ!》

 

《よーし。なるべく揉め事は起こすなよ?ラリー》

 

ここでザフトと戦闘になったらシャレにならんからな!と釘をさすムウに、ラリーは敬礼を打った。

 

「わかってますよ、フラガ隊長。じゃあ行ってきます!ラリー・レイレナード、ライトニング1、ホワイトグリント、出るぞ!」

 

《続いて、メビウス・ハイクロス、ケーニヒ機、発進位置へ!トール!無理はだめよ?》

 

「了解、なぁにテストだよ。まだ本調子じゃないからな」

 

発進デッキへと移動する中、ミリアリアの声にトールはそう言ってグッとノーマルスーツに包まれた手を握りしめる。はじめての宇宙。幾度とモビルアーマーの教導もラリーから受けているトールは、不安なくメビウスの操縦桿を握った。

 

「トール・ケーニヒ、ライトニング3、メビウス・ハイクロス、行きます!!」

 

最後に出てくるのは、キラのフリーダムだ。カタパルトに搬入されながら、マリューが心配そうな顔でキラを見つめる。

 

《キラくん、気を付けて》

 

「了解です、マリューさん。キラ・ヤマト、ライトニング2、フリーダム、行きます!!」

 

そう言って飛び立ったフリーダムは、先行するシャトルと、ホワイトグリント、そしてメビウス・ハイクロスとともに、ヤキンドゥーエがあるザフトの勢力内へと足を踏み入れていくのだった。

 

 

////

 

 

《ラクス・クラインは利用されているだけなのです!その平和を願う心を。そのことも私達は知っています!》

 

プラントの市街にはエザリア・ジュールによる放送がライブ映像で配信されていた。彼女は壇上にあがり、女性らしい言葉を重ねながら市民へと声を響かせる。

 

《だから私達は、彼女を救いたい。彼女までをも騙し、利用しようとするナチュラル共の手から。その為にも、情報を、手掛かりを、どうか彼女を愛する人々よーーー》

 

うまく言うものだな、そう思いながらパトリックは中継映像を切る。あくまで彼女が綴る言葉は真実だ。だが、救うにしても彼女はすでに罪を犯し、フリーダムという国家レベルの秘匿に値する新兵器を、事もあろうに他勢力へ譲り渡したのだ。

 

これを裏切りと言わず、なんと呼ぶ!!

 

「ああそうだ。クルーゼが情報を持ち帰った。何故フリーダムがオーブに渡ったのかなど分からんよ。アスランが何か掴んだかもしれんが、あのバカめ、報告一つ寄こさん!!」

 

《極秘で命じられた任務でありましょう?迂闊な通信も、情報漏洩の元ですからな》

 

まるで不満を爆発させるような言い草のパトリックに、通信機越しに映る男、アンドリュー・バルトフェルドは困ったように肩をすくめる。

 

「調子に乗ったナチュラル共が、次々と月に上がってきておる。今度こそ叩き潰さねばならんのだ。徹底的にな!」

 

そう握りこぶしを作って熱弁するパトリックに、バルトフェルドは砂漠の虎という異名らしい邪悪な笑みを浮かべて彼の期待に言葉を投げた。

 

《解っております。存分に働かせてもらいますよ。俺の様な者に、再び生きる場を与えて下さった議長閣下の為にもね》

 

そう言って通信を切ると、バルトフェルドは深く息をついて艦長席へともたれかかる。

 

地上にいた時とは勝手が違うが、宇宙の船というのはこうも居心地がいいものだとはね、そう思ってバルトフェルドはその身を無重力に浮かせるのだった。

 

 

////

 

 

宙域をしばらく飛行していると、キラの元にアスランからの通信が入った。

 

「キラ、そろそろヤキン・ドゥーエの防衛網に引っかかる。戻ってくれ」

 

モニターに映る、PJたち戦争離反派が教えてくれた正確なヤキンドゥーエの防衛網を見つめる。たしかに、これ以上進めば偵察しているジンに捕捉される可能性もあった。

 

「分かった」

 

即答したキラにアスランは安堵の顔を浮かべたが、次の言葉でその安堵はもろく崩れ去る。

 

「じゃぁこの辺で待機する」

 

一瞬、キラは何を言ってるんだ?という顔になったアスランは、シャトルを止めて続けて通信を発した。

 

「え?…いや、戻ってくれ」

 

「アスラン」

 

戸惑うアスランにキラは真剣な眼差しで彼を見つめる。そんなキラに変わって、ラリーが改めて声を出した。

 

「まったく、水臭いこと言うなよ?ちゃんと簡易トイレも食料も持ってきてるしさ。2日くらいは待てるって」

 

「みんな…」

 

「アスラン。ライトニング隊に入った以上、お前は俺たちの仲間だ。だから俺はお前を諦めない。お前も、諦めるな」

 

これは俺を鍛えてくれた先輩の受け売りだけどね。そう言ってトールは人懐っこそうな笑みを浮かべた。

 

「トール…」

 

「アスラン、君はまだ死ねない。解ってるよね?」

 

「キラ…」

 

ここが死に場所じゃない。キラはそんな確信に似た気持ちのまま、アスランを戒める。諦めるな。まだそんな時じゃない。まだ、アスランが死ぬことは許されない。それはキラも、ラリーも、トールも、オーブとともに来た全員が同じ気持ちだ。

 

まだ使命を僕たちは見つけていない。それを見つけて、果たすまでーー。

 

「君も、僕も、まだ死ねないんだ」

 

「分かった。覚えておく」

 

「忘れないで」

 

モニターに映るキラに頷いて、アスランがザフトの防衛網へと入っていこうとした時、それを見つめていたラリーがアスランへ繋がる通信機に向かって声を荒げた。

 

「ライトニング4!どんな結果になろうと、俺たちはお前の仲間だ!!」

 

父との再会。ラリーはそれがアスランにどんな決断を迫るか、その未来の一端を知っている。しかし。故にラリーはアスランの行いに希望を持っている。

 

もし、ここで彼の父が息子の声を聞いて立ち止まってくれたなら…そう思うからこそ、ラリーはアスランを見送る決断をした。それがアスランに深い傷を負わせることになる可能性があるのを知りながら。

 

「必ず生きて戻ってこい!ライトニング隊の隊長としての命令だ!」

 

「隊長……あぁ了解した。行ってくる…!」

 

声を上げたラリーに、アスランは強く頷いてシャトルのスロットルを引いた。後部モニターに映っているライトニング隊がどんどん離れていき、やがて星々が瞬く宇宙しか映らなくなった。

 

「ーーーこちら国防委員会直属、特務隊、アスラン・ザラ。認識番号285002。ヤキン・ドゥーエ防衛軍、応答願う!」

 

アスランは意を決してザフトへのアプローチを試みる。確かめるんだ…自分の声で、自分の意思で、父が心に思う全てをーー。

 

 

 

 

キャラデザイン

  • 他キャラも見たい
  • キャラは脳内イメージするので不要
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