「アークエンジェル、ドミニオン、作戦域に到達!」
ボアズの防衛宙域へ入ったアークエンジェル、ドミニオン。その後方には支援に徹するクサナギとヒメラギが控えており、周辺には防衛布陣を完了したモントゴメリ旗艦の護衛艦隊が配置されている。
そんな中で、アークエンジェルを指揮するマリューが無重力に髪を踊らせながら指示を放った。
「機関最大!我々は地球軍本陣へ斬り込みます!ナタル!」
「イーゲルシュテルン起動!バリアント、ゴットフリート照準!ミサイル発射管、アンチビーム爆雷展開!ヘルダート、ウォンバット装填!!」
ハリネズミのような武装を起動していくアークエンジェルの隣で、バーフォードが指揮するドミニオンも同じように武装を展開。
牽制射撃と言わんばかりに、各艦からもビームの極光がボアズへ侵攻しようとするサザーランドの艦隊を足止めしていく。
「では、頼みますよ。バーフォード艦長」
まるで何も心配していないように優雅に座席で寛ぐアズラエルに、バーフォードはくたびれた帽子を深くかぶって答えた。
「全艦、対モビルスーツ戦闘用意!ブラックスワン隊、出撃!なんとしても地球軍を止めろ!」
ドミニオンの発艦ハッチが開く。その中では、複数のメビウスが発進態勢へ入り、出撃の時を待ちわびていた。エアロックから作業員が退避したのを見届けたパイロット、カルロスは自機であるメビウス・インターセプター2のサブスラスターを僅かに吹かして、ふわりと浮かび上がり、発進デッキへと緩やかに飛んでいく。
「ブラックスワン1、カルロス・バーン、発進する!」
電磁レールに乗ることなく、自身の推進力でドミニオンから出撃していくメビウスたち。ドミニオンの右翼側にいるドレイク級護衛艦からも、甲板に固定されていた三機のメビウスがふわりと宙へと浮かび上がった。
「ブラックスワン6、スウェン・カル・バヤン、メビウスノワール、出るぞ」
「ブラックスワン7、シュムス・コーザ、ベルデメビウス、行くゼェ!」
「ブラックスワン8、ミューディ・ホルクロフト、ブルメビウス、行くわよ!」
その三機もほぼ同時にエンジンの出力を上げて、重なり合うように編隊を組み、先に出撃したカルロス機の後へと続く。
「ゴットフリート照準、てぇ!M1アストレイ隊を出せ!」
キサカとハインズが指揮するクサナギとヒメラギも戦列へ加わり、腹に収めていたM1アストレイ隊も出撃する。
「もう核なんて撃たせるもんかよ!」
「プラントを守るぞ!地球軍人の誇りにかけてな!」
ナチュラル用OSに書き換えられたアストレイを操るのは、生き残った地球軍のパイロットたちだ。
先行するザフトパイロットを中心に構成されたアンタレス隊と合流しながら、二つの種族が駆るアストレイ隊が、ダガーや艦艇との激戦を繰り広げていく。
その激戦の後方。第三波として飛来したメネラオスを旗艦とする第八艦隊。彼らも遠巻きではあるが、サザーランド指揮下の艦隊の後ろを取っており、後方からビーム砲や艦艇用ミサイルで動きを封じようと攻撃を開始していく。
くそ!ハルバートンのやつめ!!アークエンジェルと裏切ったドミニオンだけでも厄介だというのに、背後からも攻めてくるのか。
後一息というところで、邪魔どころではない事態に陥っているサザーランドの怒りは頂点に達していた。血で染まった拳は震え、今のサザーランドには冷静さのかけらもない。
そんな彼に止めと言わんばかりに、メネラオスからの広域通信が入ってくる。
《こちら、地球軍第八艦隊司令官、デュエイン・ハルバートン提督である。貴官らは地球軍規定を遥かに逸脱した行為を行なっている》
ハルバートンの壮麗な声が、ダガー隊や、サザーランド指揮下の艦艇の内部へ響き渡った。それが影響したのか、交戦を繰り返していたダガー隊や、敵艦艇の動きが止まる。
妙に鎮まった艦隊を前にして、ハルバートンはさらに言葉を重ねた。
《重ねて聞きたい。地球軍の将校たちよ。君たちは本当に核を打つのか?君たちは本当にそれでいいのか!?》
明らかな戸惑い、混乱が見える。どうやらサザーランドの奴め、核の攻撃を全ての艦艇に知らせてはなかったな?防衛しなければならないというのに、サザーランド指揮下の艦艇の何隻かはまるで戒めを受け入れるように攻撃をしていない船も見受けられた。
そんな中、サザーランドは艦隊内の放送用受話器を乱雑に取り上げて、声を荒げた。
『艦隊各艦に告ぐ!地球とプラントの間には憎悪しか存在しない!!ハルバートン提督は敵についた。これを敵と認め、敵艦もろとも宇宙へ没セシメヨ!!』
その言葉で更に困惑が広がった。ハルバートン提督は、大戦初期から宇宙の戦いを支えてきた功労者だ。その厳格な在り方と、人を思う人格者として敬意を払う地球軍人も少なくない。それに、ここが彼のホーム〝宇宙〟であるから尚更だった。
『ーー司令官!核を使うことはエイプリルフールクライシスの再来を意味します!我々だって 理不尽な戦いは御免なのです!ハルバートン提督の戦力も見過ごせない以上、ここは戦闘の中止をーー』
『我に従う艦は攻撃の邪魔するドレイク級宇宙護衛艦『ピトムニク』を撃沈せよ!撃ち方始め!』
そう具申しようとしたドレイク級護衛艦に対して、サザーランドは無慈悲にもそう声を上げた。シンファクシ、ならびにブルーコスモス派閥に属する艦艇が砲塔を向けて、その護衛艦はすぐに火ダルマにされていく。
凄惨な光景を目の当たりにしたカルロスは、悲鳴のような声を上げた。
「なんてこった!味方同士で撃ち合ってるぞ!?」
その様子を目撃したサザーランド指揮下の艦隊の中でも動きがあった。何隻かの船が艦隊を離れ、ハルバートン提督指揮下の艦隊に向けて転身したのだ。広域通信が入り、メネラオスに映像が入ってくる。
《こちら栄えある地球軍第四宇宙師団のミサイル駆逐艦『グムラク』だ》
映像に映ったグムラクの艦長へ、ハルバートンは敬礼を持って返す。彼の表情もまた怒りと後悔の念に押し潰されそうな複雑なものを織り成していた。グムラクの艦長は意を決したようにハルバートンへ敬礼を打つ。
《戦術核を用いた作戦を上層部のみで決定した現地球連合軍の腐敗、ならびに同僚の撃沈を命じる艦隊司令官。我々はこれ以上、サザーランド大佐指揮下では行動を共に出来ない。我々はハルバートン提督を護る。同意する艦は我に従え!》
『旗艦に従わぬ艦は撃沈する!!』
それは無謀な挑戦とも言えた。艦隊から転身したとはいえ、サザーランド指揮下の艦隊には背中を向けているようなものだ。怒りに我を忘れたような声が艦隊放送で響き渡り、ハルバートン提督側へ向かおうとする船に、ビームの閃光が突き刺さっていく。
グムラクの背後にいたドレイク級も火を吹いて機関が停止していく。
「全機!彼らを手助けしてくれ!」
「ブラックスワン隊、了解!行くぞ!」
メネラオスのオペレーターが叫ぶように言うと、カルロス率いるブラックスワン隊は編隊を維持したまま良いように撃たれている離脱艦艇の援護へ回る。
《今、我々の味方をしようとする心が現れた!勇気ある彼らを守れ!我々の思いは孤独ではない!》
ハルバートン提督の言葉が、彼らの思いを後押しする。必死にサザーランド指揮下の艦隊から離脱する船を、カルロスたちは決死の抵抗で防衛していく。地球軍内の戦いでも混迷を極めようとしている最中ーー。
《ナチュラル共の野蛮な核など、もうただの一発とて我等の頭上に落とさせてはならない!》
エザリア・ジュールの言葉が、ボアズ防衛隊の全てのザフト兵へ届く。彼らもまた、核を使われたことに対する怒りを煮えたぎらせていたのだ。
《血のバレンタインの折、核で報復しなかった我々の思いを、ナチュラル共は再び裏切ったのだ!もはや、奴等を許すことは出来ない!》
彼らもまた動き出す。アークエンジェルの中でサイが、反応を示したボアズ防衛隊の動きを捉えた。
「グリーン28、マーク13アルファ、距離350にザフト軍主力部隊発見」
核を通すためにばらけさせられたザフトの戦力が再集結し、複数のナスカ級、ローラシア級、そしてジンとゲイツで構成された部隊が、内乱に発展した地球軍艦隊や、アークエンジェル、ドミニオンへ迫る。
「迎撃開始!プラントに核を通すな!!」
《ザフトの勇敢なる兵士達よ!》
「敵艦隊、主砲射程に入ります」
「ナチュラルどもにこれ以上好き勝手させるな!全艦、攻撃開始!」
《今こそ、その力を示せ!奴等に思い知らせてやるのだ!この世界の、新たな担い手が誰かということを!》
地球軍、勇士艦隊、そしてザフト軍。
混迷の宇宙ーーー事態は更に悪化の一途を辿っていく。
キャラデザイン
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他キャラも見たい
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キャラは脳内イメージするので不要