ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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序章

原作に不満を抱くことはあるだろうか?

 

シナリオにしろ、ストーリーにしろ、こういう展開の方が楽しく、愉快であり、痛快だと思うアレだ。しかし、原作は誰もが望んでない方向へ舵を取り、そして視聴者の絶望とともに物語を終えてしまう。

 

俺の場合、その感情を生まれて初めて感じたのは「ガンダムSEED」であった。いや、SEEDはまだいい。あれは許せる。ちゃんと物語はしていたし、キラの行動も…まぁクルーゼさんの言葉の回答は出来てないが、十代の多感な頃にあそこまで出来たのだから上々だ。

 

だが、destiny。貴様はダメだ。

 

確かに讃える点は多いよ?モビルスーツはかっこいいし、シンはかっこ可愛いし、ステラは萌えだし、ミーアはおっぱい大きいし、ルナマリア?シンとリア充になって、どうぞ?

 

問題は!!SEED組だよ!!

 

なんだよ!!キラさんよぉ!!あんた次世代に主人公の座譲るつもりあんの!?無いよね!?無いだろ!?俺つええキャラでdestiny貫いたよね!!ああなれば運命どころか必然だわ!!そうなることが運命付けられてるわ!!ストライクフリーダムすぎるわ!!

 

そしてアスランもなぁ!!あんたなぁ!!結局何したかったの!!何を!!したかったの!!そんなんだから「トゥヘアー」って弄られるし!!ミーアとカガリとメイリンと優柔不断というか三股と見られてもおかしくない状況になるんですよ!!

 

そしてムゥさん!!生きとったんかワレェ!!まぁ生きててくれたことは嬉しかったけど!!雑!!もうガッバガバ!!記憶喪失はわかるけど、もっと違法なマインドコントロール的な処置とかされてから出直してきて下さい。

 

まぁ他にも色々言いたいことはあるけれど、とにかく俺にとって原作に不満を初めて抱いたのはSEEDだった。

 

それでもガンダム大好き。

悔しい!!でも繰り返し視聴しちゃう!!

 

そんなわけで、久々の休日を利用して、ガンダムSEEDの一挙放送をぶっ通しで見ていた俺は、ガンダム大好きな感情と、destinyへの不満を抱いた感情という、二つの気持ちを入り乱れさせたまま床に就いた。

 

床に就いたんだ。愛しいベッドに。

 

なのに

 

なのに

 

「なんでこんな事になってるんだぁあああああ!!!」

 

そんな俺の悲鳴は、格納庫から発射されるメビウスの射出音にかき消されるのだった。

 

 

////

 

 

メビウス。

地球連合軍が開発した宇宙用量産型MA。

 

プロトタイプのメビウスゼロとは違い、ガンバレルは搭載されていない。 武器はリニアガンとバルカン砲、ミサイル。オプションで核ミサイルを装備可能。

 

そして艦船から放り出された俺が乗るメビウスの装備は、リニアガンとバルカン砲しか無い。

 

いや、待って。

 

なぜそんなことが分かる。

 

そもそも、こんな棺桶の中のような息苦しさの中で、何故、自分は平然と操縦桿を握っているのだ?

 

俺は、ついさっき、SEEDの一挙放送を見終えて、不満を抱きながらベッドに横になっただけのはずなのに。

 

なぜ、自分は、ガンダムSEED史上、やられ役の代名詞であるメビウスに乗っている?しかもわざわざ宇宙で!!

 

「あっはっはっ。こりゃあれかな。夢だな!夢にしてはやけにリアルな感覚だがな!はっはっは!参ったわい!!」

 

頭の中はパニックだというのに、メビウスの操縦桿を握る手は揺るぎがない。真っ暗な宇宙の中に浮かぶ白い星の地平線を追うように、自分が操るメビウスは飛翔して行く。行き場のないパニックを追い出すように、俺はヘルメットの中で狂ったように叫んだ。

 

『あぁ、そうだな。あの目の前の敵艦隊が夢であってくれたら、どれだけ良かっただろうな』

 

そんな狂乱の声に返事があった。目線は勝手に周波数チャンネルへと向いた。番号を見るだけで、それが地球連合軍の識別通信チャンネルであると理解する。

 

答えてくれたのは、陽気さと真剣さを兼ね備えたような声。この声、俺は聞いたことがある。まさかな?

 

そう思って狭いモニターへ視線を彷徨わせると、自分のメビウスの隣を飛ぶ、オレンジ色の機体「メビウスゼロ」の編隊が見えた。

 

『おい、フラガ。新人の狂乱に付き合ってたら身がもたないぞ?』

 

『そう言うなって、俺でもあの敵を見たら、発狂の一つやふたつ、したくなるもんさ』

 

『はっ、お前が発狂したら、ここにいる全員が敵前逃亡してるさ』

 

ムウ・ラ・フラガ。

間違いない。隣を飛ぶメビウスゼロの編隊の中に、その人がいる。誰と喋っているかはわからないが、おそらくメビウスゼロ編隊の仲間と、ムウは喋っているのだろうか。

 

そんな、バカな、夢にしては、出来すぎている。

 

驚愕しか出来なかった俺の機体の近くへ、一機のメビウスゼロが近づいてきた。聞こえてきたのはムウの声だった。

 

『お前さんもツいてないな、ルーキー。編入早々にエンデュミオン・クレーターの戦場に放り込まれるんだから』

 

「え、エンデュミオン・クレーター…」

 

俺は必死に頭を回転させた。エンデュミオン、エンデュミオン…ムウが「エンデュミオンの鷹」と呼ばれる所以になった出来事。

 

SEED本編開始前に行われたプラント・地球連合間の戦争の緒戦の一つである月面のエンデュミオン・ クレーターでの決戦。そしてそれは、連合軍艦隊の惨敗で終わった戦いだ。

 

う、うそだろ…ということは、俺が乗るメビウスも、隣にいるムウが駆るメビウスゼロや、その編隊も、その決戦の場へ向かっているということか!!?

 

これが夢ならば、俺は夢の自分の昂りに身を委ねて、戦場へ意気揚々と飛び込んでいただろう。そして呆気なく撃墜され、ベッドで目が醒める。そして変わらない日常がくる。

 

しかし、だ。

 

俺が感じたものは、そんな甘いことじゃない。夢とは思えなかった。操縦桿を握る手も、戦場へ向かう張り詰めた緊張感も、そして目前に迫ってくる死への恐怖も、全てがリアルで、体全身が叫んでいる。

 

ここで死ねば、俺は二度と目覚めることはないのだと。

 

次に湧き上がってきたのは、恐怖だった。

 

嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!

 

メビウスなんかで、そんな戦場へ向かえば死が待ってるに決まっている。ムウも、自分以外のメビウス全てが撃ち落とされてると語ってるじゃないか!そんな戦場で、そもそもメビウスや、飛行機すら操ったことのない自分が生き残れるはずがない!!

 

嫌だ。怖い、怖い怖い怖い怖い!!

 

逃げないと。逃げなければ。けれど、どこへ?俺は、どこに帰ればいいんだ。

 

そんな思考がぐるぐると頭を駆け巡るが、俺は自身の防衛本能に従って、編隊飛行をしていたメビウス編隊から逃げるように離脱し、進んできた航路の反対方向へ向かう。

 

『あ、くそ!ルーキー!待て!どこに行く気だ!』

 

ヘルメットの無線機からムウや、誰かもわからない罵声が聞こえたが、構うものか。俺は逃げる。死ぬのも、怖いのもごめんだ。命あっての物種。兵士でもないし、死ぬ覚悟なんてものも持っていないのだから。

 

そんな時、俺のコクピットにブザーが鳴り響いた。

 

視線がモニターへ。ピピピッと電子音が鳴り響くと、目の前にいくつもの光が見えた。

 

これは、星の光ではない。

 

これはーー

 

「モビルスーツ…!!」

 

なんてこった。俺が反転して逃げようとした先に、モビルスーツの編隊が居るなんて!!クソ!!信じられねぇ!!レーダーには何も映って…映って?

 

そうか。

 

コイツらは、レーダーに映らずに背後にやってきていたのか!!

 

この頃の連合軍は、プラントが準備した電子撹乱兵器『ニュートロンジャマー』にそれほど脅威を感じていなかったはずだ。

 

未来の戦争は電子戦が物を言う。情報の目を潰された連合は、人型兵器「モビルスーツ」を前に、為すすべもなく敗北した。

 

とすれば、と俺は辺りを見渡すと愕然とする事実が広がっていた。

 

俺たちを射出した艦船の側面方向から、モビルスーツの部隊が迫ってきていたのだ。退路を断って、俺たちを嬲り殺しにするために。

 

けど、どうする?

 

俺は逃げる。

そのためだけに反転した。

 

だが、俺はもう敵のモビルスーツ編隊の真ん前にいるのだ。

 

《なんだ?敵機が一機、こちらに反転したぞ?まさか気付かれたのか?》

 

《気にするな、たかが連合のモビルアーマー一機だ。それにここまで近付いたなら気付かれても問題はない》

 

敵機から、そんな声が聞こえた気がした。

無線は繋がっていないはずなのに。

 

すると一機のモビルスーツ「ジン」が、俺のメビウスに向かって飛び込んでくる。

 

だ、だめだ。逃げられる距離じゃない。

このままじゃ、殺される。

 

どうする。どうするどうするどうするどうする!!

 

その時、俺の手はまるで吸い寄せられるように、操縦桿とスロットルを操っていた。メビウスは、宇宙戦闘を想定したモビルアーマー。その機動力はモビルスーツに劣るものの、無重力の空間を自由に動き回る程度の能力は与えられていた。

 

ただ、前に飛ぶだけでなく、右へ、左へ、反転して、真っ逆様にでも。その姿勢は自由自在に変えられる。

 

「うが…ぐぅ…!!」

 

気がつけば、俺は反転ブースターとブレーキ用のブースターを全開にぶん回しながら、近くジンから放たれた弾丸を紙一重で避けていた。

 

体にのしかかる遠心力は途方もなかったが、耐えられないものではない。普段の俺なら即座に意識を失っていてもおかしくないはずなのに…。

 

そんな意味不明な問答を繰り返しながら、俺のメビウスに搭載されたバルカン砲の銃口は、通り過ぎようとしたジンのランドセルとコクピットを捉えていた。

 

「コイツ…!!」

 

俺はトリガーにかけた指をわずかに強張らせた。

 

死にたくない。俺は生きたい。

 

そんな気持ちが、俺にトリガーを引かせた。

 

連射されるバルカン砲は、ジンの翼を思わせるブースターと、装甲を貫き、コクピットを粉砕した。いくらモビルスーツの装甲とは言え、すれ違いざま、しかも背後から撃たれたらひとたまりもない。

 

《ば、バカな…俺が、ナチュラルなんかに…!!》

 

その言葉を残して、ジンは爆散した。

 

死んだ、のか。

夢にしては、リアルすぎる。悪趣味だ。

直面した、人の死に思考が震えた。

 

俺が、殺したのか。

 

俺の中にあった動揺とは裏腹に、メビウスは複雑な機動からまっすぐと上昇する機動へ変わり、呆気にとられたモビルスーツの編隊の真上へ飛び立った。

 

『ルーキー!!背後から近づいていた敵機に気付いてたのか!!やるなぁ!!』

 

『ただの新人から、期待の新人へ格上げだな』

 

『敵前逃亡という汚名は返上されたぜ!!』

 

無線機から声が聞こえると、遅れて飛んできたメビウスゼロの編隊や、メビウスの編隊が、動揺するモビルスーツ編隊と戦闘を開始して行く。

 

お、俺は…どうする。

逃げるのか。

人を殺しておいて…!!

 

柄にもなく、ぎゅっと操縦桿を握る手に力がこもった。

 

そうだ。

 

このメビウスは俺の頭の中に描いた機動を再現してくれる。この機体なら、戦える。

 

こんな確信も、このリアルすぎる夢のせいだろうか。なら、行けるところまで付き合ってやろう。戦えるなら、戦い続け、俺は生き残る。

 

生き残って、俺はーー

 

SEEDの世界を!!

 

数多の光がきらめく戦場へ、一機のメビウスが飛翔する。まるで流星のようにかける光は、死にゆく者たちを鼓舞し、戦場に掛かる一条の閃光と化した。

 

 

 

 

 

 

 

後、エンデュミオン・クレーターで勃発した決戦「グリマルディ戦線」は、連合軍の大敗で終わった。

 

しかし、連合軍の中でも数少ない勝利はあった。

 

モビルアーマーでモビルスーツを撃破した勝利。

 

それを成したエースパイロットの片割れは「エンデュミオンの鷹」と呼ばれ、そのエースパイロットを上回る撃墜数を出したメビウス乗りは「白き流星」という異名で称えられることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




気が向けば続きます

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