ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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番外編 オーブ温泉物語 2

 

 

 

 

「ぜぇ…ぜぇ…案外、水の中って疲れるんですね」

 

広大な露天風呂で道連れ合戦から追いかけっこに発展した一行は、迷惑になるからと寛ぐ他のメンツから離れてかなり端のエリアまで行き流れていき、今ではスタミナには多少の自信があったトールが湯に身を投げ出してプカプカと浮かび上がっている。

 

「だらしないぞーお前らー」

 

そんな中、平然と湯船を堪能しているムウが、バテているトールや赤服組を見つめながらヘラヘラと笑って、どこからか持ってきた低アルコールのお酒をチビチビと飲んでいる。

 

ムウは曲りなりにしてもメビウスライダー隊の隊長を務めてきた男だ。粘り強さと持久力でいえば、ラリーにも引けを取らない。怪物の長も怪物ということだ。

 

「卑怯だぞ…貴様ぁ」

 

「戦略的撤退と言わせてもらおう」

 

バテているイザークやアークエンジェルの面々が恨めしそうに岩場に腰を下ろしているのを見て、フラガは調子良さそうに笑った。

 

「それにしても、ほぼ僕らの貸切だね。こんなに広いのに誰もーーー」

 

そう言ってあたりを見渡したニコルがポツリと呟いたときーー。

 

 

 

『わぁーー広ーい!』

 

 

すぐ横の竹で編まれた壁の向こう側から、黄色い女性らしい声が響いた。

 

『だろ?オノゴロ自慢の天然露天風呂だ!』

 

『カガリさん、少しは隠したほうがいいんじゃない?』

 

『オーブにあることわざだ!裸の付き合いも大事とな!』

 

『…立派な理念だと思います。ええ』

 

『ラミアス艦長、早々に考えることを放棄しないで下さい』

 

『じゃあかけ湯をしてからゆっくり湯船に浸かるんだぞ』

 

そう言ってペタペタと濡れた岩場を歩く足音まで聞こえる。そんな距離だ。さっきまで年相応にはしゃいでいた誰もが黙って、その歩く足音にじっと息をひそめる。

 

間違いない。

 

この壁の向こうは――間違いなく――

 

女湯だ。

 

「ちょ、隊長!!そんなに近づいたらマズイですって!!」

 

気がつくと湯船を音を立てずに移動するムウが壁際に近づいていくのをトールは見つめ、小声で口元に手を当てて独断専行するムウに声を投げた。

 

「大丈夫だって!壁で隔たれてんだ!聞き耳くらい立ててもバチは当たらんでしょ!!」

 

「で、でも」

 

「ほーん、じゃあお前ら興味ないのね。いいさ、俺一人で聞き耳立てるから」

 

そう冷めたような目をこちらに向けてから、ムウは壁際に耳を傾けてじっと動かなくなる。どうしたものかと全員が押し黙っていると、グループの中から離反者が現れた。

 

「誰も興味ないなんて言ってないだろ、おっさん」

 

ディアッカ・エルスマン。真面目で名が通るザラ隊1のプレイボーイの名は伊達ではない。その奇行に隣にいたニコルが小さく悲鳴のような声を上げる。

 

「ディアッカ!?」

 

「ふん!ふしだらな!鍛錬が足りんぞ!」

 

「そう言って興味深々なクセしてさぁ」

 

「くっ…!」

 

そういうイザークも、さっきからチラチラと竹の壁に視線を彷徨わせ、挙動もどこかソワソワとしている。このムッツリさんめ。そう言ってムウが手招き。

 

「トール!?」

 

「え、サイは気にならない?フレイの話とか」

 

トールの何気ない一言に、サイは外していたメガネをぐいっと上げてトールの隣へ着く。紳士協定はさっさとゴミ箱にぶち込まれ、気がついたら騒いでいた全員がドミノ倒しのように壁際に集まっていた。

 

 

////

 

 

『はぁーーー気持ちいいーーー眺めも最高ぉーーー』

 

湯船に浸かりながら、オーシャンビューな絶景を楽しむフレイは、巻いてあげた髪の毛を蒸気にしっとりと晒して気持ち良さそうに岩肌に腕をついた。その豊富な胸は、岩場と自身の間で程よく潰れ、その感触も自身の快感となって全身に溶けていく。

 

『まさに命の洗濯ってやつね』

 

『日頃の疲労が抜けていくわぁー』

 

その横では足を存分に伸ばして温泉を楽しむマリューとハリー。大きな天然露天風呂を売りにするここには、カガリに声をかけられたアサギたちやシモンズたちも来ており、カガリもまた心地好さそうに岩場に両ひじを預けて湯の波に揺られている。

 

『わ、わたしには少々熱い気もしますが…』

 

そう言って体にタオルを巻き、ガチガチに防御しているナタルは、少し顔を赤らめながらそう呟くと、カガリが思い出したように体を起こした。

 

『あっちにぬる湯の温泉があるぞ?あとで皆で行ってみようか』

 

『というか全部制覇よ!制覇!せっかくの貸切なんだし!!』

 

なにせ大露天風呂の他に打たせ湯や足湯、薬事湯や釜湯などなど、ここには数十種類の温泉施設が揃っており、屋内ではジャグジーやマッサージ湯なども完備されている。ここにきて試さない手はないだろう。

 

『わたしはもう少しここでゆったりと浸かっていようかしら』

 

そう言って、ふぅーと日頃の疲れを癒すように湯船に浸かるマリュー。ふと、彼女は視線に気づく。周りを見ると、その湯にいた全員の視線がマリューの一点に注がれていた。

 

『な、なに?』

 

『ラミアス艦長って、その、本当に大きいですね』

 

ちゃぽん、と水の一雫が落ちる音が妙に鮮明に聞こえた。だって、ほら、浮かんでるしーー誰が言ったかわからない言葉であったが、マリューを赤面させるには充分すぎる威力を持っていた。

 

『ちょ、ちょっと!どこ見て言ってるんですか!!』

 

バッと胸元を隠して姿勢を正しながら、マリューは狼狽えた目を辺りに向けた。

 

『フラガ少佐はこれを好きにしてるんですかぁ、羨ましい限りですなぁ』

 

そんなマリューの背後から、ハリーがぐわしっと胸をガードするマリューの腕を持ち上げる。ずっしりとしなる豊富な胸が弾み、お湯にささやかな波を立てたのが、マリューの羞恥心をさらに煽った。

 

『ハリーさんも!!そんな目で見るものじゃないですよ!?』

 

『そう?んーー私も大きいつもりなんだけど、ラミアス艦長にはさすがに…』

 

マリューの手をパッと離して、自身の胸を下から持ち上げて上下させるハリーの行動に、今度はマリューが両手で手を覆った目を塞いだ。

 

『ハリーさんは堂々とし過ぎなんですよ…』

 

そう呆れたように言うフレイに、ハリーはニヤリと笑みを浮かべてこう言葉を放った。

 

『そう?私フレイちゃんもいい線行ってると思うよ?まだまだ発展途上というか』

 

『ハリーさん、最近では女性同士でもセクハラって適用されるんですよ?』

 

『申し訳ございませんでした』

 

完敗ですと言わんばかりの即謝罪に、マリューは、ハンガーの勢力図が徐々に徐々に変わりつつある様子をここにきて垣間見るのだった。

 

『……ナタル?』

 

ふと、自身の副官を見ると彼女は何やら自分の胸と周りを比べて、その視線を行ったり来たりさせているようで。マリューが声をかけた瞬間、どきんっという効果音が聞こえてきそうなくらい肩を震わせたナタルは、あっちこっちに泳いだ目をしながら赤面を隠した。

 

『え?あ、いや!なんでもないぞ!なんでも!!』

 

『ほほーん、バジルール中尉のものは大きいというより、形がいいですからなぁ』

 

そういってフレイからナタルに標的を変えたハリーがすいーっと湯船を走ってナタルの元へと近づいてくる。

 

『そういうのを口にするのはどうかと思うぞ!?』

 

『隠さなくてもいいじゃないですかぁ、同性同士だしぃ』

 

『い、いや!ちょっとま…こら!タオルを返せ!ら、ラミアス艦長!!』

 

奪われたタオルを必死に取り返そうと右往左往しているナタルに、マリューはどこか聖母のような優しい目と笑みを向けてこう言った。

 

『ナタル、時には諦めという言葉も私は大事だと思うの』

 

『そんな遠い目をして言わないでください!!あ、ちょっ!!どこを触っている!!』

 

かっちり固めていたと思っていた防御は障子の紙のよりも脆く崩れ去り、あられもない姿にされたバジルールは、しばらくの間、精密機器のエキスパートであるハリーの手つきに晒されるのだった。

 

 

////

 

 

「盛り上がってるじゃないのぉ、ま、マリューのものは確かに良いものだがーー」

 

「隊長、隊長ってば」

 

うんうん、女性が集まれば姦しいと言うしなと一人で納得しているムウに、抑揚のない声で腕をツンツンと突くトール。

 

「なんだよトール」

 

そう言ってムウが振り返ると、トールとサイ、アークエンジェルクルーを除いた全員が顔を赤面させて呆然としていた。とくに赤服組はひどく、プレイボーイであるディアッカですら、その威力にタジタジで、ニコルは顔を赤くしたまま硬直。イザークは何もいえずにおかっぱの前髪で目元を隠して湯船に沈んで行ってる。

 

「あらら、まだこのステージは、坊主どもには早かった?」

 

「まぁ兵士って基本的に禁欲的な生活を送ってますからね」

 

そう言ってアークエンジェルの操舵を担うノイマンも岩場に腰をかけて一息ついた。若手のパイロットには少々刺激が強かったらしい。

 

「そういうノイマンこそ、さっさと中尉に告白の一つでもーー」

 

「わーわー!!何を言ってるんですか!!」

 

知ってるんだぜー?お前がラブレターを隠してる場所とかも、とムウが呟くと、いつもは冷静沈着なノイマンも見たこともない顔をして必死に動こうとするムウの口を手で押さえ込む。

 

「俺はミリィくらいのサイズが好みだけどなぁ。サイはどうなの?」

 

そんな中、アークエンジェルで当初から彼女持ちであるトールとサイは、持ち同士ならではの会話に興じていた。

 

トールの言葉に、サイはぐいっと上げたメガネを夕日に白く反射させながらこう呟く。

 

「フレイのものが一番に決まってるじゃないか」

 

「よーし、こいつを沈めよう」

 

「賛成ー」

 

その一言で再起動した面々がサイを担ぎ上げ始める。中にもディアッカやイザークまで加わっている有様だ。

 

「ちょっ!!なんでだよ!正直に言っただけだろー!?」

 

「うるせー!!あんないい女を射止めやがった!このリア充め!!」

 

「俺たちの気持ちも考えろ!!」

 

「やめてよね!僕らに敵うわけないじゃないか!(憤怒)」

 

わーわーと再びお祭り騒ぎのように騒ぐ面々を見て、ムウがこりゃあバレてるよなぁと呟きながらサイの神輿を下ろそうと声を出したときだった。

 

「あーあーあー!もうやめろって!暴れるとーー」

 

「あ」

 

ザバァン!と、誰かがバランスを崩したのか、神輿は崩れて祭囃子の終わりが響く。倒壊した人力神輿は固定が甘い竹の壁を容易に押し倒してーーーいとも容易く男湯と女湯の垣根を取っ払った。

 

「え?」

 

恐ろしいほど静まり返った時間が流れた。それこそ、聞こえるはずのない遠くのオーブの海岸から聞こえる白波の音が聞こえてくるほど。夏の終わりを告げる鈴虫たちの鳴き声が聞こえてくるほど。

 

「ま、まて!これは覗きとかじゃなくて不可抗力で……」

 

「あ、イザーク、鼻血」

 

「なにぃ!?」

 

「 「 「い、いやぁああああああ!!!!!」 」 」

 

弁明虚しく、女性の叫び声に駆けつけた男湯の作業員たちもおこぼれを目撃し、動ずることなく滝湯に打たれていたPJとハインズを除いたほぼ全員が、お風呂場の岩場で部屋着に着替えた面々に冷たい目で見下ろされながら極めて痛みのある正座を仰せつかるのだった。

 

 

「あれ?ラリーさんは?」

 

「よそ見しないの、トール♪」

 

「はい、イエスマム!!大変申し訳ありません!」

 

 

 

 

 

 

キャラデザイン

  • 他キャラも見たい
  • キャラは脳内イメージするので不要
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