ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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最終話 白き流星の軌跡

 

 

 

『オーブとアズラエルの後継者が乗っている船だ。ここで落とすぞ。コーディネーターの世界のために』

 

ゲイツR型に乗るコーディネーターのパイロットは、抑揚のない声で二人の部下に言葉を告げる。こちらの目的はオーブ首長国連邦の重要人と、ブルーコスモスの中でも知名度のあるアルスターの一人娘の拉致誘拐、それが困難な場合の殺害だ。

 

目標は単なる輸送船。ザフトの警戒領域だと知って警戒もしていない。討ち取るには絶好のチャンスだ。そう考えての作戦立案だったのだがーー。

 

『隊長!敵輸送船から高エネルギー反応!これは…!』

 

突如として、何の変哲もなかった輸送船の後部が動き始める。三つに分かれるハッチがゆっくりと開かれると、そこには三機の機体の姿があった。

 

「ハッチ解放!進路クリアー、ライトニング隊、発進、どうぞ!」

 

《ラリー!せっかくプラントの機体のデータ取りするんだから、壊さずに乗って帰ってくるのよ!》

 

開けっ広げになった偽装ハンガーの中で、調整を担当していたハリーが、一番機に乗るラリーへ声を上げる。彼女もまた地球軍を退き、ラリーやリークらと共に民間軍事会社に勤めるメカニックだ。オーブの潤沢な技術を用いて日々開発や改造に力を注いでいる。

 

「了解了解!じゃ、ライトニング1、ラリー・レイレナード、メビウス・インタークロス、出るぞ!」

 

「ライトニング3、トール・ケーニヒ、メビウス・インタークロス、出ます!」

 

そんな彼女が作り上げた機体。

 

ラリーとトールが乗るメビウス・インタークロスは、先の大戦からハリーが時間をかけて抽出した「高機動モビルアーマー」の到達点の一つとなっていた。

 

駆動源も見直され、機体の重要装甲にはトランスフェイズ装甲を採用。機体各部のモーターも最新フォーマットとなり、武装面も小型化されたビーム兵装が搭載されている。

 

中でも機動性は、破損したホワイトグリントから取れたデータを基に作り上げられているため、瞬間的な加速能力は他のモビルスーツを圧倒的に凌駕する代物となっている。

 

まさに、旧メビウス型の皮を被ったモンスターマシンだ。

 

「ライトニング2、キラ・ヤマト、メビウス・ストライカー、行きます!!」

 

続くようにキラのメビウスも発進する。サイズは三機とも同じだが、兵装や装甲配置が若干違う。ラリーたちは輸送船を離れると、手早く編隊を組んで向かってくるゲイツへと接敵していく。

 

『あの機体…まさか!!』

 

『流星!!』

 

『恐れるな!敵は時代遅れのモビルアーマーだ!こっちはゲイツRだ!各機、落ち着いて落とせ!』

 

ところがギッチョン。

 

隊長は鋭く挙動するメビウスの動きに目を見開く。なんだこの速度は、ゲイツの改良機であるゲイツRよりも機敏に動くではないか。ビームライフルを構えるも、その閃光が機体を掠めることすらない。

 

「そう上手くいくかね!!」

 

『この…はやっ…!!』

 

『旧型のモビルアーマーじゃないのかよ!!』

 

翻弄するトールの動きに全くついていけない部下を横目に、隊長機は向かい来るラリーの機体に狙いを定める。

 

「機体は足回りが生命ってねぇ!!」

 

「この機体反応…ハリーさん、上手く噛み合ってますよ、これ!!」

 

切り裂く円を描き、宇宙に閃光を放つ流星部隊。ザフト軍内でも語り継がれる鬼神の如き強さと、雷のような速さを有する部隊の力は、自分たちが想像していたよりも遥かに高かった。

 

そんな中、鋭く動く二機よりは遅いキラのメビウスへ、ゲイツがビームクローを掲げて迫る。

 

『所詮、モビルアーマーは一本調子で…!!』

 

「それを待ってた…!」

 

キラはニヤリと笑みを浮かべると、機体制御を司るスロットルを横へと倒して引き上げる。機体は急減速し、ゲイツの放ったビームを躱すと同時に、各所に設けられた電動モーターが連動し、機体の形を大きく変えていく。

 

両翼に備わっていたフレキシブルスラスターの下部が分離するのを皮切りに、メビウスのコアユニットを成していた機体形状も可変。

 

コクピット部が胴体に来ると、内部に格納されていた腕と頭部が現れ、折り畳まれていたアンテナが開いた。

 

『なっ…変形した…だと!?』

 

メビウス・ストライカー。

 

オーブが開発した可変量産機ムラサメ。その設計時に技術顧問として参加したハリー・グリンフィールドが考案した可変機の試作型が、メビウス・ストライカーの基になる機体だった。

 

元々は高高度戦闘用に考案された機体構成だったタイプを、ハリーが形状から一新。可変システムはムラサメを基礎として、宇宙空間戦闘に特化した形状であるメビウスへの可変機構を備えた機体だ。

 

「でええい!!」

 

モビルスーツ形態となったキラのメビウスは、ストライクと同等の頭部のデュアルアイを煌めかせて、ビームサーベルを抜き放ち、呆気に取られていたゲイツの武器を持つ腕を切り落とす。

 

『こいつ…!!』

 

ゲイツのパイロットは、残された武装で応戦するものの、キラはすぐにモビルアーマー形態へと変形して一気に距離を取る。

 

メビウス・ストライカーの可変機構はムラサメを基礎にしてるが、複雑な機構はハリーにより簡素化されているため、要する時間が短縮されている。よって、形態変形によるヒットアンドアウェイの戦術が、高速機動戦術を得意とするキラとは相性が良かった。

 

『くっそー!!手強い…やはり先の大戦の英雄…!!』

 

「遅い!!」

 

隊長機のビームライフルがラリーを追う中、突如として意識の外からやってきた閃光が、隊長機のビームライフルを穿ち、爆散させた。

 

『ぐあっ!!なんだ!?新手か!?』

 

索敵のために視線を走らせると、新たに一機の反応。輸送船から遅れて発進した機体が、こちらに向かってきていたのだ。

 

「いいタイミングだ!シン!」

 

そう言うトールに、もう一機のメビウス・ストライカーに乗る若いパイロットは、笑みを浮かべてスロットルを握る。

 

「遅れました!ライトニング4、シン・アスカ、メビウス・ストライカー2号機、作戦領域に参加します!」

 

ドバッと光を溢れさせて、シンの機体がもつれ合う空戦領域へと突入してくる。それを皮切りに敵を振り切った三機も加わると、四機の編隊となったライトニング隊がぐるりとゲイツの周りを旋回し始めた。

 

『四機の編隊だと…!!機体性能ではない…この技量の差は…!!』

 

「世界は平和になろうっていうのに、まだ戦争がしたいのか、あんた達は!!」

 

まるで獲物を狙う肉食獣のように相手の様子を伺った四機は、息を合わせて散開すると、満身創痍になりつつある敵を翻弄しては足や手、頭部を的確にビームで撃ち抜いていく。

 

『ええい、化け物ーー』

 

隊長機がそう呟いた瞬間、頭部から背面ブースターにかけて、モビルスーツ形態となったシンのメビウス・ストライカーによって撃ち抜かれる。爆発はしなかったものの、機能を奪われた機体は宇宙空間で浮かぶただのスクラップとなった。

 

「上手い、さすがはシンだ」

 

撃ち抜いてモビルアーマー形態となったシンの隣に並んだキラが、教え子の力量を素直に褒める。その背後にトール、前方にはラリーが並び、周辺警戒をしつつ編隊組んで宇宙を飛んでいた。

 

「隊長にしごかれてますからね。ザフトの赤服にも引けは取りませんよ!!」

 

「よーし、その意気だ!!」

 

憧れのパイロットの背を追ってきたシンもまた、トールやキラのように訓練に励み、今の実力を手に入れている。そこらにいるザフトや地球軍のパイロットには負けはしない。

 

ちなみにライトニング内の模擬戦ではトールに1勝3敗、キラに1勝4敗、ラリーとリークに0勝5敗と、まずまずの戦績を残している。

 

『くっそぉ!!こいつら…いい気になって!!』

 

《そこの機体!どこの所属だ!!》

 

武装すら失くしながらも戦意を失わないゲイツに、新たな通信が入った。ラリーたちが旋回しつつ新たにきた機体を見ると、新型の青白いザクウォーリアーに乗る旧友がプラントからやってきた。

 

《こちら、シエラアンタレス隊、隊長のイザーク・ジュールだ。迎えにきたぞ》

 

『ちぃ、コーディネーターの恥晒しどもめ!!』

 

恨み言のように言う隊長の背後には、深緑のザクと、漆黒のザクがそれぞれ配置していて、抵抗する余力すらないゲイツ隊へ緩やかに武装を構えていた。

 

《逃げられませんよ》

 

《言い分は、調書室で聞こうか》

 

そう言ったニコルとディアッカ。隊長であるイザークにも囲まれたゲイツ隊は、しばらくの沈黙を守って…。

 

『南無三…!!』

 

自爆レバーを躊躇いなく引いた。四肢をもがれたゲイツは次々と爆散し、宇宙の藻屑へと飛散していく。それを見たイザークは苛立ったようにシートに体を預けた。

 

《自爆したか…これで3件目だな》

 

《プラントも荒れているようだな、イザーク》

 

一部始終を輸送船から見ていたアスランも、どこか感慨深い声で戦友をいたわる言葉をかける。

 

《どちらかというと、ザラ派がな。政治というのは難しいらしい》

 

そう答えるイザークに、アスランの表情は複雑なものになる。現に、シーゲルが政権を奪還し、のちに引き継いだ議長の方針を尊重する兆しはあるものの、旧ザラ派の過激なテロ行為も蔓延している状態でもある。

 

プラントも地球も、新たな道を行く最中だ。

 

《とりあえず、再会を祝う言葉はあとだ。我々が諸君らを護衛する。ふん、ありがたく思うんだな》

 

そう言って輸送船の護衛につくイザーク。その後ろをついていきながら、ニコルは肩を竦めながらラリーに言葉を投げた。

 

《と言っても、イザークはまだ全然ラリーさんに模擬戦で勝ててないんだよね》

 

《うるさい!!聞こえているぞ!!》

 

《はいはーい》

 

《お前もずいぶん変わったよな、ニコル》

 

そんなやりとりをする二人に呆れながらも、ディアッカも船を守るように護衛位置へと着く。本来ならこの三人が出迎えとプラントまでの護衛を担うはずだったが、タイミングが悪かったようだ。

 

そんな三人の横を飛ぶライトニング隊も、これから向かう先に想いを馳せていた。

 

「シン君、プラントについたらどうする?」

 

「マユにお土産をせがまれてるんで…」

 

通信越しに困ったように言うシンに、リークは声を上げて笑う。

 

「はっはっは、僕もさ。任務が終わったら一緒に回ろうか、キラ君もどうだい?」

 

「はい、ご一緒しまーー」

 

そこまで言いかけたキラに、隣を飛んでいたトールが待ったをかけた。

 

「待て待て待て、お前は歌姫と会う約束があるだろ?」

 

そう言うトールに、キラは若干誤魔化すような、照れるような仕草を見せつつ言葉を濁した。

 

「ラ、ラクスとは公務の関係で…」

 

「そう言って、ミリィやアイシャさんに服とか聞いてたのはどこの誰かな?」

 

「トール!!」

 

《え、なにそれ私聞いてないんだけど》

 

お洒落担当だと自負していたフレイが、ショックを受けた様子で通信に加わってくる。たしかにキラは、お洒落のためにミリアリアやアイシャに声をかけたが、フレイには声をかけていなかった。

 

《いやフレイは常にツナギかタンクトップじゃん》

 

隣にいたカガリの言葉に、フレイは目元を険しくして突っかかっていく。

 

《わ、私だっておしゃれのひとつやふたつ!!》

 

《はいはい、お喋りはそこまで。四人とも早く帰投してね。バレると少しややこしいから》

 

そんな会話を聞きながら、マードックと共に帰還受け入れ準備を進めるハリー。この調子はいつも通りだな、とラリーは飛びながら小さく笑った。

 

《相変わらず賑やかだな、貴様ら》

 

《目的地が見えてきましたよ》

 

そう言うイザークたちに習って、ラリーたちも見えてきたプラントの姿を見つめる。

 

「アーモリーワン、か」

 

ラリーは誰にも聞こえない声で呟く。

 

あれから2年。

 

因縁が新たに始まる地に、運命のいたずらか自分はまた向かおうとしている。変化した物語。この先に何が待っているのかーーーラリーにはわからない。

 

けれど、やるべきことはわかっている。

 

「さぁ、いくぞ。俺たちの使命を果たすために」

 

「 「 「了解!!」 」 」

 

そう言って輸送船へ旋回していく四機のメビウス。

 

 

 

 

 

そうだとも。

 

彼らの戦いはまだ終わらない。

 

彼らは宇宙を飛び続ける。

 

引き継いだ多くのものを抱えて。

 

 

 

 

 

 

 

〝生き残り、生きて、使命を果たす。

 

 

 

 

 

それがメビウスライダー隊の在り方なのだから。

 

 

 

 

 

機動戦士ガンダムSEED

白き流星の軌跡

 

END

 

 

 

 

 

 

 

 





ここまで読んでいただきありがとうございました。

SEED編はこれにて完結となります。これまでの間、この物語を見ていただいたみなさんには感謝の言葉しかありません。感想や、評価も大きな励みとモチベーションの維持にもなりました。ラリーやリークたちの物語を完結させれたのも、一緒に見ていただいた皆さんのおかげです。ありがとうございました。

さて、ここから先はいくつかの番外編を書いていきます。その後のフレイたちの話や、オルガや三人娘、マリュー達も描ければなと思っていますので、よければ楽しみにしていただけると幸いです。

ここまでのお付き合い、ありがとうございました!!


キャラデザイン

  • 他キャラも見たい
  • キャラは脳内イメージするので不要

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