ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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第167話 いくつもの光を重ねて 3

 

 

状況は最悪だった。

 

「ワシントン、航行不能!敵艦、尚も進軍してきます!」

 

そんなもの!見ればわかる!

 

炎に包まれるアガメノムン級ワシントンを見て、発狂したような声を上げたい気持ちを必死に押さえ込むサザーランドは、目前に迫るアークエンジェルや、ハルバートン提督率いる艦隊を目にやる。その表情には怒りにも似た焦燥が窺えた。

 

「ええい…!よくも…よくもやってくれたな…!地球軍の面汚しが…!!」

 

ワシントンに積載した核の数は膨大ではあるが、それが全てではない。月からの補給艦が合流できれば、体勢を立て直して仕切り直すこともできただろう。

 

だが、その希望は潰えた。

 

自分の指揮下にある艦隊もほぼ壊落状態。離反する船もあり、すでに艦隊としての指揮系統は麻痺一歩手前まで来ていた。このままでは、敗走するかーー負ける。そう冷静に判断を下す自分の内面を封じ込め、サザーランドは最後の策に打って出た。

 

「サザーランド大佐!何を!?」

 

オペレーターを押し退けて端末を操作するサザーランド。彼が探しているのは、まだ手元に残っている核だ。正規の物はすべてワシントンともに沈んだが、まだ核はある。そうだとも。

 

戦場にごまんと漂う核があるではないか。

 

「全軍に伝えろ!まだ核はある!そうだ!宙域に漂流している核弾頭をプラントに向けて発射するのだ!」

 

幸いにも、核ミサイルの発射装置はコンテナにモビルスーツが扱えるサイズで搭載されている。本来はモビルスーツで運用する予定ではあったが、時を急いだためモビルアーマー下部に設置するという苦肉の策を呈したのだ。

 

まだ残存戦力は残っている。そうだとも。まだ私は負けてはいない。戦える手札を持っているのだ。それを使わずにしていつ戦いに勝つと言うのだ!

 

そんな狂気じみた表情をするサザーランドに、ギョッとしたオペレーターは咄嗟に言葉を返してしまった。

 

「き、危険です!ここで安全装置を解除してはーーー」

 

パン、と乾いた銃声がシンファクシの中に響き渡る。誰もが視線を向ける中で、サザーランドは反論してきたオペレーターを躊躇いなく銃殺したのだ。

 

頭部のバイザーごと撃ち抜かれたオペレーターを宙へ放って、サザーランドは冷たい眼差しで「代わりの者を座らせろ」と声を発した。

 

「モビルスーツでも狙いは付けられるだろう!さっさと命令を出せ!」

 

まるで何かに取り憑かれたように喚くサザーランドに、副官であるホアキンを除いた誰もが恐怖を抱いた。

 

彼がやろうとしていることは、無茶苦茶だ。

 

けれど、この船に乗っている者たちも、心の中でコーディネーターを滅ぼすことを志して付き従ってきたのだ。その恐怖はあれど、サザーランドの言葉に同調する感覚もあるのは確かだ。

 

「撃たなければ、奴らの暴挙を止められぬのだぞ!!何を考えている、この期に及んで!!」

 

何のために貴様らはこの船に乗った?何のために核まで持ち出してここに来た?

 

そうだ!全ては!コーディネーターを滅ぼすためだ!それだけのために自分たちは倫理など核を打った時に捨てたというのに、何に縋っているというのだ。

 

誰もが狂気にのまれた。敵を滅ぼさなければならないという一つの目的に向かって、理性を捨てて、倫理を捨てたのだ。

 

サザーランドの艦隊に残った者たちに、ここまで来て引き下がるなどという発想はサザーランド自身によって切り捨てられたのだ。

 

《全軍に通達!宙域に漂流している核弾頭を回収、狙いはマニュアルで定めろ!安全装置はこちらで解除する!!》

 

《はぁ!?モビルスーツでやれってのか!?》

 

通信先のパイロットはそんな言葉を返してくるが、それは核を使うことに関する否定的な思いからではない。核をモビルスーツで撃とうというのだ。その作業に従事したものは完全に無防備になるし、そんな訓練をしてもいないので素早くできることなどあり得ない。

 

そこでザフトかオーブに攻撃されたらアウトだ。そんな命を何とも思わない作戦を本当にやれというのか?と言った疑念の声を、サザーランドに言われ席を移ったオペレーターは、狂気的な笑みを浮かべながらうなずき、答える。

 

《ああそうだ!宇宙のバケモノどもを倒す唯一のチャンスなんだぞ!!》

 

 

////

 

 

「はぁあああー!!」

 

戦っている者よりも残骸の方が上回り始めた戦闘中域の中で、二つの光が交差し、ぶつかり合っていた。トールの操るメビウス・ハイブラストと、ベルリオーズが操るシュープリスは、互いの装甲を削ぎ合いながら剣撃と閃光を受け渡し合う。

 

人を模すシュープリスは、特有のAMBAC軌道と体が覚えている制御と相まった驚異的な機動力を誇り、トールの機体を少しずつであるが削り取っていた。ただ、ベルリオーズは攻撃を交わすたびに起こる変化を正確に察知していた。

 

『やつの…あの動きは…風…?』

 

攻撃を受けるたびに、トールの機体の動きは更に鋭く、無駄を無くし、最適化されていくのだ。とんでもない吸収力と精神力ーーそして並のパイロットならすでに切れているはずの集中力が一切澱まずに研ぎ澄まされているのだ。

 

しかし、どれだけ鋭くなろうが劣勢なのは変わりない。それはトールが1番理解していた。

 

このまま受け続ければ、消耗し必ず動きが鈍る。その時が自分の最後だというイメージがくっきりと見えていた。

 

故に、トールは最後の勝負に出た。

 

「無理やりにでも交差をした甲斐を、ここで活かす!!」

 

数えきれない交差の中で見出したシュープリスの弱点。彼は交差したあと、AMBACでこちらへ姿勢を向けてくる。そのAMBACに入る直前に腕を振って反動を付けるクセがあった。

 

そんな針の穴のような突破口に、トールは勝負を掛けた。

 

交差した瞬間にフレキシブルスラスターを前方へ反転。体の中身が飛びでそうな急制動をかけ、機体を反転させる。驚くベルリオーズだが、すでにAMBACの準備動作に入った彼にはどうにもできない。それに、仮にメビウスがこちらに狙いを定めたとしても、火線が届く前に姿勢は整うのだ。

 

そうなった時にカウンターでビームランチャーを打ち込み、この勝負に終止符を打つ!!

 

そうイメージしたベルリオーズの眼前に、信じられない光景が写った。メビウス・ハイブラストに取り付けられていたサブブースターを、トールは最大出力でミサイルのように打ち出したのだ。

 

『その程度の攻撃など!』

 

いくら出力を全開にしようとも放たれたのはサブブースターだ。その一閃を難なく受けたベルリオーズに、トールはニヤリとほくそ笑む。

 

「ああ!それが目的だったからな!!」

 

ハッとベルリオーズが気がついたのは、宇宙に放出された推進剤。トールはサブブースターの推進剤タンクの弁を空けたまま打ち出したのだ。下手をすれば打ち出し直後に引火して爆発するような自殺行為。

 

だが、トールの目的はそこ一点にある。

 

そして、メビウス・ハイブラストに備わるアグニが火を吹く。反射でベルリオーズも充填したビームランチャーを放ち、アグニの砲火はベルリオーズにぶつかって背後に流れたサブブースターに、ベルリオーズの放った閃光はアグニの砲身を吹き飛ばした。

 

「くぅう!!アグニが!くっそー!」

 

使い物にならなくなったアグニを即座に捨てて、トールはスロットルを全開にした。ベルリオーズも背面でサブブースターが爆発したことにより、機動力に致命的なダメージを負っている。

 

距離は500。

 

この突撃を逃せば自分にチャンスはない!!

 

『世界は俺たちが変える…俺が帰る場所のために…邪魔を…するなぁ!!』

 

距離400。

 

アグニの横に備わっているシュベルトゲベールを展開するトールに、ベルリオーズはなけなしのビームサーベルを引き抜き、残った唯一の武装である中距離ライフルをメビウス目掛けて放った。

 

距離300。

 

その数発が機体を掠めるが、トールは臆することなくシュープリス目掛けて突貫する。

 

「貴方は言っていた!使命を果たせと!なら!俺はーー俺のやるべき使命を果たす!」

 

距離200。

 

大剣をぶら下げているというのに…!!ここにきて、トールの操るメビウスの動きは一層のキレを魅せる。銃弾の雨を掻い潜るその姿を見て、ベルリオーズの背中に怖気が走った。

 

『当ててくるか…不味い!この動き…!!』

 

距離ーー100!

 

遂に近接戦闘領域まで迫ったメビウスに、ベルリオーズはビームサーベルを振るった。だが、それは空を裂くに至る。

 

ベルリオーズは目を見張った。

 

消えた。

 

メビウスが消えたのだ。

 

まるで、雷鳴の如き光と化してーーー。

 

「チェエエストォオオオオオオ!!!!!!」

 

シュープリスのビームサーベルを軸にするようにバレルロールをしたトールは、肉体にかかる負荷を雄叫びを上げながら耐え、機体をぐるりと宙返りさせる。

 

下から掬い上げられるような一閃はシュープリスの下半身から胴を捉えて、機体を縦一線に切り裂いたのだったーーー。

 

 

 

 

 

キャラデザイン

  • 他キャラも見たい
  • キャラは脳内イメージするので不要

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