ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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第159話 人の夢ー人の業ー。

 

 

 

「何だここは?」

 

先に行ったラリーについて行く形となったムウとキラは、軍事訓練で培ったクリアリングと周辺警戒を怠らずに施設内を進んでいく。

 

外側の廃墟は酷いものであったが、中はほぼ手付かずのまま放置されているという、なんとも不気味な空間だ。

 

ジャリ、とムウが何かを踏みつける。足元を見ると、何か濁った液体が入った試験管が、自分が踏んだことによって、どろりとその液体を地面へ染み渡らせていた。

 

そのまま奥へたどり着く。そこは通路とは違っていて、何かをモニタリングするための施設のようだった。その奥側に耐圧仕様のノーマルスーツを脱いだクルーゼが、逃げも隠れもせずに悠然と立ちはだかる。

 

「懐かしいかね?キラ・ヤマト君。君はここを知っているはずだ」

 

クルーゼの穏やかな声が、人気のない施設ないに響き渡る。その言葉を理解したキラが、戸惑ったように思考を鈍らせる。なんだ?何を言ってるんだーー?

 

「知っている?僕が…」

 

その瞬間、クルーゼは片手に持っていた銃を真上に上げて、何の脈絡もなく一発の弾丸を頭上へと放った。条件反射で咄嗟に物陰に身を隠すムウとキラだったが、先に到着していたラリーは逃げる様子も見せずにクルーゼを見つめていた。

 

「ちぃい!」

 

「ムウさん!大丈夫ですか!?」

 

天井に当たった弾丸は跳弾し、クルーゼのすぐそこを掠めて音を響かせる。その様子を見て、クルーゼは残念そうに真上に向けた銃口を下げた。ここで死ねなかったのだ。ならばーーと彼は口を開く。

 

「殺しはしないさ。せっかくここまでたどり着いたのだから。ーーこの場所で生まれたすべての者たちと、切っても切れない因縁を持つ君たちに、全てを知ってもらうまではね」

 

そうして、クルーゼはもう片方の手に持っていた写真立てを、ムウが隠れている物陰の裏に投げ込む。手榴弾かーーと身構えたムウは、ちょうど表が向く形で落ちた写真を見つけて驚愕する。

 

「ーー親父!?」

 

「ムウさんの…お父さん?」

 

そこに写っていたのは、若かりし頃の父親の写真だ。何故こんなものが宇宙の、それも廃棄され、廃墟となったこの施設にあるんだ?そんな疑問がムウの中で沸き起こって行く。

 

「ムウ・ラ・フラガ。君も知りたいだろう?人の飽くなき欲望の果て、進歩の名の下に狂気の夢を追った、愚か者達の話を。君もまた、その息子なのだからな」

 

そこにとどめを刺すように言葉を紡いだクルーゼに、ムウもキラも、彼の語る言葉を聞くしか無くなった。

 

「ここは禁断の聖域。神を気取った愚か者達の夢の跡」

 

銃を机に置いたクルーゼは、寂れた机を指先でなぞる。埃は溜まらない。コロニーの管理はまだ行われているからだ。こんな偽りの世界で、偽りの箱の中で、彼はーー本物を目指したのか。

 

「キラ・ヤマト君。君は知っているのかな?今の御両親が、君の本当の親でないということを」

 

「えっ…?」

 

「貴様!何を…」

 

ムウが立ち上がろうとした瞬間、置いていた銃を素早く取って、再びムウたちとは違う明後日の方向へ銃弾を放つ。それはラリーの横を掠めて、施設の奥底へと反響していった。再び物影に隠れたムウを見て、クルーゼはそれでいいと微笑む。

 

「ーーだろうな。知っていればそんな風に育つはずもない。何の影も持たぬ、そんな普通の子供に。アスランから名を聞いた時は、想いもしなかったのだがな。君が彼だとは…」

 

アスランから聞いたストライクのパイロットの話。あの時はラリーに夢中で、さして興味も止めなかったが、まさか彼がそうだったとは。

 

ラリーと言い、キラと言い、つくづく自分の運命というものは神に嫌われているようだ。叶うなら、今すぐにでも頭に銃を突きつけて、死んでしまいたいほど惨めな気持ちにもなる。

 

「ああ。てっきり、このメンデルが破壊された時に死んだものだと思っていたよ。特に君はね。その生みの親であるヒビキ博士と共に、当時のブルーコスモスの最大の標的だったのだからな」

 

「な、何を…言って…」

 

「だが君は生き延び、成長し、なんの因果か戦火に身を投じてからも、尚存在し続けている。何故かな?」

 

戸惑うキラの声など知ったことかと言わんばかりに、クルーゼは言葉を続ける。それに向き合うラリーは何も言わなかった。

 

何も言わない。そうだとも。ラリーは何も言わないと決めていた。

 

クルーゼには、その資格があると、独断と偏見ではあるが、ラリーはそう思ったからだ。世界を裁くなんていう大それた権利はないが、ここで吐き出す権利はクルーゼにはある。

 

キラ自身も、ムウ自身も、それを知る義務と責任もある。知らなければいい。そんなものを知っても二人を苦しめるだけだとも思う。

 

だが、二人は奇しくも、この場にきた。

 

そしてクルーゼがここにいる。

 

それだけでも、二人には知る義務があるはずだ。

 

黙っているラリーを見て狂気に満ちた笑みを浮かべながら、クルーゼは声を発した。

 

「それでは私の様な者でも、つい信じたくなってしまうじゃないか。彼らの見た狂気の夢をね!」

 

「僕が…僕が何だって言うんですか!?」

 

「キラ!!」

 

銃をまるで祈るように抱えて、キラは叫んだ。何を言ってる?何を知っている?この男はーー自分の何をーー一体何をーー!!

 

「貴方は僕の何を知ってるんですか!!」

 

「ーー知っているさ。何もかも、すべてを」

 

キラの慟哭に似た叫びに、クルーゼは笑みを収めて、水を打ったような静けさを孕んだ音色で言葉を綴る。

 

「君は人類の夢、最高のコーディネイター。人間種が想像できる最高峰の生命体」

 

あるいは人の夢。

あるいは科学の叡智。

あるいは神を超えた存在。

 

あるいはーーー人の業。

 

「そんな願いの下に開発され、ヒビキ博士の人工子宮によって生み出された唯一の成功体だ。数多の兄弟の犠牲の果てにね」

 

見たまえ。そう言ったクルーゼが照らした先。そこにはおびただしい数の培養槽と、何かが液の中に沈んでいる。照らされたモニターには人のような何かが映し出されており、そして…それが生きていることを証明する情報がモニターに表示されていてーー。

 

キラは突如として嘔吐感に見舞われて口元を手で覆い、その場に崩れ落ちた。

 

「キラ!キラ!おい!しっかりしろバカ!奴の与太話に飲まれてどうする!」

 

ムウの声も、キラには届かなかった。

 

ずっと思っていた。ずっと疑問だった。ずっと感じていた。

 

孤独。疎外感。違和感。何かが外れてしまっている感覚。何かがズレている感覚。

 

なぜ両親は自分を月へ、ヘリオポリスへ送り出したのか。なぜ、両親と会う気が起きないのか。なぜ僕はーーーストライクに乗ったのか。

 

培養槽に浮かぶアレを見て、キラの中で何かが繋がった気がした。今まで目を向けなかった自身の根源と、何かがーーー繋がったような気がした。

 

 

////

 

 

「キラまで…遅すぎる。ラクス!」

 

ジャスティスのコクピットの中で落ち着きがない様子で言うアスランは、急かすようにエターナルに戻ってきたラクスへ声を投げた。だが、帰ってきたのは自分の望むものとは異なるものだった。

 

「認めません。アスランは指示があるまで待機していて下さい」

 

「しかし…!レイレナード大尉を含めて、全員が戻ってこないと言うのは…」

 

「ならば尚のことです。これ以上迂闊に戦力は割けません。あの部隊からの攻撃もいつ再開されるか…分からないのです」

 

そう淡々というラクスに、アスランは冷たさを感じた。キラに…フリーダムに何かあったら…そうやって逸るアスランの心がある。この心に従うべきなのか?そんなことを思った時、モニターに映るラクスの手の様子に気がついた。

 

赤い。肘掛けに赤い何かが伝っているのが見える。ラクスは爪が皮膚に食い込むほど、握りしめていた。

 

「例え…例え、キラ達が戻らなくても、私達は戦わねばならないのですから」

 

そう言って前を見据えるラクス。彼女は忍耐強い。耐え忍ぶ力が一人よりも少し強いだけで、心は少女となんら変わりない。必死に、自分の心を律しているのだ。

 

今にも探しに行きたい心を押し殺して、キラが戻ってくるのを信じている。たとえ帰ってこなくとも、キラやみんなが望んだ明日を手に入れるために戦う覚悟を持っているのだ。

 

「ラクス…」

 

キラは言った。アスランはここに残ってみんなを守ってほしいと。

 

ならば、それに従おう。

 

アスランはそれ以上、何も言わずにただじっと目の前に広がるモニターの映像を見据えるのだった。

 

 

////

 

 

「ラリー・レイレナード。私は、私の秘密を今、君に明かそう」

 

クルーゼはそういうと、顔を覆い隠していたマスクをなんの躊躇いもなく脱ぎ捨てる。その姿を見たムウは驚愕した。

 

青い瞳。顔つきは自分よりも年上のように見えるが、あまりにも似ている。

 

自分にーーそれに若かりし頃の父に。

 

「私は人の自然そのままに、ナチュラルに生まれた者ではない。受精卵の段階で人為的な遺伝子操作を受けて生まれた者だ」

 

淡々と自分の生い立ちを話し始めるクルーゼに、ラリーは動ずることなく彼が発する言葉の全てを受け止めている。マスクを机に置いたクルーゼは、コツコツと足音を奏でながら、培養槽が浮かぶ部屋を一望できる窓際へと歩んだ。

 

「人類最初のコーディネイター、ジョージ・グレン。奴のもたらした混乱は、その後どこまでその闇を広げたと思う?」

 

ガラスに手を当てて、クルーゼはまるで多くの人へ問いかけるような声で。

 

「あれから人は、一体何を始めてしまったか知っているのか?」

 

静かにそれを口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目はブルーがいいな、髪はブロンドで…

 

子供には才能を受け継がせたいんだ…

 

優れた能力は子供への未来の贈り物ですよ

 

流産しただと!?何をやってたんだ!せっかく高い金をかけて遺伝子操作したものを!

 

妊娠中の栄養摂取は特に気を付けて下さい。日々の過ごし方もこの指示通りに…

 

完全な保証など出来ませんよ。母胎は生身なんですし、それは当然胎児の生育状況にも影響します

 

目の色が違うわ!

 

なんだ!才能なんてないじゃないか!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだとも。ここはサンクチュアリ。人を金で買えることが可能だった世界」

 

自分で言葉にするだけでも反吐が出そうだ。クルーゼはガラス面に接する手を握り拳にしていき、その表情をしかめさせて行く。

 

「生まれてくる命に高い金を出して手を入れて、買った夢だ。誰だって叶えたい。誰だって壊したくはなかろう?」

 

金、金、金。

 

欲望のまま、願いのまま、理想を追い求めて、理想に陶酔して、そして夢は叶う。人の夢は叶うと業の炎へ薪をくべて行くーーー。

 

そして人は、ついに手を出してはいけない領域へと踏み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最大の不確定要素は、妊娠中の母胎なんだ…。それさえ解消できれば…

 

3号機、エマージェンシーです!

 

くそ…っ!濾過装置のパワーを上げろ!

 

心拍数上昇、血圧200を超えます。これ以上は胎児が危険です!

 

もう止めて!あれは物ではない!命なのよ!?

 

解っている。だからこそ完成させねばならないんだ!

 

命は産まれ出るものよ!創り出すものではないわ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人は何を手に入れた?その手に、その夢の果てに、人は何をやったんだ?!」

 

全てが手に入る。全て。命も魂もあり方もーーー人という全てを手に入れ、好きに作り替えられると勘違いした愚か者たちが辿った末路。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嘘つき!嘘つき嘘つき嘘つき!!!!

 

返して!あの子を返して!返してよ!!もう一人の…!

 

私の子供だ!最高の技術で、最高のコーディネイターとするんだ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして銃声は鳴り響く。

人が人であらんとするために。

 

それを盾にして、人を縛る愚かな思想を引き下げて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

青き清浄なる世界の為に!

 

青き清浄なる世界の為に!

 

青き清浄なる世界の為に!

 

青き清浄なる世界の為に!

 

青き清浄なる世界の為に!

 

青き清浄なる世界の為に!

 

青き清浄なる世界の為に!!!

 

アオキセイジョウナルセカイノタメニ!!!!

 

コーディネーターヲホロボセ!!!!!

 

異教徒ヲ弾圧セヨ!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーー知りたがり、欲しがり、欲という泉を掘り進めることによって、人は、やがてそれが何の為だったかも忘れ、命を大事と言いながら弄び殺し合う」

 

そうしてこの聖域は終わりを迎えた。人が人の枠を越えようとした結果。人が断罪したのだ。その愚か者たちを。まるで数百、数千年前に起こった異教徒の断罪をするかのように。

 

偶像的な神という愚かで矮小な存在を信仰するが故にーーー。

 

「まったくもって最高だな!最低で!最悪で!命を弄ぶ底辺のゴミ屑ども!何を知ったとて!何を手にしたとて変わらない!何百年も前から、人は、何も学ばず、前にも進めず!!私も、世界も、人と言う存在は度し難い!!」

 

そう言って地獄の釜の底から響き渡る笑い声を上げるクルーゼは、その青い目を物陰から立ち上がり、こちらを茫然と見つめているムウへと向ける。

 

「さて、この顔を覚えてないかな?ムウ」

 

そう。まるで遠い昔に分かれた友に語りかけるように言うクルーゼに、ムウは息を飲んだ。誰だコイツはーーー俺は、コイツを知っているのか。

 

「私と君は遠い過去、まだ戦場で出会う前、一度だけ会ったことがある」

 

「ーー!?」

 

その言葉に、既に捨てたと思っていた幼い頃の記憶がムウの思考を駆け巡る。

 

 

ほんとにこれが私かね?

 

まあいい。兎も角あとはこれに継がせる。あんな女の子供になど…しっかり管理して教育しろ。あのバカの二の舞にはするなよ

 

旦那様と奥様がまだ中に!

 

父さん、母さん…!!

 

 

 

 

燃え盛る家。助けることもままならなかった両親。自分を人としても見てなかった父親。

 

そして向かい合った。同じ顔をした自分ーーー。

 

「ふふふ…はっはっはっ!!私はね、ムウ。己の死すら、金で買えると思い上がった愚か者である貴様の父ーーーアル・ダ・フラガの出来損ないのクローンだ」

 

カラン、とムウの手から銃が滑り落ちた。

 

 

////

 

 

「コロニーメンデルの外周部にナスカ級が3隻…これでは先に動いた方が不利です」

 

辺りをサーチしたナタルは、アークエンジェルへ視察しに来たアズラエルに簡潔に今の状況を伝えたが、アズラエルは眉を片方上げて不満そうに顔をしかめる。

 

今頃ドミニオンは、ブルーコスモス派の士官たちが救援艇に押し込まれている頃合いだろう。こちらの行動目標が筒抜けになっても困るし、使えないチップを手元に置いておくほど、アズラエルも愚かではない。

 

抵抗せずに働いてくれれば文句はないが、それは難しいだろう。適当な宙域で放り出せば、運良ければ誰かに拾ってもらえるはずだ。

 

「無理を無理と言うことくらい誰にでも出来ますよ。それでもやり遂げるのが優秀な人物。これ、ビジネス界じゃ常識なんですけど?」

 

「ここは戦場です。失敗は死を意味します」

 

「ビジネス界だって同じですよ。貴方ってもしかして、確実に勝てる戦しかしないタイプ?」

 

グサっ、とナタルの心情をアズラエルは容赦なく打ち抜いた。たしかに確実な戦術の方が好きではあるし、消費を少なく利益を上げることは大切。それはビジネスにも言えることだ。

 

しかし、それはこちらが安定的な状態にある時だけだ。

 

「それもいいですけどねぇ。ここって時には頑張らないと勝者にはなれません。ずっとこのままじゃいられないんだ。時間はもう無い。指を咥えてプラントが核の炎に焼かれれば、いよいよもってどちらかを滅ぼすしかなくなる」

 

なによりアズラエルのビジネスマンとしての勘が囁いている。今動かずしていつ動くのか。ここを逃してチャンスはいつ来るのか?

 

「だから、私たちは行くんですよ。虎穴に入らずんば虎児を得ずってね」

 

もともと目に見えない明日を得るための戦いなのだからね。とアズラエルは続けて言った。

 

勝てて当然の戦いではない。不確定で不安定で不安要素満載の戦いだ。だから楽しい。だから心が躍る。ビジネスマンとしての血が騒ぐ。

 

そうだとも。僕は負けたことがない。いつだって勝ってきた。

 

だから、今回も勝たせてもらうさーーーこの一世一代の大博打をね。

 

 

////

 

 

「親父のクローンだと!?そんなおとぎ話、誰が信じるか!」

 

「私も信じたくはないがな。だが残念なことに事実でね」

 

声を荒げて反論するムウの言葉を、クルーゼは真っ向から否定した。

 

「まったく、愚かだよ。君も私も。あの男の幻影に惑わされ続けた結果がこのザマだ」

 

プラントに流れ着き、復讐のためにこの醜い罪の証のような体を引きずって戦って、戦って、戦ってきた。何度憎んだことか。何度憎悪に飲まれたことか。

 

「この果てしのない欲望にまみれた世界で生まれた私にはーーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなこと、どうでもいい」

 

 

 

 

 

 

 

クルーゼの言葉を、切って捨てたのは

 

ラリーだった。

 

「そんなこと、どうでもいいんだよ。クルーゼ」

 

重ねて、まるで言い聞かせるような、論するような口調で、ラリーはクルーゼの言葉に、言葉を重ねて行く。

 

「ラリーさん…?」

 

ラリーの澄んだ声に吐き気がおさまったキラは、弱々しい目で悠然と立ち、クルーゼを見据えるラリーを見つめる。

 

「お前は、ラウ・ル・クルーゼ。こいつはキラ・ヤマトだ。それ以上でもそれ以下でもない」

 

その言葉を聞いて、キラはいつか言われたリークの言葉を思い出した。

 

〝ここは君だろう?〟

 

そう胸に親指を押し当てて言うリーク。そうだ。そうだった。この人たちの前には、何もかもーー。

 

「クローン?最高のコーディネーター?それがどうした。それがなんだ。そんなもん、俺にとってクソほどの興味もないし、お前に対する感覚も感情も何も変わらん」

 

そう言ってラリーは銃を投げ捨ててクルーゼに向かって歩み出して行く。

 

「たしかに過程はクソだ。だが、すでにお前はお前で、キラはキラだ。そこで生まれた思想も、考えも、気持ちも、感情も、人間性も、すべてはここで決めたお前たち二人のものだ」

 

グローブを外して、バイザーにヒビが入ったヘルメットも床に投げ捨てて、ラリーは声を絶やさずに歩む。

 

「生まれ?出生?そんなものどうでもいい。心底どうでもいい。心の底から興味も湧かん。お前がお前である限り、ラウ・ル・クルーゼが、ラウ・ル・クルーゼである限り、そんなこと些細なこと以下だ」

 

「ーーそうだな。私もそう思う」

 

そんなラリーに呼応するように、クルーゼも銃を床に放り投げて歩み寄るラリーに向かうように足を進め始めた。

 

「私は憎んだ。こんな世界を。欲望に思い上がり、命を大事にと言いながら命を弄ぶ、嘘に塗れたこの世界が、憎くて憎くて仕方がなかった」

 

憎しみに突き動かされ、憎しみに育てられ、そして憎しみに浸かりきった心。それを引きずり続けてきた。

 

「故に思っていた。私には唯一、この世界を裁く権利があると」

 

そうして、ラリーとクルーゼは互いに目の前に立ち尽くす。もう一歩歩けば相手に触れるような距離だ。

 

「だが、今はそんなこと!どうでもいい!どうでもいいのだよ!!」

 

クルーゼの咆哮とともに、二人はまるで息を合わせたように握った拳を振り上げ、振りかざし、振り子のように体をバネにしてーーー互いの頬を殴打で撃ち抜いた。

 

「ぶっーーーぐっ…!!見たまえ、キラ・ヤマト君!人の夢を超える存在を!ヒビキ博士が抱いた夢など、所詮は人の想像力の限界でしかない!!」

 

落ち着いた老を刻む顔つきからは想像できないような水々しい若さ。それに満ち溢れた顔つきで、クルーゼは口や鼻から鮮血を撒き散らしながらキラに向かって叫んだ。

 

「そんなもの本物ではない!紛い物だ!それが限界だと感じていた私の絶望も!スーパーコーディネーターなんていう夢も!!人が本物たる存在を夢見た幻想だ!!それを超えずして何が最高の存在か!!」

 

もう一度、振りかぶって拳を打ち、振り抜く。ガゴン、と鈍い音が鳴り響き、二人の顔は首振りおもちゃのように跳ね上がる。

 

「がっーーーー!!…っ!!私はここにいる!!ラウ・ル・クルーゼという一人の人間として!!」

 

殴る。殴る。殴って叫ぶ。クルーゼの様子はまるでおもちゃで遊んでいるかのような、純粋に戦いに興じる目をしていた。

 

「アル・ダ・フラガのクローン?そんなものではない!断じて!!私は私だ!!私だ!!そうだろう?!ラリー!貴様を殺す人間として、私はここにいる!!」

 

「そうだ!俺が貴様を殺す!俺しかお前を殺せないのなら!!」

 

クルーゼと同じほど、鼻や口、切れた頭から血を流しながら、ラリーもクルーゼとの拳の応酬を止めようとしなかった。同時だったものは、順序がつき始め、ラリー、クルーゼ、ラリー、クルーゼ、殴って殴られてを繰り返して行く。

 

二人の立っている床には鮮血がばらまかれて行く。

 

「ああ!私も君を殺そう!!私以外が殺すなんて認めん!!認めてたまるものか!!」

 

そう叫んで、クルーゼはラリーのノーマルスーツの襟首へ指を滑らせ掴み上げる。

 

「ああ!そうだ!!そして!!ここで満足して死ね!ラウ・ル・クルーゼェエ!!」

 

ラリーも負けじと鮮血で染まったクルーゼの襟首を引っ掴んで、互いに握り拳を掲げる。

 

「君こそ、ここで殺してやろう!!私のこの手で!!ラリー・レイレナードォオーー!!」

 

二人の拳が交差し、互いの顔に拳が叩き込まれたタイミング。キラたちの頭上で、その鈍い音を打ち消すほどの轟音が轟いたーーー。

 

 

 

 

 

キャラデザイン

  • 他キャラも見たい
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