ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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番外編 オーブ温泉物語 3

 

 

トールたちが温泉で硬い岩場を足全体で味わっている頃ーーー。

 

「ロウリュウ?」

 

「ロウリュな。これは旧フィンランドに伝わるサウナ風呂の入浴法の一つだ」

 

キラとラリーは喧騒から離れて二人、露天風呂の一角に建てられている木材家屋の中にいた。

 

そこは所謂、サウナというものだ。

 

ラリーが熱く熱せられた石に水をかけると、ジュワッと心地よい音を立ててかけられた水が瞬時に熱せられ、水蒸気となって部屋を満たしていく。

 

「こうして、熱したサウナストーンに水をかけて水蒸気を発生させると、体感温度を上げて発汗作用を促進する効果がある」

 

「へぇ、確かに暑いですけど、気持ちいいですね」

 

蒸し暑い…というよりは、水蒸気に含まれるアロマやサウナストーンから発せられるマイナスイオンで、苦痛をあまり感じさせない程よい暑さが部屋を満たしている。腰にタオルを巻いたラリーはキラの少し隣に腰掛けて懐かしそうに目を細めた。

 

「一度、クラックスでサウナを出来ないかって、リークやゲイルと一緒に浴室を密閉して水蒸気を出したんだが、無重力の水蒸気ほど危険なものは無いなって知った瞬間だったな、あれは」

 

宇宙空間でサウナができれば、効率のいい風呂の機能が獲得できるのでは?と3人で画策して試してみたが、結果としてサウナストーンもどきから舞い上がった水が熱せられた水玉になって、3人に襲いかかることになったのは言うまでもない。

 

「ハリーさんに怒られました?」

 

「ドレイク艦長にしこたま怒られたよ、うははは」

 

まさかドレイク艦長に正座させられるとは思ってなかったな、と言って今になっては笑い話の過去を語るラリーに、キラも可笑しそうに笑った。

 

「ところで、キラは好きな子とか居ないのか?」

 

「え?!」

 

ひとしきりサウナの熱に慣れてきた頃合いで、ラリーは唐突にキラへそう切り込んだ。驚いているキラに、ラリーは首を傾げる。そんなに驚くことか?と。

 

「何を驚いてんだよ。年頃だろ?ほれほれ」

 

「あ、あはは……いや、まぁ…気になる子は居たんですけど…」

 

そう言ってしどろもどろと話すキラに、ラリーは焦ったそうに肘でキラの肩を突いた。

 

「なんだよ、歯切れ悪いな。あ、もしかしてモルゲンレーテで離れ離れに…?」

 

「いや、そういうわけじゃ…その子と仲良くなりたいと言うよりは…その子も、その子の彼氏も、僕の大事な友達ですから」

 

そういうキラに、ラリーは彼がいう相手のイメージを容易に想像できてしまった。

 

そういえばキラはもとよりフレイに気があったわけでーーー本来なら、二人は今よりもずっと暗鬱な関係になっていたと思うが、ここにイレギュラーがいることによって、本来たどる未来とは随分と違う場所に来てしまったものだとラリーは改めて自覚する。

 

「ああーー…そりゃあ…なんというか…」

 

そう言って目を泳がせるラリーに、今度はキラが焦ったような素振りで口を開いた。

 

「誤解しないでくださいよ!?僕は二人が仲良く居てくれる場所を守りたいって思ってるだけですから!」

 

「そういうのはなぁ、お前苦労するぞ?いい人見つかっても『あ、この人いい人だな』くらいで終わっちまうぞ?」

 

そうやって大事なタイミングで大事な事を言えないまま終わってしまう関係が一番辛いんだぞ?と、ラリーは少し遠い目をしながらキラを論する。

 

それがなんとなくわかってしまう故、キラの中にもどうにもできないしこりはあるのだろう。

 

「うぐ…。そういうラリーさんこそ、グリンフィールド技師とはどうなんですか」

 

逆に問いかけるキラの言葉に、ラリーは快活に笑ってないないと言葉を吐いた。

 

「うははは!ありゃだめだ!俺を生体兵器かなんかと思ってるからな!……もう少し可愛げがあってもいいんだけどな」

 

「何か言いました?」

 

「いいや、何も…」

 

そこまで言って、二人はしばらく水蒸気に満たされた部屋の中で沈黙を保った。

 

「お互い、苦労しそうですよね」

 

「お前には言われたくねぇわ。あ、そうだ」

 

思い出したようにラリーが立ち上がると、部屋の隅にかけられていたある物を取ってキラの元へと戻ってくる。

 

「これだよ。このヤシの葉っぱで体を扇ぐとより効果が出るんだとかさ。ほれほれ」

 

バッサバッサと防腐加工されたヤシの葉をふるってキラへ熱波を送る。その熱を受けて、キラから流れていた汗はどっと量を増させた。

 

「あぁーーあついぃー」

 

「はっはっはっ!まぁ汗をかき始めてからが始まりだからな」

 

ただやり過ぎると熱中症や脱水症状になるから、ほどほどにな?とラリーはヤシの葉を下ろして元の場所へ戻そうとした。

 

「そこの君、すまないがこちらにもヤシの葉を」

 

と、壁にヤシの葉を置こうとしたラリーと、キラの後ろから声をかけられる。はて、ここに入った時は自分とキラしかいなかったはずだが?そう思って水蒸気の湯けむりの中、目を凝らしながら、置こうとしていたヤシの葉を差し出す。

 

「あ、はい。どうーーー」

 

「君たちもサウナか?奇遇だな」

 

受け取った相手は、ヒゲを蓄え、髪を束ねている姿をした壮麗な男性ーーーウズミ・ナラ・アスハだった。ヤシの葉を差し出したラリーと、振り返ったキラの表情が思わずフリーズする。

 

「う、ウズミ様!?」

 

「実は私もここによく通う常連でな。健康の秘訣とは?と聞かれたらサウナと答えるほどだ」

 

そう言ってどっかりとキラの二段目に座るウズミは、ラリーから手渡されたヤシの葉を自分に向かって仰ぎながらそう答えた。

 

「娘から君やキラ君に世話になったと聞いていてな。一度話を、とは思っていたのだがーー存外、君たちも年相応の子供のようだな」

 

そういうウズミの言葉に、ラリーは乾いた笑みを浮かべ、キラはどこか気まずそうな、なんとも言えない表情を浮かべる。

 

「ウズミ様は、それでここを?」

 

「いや、後日正式な場を設けるつもりだったが…。権威という否応無しに着なければならない長物も、ここでは服とともに脱ぎ捨てられよう。ここにいるほうが、一人のバカ娘の親でいられそうだ。重ねて感謝する。娘を無事にオーブに連れ帰ってくれたことに」

 

そういうとウズミはヤシの葉を横へと置いて、両手を膝に起き、ラリーとキラへ深く頭を下げた。

 

「ウズミさん…」

 

彼にもきっと、背負うものが多くあるのだろう。こうやって一人の親として誰かに頭を下げるだけでも、とやかく言う相手がいる。カガリもまた、その大衆の目にさらされ続けていたのだ。

 

だからこそ、ウズミはカガリを愛していた。一人の父親として、血は繋がっていなくとも家族として。故にラリーとキラに頭を下げることは、ウズミにとっては当然と言えることだった。

 

「君と出会えて娘は変われたような気がするよ。ーーーどうもありがとう」

 

そう言って、いつもは威厳に満ちた顔をにこやかに微笑ませるウズミに、キラとラリーは互いの顔を見合わせてから、可笑しそうに笑った。

 

 

 

「すまない、こちらにもヤシの葉を」

 

 

 

と、そんなやり取りをしてる中、今度はラリーの後ろから声がかけられる。

 

「ああ、どうぞ」

 

ウズミが頷いてヤシの葉を取り、ラリーに渡すと、まるでバケツリレーのように彼は後ろへ振り返ってヤシの葉を差し出しーーーーそして固まった。

 

「ーー元気そうで何よりだな、ラリー」

 

そこにいたのは、くたびれたブロンドの髪の上からタオルを被り、青い目でこちらを見つめる壮麗な男性。年は取ってはいるが、どこか色気があるその風貌と声。そして普段はマスクに隠されている素顔は、ここに居る者の中ではラリーしか知り得ない人物であった。

 

「ラ、ラウ…」

 

げぇ!!クルーゼ!!、とそこまで出かかって、ラリーはぐっと込み上げてきた言葉を飲み込む。

 

「らう?」

 

隣にいたキラが顔を青くするラリーを見つめて首をかしげる。ここで彼が宿敵であるラウ・ル・クルーゼであるということがバレるのは現状では非常にまずい…!!どうする!どうする!!どうするーーー!!!

 

「ーークラウドさん…」

 

ラリーは咄嗟にそう弱々しい声で呟くと、素顔のクルーゼが思わず顔を下に下げた。肩を震わせるな!笑うな!こちらは必死なんだぞ!という声をラリーは乾いた笑いをする顔の下へ押し込める。

 

「ラリーさん、知り合いなんですか?」

 

「あ、あぁ。前にオーブでたまたま知り合って…まぁ顔見知り程度だけど…本当に、まじで…はっはっはっ」

 

そう言ってラリーは、「すまないが彼と久しぶりに話をしてくるよ」とキラとウズミから離れてクルーゼの隣へとどっかりと腰を下ろした。

 

(おい!なぜお前がここにいる!!)

 

顔は笑顔だが小声でいう言葉には、明らかに怒気と驚きと戸惑いがあった。そのラリーの表情をタオル越しから見つめながら、何食わぬ顔でクルーゼは答える。

 

(湯治だよ。君との戦いは骨が折れるからな)

 

(そういう意味で言ってんじゃねぇよ!どうやって入った!)

 

(正規の手段でだが?)

 

現にクルーゼは正規の手段でオーブへと入港し、温泉で体を癒してから出国、そのまま大陸を経由してカーペンタリアへ向かう手はずとなっている。開き直るクルーゼに、ラリーは思わず叫びたくなった。

 

(このやろっ…!)

 

(ははは、まぁこうやって会えたのは偶然さ)

 

そう言って笑みを向けるクルーゼに、ラリーは笑顔の仮面を被りながら青筋を浮かべる。

 

「二人はかなり親しそうな仲だが、どこで知り合ったんだ?」

 

「あ、あーーそれは」

 

ヒソヒソと話す二人に、ウズミがなんら疑いない声で問いかける。それにしどろもどろとするラリーに変わって、頭にタオルをかぶせたままだが、隣にいるクルーゼこと、クラウドが答えた。

 

「私は宇宙からこちらへの輸送担当を任されておる者でして。以前、モルゲンレーテへの搬入作業で、ラリーさんが手助けしてくれたんです」

 

「あはは!そう!そうなんです!あの時は大変だったな!!はははは!!」

 

「そうか、ふむ。しかし、君も疲れているようだ。無理はせずに励みなさい」

 

「私は先に出るとするよ」とサウナ室から出て行くウズミ。彼の美徳は信じた人にはとことん甘くなるところだが、それが弱さだとも思う。少しは疑えよと、内心でホッとしながらそう思わざる得ないラリー。

 

「ラリーさん、僕も先に出ますね」

 

「あ、ああ。また後でな」

 

サウナの暑さで汗をかいたのか、そう言ってキラも出て行き、今度こそラリーはこの部屋でクルーゼと二人きりとなった。

 

「さて、邪魔者はいなくなったな。ラリー」

 

そう言うクルーゼは頭に乗せていたタオルを取って、ニヤリとラリーを見つめる。

 

「はぁ?」とラリーが不機嫌そうなクルーゼを睨み付けると、彼は満足そうに笑みを浮かべて言葉を紡いだ。

 

「君と私、どちらが本物か…どちらが長く、ここで我慢できるか」

 

「おう、そういうことなら乗った」

 

クルーゼとの勝負事と聞いて引く訳には行かない。真剣サウナ持久対戦。暑さで潰れるのはどちらか。こちとら大気圏の中を耐えた実績があるのだ。負ける訳にはいかない。

 

「私のライバルならば、そうでなくてはな!」

 

「うるせー!いつもいつも俺の前に現れやがってこの変態が!!」

 

そう言ってサウナストーンに水をぶっかけるラリーに、クルーゼは高笑いをあげ、その声がサウナ室から響き渡り、水風呂の良さをウズミから教えてもらっていたキラの肩を震わせる。

 

 

 

 

 

その後、正座メンバーの中にラリーが居なかったことに気づいたハリーがラリーを探していたところ、スタッフとキラに担がれたラリーを発見。

 

誰かの高笑いが響く中、大慌てでゆでダコになったラリーを介抱するために部屋へと持ち帰ったという噂が立ったとか、立たなかったとかーー。

 

クルーゼは何事もなくオーブから出国、迎えにきたアデスが見たこともない健康そうなクルーゼに驚いたということをここに記しておこう。

 

 

 

 

キャラデザイン

  • 他キャラも見たい
  • キャラは脳内イメージするので不要
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