ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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コロニーメンデル編
第148話 動き出す変革


 

 

強襲機動特装艦、アークエンジェル級「ドミニオン」

 

モルゲンレーテと地球軍が共同開発した1番艦である「アークエンジェル」のデータを元に、地球連合軍が建造したアークエンジェル級の2番艦だ。

 

原作では第2次ヤキン・ドゥーエ攻防戦で、アークエンジェルと激戦を繰り広げた果てにそのローエングリンを艦橋部に受け、ナタルやアズラエルと共に爆沈する悲運を持っていた船ではあるがーーここにはメビウスライダー隊がいる。

 

彼らがもたらした変化は芽を出し、まさに大きく世界を変えようとしている。

 

艦長はグリマルディ戦線から数々の戦いをメビウスライダー隊と共に切り抜けてきた名将、ドレイク・バーフォード。

 

外装は塗装は黒を基調としているため、アークエンジェルとは対照的なイメージを与える外観を持つ艦であり、ブリッジ付近のセンサー強化、MSデッキのレイアウト変更、艦尾両舷の垂直翼などに多少の形状違いが見られるが、基本的な性能面ではアークエンジェルとほぼ同じ性能を持つ。

 

月面の地球連合軍基地に配備されたドミニオンは、地球軍から離脱した叛逆艦であるアークエンジェルの追討任務を受領。

 

これによりL4コロニー群宙域に向けて発進。宇宙の大海を緩やかに航行しているのだった。

 

「ーー無事にドミニオンを受領出来たとはいえ、やはりというか何というか」

 

ドミニオンの中で、地球軍の制服を着流すリークが呆れたような、困ったような声で唸った。その後ろで、すっかり悪名高くなってしまったアークエンジェルの動向を調べる書類に目を通しているバーフォードも、どこか疲れた様子で息をつく。

 

「クラックスのクルーで事は足りたのですが、明らかに手持ち無沙汰になる増員数ですな」

 

そんな彼らに同意するように、アズラエルは目の前のモニターから目を離さないまま頷いた。

 

「名前を見る限りでも、ブルーコスモスの名簿で見た士官がちらほら…やはり、我々の監視が目的のようですねっと」

 

ドゴォッとモニターから音声が響くと、閃光と共にモニターの中を飛び回っていたキャラクターが画面外へと吹き飛ばされた。

 

「あ、ズリィぞ!アズラエルさん!」

 

吹き飛ばされたキャラクターを操作していたクロトが悔しそうにコントローラを上下させるが、アズラエルはチッチッチと言わんばかりに首を横に振る。

 

「あーだめだめです。迂闊に空中に上がったのが運の尽きですよぉ」

 

「欲をかいた理事もですけどねー」

 

敵を倒したのに油断したのか、迂闊に着地したアズラエルの持ちキャラクターを、リークが操る剣を備えたキャラクターが容赦ない重い一撃を入れて、画面外へと吹き飛ばした。

 

「ああ!僕の残機が!やってくれますねぇ…ベルモンド上級大尉!僕は勝ってきたんだ!いつだって!」

 

「けど、ここに最後の切り札が来るのは読んでいたよ」

 

そう悔しがるアズラエルを尻目に、誰もいない場所に現れたアイテムを、漁夫の利を狙っていたニックが即座に回収する。

 

「ニック!!ああ!まずい、くそ!!」

 

リークの声も間に合わず放たれたニックからの攻撃は、復帰したクロトとアズラエル、そしてリーク自身のキャラクターを巻き込んで画面いっぱいに光を照らし、3人を吹き飛ばす。

 

「はっはっはぁ!スカイキーパーの戦況予測を甘く見ないでほしいな!」

 

画面を見ながら高笑いするニックを、悔しがりながら意地になった3人が手を組んで画面外へと追い出していく。

 

そんな光景を見つめながら、イヤホンから宇宙に上がる前に手に入れた新曲のCDを聞くシャニが抑揚のない声で呟く。

 

「みんなバカばっか」

 

「早く終わらせて、映画見ようぜー?」

 

「ーーお前ら、ここが艦長室ということを忘れてないか?」

 

約束通り、リークに買ってもらった映画の順番待ちをしているオルガを横目に、バーフォードは見ていた資料を下ろして呆れたように呟いた。

 

ここはドミニオンの艦長室。アズラエルとリーク、そしてメインパイロットであるオルガたちが、楽そうな格好で無重力の中、思い思いの娯楽を楽しんでいた。

 

「だってしょうがないじゃないですか。ここくらいしか機密性が無いんですから」

 

そう開き直って言うアズラエルの言う通り、ドミニオンの艦内はクラックスのクルーだけではなく、サザーランド指示のもとやってきたブルーコスモスシンパの士官たちが歩き回っているのだ。

 

おそらく、アズラエルの牽制と監視が目的だろう。クラックスのクルー達にも負担をかけているのはわかるが、どうあってもサザーランドはアズラエルに好き勝手動かれたくはないらしい。

 

「お仕置きと称して医務室を封鎖して、事前に録音してた僕らのうめき声をエンドレスで流し続けるって」

 

「そうでもしないと、あの過激派たちは納得しないでしょ?」

 

今頃、医務室の中では音声機器をリピート再生しながらクラックスの軍医がベッドで寛いでいることだろう。もともと、オルガ達はブーステッドマンだ。リークが来る前はそれなりの投薬処置などを行なって、やっとモビルスーツを扱えるレベルになっていたほどだ。

 

オーブの戦闘を見たブルーコスモスシンパたちに、「あれは過剰な投薬の結果で行えた戦闘なんですよ」と説明すれば、誰も疑うことなくその事情を隠れ蓑にすることができた。バレるのは時間の問題だろうが、準備を整えるまでの時間稼ぎにはちょうどいい。

 

「いやこえーよ、普通にこえーよ」

 

「アズラエル理事?」

 

そうにこやかに微笑むアズラエルに恐怖の表情を向ける3人と、目が笑っていない笑顔を向けるリークに、アズラエルは咳払いをして誤魔化した。

 

「んんっ!まぁ冗談は置いておいて、とにもかくにも、今は予定通りアークエンジェルを討ちに行くしかないでしょう?のんびりいきましょうよ。準備もまもなく整いますし」

 

地球軍の虎の子の艦であるドミニオンを手中に収めることができたことで、アズラエルが思い描く計画の八割は条件がクリアされたことになる。

 

あとはL4コロニー群に向かっているであろうアークエンジェルを捕捉できれば、ハルバートンと自分が思い描く計画のほぼ全ての要素が揃うわけだ。

 

「ウィリアム・サザーランド。彼らは宇宙では好き勝手にできないと思い知ることになるでしょうねぇ。僕を出し抜こうとしたツケは尻の毛まで毟り取って払わせてあげますよ」

 

「悪い顔してるなぁ、ホント」

 

ニヤリと笑みを浮かべるアズラエルを見て、可笑しそうに笑うリークに、アズラエルは当然とウインクしながらこう返した。

 

「ーー僕は悪党ですから」

 

 

////

 

 

「久しぶり、と言うのは変かな。エターナル艦長のアンドリュー・バルトフェルドだ」

 

L4コロニー群に向かう航路の中、アークエンジェルとクサナギ、ヒメラギの艦隊に合流したエターナルの中で、ランチで乗艦してきたマリューとキサカ、ハインズにバルトフェルドは気さくな雰囲気の中、敬礼をした。

 

「しかし驚きました。貴方があの船で飛び出してくるとは」

 

バルトフェルドの後ろにはアフリカ時代からの副官であるダコスタや、相変わらず綺麗なアイシャが控えており、その様子を見てマリューも笑みを浮かべる。

 

「そちらも色々あったようだし、お互い様さ。まさか、ザフトの赤服くんたちもこちらにいるとは…メビウスライダー隊もよく守ってくれたな。ありがとう」

 

そんな中、エターナルからクサナギに移ったアスランは、オーブ軍の医務室で応急処置のままだった肩の治療を受けたあと、カガリに連れられてクサナギのドックへやってきていた。

 

「いつも傷だらけだな」

 

「石が護ってくれたよ」

 

右肩を包帯で固定されながら、アスランは首から下げていたハウメアのお守りをカガリに見せるように取り出す。

 

「そっか…良かったな。しかし、あんなもんで飛び出してくるとはね。すごいな、あの子」

 

「ああ…」

 

そう言ってハンガーから眼下を見下ろすと、そこではラクスと再会を喜ぶキラたちがいる。あとでアークエンジェルにも乗船するらしい。

 

「いいのか?お前の婚約者だろ?」

 

ラクスと親しげに話すキラやラリーを見つめながら、カガリは少し微妙な顔つきでアスランにそう言った。

 

そんな様子を見つめながら、アスランもまた困ったような、自分自身に呆れているような顔をしながらカガリを見つめる。

 

「……元、婚約者ね」

 

「え?」

 

「ほら、俺はバカだから…」

 

そう言ってアスランは視線を彷徨わせた。

理由はどうであれ、自分は彼女を疑い、銃口を向けた。好意を抱いていたかと聞かれれば、イエスと答えられるが、父と、ラクスの父であるシーゲルの思惑もあって築いた関係だ。

 

ユニウスセブンで彼女を探していた時も、駆り立てられるような焦りや不安もなかったし、彼女を探すことよりも兵士として戦うことを優先したこともある。

 

そんな自分が、今さら彼女の婚約者だと言い張るのは、ちゃんちゃらおかしいものだと思えた。

 

そんなアスランの様子を見て、カガリはさっきまでの微妙な顔つきを引っ込めて安心したように笑みを浮かべる。

 

「ま、今気付いただけ、いいじゃないか。でも、キラもバカだと思うぞ。うん。やっぱコーディネイターでもバカはバカだ。しょうがないよ、それは」

 

「そうか。そうだな」

 

快活に笑うカガリを見つめながら、アスランも同じように思う。そしてどこか、カガリのような考え方をできたらもっとマシな人間になれていたのではと、感じる思いもあった。

 

 

////

 

 

《各隊、配置に着きました》

 

ドミニオンとは別に、地球から月を経由して上がってきたアガメムノン級艦。予定されていた航路に乗ったその船の中で、数名のパイロットたちはブリーフィングルームに集まっていた。

 

「やれやれ、サザーランドの親父さんも無茶を言う。奴らが化け物だと言うことは早々にわかっていたことだろうに」

 

黄色部隊。

 

ウィリアム・サザーランドが手ずから組織した独立遊撃部隊であり、配備されるパイロットのほぼ全員がエースパイロットであり、ブーステッドマンなどを参考にした簡易的な強化措置を施された半強化人間と言える。

 

その中でもトップナンバーを有する男性パイロットは壁にもたれながら、自身を指揮する愚かな上官への嫌悪感を露わにしていた。

 

「されど、戦わねばならぬだろう。彼らが我々の敵であると言うなら」

 

そう呟くのは、パイロットの中でも年齢が一番上の男だ。彼は強化要素は少ないものの、長年の経験や知識を武器に老練な強さをもつ。

 

「相変わらずだな、お前は」

 

「ここに居る者にブルーコスモスの理念をわかれと言われても、無茶があるのはわかっていることだろ?」

 

そう答える男に、部屋の端にいた黒い長髪を無重力に遊ばせる女性パイロットが静かに頷く。

 

「違いないわね。私たちがここにいる理由はあんな堕落した思惑ではない」

 

黄色部隊に志願したパイロットの多くは、コーディネーターへの憎しみも強いが、それと同じほどに求めているものがある。

 

「強者と戦う。ただそれだけのことよ」

 

《黄色部隊、諸君にミッションを説明する》

 

音声アナウンスとともにモニターが光る。それを見つめて、リーダーであるトップナンバー、ベルリオーズは、傷痕にまみれた体を無重力に浮かばせた。

 

「よし、では行くとしよう。我々が変える、我々の戦争のために」

 

 

 

 

キャラデザイン

  • 他キャラも見たい
  • キャラは脳内イメージするので不要

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