ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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第176話 閃光の刻 1

 

 

 

 

《ザフトは直ちにジェネシスを停止しなさい!!》

 

幾つもの砲火を潜りながら、エターナルの席に座するラクスは声高らかに叫んだ。深淵の宇宙の中に浮かぶ無数のヒカリ。彼らには届いているはずの声だが、ラクスの悲鳴のような声に応えるものは居なかった。

 

「ええい!取り舵20!弾幕!!」

 

帰ってくるのは極光だけ。触れれば焼けてしまうような憎しみの業火。彼らはもはや言葉では止まらない。しかしーーそれでやめてしまっては意味がない。

 

ラクスは揺れる体を歯を食いしばって耐えて、声を張り続けた。

 

《核を撃たれ、その痛みと悲しみを知る私達は、それでも同じことをしようというのですか?討てば癒されるのですか?!》

 

失ったもの。失いすぎたもの。傷ついて修復できない心の傷。だが、それを盾に相手に同じことを仕返す。それではただの怨念返しだ。そんなものに、理念も道理もーーましてや正義なんてものもない。

 

《同じように罪無き人々や子供を。これが正義と?互いに放つ砲火は何を生んでいくのか、まだ解らないのですか!?まだ犠牲が欲しいのですか?!》

 

どれだけ積み上げれば満足するのですか!?どれだけの物を捧げればーー!!

 

その言葉も、ザフトからの閃光でかき消されて行く。言葉では、もうどうにもならない。故に、エターナルの前に出ているパイロットたちは覚悟を決めた。

 

《エターナル、AWACS「スカイウォーカー」より、各機へ!目標まであと6000!敵の防衛網に入るわ!作戦通りにライトニング、メビウス隊は敵の陣営に穴を!》

 

管制官を務めるアイシャからの声に、リークを筆頭としたメビウス隊と、ラリーを先頭にしたメビウスライダー隊が、迫りくるザフト軍に向けて迎撃を開始する。

 

「敵の防衛網を貫くぞ!各機!続け!」

 

目標はヤキンドゥーエの司令部。他には構わない。幾十にも重ねられた防衛網を縦に貫き、敵の最大防衛施設へと攻め入る。立ち止まることは許されない。突き進んで一気に勝負を付けなければ、ジェネシスの発射を食い止められない上に、立ち止まれば四方八方から狙い撃ちされてしまう。

 

「おらぁあああいくぜえええ!!」

 

「てえりゃああああ撃滅!!」

 

「うらぁああああ!!」

 

ビームランチャーで敵陣に切り込んだリークに続いて、オルガたちも迫るザフト軍へと突っ込んでいく。混戦もさせない。とにかく前に進むのだ。

 

ラリーもホワイトグリントを鋭く挙動させると、近くにいたローラシア級のビーム兵器とエンジンをビームカービンライフル、ビームサーベルを駆使して航行不能へと貶める。

 

その戦場は苛烈を極めていた。

 

 

////

 

 

「急げー!こっちが先だ!バカやろう!」

 

アークエンジェルのハンガーでは続々と運び込まれてくる機器の改修や、傷ついた船の修理に追われる作業員の姿であふれていた。

 

「このラインはダメだわ!158番からバイパスさせて繋げるわよ!」

 

「補給に戻ってきたモビルスーツは2番デッキに!予備のバッテリーはすぐ出して!急ぐ急ぐ!」

 

マードックが怒声のような声を上げる中で、アークエンジェルの修理にも駆り出されたハリーとフレイが、矢継ぎ早に技師たちに指示を出して行く。

 

「125から144ブロックまで閉鎖!」

 

「推力50%に低下!」

 

「センサーの33%にダメージ!」

 

アークエンジェルもドミニオンも、深く傷ついていた。核の余波は避けたとはいえ、ダガー隊や地球軍艦隊との戦闘により、傷は多く、機能不全に陥っている箇所も多い。特に区画へのダメージは深刻で、すでに多くの箇所で火の手が上がり始めていた。

 

「くぅ…!!」

 

《ラミアス艦長!》

 

ダメージを必死に補おうとするマリューの元へ、バーフォードからの通信が入る。その顔つきは普段の余裕さからはかけ離れたものだった。

 

《踏ん張り所だぞ!弱さは気概でカバーしろ!ドミニオンはアークエンジェルのカバーに入る!弾幕!ヘルダート、斉射〝サルボー〟!ゴットフリート照準!バリアントを絶やすな!》

 

砲身が焼き切れても構わん!打ち続けろ!そう指示を出すバーフォードに続いて、クサナギやヒメラギ、残存戦力も迫るザフト軍へ決死の攻撃を仕掛けて行く。

 

《スカイキーパーより各機へ!敵モビルスーツ部隊接近。距離450!》

 

艦隊戦が熾烈さを増す中、外側を回り込んでくるようにザフトのモビルスーツが向かってくるのを、ディアッカが捉えた。

 

「イザーク!敵だ!2時の方向!」

 

「シエラ2とシエラ3は、ヒメラギとクサナギの援護を!」

 

了解!と答えたディアッカとニコルは、機体を横に逸らして隊列を離れる。目の前には艦隊から発進してきたジンの小隊とゲイツが迫っている。

 

「来るぞ!散開!」

 

イザークの指示のもと、アストレイとダガーはすぐさま散開し、それぞれの敵を相手取って巴戦を仕掛ける。イザークたちシエラアンタレス隊の仕事は、モビルスーツを船に近づけないことだ。勝てなくとも、相手を翻弄して釘付けにする必要がある。

 

イザークはボロボロになっているアサルトシュラウドに喝を入れて、迫りくるゲイツ三機を相手取り大立ち回りを演じていく。

 

『ブルー117、マーク52アルファにアークエンジェル。接近してきます!』

 

『足つきめ!今日こそ落としてくれる!!全艦、攻撃開始!』

 

しかし、敵艦も黙ってはいない。接近した艦隊から飛んでくるビームの嵐は止むことを知らなかった。

 

「アンチビーム爆雷発射!ヘルダート装填!」

 

「ナスカ級接近中!距離9000!」

 

邪魔をするな!!そうバーフォードが怒声を上げ、敵のエンジンをゴットフリートで撃ち抜く。だが、すぐにかわりのローラシア級がやってきて穴を埋めてしまう。

 

このまま長期戦になれば、すり潰されるのは明白だった。

 

 

////

 

 

敵陣営を貫かんと突入したメビウスライダー隊。キラは、敵のゲイツと切り結びながら、接触回線越しに叫び声を上げた。

 

「何故そんなことを!平然と出来る!」

 

あの光に打たれた人間がどうなるか、考えればわかることだというのにーー!!フリーダムの閃光がジンやゲイツの四肢を叩き切っていく。

 

『なんなんだよ!お前達は!』

 

ジャスティスでゲイツと揉み合うアスランは、そんなザフト兵の声に耳を疑った。

 

「お前たちこそ何だ!お前たちは、一体何のために戦っている!」

 

『ナチュラルどもが核を撃ったんだ!やらなきゃやられる、そんだけだろうが!!』

 

打たれたから打ち返して、殺されたから殺してーーそして核を打たれたから打ち返す。それを繰り返した先を考えもせずに、よくもそんな向こう見ずな戦いをする!!

 

「だから滅ぼしてもいいってのかよ!お前たちが認めない全てを!!」

 

オルガもまたその声を聞いて声を張り上げた。過去の自分たちもそうだった。全てが壊れればいいと思っていた。けれど違う。壊れたらもう戻れない。リークやクロトたちと過ごした日々が帰ってこなくなる。それが嫌だからーー!!

 

「そんな世界、僕はごめんだね!」

 

クロトもオルガの思いと同じだった。そんな世界はごめんだ。そんな憎しみしかない世界ーーリークから貰ったものを踏みにじるような世界など、認められない!射出された鉄球で、ゲイツを砕き、クロトは頭部から極光を放つ。

 

「そんなもんで、止まるもんかよ!!」

 

「オラオラオラぁ!!どかねぇとぶち殺すぞぉおお!!」

 

フリーダム、ジャスティス。

 

カラミティ、レイダー、フォビドゥン。

 

その五機の力は、まさに圧倒的だった。敵のモビルスーツを千切っては投げていくその力強さ。ザフト兵は困惑するばかりで、彼らの暴風のような猛威を食い止めることは叶わない。

 

前へ、前へ!!

 

五人が目指すのはジェネシス、そしてヤキンドゥーエ。なんとしても止めてみせる!!その思いだけが彼らを前へと突き進ませていた。

 

 

////

 

 

「ヘルダートてぇ!ローエングリン2番てぇ!」

 

片側のモビルスーツハッチとゴットフリート、バリアントを損失したドミニオンは、その死に体を奮わせて、ローエングリンを放ち、向かってくるナスカ級を大破させた。

 

だが、代償も大きい。側面からローラシア級に穿たれたビームにより、ドミニオンのエンジンは深く傷ついた。

 

「第二ブロックに火災発生!第六ノズルが停止します!」

 

「くぅうう…!!」

 

座席にしがみ付いて必死に耐えるアズラエル。その隣で、深く帽子を被ったバーフォードの目の先には、ザフトの艦隊が迫っていた。

 

『ここまでだな!足つきめ!!』

 

向こうの一斉砲火が始まる。アズラエルとバーフォードも拳を握りしめた。この推力では躱せない。

 

通信機からマリューの声が聞こえる。

 

くそーーここまでというのか…!!

 

砲塔が緑の極光に満たされようとした瞬間、ザフト艦隊の側面から、思いがけないものが襲いかかってきた。

 

『なんだ!?』

 

放たれたのは、ビーム砲だった。しかし、ザフト艦隊の側面に友軍艦はいなかったはず。驚いたバーフォードのもとへ、暗号通信で声と映像が届いた。

 

《無事か?黒い足つき!》

 

その顔をみたイザークは、思わず声を上げる。

 

「アデス艦長!?」

 

望遠モニターへ切り替えると、ザフト艦隊の側面から、アデスが指揮するヴェサリウスを筆頭に、ザフトの艦船とモビルスーツ隊が向かってきているのが見えた。

 

《こちら、ザフト軍ナスカ級ヴェサリウス、ならびにローラシア級のザウエルだ。シーゲル様の声を聞き、これより貴艦の援護に加わる!》

 

その一団から飛び出した蒼いゲイツ。シホの駆る機体が、イザークのデュエルを守るように戦場へ飛び込んでくる。

 

「ハーネンフースか!?」

 

「ご無事でしたか!ジュール様!シホ・ハーネンフース、これよりこちらの援護に加わります!」

 

「イザーク!あれを!」

 

驚愕するイザークへ、シュベルトゲベールでジンを叩き切るニコルが、声を上げる。ヴェサリウス側から、次々とモビルスーツ隊が戦列へ加わってきたのだ。

 

《アプリリウス護衛の15師団だ!上官を殴ってきた!これより貴艦の援護に入る!》

 

《モビルスーツ、ハードロック隊!PJたちとは戦友でな!核を止めた彼らの名誉のため、あんな兵器を見過ごす訳にはいかない!》

 

ジンや改修された機体で現れた援軍は、そう口々に答えて、ヤキンドゥーエの防衛隊と戦闘を開始していく。

 

「みんな…!」

 

「アラスカで俺の弟はナチュラルに助けられた!今度はこちらが彼らを助ける番だ!」

 

「もう俺たちは戦争はごめんだ!あんな兵器、この世界にあってはならない!」

 

彼らもまた、アラスカで地球軍に助けられたり、その光景を目の当たりにした者達だった。核の脅威からプラントを命がけで守ったPJやイザークたちに応じて、彼らは持てる力を持って馳せ参じた。

 

ふと、イザークたちはヴェサリウスのブリッジと視線が交差する。アデスの敬礼に、イザークたちも敬礼で答える。

 

「さぁ、ここからが本番だ!!」

 

なんとしても、ジェネシスを食い止めるぞ…!!イザークの声に呼応するように、ザラ派へ反旗を翻したザフトの兵士たちも激戦の中へと飛び込んでいくのだった。

 

 

////

 

 

「は!なんだ?」

 

モビルスーツと艦隊が集中する宙域を抜けたとき、メビウスゼロを駆るムウは何かを察知して、メビウスライダー隊から離れていく。

 

「ムウさん!」

 

その動き、キラには身に覚えがあった。ムウが何かを感じ取った先には何かがある。

 

「キラ!?フラガ少佐も!」

 

「アスランは、カガリを頼む!何かが!」

 

ヤキンドゥーエの司令部は目と鼻の先だ。すでに先行したエターナルから制圧部隊が発進し、ヤキンドゥーエへ乗り込もうとしている。アスランたちにはそれを護衛する任務があった。

 

「解った!いくぞ、カガリ!」

 

その先、ヤキンドゥーエ近域では、白き閃光が歪な光の尾を引き連れて防衛するモビルスーツ隊を蹴散らしていく。

 

「地球軍の白い奴!?」

 

そう反応した瞬間、機体の頭部と腕部がビームランチャーの光に飲み込まれた。

 

「ラリーの邪魔はさせない!」

 

リークと共に先行するラリーは、高速で機動するホワイトグリントの中で、辺りを細かく見渡していた。

 

「どこだ!どこにいる!クルーゼ!!」

 

奴のことだ。必ずこの近くにいる。ラリーはその確信だけを持って、辺りにいるモビルスーツを千切っては投げて、クルーゼの機体を探した。

 

 

 

 

「ラリー、私はここだ。はやく来い!ここに!!ふふっ、ふははは、あーーーっはっはっはっ!!!!」

 

 

 

 

ジェネシス発射まで、残り15分。

 

 

 

 

 

 

キャラデザイン

  • 他キャラも見たい
  • キャラは脳内イメージするので不要

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