ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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第179話 閃光の刻 4

 

「ジェネシス外装70、相転移変動率!」

 

「フェイズシフト装甲への負担が大きすぎます!」

 

バーフォードたちによる艦隊規模の攻撃は、無限とも言える動力を持つジェネシスに、少なくはない被害を及ぼし始めていた。

 

ソーラーセイル機構を基にしたガンマ線の照射装置であるジェネシスにとって、照射口への損傷は致命的とも言えた。エネルギーの充填値としては申し分はないが、装甲の熱エネルギーによって、ガンマ線がうまく照射されない危険性がある。

 

このままジェネシスを打った場合、下手をすれば、照射されたエネルギーが拡散し、プラントや自軍にも被害が及ぶ可能性がある。

 

「あんな小娘やナチュラル共の艦、さっさと叩き落とさんか!」

 

そう苛立った声で指揮をとるパトリック。部隊規模のモビルスーツがアークエンジェルなどの敵艦隊に向かっているが、撃破どころか近づくことすらままならない状況。

 

加えて、ザフト軍からの離反者により戦況は混乱状態に陥っているのだ。こんな状態ではまともな指令系統が構築されているかも怪しい。

 

(ラクス様…)

 

モニターに映るエターナル。そのブリッジで声を上げるラクス。こんな兵器は打ってはならない!地球を滅ぼせば、ナチュラル、コーディネーターなどという場合じゃなくなり、人類種は滅びると彼女たちは叫ぶ。

 

そのことに、誰もが少しずつ気づき始めていた。盲目的に戦争行為を行う者たちが、自分で考え始めている。はたして、このままで良いのだろうか。そんな違和感が、ずっと付き纏っているのだ。間違いだと思えた者たちは、離反してクライン側へと付いていっている。

 

プラントの内情が分断されつつあったのだ。

 

「ちぃ…やはり元を叩かねば終わらんか!愚か者め…!!照準入力を変更!新規目標、北米大陸東岸地区だ!!」

 

そんなことも、憎しみと憎悪の火はかき消してしまうのだろうか。パトリックがもはや最高議長とは思えない感情的な声を上げて、叫んだ。

 

地球を撃て、と。

 

その言葉に、ヤキンドゥーエの司令室はざわつく。それが彼らにとっての大きな分かれ道でもあったーー。

 

 

////

 

 

ヘルメット内に浮かぶ大粒の汗。それを気にせずにラリーはスロットルを踏み込み、プロヴィデンスへと突っ込んだ。

 

「このぉおおお!!」

 

《はぁああああ!!》

 

それぞれにビーム刃の突きを放ち、その一閃は互いのモビルスーツの頭部の横を掠めて交差する。超至近距離となった二機は、ビームサーベルがなければと、手隙の腕で殴り合い、機体を揺らして距離を取った。

 

距離が開けばと、クルーゼは垂直ミサイルの嵐とチェーンビームガンの咆哮、そしてソルディオスオービットと小型ドラグーンによるオールレンジ攻撃を放つ。

 

まさに死の嵐だ。ミサイルにビームの雨。距離を取ろうにもあたりにはオービットとドラグーンが舞い、退路を絶たんとビームを吐き出してくる。

 

その暴風雨を、充血したラリーの眼はしっかりと捉えた。今度は勘違いではない。迫る全てがラリーには何故かスローモーションのように見える。

 

「クルーゼ!!貴様ぁああ!!」

 

その閃光全てを紙一重で避ける。

 

フリーダムでもジャスティスでも、ましてやクルーゼのプロヴィデンスでも出来ない超高速の機動性。

 

ラリーの駆るホワイトグリントは、武装も特殊兵装も何もかも捨てて、それに能力を振り込んでいたのだ。

 

クルーゼはその姿を見て狂喜する。確実に避けられない網の筈だったのに、その僅かな隙間を彼は見極めて、類稀なる技術を持って隙間に潜り込み、最短ルートを駆け抜けてきた。

 

そうだ。そうだとも。

 

そうでなければ退屈だ。

 

そうでなければーーー!!

 

《どうした!?その程度か!!私にもっと見せろ!!私に!!》

 

抜けたラリーの前にソルディオスオービットを差し向けたクルーゼ。帯電した稲妻を走らせて、ビーム口にエネルギーを蓄えながら瞬間移動のような動きでラリーに迫る。

 

そのオービットの不可思議な機動へ、ラリーはまるでわかっているかのようにビームサーベルを持った腕を差し出す。

 

「でやあああああ!!」

 

吸い込まれるようにオービットはラリーのビームサーベルに貫かれた。蓄えたビームの発射口からサーベルを叩き込まれたオービットは、稲妻を走らせて火を噴く。

 

ラリーはその球体を突き刺したまま、クルーゼへ突貫した。たどり着く寸前でビームサーベルを引き抜き、火がついているオービットを、サッカーボールのようにクルーゼへと蹴り飛ばした。

 

《その程度の攻撃など!!》

 

爆炎を纏い始めたオービットを軽やかに躱したクルーゼ。そして目の前に視線をーーー。

 

彼の眼前にはツインアイを煌めかせたホワイトグリントがいた。馬鹿な、そんな早く…!!クルーゼが息を飲むまもなく、オービットを蹴り飛ばして瞬間的な爆発力を持ってして接敵したラリーは、容赦なくビームサーベルを奔らせた。

 

《ーーっがっ!!はぁ!!》

 

チェーンビームガンが内蔵された兵装が一刀のもと分断される。2撃目は辛うじて避けたが、クルーゼが感じた感覚は、それ以上の恐怖と感激をもたらした。

 

仕留めきれなかったことに舌打ちをしたラリーは、コクピットのモジュールへ手を伸ばして、設定データを変更していく。

 

「挙動制御のリミッター解除、不要なイメージは全てカットだ!!持ってくれよ…俺の体!!」

 

挙動制御は、あくまでラリーとクルーゼが検証した上限値で設定されている。彼らの中で行える軌道の中で設けた制約を、ラリーは解き放ったのだ。

 

その瞬間を持って、ホワイトグリントはついに人が体感したことがない領域へと足を踏み入れる。スロットルを吹かすと、今まで味わったことがない殺人的な加速性に身体が締め付けられる。

 

だが、ラリーの目は死んでいない。込み上げてくる鉄の匂いを抑え込んで、目の前にいるクルーゼへ向かって突き進む。

 

前へ。

 

前へ。

 

ただ、ひたすらに。

 

《素晴らしい…これこそが、本物だぁ!!》

 

残ったオービットを掲げて、クルーゼも大いに笑う。そうだとも。これくらいしてもらわなければーーー賭けるものに不相応だ!!

 

クルーゼもまた、機体や自身への負担を度外視してプロヴィデンスを挙動させていく。

 

光の尾を連れて重なり合う両者の軌跡はーーーまさに流星のような速さだった。

 

 

////

 

 

ヤキンドゥーエ要塞の内部では、シーゴブリンとアスランたちが要塞内のザフト兵と銃撃戦を繰り返しながら、パトリック・ザラがいる司令室を目指して前進していた。

 

「はやく司令室へ!ヤキンドゥーエのコントロールを潰せば、あのくそったれな兵器は止まる!」

 

「グレネード!」

 

シーゴブリン隊の隊長の声と、前衛に出ていたアタッカーの声が重なる。次の瞬間には、ザフトから放たれたグレネードの衝撃により、アスランの聴覚は激しい音を受けることになった。

 

「くぅっ!アスラン!!」

 

「カガリ、前に出すぎるな!」

 

そんなアスランを庇うようにハンドガンで応戦するカガリを無理やり引っ込めて、アスランもザフト兵から奪ったアサルトライフルで応戦していく。

 

「ぐぁっ!!」

 

『コンタクトォ!!』

 

シーゴブリン隊にも被害は出ていた。貫かれた隊員が無重力の中へ浮かび上がり、隊員たちはそれを後ろへ下げて前進を続けた。

 

「くっそぉ!!」

 

タタン、タタン、と的確にザフト兵を撃ち抜く。アスランにとっては、心苦しいものではあったが、電子戦を仕掛けるシーゴブリン隊の隊員から驚愕の事態が知らされていた。

 

『ジェネシス照準変更、新規目標、地球大西洋連邦首都、ワシントン!!』

 

その声を聞いて、誰もが立ち止まることをやめたのだ。冗談ではない。ジェネシスが地球に撃たれれば、本当に世界は滅ぶ。一刻の猶予もない。アスランも、それに応じるようにザフト兵を無力化していく。

 

打って、打って、打ち続けてーー。

 

「止めろ!もう止めるんだ!こんな戦い!本当に滅ぼしたいのか!?君達も!全てを!」

 

気が付けばアスランは叫んでいた。どこから声が聞こえる。ザフトのーーー怨念に似たような声が。

 

『ーー奴等が先に撃ったのだ!』

 

『ーーユニウスセブンには家族が居たんだ!』

 

撃たれた苦しみ。撃たれた怒り。失った悲しみ。それが帰ってこないと知りながらも、植え付けられた憎しみに従って戦う。

 

本当に?それで誰もが喜ぶのか?

 

そんな戦いを続けてーー満たされるのか?

 

そんなわけがない。そんなことが、あっていいはずがない!!

 

「その憎しみを憎しみで返して…怨念返しをして…滅ぼすのか!すべてを!!」

 

それで何かが帰ってくるわけがないというのにーー!!

 

そのアスランの悲痛な叫びは、もう届かない。司令室の中で目を血走らせたパトリックは、目標に指定した場所を睨みつけて、声を発した。

 

「何をしている!急げ!これで全てが終わるのだぞ!」

 

そんな議長に、側近のザフト兵は声を上げて静止の言葉をかける。

 

「議長!この戦闘、既に我等の勝利です!撃てば、地球上の生物が死滅します!もうこれ以上の犠牲は…がっ!?」

 

そんな悲痛な説得の言葉を、パトリックは懐から出した拳銃で封じた。そんな言葉など、何も意味がないのだ。そう言わんばかりに、絶望の色に染まったザフト兵の顔を見つめる。

 

「奴等は…奴等が敵はまだそこにいるのに、何故それを討つなと言う!!討たねばならんのだ!討たれる前に!!」

 

そう言って、彼は自ら操作パネルを操り出した。呪詛と化した心に突き動かされるように。

 

「敵は滅ぼさねばならん。何故それが解らん!!」

 

その言葉に、答えられるものは司令部には誰も居なかったーー。

 

 

////

 

 

「残り二つ!!」

 

リークが2つ目のソルディオスオービットを破壊する。代償にリベリオンの片腕を失ってはいたが、まだ戦える状況にあった。背部にビームを受けてビームランチャーが破損する。

 

衝撃に踏ん張りながら、リークは無反動砲を構えて迫るオービットと向き合った。

 

《そうだ!もっとだ!もっと見せてくれ!君の扉はまだ開ききっていない!!》

 

そこから僅かに離れた場所で、異次元的な戦闘機動をするクルーゼとラリー。追従するドラグーンや、オービットも彼らの動きにはついて行けず、的確に捉えていたはずのビームも横へと逸れていっていた。

 

「くっそおお!!この野郎!!」

 

ビームブレードでえぐられたビームカービンを投げ捨てて、両の手にビームサーベルを持ったラリーは怒声を轟かせながらクルーゼへ迫る。

 

「この野郎!!この野郎おおおおお!!」

 

躱し、振りかざし、凪ぎ、突き、切り裂く閃光の応酬を繰り返し、ついにホワイトグリントは、プロヴィデンスの片腕を切り裂く。

 

《ぐうう…はぁっ!!君との戦いの中でこそ、私はこの世界に生まれた意味を実感できる…!!》

 

その腕に持たれていた兵器が火を吹いて、ホワイトグリントの片足を吹き飛ばした。

 

「ちぃいい!!何を!!」

 

《これが定めさ!知りながらも突き進んだ道だとも!!ああ!!そうだ!!そうでなくては…!!》

 

クルーゼは全身をむしばむ痛みすら忘れて笑みを浮かべて叫んだ。

 

《君は示した!この偽りだらけの世界で、グリマルディ戦線から今まで、その本物たる力を!私にな!!その果ての終局だ!この戦い、もはや止める術などない!!!》

 

「ちぃい…!!」

 

足が止まったラリーの後ろへオービットが忍び寄るが、ラリーは凄まじい旋回力で逆にオービットの背後へ回り込むと、その装甲へビームサーベルを穿ち、そのまま切り裂く。

 

一瞬、動きが止まったオービットは、閃光を放って宇宙のチリへと帰った。

 

《私と君、どちらかが滅び、どちらかが生き残る!!そうなる運命の中でな!!》

 

「滅びるのは貴様だ!クルーゼェエエ!!」

 

クルーゼのビームブレードが、ホワイトグリントの頭部を捉えて、カメラの半分を吹き飛ばす。コクピットに稲妻が走った。データを処理しきれなくなったモジュールから煙が上がる。

 

《この憎しみの目と心と、引き金を引く指しか持たぬ者達の世界で!私は君を信じることができた!!故に、私が君を殺そう!私が信じたものが嘘か真か…それではっきりする!!》

 

振りかざされたプロヴィデンスの腕を掴んだラリーは、空いた手でコクピットを貫こうとしたが、咄嗟に膝蹴りのようにあげたプロヴィデンスの脚部へ誘導され、それを貫いた。

 

《君が本物なら、私を倒せるはずだ!!ならば倒してみせろ!!この私を!!!》

 

片足を犠牲にして振り払ったクルーゼは、ドラグーンをラリーへ差し向ける。

 

「くぅう…それしか知らないお前が!!」

 

迫る小型のドラグーンをビームサーベルで切り裂きながら、充血した目でラリーはクルーゼを睨みつけた。爆発的な加速性で突っ込んだホワイトグリントは、破損した脚部でプロヴィデンスを突き刺す。

 

その衝撃は大いにクルーゼの体を揺らし、痛みを思い出させた。その隙を突いて、ラリーはビームサーベルを突き出してプロヴィデンスへ迫る。

 

《がっ…!!…ああ、知らぬさ!所詮人は己の知ることしか知らぬ!!》

 

「それでも、俺たちは!!」

 

そこまで叫んで、ラリーはハッと気がつく。

 

そうだ。

 

それでも、俺たちはーーー

 

 

 

 

分かり合えたはずなんだ。

 

 

 

 

クルーゼが突き出したビームブレードが、ホワイトグリントの頭部を捉え、ラリーが突き出したビームサーベルもまた、プロヴィデンスの下腹部を貫くのだったーーー。

 

 

 

 

 

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