ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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誤字指摘ありがとうございます。

感想はすべて目を通させて頂いてます、とても励みになっております。次でアルテミスに入れればいいなぁ(無計画)


第16話 エースの真髄(後)

「フラガ大尉より入電、作戦成功、これより帰投する!」

 

オペレーターからの報告により、アークエンジェルとクラックスのブリッジが沸き立つ。ナタルは大きく息を吐き、マリューは深く椅子にもたれて安堵する。

 

クラックスの艦長であるドレイクはニヤリと笑みを浮かべながら、くたびれた帽子を深くかぶった。

 

《機を逃さず、前方ナスカ級を討とう。ラミアス艦長、あとはお任せします》

 

ドレイクはそれだけ言って、クラックスをアークエンジェルの前から移動させる。

 

マリューは安堵した気を引き締め直して、毅然とした面持ちで指示を出した。

 

「ローエングリン、1番2番、斉射用意!フラガ大尉に空域離脱を打電!メビウスライダー隊、ストライクにも射線上から離れるように言って!」

 

「陽電子バンクチェンバー臨界!マズルチョーク電位安定しました!発射口、開放!」

 

アークエンジェルのカタパルトデッキの下に設けられたローエングリン砲台が姿を現し、エネルギーを充填して行く。

 

 

////

 

 

『ヴェサリウスが被弾!?』

 

『俺達に撤退命令!?』

 

ムウの攻撃を受けた衝撃は、メビウスライダー隊と交戦するイザークたちにも影響を及ぼした。自分たちの母艦が機能不全に陥った以上、深追いするのは危険だ。

 

《オービットよりメビウスライダー隊へ、我、任務を達成。我、任務を達成!》

 

そして、それはメビウスライダー隊にも伝えられた。AWACSのオービットから、ムウとあらかじめ決めておいた合言葉を受けて、G兵器と交戦していたメビウスライダー隊は、ハイG機動の苦痛の中で笑みを浮かべた。

 

「ライトニング3!俺の機体に掴まれ!ライトニング2も急速離脱!隊長がやってくれた!離脱するぞ!」

 

「ライトニング2、了解!」

 

ヴェサリウスの被弾に動揺するモビルスーツ隊の意表をついての離脱。離脱速度が劣るストライクを回収するには今しかチャンスはない。

 

俺はリークを離脱させて、疲弊するキラの元へ向かう。

 

「ライトニング3、キラ!生きてるか?」

 

「ハァハァ…なんとか…」

 

「なら俺の機体に掴まれ。離脱するぞ」

 

弱々しく答えるキラは、ストライクの腕を俺の機体にかける。加速度をストライクの比重に合わせて、俺たちはローエングリンの射線上から急いで退避した。

 

《ローエングリン、1番、2番!てぇー!!!》

 

その瞬間に、俺たちが退避した射線上をまばゆい光が疾る。イザークたちも勘が良いのか、射線上からしっかりと退避しているのが見えた。

 

「うひょーー!」

 

そしてそれは、帰還するムウのメビウス・ゼロを通り過ぎて、エンジンに深刻なダメージを負ったヴェサリウスへ迫る。

 

『熱源接近!方位000、着弾まで3秒!』

 

『右舷スラスター最大!躱せっ!』

 

ヴェサリウスは、辛くも攻撃を免れた右舷のエンジンを最大出力で動かし、ローエングリンの射線上からなんとか離脱する。が、もはや彼らには戦う力は残されていない。

 

《オービットよりメビウスライダー隊へ!ナスカ級、本艦進路上より離脱!帰還命令が出たぞ!アークエンジェルと本艦はこのまま最大戦速で、アルテミスへ向かう》

 

 

////

 

 

『帰還信号!?させるかよ!こいつだけでもっ!』

 

ローエングリンの射線から離脱した後も、G兵器4機の追撃は続いていた。ストライクをぶら下げるメビウス・インターセプターが出力を上げても、それを追うイザークが駆るデュエルの射程範囲から脱するにはまだ時間がかかった。

 

『イザーク!撤退命令だぞ!』

 

『五月蠅い!腰抜け!』

 

アスランの制止も聞かずに、イザークはさらに追撃する。ストライクの中にいるキラは、デュエルの放つビームライフルの閃光を見ながら焦っていた。

 

デュエルの出力から見ても、そこから連なるG兵器を見ても、ストライクとメビウス・インターセプターが追いつかれるのは時間の問題だ。

 

「このぉー!!4機同時だとこうも違うのか!!」

 

「ライトニング1!3時の方向から敵機!うわっ!」

 

離脱しようとするラリーを助けに入ろうとするリークだが、バスターとブリッツの妨害を受けてうまく近づけない。

 

「キラくん!?」

 

そのとき、リークが叫び声のような声を上げた。ラリーの機体に掴まっていたストライクが、しがみ付いていた手を離して向かってくるデュエルと相対したのだ。

 

「こ…の、馬鹿野郎!キラ!何をしてる!さっさと離脱しろ!」

 

ラリー機も即座に反転して、デュエルと交戦し始めたキラへ援護に入る。

 

「キラくん!!僕らが抑えるから君だけでも離脱するんだ!!」

 

「ベルモンド少尉!でも貴方達が!」

 

「生意気言うな!モビルアーマーなら最大加速で離脱できる!!」

 

「でも!!僕は!!」

 

キラの心にあったのは、守りたいという思いだった。

 

ローエングリンが発射される間際、メビウスライダー隊は、2機ですぐにでも離脱できたというのに、キラを迎えに来た。

 

自分はコーディネーターであるというのに、自分はモビルスーツに乗っているというのに、自分は軍属じゃないというのに。

 

彼らは一切の嫌味も傲慢さも見せずに、仲間であるキラを助けに来た。

 

戦える力を持っているというのに、彼らを危険に晒してまで何もしないで逃げてしまう自分に我慢できなくなったのだ。

 

 

////

 

 

「キラ!」

 

管制官であるミリアリアは、悲鳴をあげたい気持ちだった。モニターから映るものは、敵機に囲まれているキラのストライクと、メビウスライダー隊の姿だ。

 

「メビウスライダー隊、囲まれてます!これではっ!」

 

「援護して!」

 

「この混戦では無理です!」

 

アークエンジェルやクラックスの武装では、混戦した状況下で的確に敵勢力だけを叩くすべはない。仮に武装があったとしても、それを成す練度がアークエンジェルのクルーには無い。

 

「ストライクのパワー残量が心配です。フラガ大尉は?」

 

《戻れない?チィ!あのバカ!》

 

ムウのメビウス・ゼロも推進剤がギリギリだ。合流できてもモビルスーツとの戦闘を行う余力は残っていない。

 

マリューは苦い思いを噛み締めながら、シートの肘掛の上で握りこぶしを作るしか無かった。

 

 

////

 

 

「でやぁぁぁ!!」

 

ビームサーベルで接近戦をするストライクとデュエル。そしてイージスにバスター、ブリッツと交戦するメビウスライダー隊。それぞれの限界は徐々に迫ってきていた。

 

「…パワー切れ!?しまった!装甲が!」

 

そして、最初に崩れたのが消耗戦を強いられていたストライクだった。フェイズシフト装甲の色合いが褪せていき、無機質な暗色に覆われていく。その機を逃すまいと、ビームサーベルを振りかざしたデュエルが迫る。

 

「くそ!!キラ!!」

 

「キラくん!逃げて!!」

 

ラリーとリークの声。キラも残った僅かなエネルギーでデュエルから逃れようとするが、その動きは緩慢で、懐にデュエルが潜り込む。

 

『もらったぁ!!』

 

トドメだと言わんばかりにデュエルがビームサーベルを振り抜く寸前、紅いモビルアーマー形態となったイージスが、ぐわんと口のような脚部を開いて色あせたストライクを確保し、飛び去っていく。

 

《こちらオービット!なんてこった!捕獲された。ストライク、イージスに捕獲されてる!フェイズシフト、ダウン!》

 

////

 

 

赤い非常用ランプが灯るコクピット。省電力モードに切り替わった為、サブモニターしか映らなくなった映像には、高速で星々が流れていくのが見える。

 

『何をする!アスラン!』

 

『この機体、捕獲する!』

 

『なんだとぉ!?命令は撃破だぞ!勝手なことをするな!』

 

『捕獲できるものならその方がいい。撤退する!』

 

接触回線で僅かに聞こえてくる会話に、キラは困惑する。その声色に、自分が知る幼馴染の姿は重ならなかった。どこまでも冷たく、兵士に徹するザフトのモビルスーツパイロットが、キラの目の前に立っているような気がした。

 

 

////

 

 

ストライクを奪われたメビウスライダー隊も困惑の中にあった。

 

「ライトニング1!キラ君が…!」

 

リークが叫ぶ中で、俺は余ったバッテリーと推進剤で、飛び去った敵をどこまで追えるのかを計算するが時間がない。このまま撤退を許せば、キラはどんな目にあうか…アスランが居る以上、手荒な真似はされないだろうが、クルーゼがキラの正体に気がついたら…。

 

とにかく追うしかない。俺は後のことを考えずにメビウス・インターセプターのブースターを吹かす。

 

「ライトニング3!生きてるのなら返事をしろ!聞こえてるか!」

 

なんとか肉眼で捉えられる位置には居るが、Nジャマーのせいで一定距離上でしか通信できないレーザー回線が安定しない。この速度のまま追いついても、こちらの推進剤が底を尽きる方が早いかもしれない。

 

どうすればいい…!!

 

《オービットよりメビウスライダー隊へ!フラガ大尉より入電!ライトニング2は別行動、アークエンジェルはランチャーストライカーをハンガーに準備せよ!》

 

「何!?」

 

俺はオービットから送られてきたムウの案に目を通す。たしかに可能性がある作戦ではあったが、誰かが遅れれば致命的なミスが起こる。そんな不安は頭の隅に押しやり、俺は更にエンジンを吹かした。

 

後方にいるリークのメビウスも、母艦であるクラックスへ全速力で向かっていく。

 

「間に合えよー!キラ!!」

 

俺はただそれを叫んで、愛機を飛ばすことに専念するのだった。

 

 

////

 

 

《ライトニング2、ベルモンド機がドッキング》

 

「ハリー技師!」

 

ムウからの指示を受けてクラックスにドッキングしたリークは、補給しようとするノーマルスーツ姿のスタッフを制して、その中に混じるハリーの両肩を掴んだ。

 

「何!?どこか痛むの!?」

 

ハリーは一人で戻ってきたリークの体を見渡して彼の体を心配するが、リークはそれどころではなかった。

 

「メビウス用のマルチアーム!どれくらいで取り付けられますか!?」

 

「5分…いえ!3分でやるわ!」

 

ハリーは特に質問することなく、スタッフたちに準備するよう連絡を回し、自身も取り付け作業に加わっていく。

 

《オービットよりアークエンジェルへ!ランチャーストライカーをハンガーへ出すよう!フラガ大尉からの指示です!詳細はーーー》

 

次いでリークはアークエンジェルのハンガーにいるマードックに詳細を伝える為、通信を回した。

 

《おいおい、お前さん、それまじで言ってんのか!?》

 

「時間はありません!とにかくはやく!!」

 

マードックの驚愕した声を一言で封殺して、リークもコクピットへ再び潜り込む。作戦の要は自分だ。一分一秒でも遅れることは許されない。船外で行われる取り付け作業を行うハリーたちを見ながら、リークは焦る気持ちを必死に抑え込んだ。

 

 

////

 

 

「アスラン!どういうつもりだ!?」

 

キラはコクピットの中で叫んだ。接触回線が聞こえるなら、キラの声もアスランに届くはずだ。キラの声に、アスランは少しの沈黙を置いて、口を開く。

 

《…このままガモフに連行する》

 

連行。その言葉がキラの中で反復した。

そして考えた。自分が居なくなることで、どうなるのか。

 

アークエンジェルは?

友達は?

それに、メビウスライダー隊のみんなは…?

 

いったい誰が、みんなを守るって言うんだ?

 

「ふざけるなっ!僕はザフトの船になんかいかない!」

 

気がつくとキラは、そう口走った。動く力も残っていないということも忘れて、ストライクを動かそうと操縦桿やペダルを踏んで抵抗する。

 

《お前はコーディネイターだ!僕達の仲間なんだ!》

 

「違う!僕はザフトなんかじゃぁ…」

 

《いい加減にしろ!キラ!》

 

抵抗するキラに、アスランは強く叫んだ。

 

《このまま来るんだ。でないと僕は、お前を討たなきゃならなくなるんだぞ!》

 

「アスラン…」

 

その声の中には、さっきまでは見えなかった幼馴染の顔があった。優しくて、トリィを作ってくれた、幼き日の情景の中にいる親友の顔がキラの中に蘇る。

 

しかし、くぐもった声の中には彼の知らない憎しみに突き動かされたアスランの顔があった。

 

《血のバレンタインで…ナチュラルどもが撃った核で、母も死んだ》

 

自分たちを異端だと決めつけて、まるでさも当然のように、それを使う権利を持っているかのように、地球に住むナチュラルたちは、プラントに核を撃った。

 

何の罪もない、軍事力すら持たない無力な人々が核に焼かれ、宇宙で溺れ、死んでいった。

 

そんな悲しみや絶望や怒りを繰り返させないために、自分たちは戦っていると言うのに。

 

《だから僕はっ!……あ!うわっ!》

 

アスランの呟きの最中、ストライクを鹵獲するイージスの頭上から弾丸が降り注ぐ。

 

「ボウズ!」

 

「フラガ大尉!?」

 

そこに居たのは、帰投するアークエンジェルを通り過ぎて、こちらに追いついたムウのメビウス・ゼロだった。

 

《モビルアーマー!?》

 

《アスラン!》

 

ガンバレルの弾丸に続き、ムウが放ったレール砲が無防備なイージスに直撃する。その拍子で、ストライクを鹵獲していた拘束が緩んだ。

 

《くそっ!》

 

キラが最後に聞いたのは、悔しげにそう吐き捨てるアスランの声だった。イージスから逃れたキラの耳にもうアスランの声が届くことはなかった。

 

流されていくストライクの背後に流星が輝く。

 

「うおおお!!」

 

ストライクを抜き去って、イージスやデュエルに攻撃を仕掛けたのは、キラを追ってきていた純白のメビウス・インターセプターだ。

 

「ラリー!?お前!!」

 

ムウの作戦では、ストライクを回収した自分がアークエンジェルへ機体を連れて帰還する予定だった。ラリーがこちらにくる計画はない。

 

「ムウさんの機体も限界です!殿は俺がやります!二人はアークエンジェルへ!!」

 

ラリーは一度、ストライクを掴ませて飛んだが、計算通りの推力が得られなかったことが気になっていた。ムウのガンバレルにストライクが掴まって離脱しても、追いつかれる可能性が充分にある。

 

だから、ラリーはここにきた。

二人を確実に逃がすために。

 

「離脱しろ!キラ!後方からお前にプレゼントがある!」

 

「え!?」

 

困惑するキラを捨ておき、ラリーはムウが映るモニターへ敬礼を向けた。

 

「ムウさん、頼みましたよ」

 

ムウは何かを言おうとしたが、ぐっと口を噤んで操縦桿を握りしめる。

 

「チッ、死ぬんじゃねぇぞ!ボウズ!俺の機体に掴まれ!」

 

それを合図に、ムウとキラがアークエンジェルに向かって離脱していく。

 

『キラ!!』

 

それを追おうとするイージスやデュエルの前に、純白のメビウスが立ちふさがる。

 

モビルスーツの数は4。

 

モビルアーマーが1。

 

状況はどうみても絶望的だ。

 

だがーーー

 

「悪いがここからは通すわけにはいかないんだよ…流星の意地を見せてやろう…!」

 

ラリーの頭の中に逃亡の文字など、存在しなかった。

 

 

 

 

 

 

 


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