爆音が響く。
鉄が打たれたように響く。
鉄と錆で覆われていたコロニーが激しく揺さぶられ、茶色い粒子と化した残留物が辺りに舞い上がり、その上を飛ぶトールの視界を酷く遮っていた。
「隊長!レイレナード大尉!キラ!くっそー!!コロニー内では通信はダメか!」
爆音は壁面内で轟いているが、あきらかにこちらに向かって近づいていていることを、トールは直感で察知していた。最初はラリーとクルーゼの戦いで破壊された箇所が崩落したかと思ったが、その破砕音は規則的に響き続け、移動している。
施設に入ったまま連絡が取れなくなったキラたちに伝えようと、トールは何度か通信を試みたものの、結果は音信不通。
舞い上がった残留物が、Nジャマーに加えて高精度レーザー通信すら阻害するチャフのような働きをしてしまっていた。
ただでさえ錆が反響して、コロニー外にいる艦船との通信すらままならないというのにーー。
「アークエンジェルにも繋がらない…くぅっ!!」
突如として外壁から走ったビームの閃光を、トールは鋭く機体を旋回させて躱した。外壁から空気が抜けることによってできた人工的な気流を見極め、宇宙用の機体であるメビウスを難なく気流へ乗せて、ふわりとした挙動で機体を操る。
『ほう、今のを避けるか。面白い…行くぞ!』
その無動力で舞い上がったトールのメビウスを、突き破った外壁の淵から見上げる機体。
黄色部隊のオルレア。
前回の戦闘で破損した片腕にビームライフルを無理やり装備した彼女の機体は、健在な大型ビームブレードを展開して、攻撃を躱したトールの元へと殺意を剥き出しながら降下してくる。
「ちぃい!!こんなところに!!なんであの新型がぁっ!!」
まさかコロニーの外壁部に空いた穴から侵入してくるとはーー!!トールは装備したシュベルトゲベールにエネルギーを供給し、両翼に備わるバルカン砲を展開する。
一眼でわかる敵の近接戦闘武装。
前回の戦いの記憶。
前は宇宙空間での戦いであったが、ここは閉鎖的なコロニー内部だ。近接戦闘を行う向こうからしたら格好のフィールド。
加えて、こちらがビーム兵器をバカスカ使えばコロニーに深刻な被害を出すことを、トールはよく理解している。
迂闊に攻撃をすれば、施設からまだ出ていていないキラたちが無事で済まない。
『戦場の摂理ならば…私を興じさせて見せろ!流星!!』
そんなトールの心配を汲み取ったのか、オルレアは突入用に使っていたビームライフルを下ろして、シュベルトゲベールを構えるメビウス・ハイクロスへ、ビームブレードを振りかざしながら突貫していくのだった。
////
「良かったのですか?クルスト隊とオルレアを残して」
黄色部隊の母艦、シンファクシの中で副官がそう問いかけてくるのに、ホアキンは緩やかな笑みを絶えさぬまま答えた。
「構わんよ。どうせ彼女たちは性能実験用のモルモット。正規のエクステンデッドと比べれば出来損ないさ。それに中破した機体を復旧するより、応急処置だけして戦場に投入した方が、遥かに安上がりだ。力は温存しておくのが常さ」
エクステンデッド。
アズラエル財団がもたらしたブーステッドマンの技術を応用した、強化人間による生体CPU。
薬物投与や外科手術、幼少期からの訓練などを施した兵士。だが、アズラエル財団のブーステッドマンは致命的な精神的問題があり、コミュニティや連携など取れたものではなかった。
そこで、エクステンデッドを発案し、それを主導するロゴスのロード・ジブリールは、精神的な安定性を保つため、「ゆりかご」と呼ばれるシステムを提唱。定期的な記憶の操作が行われることにより、ブーステッドマンに比べてコミュニケーション能力にも優れ、個体同士の連携を行えるようになっていた。
唯一の成功例は、現行のカテゴリー1であるシュープリスこと、ベルリオーズだけだが。
記憶を操作するという技術は並大抵のものではない。アズラエル財団の特定の条件を記憶に付け加える技術とは根本的に違っていて、脳内に特殊なパルス信号を流し、電圧を駆使して脳の中身を都合のいいように書き換える。
そしてそれには、想像を絶する苦痛が伴うのだ。実験体はことごとく廃人。もしくは自身の過去を失い、人格そのものが変わってしまうケースも相次いだ。
その残骸が、黄色部隊だ。今戦っているオルレアも過去を失った被験体にすぎない。データを取る上では十分な戦いをしてくれた。
ホアキンは爆発が起こるコロニーメンデルを見つめながら、卑しく頬を歪める。
「さて、ボアズへの侵攻も始まる。我々には我々の果たすべき責務があるさ。なに…ブリキの兵士でも、少しくらいなら足止めもできよう」
////
港に停泊しているのは、アークエンジェルやドミニオンだけじゃない。オーブのクサナギやヒメラギ、ザフトのエターナル。
加えて、第八艦隊の艦隊や、地球軍の暴虐やプラントの暴走を止めるために集まった同志による勇士艦隊が駐留しており、コロニーメンデルの港は大規模な軍港と言っても間違えではなかった。
「艦長!!前方より熱源多数!これはーーモビルスーツです!!」
メンデルに裏側から突入したオルレアとは違い、駐留する艦隊に向かって無謀にも向かってくるのは、ホアキンや黄色部隊によって「足止め」として切り捨てられたダガー隊だ。
「総員、第一戦闘態勢!キラくんたちは?!」
「まだ連絡も…コロニー内の磁気嵐では…!」
観測する微細なデータからでも、コロニー内で何かしらの戦闘が行われているのは明白だった。微細な振動ではあるが、コロニー内壁から港にまで伝わってくる振動だ。内部では苛烈な戦闘が継続しているはずだ。
「トール!返事をして!キラ!少佐!大尉!」
「呼びかけ続けろ!他部隊は迎撃!パイロットは出撃だ!」
CICの指令座席に座ったナタルも指示を出すと、待機していたアスランが向かってくるダガー隊に向けて発進し、レジスタンスのメンバーも補給を終えた者たちから出撃していくのが見える。
そんな中、アークエンジェルよりも前に出ていたクサナギを指揮するキサカから連絡が届いた。
《ラミアス艦長!アークエンジェルとドミニオンは補給がある。ここはクサナギとヒメラギが出よう》
「頼みます!」
出撃していく勇士部隊の前方。ドミニオンから半ば追い出される形で出航した救助船の中では、向かってくるダガー隊を見て安堵する中尉の姿があった。
「我々の救難信号を受けて迎えにきてくれたのか!ありがたい…これで憎い裏切り者たちをーーー」
その言葉まで発した中尉は、ダガー隊の隊長機が放ったビームの閃光によって蒸発する。
救助船の先頭から後部を撃ち抜いた極光。
ダガー隊の面々は、稲妻を走らせて爆散した、同胞たちが乗っていたはずの救助船に目もくれず、虚な目つきで向かいゆく先にいる艦隊を見つめて声を漏らした。
『命令は目撃者の排除だ。例外はない』
それを目撃したレジスタンスやアスランは驚愕の表情を浮かべた。
《やつら!離脱した救命艇を…!!》
《どこまでも腐ってやがる!》
仲間すらーー同胞すらーーどうでもいいというのか!コーディネーターを駆逐するためだけに、人としての人理すら…!!
そんな思いをクサナギに乗るM1アストレイの全パイロットが感じていた。ここにいるのはザフトだけではない。地球軍のパイロットも、多くの両軍の士官がいる。そんな彼らの命すら弄ぶ者たちにーー!!
「クサナギ!アンタレス隊、発進するぞ!ジュール隊長!お先に!」
そう叫んで、クサナギからPJの駆るM1アストレイ隊が出撃していく。ヒメラギでは、保護されたシホのゲイツが出撃準備を進めるイザークのデュエルの背中にいた。
「ハーネンフース」
《ジュール様…》
ビームライフルとシールドを装備したイザークは、背後に佇むシホへデュエルの頭部を向けた。空いたコクピットハッチからは、イザークの姿がはっきりと確認できる。イザークは少し言葉を探してから、シホの方へと向き、改めて頭を下げる。
「心配をかけてすまない。だが、貴様にも俺にも、やるべきことがあるはずだ。兵士として、信じられる責務を果たせ」
顔を上げたイザークの表情に最早迷いは無かった。彼は彼のーー信じた使命を果たすためにここに残るだろう。では、自分にできることは何か。シホは考えるが答えは出なかった。いや、これから探さなければならないのだろう。自らの手で、この星の大海から得られる答えを。
《…はっ!ジュール様も…どうか無事で…》
そうはっきりとした声で、シホは目の前にいるイザークへ敬礼を送った。彼が行く先は地獄かもしれない。しかしーーどうか無事で。そんなシホの言葉を聞いて、イザークは小さく笑った。
「ふっ…当たり前だ。ガルーダ隊、出撃する!ディアッカ!ニコル!」
「いつでも!」
「やってやりましょう!」
そう言ってバスターと、火力強化されたブリッツも発進ベイへ、機械的な足音を響かせながら向かっていく。
《ガルーダ隊、進路クリア!発進どうぞ!ハウメアの加護があらんことを!》
ハンガー内に響いたオペレーターの声と、彼らが発艦した後に離脱するシホのゲイツに見守れながら、イザークたちはダガーが迫る宇宙へと飛び立っていくーー。
////
「ラリーさん!しっかり!」
キラとムウに両肩を担がれて施設から出てきたのは、片目の目蓋を大きく腫れ上がらせて、顔中に青痰や打撲跡を残した満身創痍のラリーだ。
「くっそー…あと一発…当てていれば…伸びてたのはアイツのはず…げほっ」
恨み言のようにボソボソと切れた口内を動かしながら呟くが、鼻水と血が喉に絡んで、ラリーはひどく咳き込み、血を床に撒き散らす。
ここまで弱々しく傷付いたラリーの姿をキラは見たことがなく、内心動揺していたが、ムウがピシャリと俯くラリーを一喝する。
「この馬鹿野郎!無茶するからだ!」
そう言ってラリーを担ぎ直し、ムウとキラはクルーゼが先に出て行った出口へと急ぐ。
「キラ…隊長…すまん…俺は…」
そんな2人に、ラリーは弱々しい声で懺悔のような言葉を紡いだ。
ラリーは知っていた。
ムウの過去を。そしてキラの原点を。
それを知っていながら、この体たらくだ。他にもっとマシなやり方はなかっただろうか。もっと2人を傷つけずに済む方法はあったのではないか。
全てを知りながら、何もできない自分の無力さに腹が立つ…!!
戦友を失った時も。信頼する兵が死ぬと分かっていながらも送り出すことしかできなかった時も。そしてーー今日と言う日も。何一つとして、できなかった。
何が変革者だ。何がSEEDから生まれた者だ。
そんなものーー失われていく命を目の前にして、なんの役にも立たなかったというのに。俺は……
「ーーなんで知っていたかは、俺は聞かん」
ラリーを担いでいたムウは、歩みを止めぬままラリーにそう答えた。思わず顔をあげるラリーに、付け加えるようムウは言葉を注ぐ。
「お前は昔からそうだった。知っていながらもどうしようもできなかったことを、全部自分で抱えて、背負っちまって…。俺はお前の隊長だ。だったら、隊長らしいことくらい、させろよ」
伊達にお前らの隊長をやってきたわけじゃねーよ、とムウは呆れたような口調で言う。
そういう時を、ムウは誰よりも近くで見てきた。自分の無力さに憤って、何かにぶつけるように自分を追い詰めるラリーを。その度に、その破滅的な罪悪感から救い上げてきたのもまた、ムウやリークといったメビウスライダー隊の仲間だった。
そしてキラも…その救われた者の1人だ。
「隊長…」
「ラリーさん」
「僕も言われました。心は君だろう?ってベルモンド大尉から。だから、僕も大丈夫ですから」
たとえ、この身が自然から生まれなかったコーディネーターであったとしても。たとえ、この身が人の形をした紛い物であったとしても。たとえ、この身が人の業が生み出した罪深いものであったとしても。
僕は僕だ。
この心は、僕だけなものだからーー。
「へへ…強くなったな。キラ」
そう言って、ラリーは血だらけの顔でニカっとキラに笑いかけると、キラも応じて二カッと笑みを浮かべた。
「大尉たちのおかげですよ。だから、行きましょう。僕らの使命を果たすために」
2人に担がれて施設から外へと出ると、すでにクルーゼが乗り込んだプロヴィデンス・セラフは飛び上がっており、少し上空から施設から出てきた三人の姿を見下ろしていた。
《ラリー。君との戦いは次で決着となりそうだ。楽しみにしているよ。君が「ホワイトグリント」の鎖を解き放って、私の前に現れてくれることをな》
「クルーゼ…」
ラリーと同じように顔中に傷をこさえたクルーゼもまた、ハマらなくなったマスクやヘルメットを脱いだままで、乾いた鼻血と吐血をベットリと纏う顔を歪めて呟く。
そうだ。そうだとも。
時は近い。
この生に、この命に、このラウ・ル・クルーゼがけじめを付けるときはすぐそこだ。扉は目の前だ。だが、まだ開かない。開いてもいいが、もったいない。まだだ。ラリーが、彼が、自分を殺すに値する力に目覚めたとき。その時こそが、自分の命を終わらせるか、この世界の火を終わらせるのにふさわしい。
クルーゼは笑みを浮かべて、セラフを反転させるとコロニーの出口に向かって緩やかに飛び立っていく。
その刹那、ラリーたちの上空をトールのメビウス・ハイクロスが横切った。
「キラ!隊長!くっ!!」
「トール!!」
ビームの閃光を躱して飛ぶトールの背後には、驚くほど正確な飛行で追従するモビルスーツが一機。
「ええい!手強い上に、しつっこいんだよ!お前はぁああーー!!」
そう叫びながら、ビームが掠めたミサイルコンテナをオルレア目掛けてパージするトール。彼を追うモビルスーツ、オルレアはパージしたミサイルコンテナをビームブレードで一刀両断する。爆煙と衝撃が背後から伝わる中、トールの機体はストールを起こして、強制的なクイックターン、「ポストストールマニューバ」を駆使して機体を反転させる。
コロニー内で空戦機動だと!?そう驚愕するオルレアを横目に、トールは空気が排出されていく際に生まれる気流を読み取って機体を操る。
急降下爆撃よろしくと言った突撃。同時に展開したシュベルトゲベールは、迂闊に飛び込もうとしていたオルレアの片腕に固定されたビームライフルを切り裂いた。
『くぅ…はははっ!この感覚…このプレッシャー!!なるほど…できる!これが流星の力か…!!面白いっ!!』
ビームライフルが切り裂かれる瞬間、オルレアはすぐに増設された片腕の存在を諦めた。切り裂かれた衝撃と反転を利用した横なぎのビームブレードによる斬撃は、シュベルトゲベールを展開したトールの機体に迫る。
「あっぶねぇ…なぁ!!」
前フラップ展開、そしてフレキシブルスラスターを反転させて急ブレーキをかけるような制動。ハイG機動を歯を食いしばりながら耐えたトールは、迫るオルレアの斬撃を交わした上で、傾いた機体を横へ流し、ビームブレードを振り抜き、無防備となったオルレアへバルカン砲を叩き込む。
『私が…引いた?』
バルカン砲を数発あげながら後退したオルレアは、自身の行動に戸惑っていた。近接特化型のオルレア。近づかなければ有利にならない機体性質上、オルレアは近付きはするが、意識して後退することは無かった。
もう一度、トールのメビウスを見る。とても理想的な動きだ。挙動、機動、操縦、すべてに意味があり、それがうまく絡み合っている。
『理に適った動きね…面白いわ』
シミュレーターの中でも、そして実戦でも、そんな動きをするパイロットは少ない。それも説明してどうにかなる技術でもない。
彼は進化している。自分との戦いの中で。早く、素早く、圧倒的な吸収力で技術を身につけて、自分の手足として試して、試して、試し続けて、そして自分の力に変えていこうとしているのだ。
勝てない。
そんなヴィジョンがオルレアの頭の中を過ぎる。違いすぎるのだ。
人としての性能としては充分でしょう。
今が我々ができるスキルの到達点です。
そうのたまっていた技術者たちが、いかに見聞が狭いかよく理解できる。彼はーー今、自分が相対している流星は、そんなものをハナから気にかけてないのだ、
限界?到達点?それを決めつけた段階で、自分の負けだ。彼らはそんなものを考えていない。前を向くことだけを考えている。そんな気がした。
『逃げる?』
次浮かんだのは敵前逃亡だった。本質的な敗北を自覚してしまった以上、これ以上戦っても自分が得るものは何もない。帰る場所もないし、このオルレアを降りてからも、普通の人間のように生きていける自信がない。
『それもいいわ…過程は関係ない。最後に立っていれば…』
そうだ。たとえ全てを失っていたとしてと、最後に立っていれば、勝負はどうであれ、勝利は自分のものだ。生き残ればーー卑しくーー地を這いずってーープライドも捨ててーーただ生にしがみ付くようにーーつくようにーーつくように。
『いいえ、それでは生きていけない。私たちは…!』
オルレアは操縦桿を強く握った。
そうだ。たとえ生きても、自分はそれを認められない。我慢して生きていくこともできない。きっと何十、何百、何千、何億と後悔をして、ヘルメットを外し、この空気のない死の宇宙へと身を投げ出すだろう。
そんな死をするために私はーーー戦っているわけではない!!
《前を向かぬ者に、勝利はない!!》
「女…!?ぐっはっ!!」
広域音声通信を起動したオルレアは、驚くトールへ問答無用で攻撃を放った。視界を覆い隠すフラッシュロケットと牽制用の小型マシンガンを放ちながら急接近し、トールのメビウス・ハイクロスの翼をビームブレードで斬りつける。
《浅いか…!!》
「トール!!」
切り裂かれたところから火が吹き上がる。見上げていたキラが悲鳴のような声をあげる中、コクピットにアラームが響き渡る。
トールは衝撃と苦悶に満ちた顔つきから目を見開くと、すぐにコントロールパネルへ指を走らせた。
「くっそ!ダメージコントロール!重りになるものはパージ!予測イメージをすべてカット!」
バキンッ!と火を拭いていた予備の推進剤タンクと不必要、または機動の妨げとなるファストパック全てをパージしたトールの機体は、さっきとは違う鋭さを持って旋回し、オルレアとの戦闘に弾き戻った。
《動きが変わった…!?この動きは…!!》
知っている…この動きはーーベルリオーズと同じ動き!?
その動きを見て戸惑っているオルレアに応じるように広域音声を有効にしたトールは、動きを変えたメビウスの中で負荷に耐えながら声を上げた。
「くぅっ…たとえ…たとえ…お前たちが何者であろうとーー。たとえ、お前たちの中に、俺が尊敬する人が居たとしても!俺は!!」
既視感を覚えるほど、鋭く切り揉むメビウスから放たれたバルカン。
それはオルレアの小型マシンガンとフラッシュロケットの本体を捉えて、小さく爆発させる。オルレアのコクピットの中にも、アラームと電気機器のオーバーロードによる稲妻が走った。
トールは目を細めて、コロニーの空を見た。そこには、何もないはずなのに、彼には見えた。
青い空を飛ぶ、アイクの戦闘機の姿をーー。
「俺はメビウスライダー隊の…アイザック・ボルドマンの意思を継いだ、流星のパイロットだ!!」
フラッシュロケットの暴発。一つのロケットはトール目掛けて打ち出され、メビウスのエンジンにあたり、光が瞬く。衝撃に揺れて、トールは深くコントロールパネルにヘルメットをぶつけた。
まだだ…!まだ…
「まだああああああーーーっ!!!」
《すごい…。これが本物か…流星…美しい》
稲妻とアラームが響く中で、オルレアのパイロットは感銘したように、目を光らせながら目の前にいるメビウスを見つめた。
強い。まさに本物だ。
そう思える自分の潔さに笑みを浮かべながら、オルレアは最後のエネルギーを費やしてビームブレードを展開する。
次の一撃…おそらく最後になるであろう私の…戦士としての誇りを…!!
《私の…たったひとつ残された…意思を込めて、押し通る!!》
トールのメビウスも、シュベルトゲベールを展開し、両機は直線状にーー互いに向かい合うようにーーまるで騎馬兵で一騎討ちをするように死合いへ臨む。
「でああああああ!!」
《はぁあああああ!!》
鉄と鉄がぶつかり合ったような音がメンデルに響いた。そのときは永遠だったか。または刹那だったのか。どちらにしろ、トールもオルレアも、互いに感じた時間ははるかに遠く、長く感じられた。
メビウス・ハイクロスの片翼に備わる四門のビームライフルを抱える武装が空で爆散しーーーオルレアは胴体に深く大剣が突き立てられた状態のまま、地へと落ちた。
《ごほっ…ギリギリだったが…お前の勝ちか…流星》
重い墜落音が響き、辺りがシンと静まり返った時、オルレアのコクピットの中で、血を吹き出しながらーーーけれど、そのパイロットは満足そうに声を漏らした。
トールのメビウスも消耗しきったように、半ば墜落するかのように地面へと着陸し、息苦しさを覚えるヘルメットを脱いで、トールは激しく呼吸を荒立たせていた。
「はぁ…はぁ…はぁ…はぁっーー…!」
《差は刹那…どちらが勝っても、おかしくなかった。だがーーー運で戦いは決着などしない》
パチリと、稲妻の音が響く。オルレアのパイロットは、ノイズに塗れるモニターに映るメビウスを愛おしそうに指でなぞってーー血の輪郭を刻む。
《どうか誇ってくれ…それが…手向けだ》
臨界に達した光はオルレアを飲み込むと、緩やかな炎となって燃え上がった。エンジンに点火しないように、オルレアが果てる前に動力を遮断したのだ。
轟々と燃え上がる機体。その中で満足そうに焼かれていくパイロット。その姿は、オルレアの名に由縁あるジャンヌダルクを連想させるものであった。
トールは這うようにコクピットから上がると、視線の先で燃え上がるオルレアをしばし見つめてーー静かに目を瞑り、鎮魂の敬礼を打った。
勇敢にも挑んだオルレア率いるダガー隊は、イザークやPJたちによって呆気なく撃退。勇士艦隊はサザーランドの暴虐と、パトリックの暴走を止めるべく動き出す。
この戦いもまたーーー終局に向けて動き出そうとしていた。
キャラデザイン
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他キャラも見たい
-
キャラは脳内イメージするので不要