ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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第151話 The Unsung War 1

 

 

 

「コロニーメンデル。港内に戦艦の艦影4です。うち1隻をアークエンジェルと確認!」

 

L4コロニー群に入ってしばらく、低出力の慣性航行をしていたドミニオンのレーダー網が、ついにアークエンジェルやエターナルが座するコロニー「メンデル」を射程に捉えた。

 

「どうやら我々の方が早かったようですね。これはラッキー」

 

艦長席の隣に悠々と座するアズラエルが上機嫌に言うと、捕捉したと同時に低出力航行をしていたドミニオンが一気に活気付く。

 

「総員、第一戦闘配備!現時点を持ってブリッジは完全封鎖!各パイロットはモビルスーツデッキへ!各員、持ち場に付けよ!」

 

なにせ相手はラミアス艦長だ。バーフォードがクラックスでアークエンジェルを護衛していた頃から、彼女は類稀なる艦長としての資質、その頭角を現し始めていた。

 

こちらとしてもアークエンジェルと同等の力を持つドミニオン。うまく立ち回らなければ、討ち取られるのはこちらということもあろう。

 

「さぁ。では、バーフォード艦長。手筈通り始めて下さい」

 

そんなバーフォードに、アズラエルは全幅の信頼を込めてそう告げると、彼も深く軍帽を被って頷く。

 

「オーダー、承知しました。アズラエル理事」

 

バーフォードは座席に設けられた通信用受話器を取り上げ、喉をうならした。

 

「艦長のドレイク・バーフォードだ。本艦はこれより、戦闘を開始する!」

 

その言葉にドミニオンのブリッジに集ったクラックスのクルー達も即座に対応していく。

 

「イーゲルシュテルン、バリアント起動。ミサイル発射管、1番と2番へチャフ、フレアの装填!3番から6番へアンチビーム爆雷!残りはスレッジハマーだ!ゴットフリート、照準!」

 

ドミニオンは船ではなく、個の生命のような連携感に包まれていく。そんな中で、ドレイクは捕捉し、視界の中へと映り始めたコロニーメンデルを見据えながら、静かに、そして力強く言葉を紡ぐ。

 

「目標、アークエンジェル級1番艦…アークエンジェル!」

 

 

////

 

 

「接近する大型の熱量感知!戦艦クラスのものと思われます!」

 

その異変はアークエンジェルにも届いていた。オペレーターであるサイが、コロニーメンデル周辺をスキャニングしていると、その反応は突如としてレーダー網へと現れたのだ。

 

「距離700。オレンジ11、マーク18アルファ、ライブラリ照合…有りません!」

 

「総員、第一戦闘配備!」

 

すぐさまマリューはアークエンジェル艦内へ指示を送る。

 

《総員、第一戦闘配備!繰り返す、総員、第一戦闘配備!》

 

「ええい!こんな時に!」

 

作業と訓練を終えたムウも、さっき出たばかりの更衣室へとんぼ返りすると、脱いだばかりのノーマルスーツへ再び腕を通した。

 

アークエンジェルからの通信を受けて、エターナル、クサナギ、ヒメラギの艦内も慌ただしくなる。

 

フリーダムなどをエターナルに持ち込む作業に当たっていたキラたちは、すぐにノーマルスーツのヘルメットを被った。

 

「ラリーさん!」

 

「おう!出撃だ!」

 

「アスラン!」

 

「ああ!」

 

その返答と共に、各々は各持ち場であるモビルスーツへと無重力の中を泳いでいく。

 

 

////

 

 

「牽制でいい!ゴットフリート一番、てぇ!」

 

バーフォードの指示のもと、ドミニオンから放たれたゴットフリートはアークエンジェル等が停泊する港の外壁に直撃し、補給作業を行う四隻全てに猛烈な揺れを与えた。

 

「怯えないで!まだ敵は当てられる距離じゃないわ!アークエンジェル発進!港の外へ出る!」

 

そんな揺れに動じることなく指示を出すマリューに従って、アークエンジェルは背部のエンジンを点火し、港から大急ぎで深淵や宇宙へと飛び出した。

 

《ラミアス艦長》

 

「そちらの状況は?」

 

繋がった残りの艦艇の艦長たちに、マリューは今の状況を問いかけるが、クサナギ以外は良くない反応を示していた。

 

《ヒメラギは物資搬入中だが、クサナギは出られる。大丈夫だ》

 

《エターナルはまだ最終調整が完了していない!》

 

「分かりました。では港の中で待機を。敵がザフトか連合か分かれば、その狙いも分かります」

 

《解った!すまん!》

 

通信を終えるとマリューも軍帽を被って思いを固めた。今動けるのは自分の船とクサナギだけだ。ここを抜けられれば、こちらの戦力と今後の補給についても後手に回ることになる。消耗戦になると勝ち目はないのは明確にわかっていた。

 

「出航後、取舵20!メンデルと敵艦の間に入る!ナタル!」

 

「イーゲルシュテルン、バリアント、ゴットフリート1番、2番、起動!アンチビーム爆雷展開後、艦尾ミサイル発射管全門へ、ヘルダート装填!」

 

マリューの指示に、副官であるナタルは即座に最適な解を出してCICへ命令を伝達する。もはやこの2人の考えは阿吽の呼吸そのものとなっていた。

 

そんな時、はるか先にいるはずの敵艦から、一本の通信が入った。

 

《こちらは地球連合軍、宇宙戦闘艦ドミニオン。アークエンジェル聞こえるか?》

 

地球軍固定の通信回線。その映像が割り込むと、マリューは息を飲んだ。目の前にいるのは、低軌道会戦のときと変わらない、艦長たる貫禄を持つ人物が映し出されている。

 

《ドミニオン艦長、ドレイク・バーフォード中佐だ。念のためではあるがーー本艦は反乱艦である貴艦に対し、即時の無条件降伏を要求する》

 

「バーフォード艦長…!それにアズラエル理事…ということは」

 

バーフォードの背後には、余裕そうな表情で席に着くムルタ・アズラエルの姿も見える。

 

「例の三機も来てるということか」

 

「艦長、敵艦の光学映像です!これは…アークエンジェル!?」

 

「同型艦か…!」

 

アークエンジェルのクルーたちが、自分たちが乗り込む船と全く同じ姿形をした船が目の前に立ちふさがっていることに動揺している中、マリューとナタルは、狼狽えることなく動ずることなく、落ち着いた顔つきでバーフォードと相対している。

 

《久しぶりだな、ラミアス艦長、バジルール中尉》

 

《バーフォード艦長も、お久しぶりです》

 

真っ直ぐとした瞳で答えるマリューを見たバーフォードは、いい艦長になったなと心の中で感じ取りながら、彼女と同じく被る軍帽の下から青い瞳でマリューを見つめる。

 

《アラスカでのこと、パナマで起こった地球軍の蛮行。その数々を私は聞いている。それは確かに唾棄すべき事実だ。このまま討って討たれる戦いを続けても、我々地球にもプラントにも先行きはない》

 

その言葉に、ブリッジの外に追い出されているブルーコスモスシンパである士官たちが騒いでるように聞こえたが、バーフォードは無視を決め込み、ドミニオンのクルーも同じような態度だった。

 

あーあー、言っちゃいましたねぇ。そう小さく笑うアズラエル。こういう場面に来た以上、こちらのシナリオはすでに完成したのだ。ここでサザーランドが寄越した士官たちが反抗をしようが、船をハイジャックしようと奮闘しようが関係はない。

 

自分たちがこの場に来て、アークエンジェルやエターナルと合流できた時点で、何もかもが完結したのだ。

 

「バーフォード艦長」

 

そんなことを考えるアズラエルを尻目に、映像の向こう側にいるバーフォードへ、マリューは真剣な眼差しを注ぎ、意を決したように前を向く。

 

「私達は、地球軍ーーいえ、この戦争そのものに対して疑念があります。よって降伏、復隊はありません!」

 

そのマリューの言葉を聞いて、アズラエルは思わず堪えようとしていた笑いを漏らした。

 

《あっはっはっは。思い切りが良すぎて呆れますね、艦長さん。気に入りましたよ》

 

さすがはバーフォード艦長が見込んだ人物だ。そう言ってアズラエルは足を組み直して映像に映るマリューを見つめる。

 

《言って解ればこの世に争いなんて無くなりますよ。だから、こちらとしても確かめねばならないことがあるのです。言っても解らずに破滅に向かおうとするバカな人たちを止めるためにね》

 

そうだとも。言ってわかればそもそも戦いも、戦争も成立しない。人という種族がそれに長けていたなら、今頃外宇宙へ進出して新たなる進化を模索する、そんな偉大な種族になれていたかもしれない。

 

しかし、それは叶わないものだとアズラエルは諦めかけていた。そんなことは無理だ。人は進歩しない。技術は進歩しようが、人のあり方、醜さ、獰猛さは、旧世紀からも、石器時代からも一ミリたりとも進歩しない愚かで矮小な種族であると。

 

そんな諦めの中で、アズラエルはメビウスライダー隊を見た。

 

その力と光は、アズラエルの諦めていた心に火をつけた。その火は小さいものであったが、たしかにアズラエルを変え、今では自身のコンプレックスすら乗り越えさせる大きな炎となったのだ。

 

《僕が持てるすべてのチップを賭けるに値するかどうか。手札の強さは一度は確認しておかないと》

 

故にアズラエルは慢心せずに、慎重に事を進めるシナリオを選んだ。急ぎすぎて良いことなどないのはわかっている。だから、アークエンジェルを見定めるという結論に至ったのだ。

 

《リベリオン、カラミティ、フォビドゥン、レイダー、メビウス隊、発進》

 

そう静かに命令を下すバーフォード。そんな彼の隣で、アズラエルはにこやかに微笑んだ。

 

《さて、ラミアス艦長。あなたの素質をここで見極めさせてもらいましょう》

 

 

////

 

 

「メビウスリーダーよりスカイキーパーへ、これより発艦準備に入る」

 

《了解した、メビウス隊は機器のチェックを実施してくれ》

 

アークエンジェルとはレイアウトが変更されたモビルスーツハンガーの中で、リークは宇宙用の装備へ換装したリベリオンのコクピットからあたりを見回していた。

 

「メビウス1から各機へ!今回は単純なモビルスーツ、モビルアーマーとの戦闘になる!各員は予定通りに!」

 

「了解!」と、担当するモビルスーツへ乗り込むオルガたちが返事をする。そんな中、ハッチが開け放たれたフォビドゥンのコクピットからシャニが乗り出してきて、リークへ通信を飛ばす。

 

「兄ちゃん、落としちゃった場合は?」

 

「コクピットはなるべく避ける方向で!」

 

その答えに満足したのか、シャニも素早くコクピットへ体を放り込む。たしかにこちらも充分に力を養ってきたつもりだが、相手はラリーとキラたちだ。一筋縄ではいかない。

 

彼らを地に着かせることができたら、オルガたちにとっても大金星と言えるだろう。

 

「オーブでは引き分けみたいだったからな、ここらで白黒はっきりさせようじゃないの」

 

そう息巻くオルガの言葉に呼応するように、AWACSを担当するニックから通信が帰ってきた。

 

《スカイキーパーよりメビウス隊へ!進路クリアー、メビウス隊、発進!どうぞ!》

 

「では、行こうか。メビウスリーダー、リーク・ベルモンド、リベリオン、発艦します!!」

 

「オルガ・サブナック、メビウス1、カラミティ、おらぁ!!行くぜぇ!!」

 

「クロト・ブエル、メビウス2、レイダー、発進!とりゃああああ!!」

 

「シャニ・アンドラス、メビウス3、フォビドゥン、出るよ」

 

アズラエルが育て、アズラエルが手に入れた流星が、ドミニオンから飛び立っていく。

 

さて、この戦いで真価がわかる。自分の憧れたものにどれだけ近づけたか、はたまたまだ遠いのか。アズラエルは飛び立っていくメビウス隊を見送りながら、純粋な楽しみを心に描き、その行く先を見つめた。

 

 

////

 

 

《ドミニオンより、モビルスーツ発進しました!》

 

《進路クリア!メビウスライダー隊、発進!どうぞ!》

 

レーザー通信でアークエンジェルからエターナルへ送られてくるサイとミリアリアの言葉に応じて、メビウスライダー隊も発進準備を整えていく。

 

「キラ!先に行くぞ!ライトニング1、ラリー・レイレナード、ホワイトグリント、発艦する!」

 

両腕と両足の装甲をなくし、わずかに軽量化と戦闘能力を向上させたラリーのホワイトグリントが、ビームライフルを二丁携えてエターナルから飛び立っていく。

 

「バルトフェルドさんたちは補給を急いでください!ライトニング2、キラ・ヤマト、出撃します!」

 

キラのフリーダムに続いてカタパルトへ運び込まれたアスランのジャスティス。コクピットでモジュール調整を行うアスランへ、クサナギにいるカガリから通信が入った。

 

《アスラン!お前は病み上がりなんだから、あまり無茶はするなよ!!》

 

「わかっているよ、ライトニング4、アスラン・ザラ、ジャスティス、発進する!」

 

ガシュ!と電磁レールが滑りカタパルトと共にジャスティスが射出される。

 

アークエンジェルでもモビルスーツ出撃用ハッチが開くと、すでに待機していたムウのストライクが射出位置へと運び込まれて来た。

 

《電磁圧、パワーフロー正常。ストライク、発進どうぞ!》

 

「よっしゃあ!グリフィス1、ムウ・ラ・フラガ、ストライク、いくぜ!」

 

ミリアリアのアナウンスに従って飛び立っていくムウのランチャーストライク。それを見届けてから、マリューは振り返りながら通信を担うクルーへ問いかける。

 

「他の部隊は!?」

 

「アンタレス隊、ガルーダ隊のアストレイは宇宙用の調整がまだ終わっていません!バスターとデュエルは出られます!」

 

メンデルの港の中で搬入作業が続けられる中、モビルスーツデッキからイザークのデュエルと、ディアッカのバスターがカタパルトへ搬入されていく。

 

「ヒメラギ!ガルーダ隊、発進するぞ!」

 

《お願いします!ジュール隊長!ガルーダ隊!ガルーダ1、ガルーダ2、発進してください!ハウメアの加護があらんことを!》

 

がしゃん、とデュエルの足がカタパルトへ連結し、発進シークエンスを示す青と赤のランプの全てが青く輝いた。

 

「よぉし!偵察に出ているニコルが帰って来る場所を守るぞ、ディアッカ!ガルーダ1、イザーク・ジュール、デュエル、出るぞ!」

 

「オーライ!ガルーダ2、ディアッカ・エルスマン、バスター、出るぜ!」

 

ヒメラギから発進した二機も、先行するラリーたちの後を追うように出撃したアークエンジェルの後を追いかけていく。

 

「ライトニング隊以外はアークエンジェルとクサナギの援護を!」

 

「ラリーさん、アスラン、あの3機だ!」

 

「わかっている!」

 

コロニーメンデル。

 

そこで行われようとしている歴史に残らない激戦の火蓋が、切られようとしていたーー。

 

 

 

キャラデザイン

  • 他キャラも見たい
  • キャラは脳内イメージするので不要

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