ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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第172話 ジェネシス

 

 

 

「バイタル低下!誰か手を貸してくれ!」

 

ボアズ、ヤキンドゥーエから一時的に退いたアークエンジェルを含める第八艦隊の状況は酷いものだった。

 

「負傷兵はこちらに!救護艦は!?」

 

「すでにいっぱいだ!ここで応急処置を!!メディック!!」

 

「お湯と清潔なタオル!急げ!!」

 

放射性物質を隔離するため、ハンガーから艦内へ追いやられたスタッフたちは、居住区画で負傷兵の治療に追われ、ハンガー内では損傷した機体の復旧作業が急ピッチで進められている。

 

「艦長。チャーチルより救援要請です」

 

「ーー解った。すぐに救援部隊を向かわせると返信しろ」

 

どこも人手不足といった様子だ。地球軍の核を抑えたとは言え、ダガー隊との戦いで出た損失も無視することはできない。傷ついた負傷兵も多く、船も何とか航行できるものもあれば、牽引して何とか保っている船もある始末だ。

 

そこにダメ押しをするように放たれたあの光。一息付いたばかりの艦隊にとっては致命的な攻撃とも言えるものだった。

 

「やられましたね…まさかあんな兵器を用意しているとは…くそっ」

 

そう言って苛立つようにシートに拳を下ろしたアズラエルは、無重力の中へと浮かび上がってブリッジの外へと向かう。

 

「アズラエル理事」

 

「……しばらく一人にしてください。頭を冷やしてきます」

 

このままでは他を見捨てて、あの狂気的な兵器を破壊することを命じてしまいそうだと、心配するバーフォードに小さくこぼすと、気分を落ち着かせるためにアズラエルは食堂を目指して通路を進んで行った。

 

「サザーランド指揮下の艦隊は全滅。我々の艦隊も少なからずの損傷が出ています」

 

「補給と整備を急げよ!」

 

バーフォードの声に、スタッフが了解と答えると、彼も疲労を隠せない様子で座席に腰を落とす。ふと、モニターに目をやると部隊の残存戦力を示すモニターが写っており、そこには未帰還になった機体の情報が赤く光点を瞬かせながら表示されていたのだった。

 

 

////

 

 

第八艦隊所属のアガメノムン級宇宙戦艦、ケストレルには、中破したアストレイが着艦し、サザーランドから離反したダガー隊がその警護に当たっている。

 

「ここはもう一杯なんだよ!使えるモビルスーツが優先だ!モビルアーマーはサンディエゴに収容!船外作業員が補給してくれる!」

 

後衛の整備部隊でもあるケストレルだが、そのキャパシティはすでに大きく上回っており、応急修理した機体を外に追い出しては次を受け入れるという整備のドライブスルー状態と化している。

 

ネルソン級のサンディエゴにドッキングしたブラックスワン隊も、出撃時からその数を大きく減らすことになった。シャムスは自機であるベルデメビウスから降りると、船外作業に従事する整備員たちと言葉を交わすミューディーを見つけた。

 

「ミューディー!」

 

「シャムス、全く…お互いに手ひどくやられたものね」

 

そう困った様にいうミューディーのブルメビウスは、片方のエンジンに大きな損傷を受けており、武装面も撃ち尽くしている満身創痍と言った具合だ。

 

「ああ、しかしーーあれはなんだったんだ?」

 

「あの光は…凶悪すぎる」

 

その二人の会話に参加するのは、着艦したメビウスノワールから降りてきたスウェンだ。三人の隊長的な役割を果たす彼もまた、普段は見せない様な疲れた様子を見せている。

 

「スウェン?」

 

「あの光は、この宇宙にあってはいけないものだ。それだけは…はっきりとわかる」

 

あの宇宙を横切った光は、明らかな憎悪を孕んでいるように思えた。幼い頃、かすれた記憶の中で見上げた星空とは明らかに違う邪悪な光。核も、さっき放たれた光も、同じだ。

 

スウェンは無意識に手に力がこもった。あんな光をこれ以上、許すわけにはいかない。

 

その様子を見てたシャムスとミューディーも同じように、人手が足りない整備に自分たちも名乗りを上げて、自機の修理へと乗り出すのだった。

 

 

////

 

 

アークエンジェル、ドミニオン、クサナギ、ヒメラギーーそして、あの光から生き残った艦隊の艦長たちは、今後の方針と放たれたザフト軍側の兵器のことを踏まえて、各艦の通信でブリーフィングを行うことになった。

 

ザザーランド指揮下の艦隊から名乗りを上げてアークエンジェル側についたミサイル駆逐艦「グラムク」を始め、多くの艦の艦長たちは、大型モニターに映される現状を見つめる。

 

「一度引けたとは言え、我々の位置はここ。すでにハルバートン提督たちが、停戦協定の準備に入っています。ガルーダ隊とアンタレス隊が合流していますが…」

 

マリューが囲った宙域は、ヤキンドゥーエとボアズの防護範囲からわずかに外れた場所であり、月からの地球軍本面の進路からもわずかに離れた位置に第八艦隊は集結している。

 

停戦協定のために乗り込んだアプリリウス市付近では、残ったメネラオスと数隻の護衛艦。プラントに詳しいイザークや、アンタレス隊の生き残りが護衛のためにアプリリウス市に入ったが、状況は最悪と言える。

 

「ザフトは撃ってくるでしょうな。あれを持ち出した以上は」

 

そういうのはエターナルの艦長であるバルドフェルドだ。ヤキンドゥーエの後方に現れた巨大な構造体。あれを出してきたということは、ザフトも形振り構っている場合ではないということだろう。

 

「そんな!無茶です!現在我が軍がどれだけのダメージを受けているのか…!」

 

ナタルの悲鳴の様な声は最もだった。ただでさえ地球軍との戦闘で受けた傷も大きいというのに、ここでさらにザフト軍との全面戦闘となればーー被害は計り知れない。

 

「サザーランド大佐が要請した月本部からも増援と補給が来ますが…」

 

「それを指を咥えて見てる相手でもあるまい。必ず手を打ってくる」

 

指揮下を離れる前で通達があった月からの増援部隊。あの兵器はそれらを遠距離から一方的に破壊するために作られたものだ。核をこさえて悠々とやってくる敵を、あの兵器を持ち出したザフトが黙って見てるとは考えにくい。

 

「わかっていることはひとつだ。あそこに、あんなもの残しておくわけにはいかない」

 

そう口火を切ったのはアズラエルだ。一人になって理性的に頭を冷やしてはいたが、あの光を見て怒りを覚えない彼ではない。震える拳を握りしめ、アズラエルは怒りを抱いた声を張り上げる。

 

「くそっ!!何がナチュラルの野蛮な核だ!あのとんでもない兵器の方が遙かに野蛮じゃないか!!」

 

一瞬目にした光。あの光にのまれた船がどうなったか。生きたまま体に光が突き抜け、船は原型を残したまま溶けたのだ。無数の叫びと共に。そんな船の中がどうなったなど、想像することは容易い。

 

「もう、いつその照準が地球に向けられるか解らない。核も、あの兵器も、撃たれてからじゃ遅い!」

 

もし、あの極光が地球に届くというならーーアズラエルにはそれが我慢ならなかった。自分たちも地球の恩恵をあやかりながら、ナチュラルと見下し、排除し、差別するだけじゃ飽き足らず、今度は地球という方舟を滅ぼそうというのだ。

 

そんなことを許していいはずがない。あんな兵器を、作れることを分かりながらも、あんな兵器はこの世に生み出してはならない筈だ。それを知りながら作った者たちに、アズラエルは吐き気が出そうな気分になる。

 

「…私たちは、遅すぎたのかもしれません…」

 

「ラクス…」

 

そんな最悪の未来を見つめて、ラクスは今までの気丈さとは打って変わって弱々しい一面を見せる。自分の父が停戦に乗り出しているとは言え、地球に撃たれればそんなもの意味をなさない。その先にあるのは避けようのない滅びへの道だ。

 

《あの兵器の解析結果が出ました》

 

そんな中、クナサギにいたシモンズ博士からの解析結果が各艦長たちの元へと届けられる。映し出された資料を少し見るだけでも、あの兵器がいかに危険なものかを窺わせるものだった。

 

《発射されたのはガンマ線です。線源には核爆発を利用した、巨大なγ線レーザー砲。そしてあの大きさ…照射範囲は計り知れません。仮に地球に向けられれば強烈なエネルギー輻射は地表全土を焼き払い、あらゆる生物を一掃してしまうでしょう》

 

「撃ってくると思いますか?地球を…」

 

そう不安げに言うマリューや艦長たちに、ヒメラギの指揮を預かるハインズが悲しげに目を伏せながら呟いた。

 

「ーー旧世紀でも、強力な遠距離大量破壊兵器保持の目的は変わらん。互いの武力を行使させないための抑止だ。だがもう、撃たれちまったからな。核も、あれも…どちらももう躊躇わんだろう」

 

その言葉に、バルドフェルドも同意する様に肯く。

 

「戦場で、始めて人を撃った時、俺は震えたよ。だが、直ぐ慣れると言われて…確かに直ぐ慣れた」

 

そこにあったはずの倫理や感情、道理や情が削ぎ落とされてゆき、最後には引き金を引くことが作業へと成り下がる。

 

流れ出る血も臭いも、それが仕事だと割り切れれば何ら心に遺恨を残すものではなくなるのだ。

 

「あれのボタンも核のボタンも同じと…」

 

「撃つ当事者たちにとってはな。そして誰もが後になって言うのさ。ここまで酷いことになるとは思わなかったとね。違うか?」

 

その言葉に誰もが押し黙る。軍人なら誰もが知りながら通る道だからだ。バーフォードは帽子を深く被りながら嘆く。

 

「人は愚かにも忘れる。だから慣れるんだよ。戦い、殺し合いにも」

 

誰もが突きつけられた現実に口を閉ざす中ーーだけど、とキラは口を開いた。

 

「アズラエル理事の言う通りです。核にもあの光にも、絶対に互いを討たせちゃ駄目なんですよ」

 

「キラ…」

 

そう前に出るキラに、隣にいたラリーやリークも頷いた。

 

「そうだよな。そうなってからじゃ、全てが遅い。俺たちは、それを止めるためにここに来た」

 

「ーーやるべきことは変わらん」

 

「バーフォード艦長」

 

バーフォードは小さく息をついて、ドミニオンのブリッジから星の大海を見据える。

 

「多くの…多すぎる犠牲を出して、地球軍の核を止めた。だが我々の戦いはまだ終わっていない。あの兵器を破壊せねば、この戦いは終わらん」

 

きっと、PJやコープマン…あの戦いで散っていった仲間たちも同じことを言っただろう。どれだけ絶望的な状況であろうとも、彼らは諦めずに気高く戦った。

 

だからこそ、自分たちも前に進まねばならないのだ。

 

「戦力は乏しい。失ったものも、悲しみもある。だが、彼らが我々に託してくれた使命を果たさなければならん。この戦いを止める使命をーー」

 

彼が散る価値があると見定めた世界を守るために、まだ自分たちの戦いは終わっていない。そういうバーフォードの言葉に、マリューやハインズたちも同じ気持ちだった。

 

 

////

 

 

「ミラーブロックの換装は?」

 

「あと1時間ほどであります」

 

ヤキンドゥーエの司令室の中で、偵察型ジンから送られてくるデータを見つめながらパトリックは指示を出していく。

 

「急がせろ。地球軍…いや、クライン派の動きは?」

 

「未だありません」

 

アプリリウス市に入ったとは聞いたが、今頃停戦協定を結ぶなどと言っても、もう遅い。

 

「彼らも必死でしょうから。あの威力を見た後では。こちらから仕掛けますか?」

 

そう口を出したのはクルーゼだ。いつもは座して馬を見るタイプであるはずの彼であるが、どこか焦りにも似た声色で防衛範囲の外側にいるクライン派を叩くかと言葉を投げてる。

 

そんなクルーゼにパトリックは手をひらひらとかざして答えた。

 

「そのようなことをせずとも二射目で全て終わる。我等の勝ちだ」

 

地球軍の増援が来ようとも無意味だ。ここにたどり着く前にジェネシスの炎に焼かれて絶えるのだから。

 

「では地球を?」

 

そう最後に疑問を投げたクルーゼに、パトリックはぐっと息を飲む。しばらくの沈黙の後、彼は答えた。

 

「ーー月基地を討たれてもなお奴等が抗うとなればな」

 

 

 

////

 

 

 

「母上!」

 

アプリリウス市。プラント最高評議会の議事堂があるプラント郡の一つであるこの地の港には、すでにメネラオスと関係各艦のが集結しており、その船の護衛としてイザークを含めたガルーダ隊も、このプラントへ到着していた。

 

シーゴブリン隊によって制圧された議事堂。イザークは投降した最高評議会の面々の中で自らの母を見つけた。

 

「イザーク!?貴方は…」

 

パナマでの戦いから行方が分からなくなっていた息子の帰還に驚くエザリア・ジュールに、イザークは青ざめた顔で問いかける。

 

「母上…答えてください。あの兵器は…」

 

きっと息子も地球軍に捕らえられたのだろう。緊急時だというのに、そんな思考に陥っていたエザリアは、大丈夫よとイザークを安心させる様に声を紡ぐ。

 

「ーー間もなくジェネシスの二射目が行われます。そうすればこの長かった戦争もようやく終わるわ」

 

「撃つと言うのですか…!!」

 

そう言って更に顔色を悪くしたイザークの頭を、エザリアは優しく撫でる。

 

「あなたは疲れているのですよ。停戦協定などするまでもなく、未来は私達のーー」

 

「ふざけないでください…!」

 

その手を、イザークは自ら払い退けた。激情に駆られるイザークの顔を見て、エザリアはただ戸惑うばかりだ。

 

「イザーク…?」

 

「ふざけるな…ふざけるな!!!一体、どれだけの人間が犠牲になったと思ってるんだ!?」

 

そんなこともわかっていないのですか!?そう怒声のような声を響かせるイザーク。蘇ってくるのは、絶望的な状況の中で地球軍艦隊へ挑んだ部下たちーーそして、飛来する核ミサイルを身を挺して防いだPJたちの勇敢な姿だ。

 

「俺の部下は!!俺たちの仲間は!!そんな悲しいことを起こさないために、身を挺して核からプラントを守ったんだ!!それなのに…まだ足りないと言うんですか!?まだ犠牲を出すと言うのですか!?」

 

現れたジェネシス。あれは、ただ一つ自分たちの故郷を守りたい、こんな戦いを終わらせたいと願って戦ってきた彼らへの侮辱だ。あんなものを許していいはずがない!!

 

「イザーク…」

 

息子の変わり様に驚くばかりのエザリアを、イザークは改めて見据える。

 

「母上ーー。俺たちはジェネシスを止めます。もう、あんな兵器を、あんな凶悪なものを、憎悪にまみれたものを、もう一発たりとも撃たせてはならないのです!!」

 

あれを撃てば、全てが無駄になる。直感的ではあるが、それだけは確信できた。あの兵器は危険すぎるーー。

 

「ナチュラルもコーディネーターも関係ない!俺たちは、俺たちの果たす使命のために戦う!」

 

それが、散っていった仲間や部下への最大の手向けなのだ。イザークは言葉を投げてから、踵を返し屈むデュエルへ向かう。その両脇に、二人の戦友が並んだ。

 

「ああ!」

 

「そうですね」

 

ディアッカとニコルに後押しされ、そしてあの戦いのあとでも付いてきてくれる部下を引き連れて、イザークは歩む。手渡された使命を果たすために。

 

そんな息子の背中を見つめなら、エザリアは戦地に赴く息子にかける言葉が見つからなかったーーー。

 

 

 

 

 

 

 

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