ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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アルテミス編
第18話 策謀の傘


 

アークエンジェルとクラックスは、長いサイレントランを終えて、地球軍の軍事要塞「アルテミス」に到着することができた。

 

アークエンジェルが抱える避難民や、物資の問題。そして新造戦艦と新兵器であるG兵器の処遇の答えが、ここで得られるとマリューやナタルは期待を抱いていた。

 

「ああぁ……」

 

「何これ…?何なの?ねぇサイ!」

 

突然の出来事に、誰もが反応できなかった。アルテミスに入港を終えてから待っていたのは、期待とは裏腹の手酷い扱いであった。

 

アークエンジェルの艦内は、入ってきたアルテミスの武装兵によって即座に制圧されたのだ。

 

「よーし!そのままだ!」

 

「動くなっ!」

 

居住区や、機関室、そしてブリッジに武装兵が詰めかける。味方だと思っていた相手に銃を向けられる恐怖で、その現実を目の当たりにしたミリアリアが悲鳴を上げた。

 

「キャァァァッ!」

 

まだ年端もいかない彼女にも、地球軍の兵士は容赦なく銃口を向けるのだった。

 

 

////

 

 

「全員一カ所に集まれ!」

 

ブリッジや居住区にいた全ての下士官や避難民が、アークエンジェルから追い出される形で、入港したアルテミスの一角に集められていく。

 

銃口を向けられている以上、こちらは言うことを聞くしか無い。

 

「ビダルフ中佐!これはどういうことか説明していただきたい!我々は…」

 

「保安措置として艦のコントロールと火器管制を封鎖させていただくだけですよ」

 

不満を爆発させるナタルに、卑しい笑みを浮かべながら答えたのは、アルテミスの高官であるヒダルフ中佐だった。彼の周りには何人もの武装兵がおり、その銃口は未だにアークエンジェルのクルーに向けられている。

 

「封鎖?…し、しかし、こんなやり方…」

 

「貴艦には船籍登録もなく、無論、我が軍の識別コードもない。状況などから判断して入港は許可しましたが、残念ながら、まだ友軍と認められたわけではありませんのでね」

 

遠くでは、次々と機材を持った技師たちがアークエンジェルに乗り込んでいくのが見える。ナタルから見ても、彼らがアークエンジェルに何らかの手を入れようとしている事は明らかだった。

 

「しかし…!」

 

「バジルール少尉。彼の言うことは正しいよ。残念ながら今は戦時中でもある」

 

収まりがつかないナタルを宥めたのは、同じくアルテミスに入港したクラックスの艦長、ドレイクだった。彼らもアークエンジェル同様に武装解除と封鎖を名目に船から降ろされている。

 

「バーフォード艦長」

 

ドレイクの鋭い視線は、ニヤニヤと卑しく笑うヒダルフに向けられる。厳粛さを宿すその瞳に、ヒダルフは笑みを収めて、高慢そうな顔つきに変わる。

 

「軍事施設です。このくらいのことは、ご理解いただきたい。では、士官の方々は私と同行願いましょうか。事情を伺います」

 

 

////

 

 

「ドレイク・バーフォード少佐、マリュー・ラミアス大尉、ムウ・ラ・フラガ大尉、ラリー・レイレナード中尉、ナタル・バジルール少尉か…。なるほど、君達のIDは確かに、大西洋連邦の物のようだな」

 

アルテミスの実権を握るジェラード・ガルシア少将は、通された士官の書類に乱雑に目を通しながら、前に立つ彼らを値踏みするような目で眺めている。

 

マリューやナタル、ムウは表面上にこそ出さないが、非常に不満を抱いている雰囲気があり、ドレイクはくたびれた帽子を脱ぎ、疲れた様子でガルシアに一礼する。

 

「お手間を取らせて、申し訳ありません。ガルシア少将」

 

「いや、なに…。メビウスライダー隊。それを率いる輝かしき君の名は、私も耳にしているよ。バーフォード少佐。グリマルディ戦線には、私も参加していた」

 

ガルシア少将はドレイクを見て、すこし懐かしそうに目を細めた。あの戦いは、地球軍にとっても、そして自分にとっても痛すぎる過去の思い出だ。

 

「存じております。少将はビラード准将の部隊に」

 

グリマルディ戦線当時、ドレイクの艦は第7艦隊の前衛として出ていた。そのおかげで多くの戦死者を出したが、同時に彼がムウや流星と出会う大きな転機ともなった。

 

ガルシアもドレイクの言葉に頷く。

 

「そうだ。戦局では敗退したが、ジンを20機落とした君らの活躍には、我々も随分励まされたものだ。そして今も励まされているよ」

 

「ありがとうございます」

 

そこで、ガルシアの目が変わった。

 

「しかし、その君が、あんな艦と共に現れるとはな」

 

それは失望…いや、残念と言うような目つきだった。ドレイクはそんなガルシアの目つきを気にもしないで淡々と言葉を続ける。

 

「特務でありますので、残念ながら、子細を申し上げることはできません」

 

特務…そう言ったドレイクではあったが、アークエンジェルの存在や自分の指揮する船、そしてメビウスライダー隊が、その特務の中身を隠すことなくさらけ出しているように思える。

 

今度はガルシアが鋭い視線のまま思考を巡らせた。

 

「なるほどな。だがすぐに補給をというのは難しいぞ」

 

ガルシアの言葉に、マリューがすぐさま食い下がった。

 

「我々は一刻も早く、月の本部に向かわなければならないのです。まだ、ザフトにも追われておりますので…」

 

「ザフト?ザフトとはアレの事かね?」

 

そう言うとガルシアは絢爛な机にあしらわれたボタンを押す。すると四人の後ろにあるモニターが光り、そこに一隻の船がアルテミスの周域を航行している様が映っていた。

 

「あれは、ローラシア級?」

 

ナタルの声に、ガルシアは自信たっぷりに頷いて答えた。

 

「見ての通り、奴等は傘の外をウロウロしているよ。先刻からずっとな。まぁ、あんな艦の1隻や2隻、ここではどうということはない。だがこれでは補給を受けても出られまい」

 

「奴等が追っているのは我々です!このまま留まり、アルテミスにまで、被害を及ばせては…」

 

「はっはっは!被害だと?このアルテミスが?奴等は何もできんよ。そして、やがて去る。いつものことだ」

 

ムウの焦りにも似た声を、ドレイクは手を上げて制した。横目でチラリとムウを見る。それだけでドレイクが何を言おうとしているのか、ムウは察することができた。

 

「ともかく君達も少し休みたまえ。だいぶお疲れの様子だ。部屋を用意させる。奴等が去れば、月本部と連絡の取りようもある。全てはそれからだ」

 

話は終わりだと言わんばかりに、部屋の中にガルシアの部下が入ってくる。それも銃を携えて。穏便を装っているが、服従しなければどうなるか、などという脅しをかけられているようなものだ。

 

「最後にひとつ」

 

ドレイクが静かにそう呟く。

 

「ガルシア少将。このアルテミスは、そんなに安全ですかね?」

 

「あぁ。まるで母の腕の中のようにな」

 

ガルシアの答えにドレイクは帽子を深く被ると、一礼し部屋を後にした。マリューたちも戸惑うようにドレイクの後に続いて退室していく。

 

「大西洋連邦。極秘の軍事計画か…よもやあんなものが転がり込んでこようとはな」

 

ガルシアは温和な司令官の顔を脱ぎ捨てて、舞い込んだ幸運に笑みを浮かべた。

 

「ヘリオポリスが噛んでるという噂、本当だったようですね」

 

「まぁいい、連中にはゆっくりと滞在していただくことにしよう」

 

この情報があれば、こんな宇宙の片隅に押し込められる自分も地球に返り咲くことができる。ガルシアはその事だけを考えて不敵な笑みを浮かべるのだった。

 

 

///

 

 

「はぁ!?メビウスはもう使えない!?」

 

ボロボロになったメビウス・インターセプターの前で、ラリーは素っ頓狂な声で叫んだ。その声に、くまなく点検を行なったハリーが、何食わぬ顔でラリーを見る。

 

「ラリー?あなたが乗って帰ってきたメビウス・インターセプターの状態はどうなってたと思う?」

 

「弾薬切れに推進剤切れ?」

 

その即答に、ハリーはわずかに頭を抱えた。よくまぁそんな曖昧な機体状況の把握で、あそこまでの戦いができたものだと思う。

 

「エンジン機関部に損傷、バランサー大破、おまけにそんな状態でサブスラスターを使った無理な姿勢変更で、エンジンもオイルも真っ黒こげになってるの」

 

「こりゃ、一度エンジンをばらして組み直すしかないなぁ」

 

ハリーの点検に付き合っていたリークが、装甲を外した場所にあるメンテナンススペースから這い出てくる。手と作業服は焦げ付いたオイルだらけで、手拭いで汗を拭った。

 

「というか、どんな操縦をしたらこうなるんだよ全く…信じらんねぇ」

 

続いて、エンジンユニットをいじっていたマードックも呆れたような声を上げる。

 

「残りのメビウスはリークの1機だけ。ラリーは母艦待機ってことになるか?」

 

「おいおい、今の戦力でパイロットを遊ばせておく余裕なんてねーぞ?」

 

アークエンジェルのクルーや、クラックスのクルーたちが、あーでもない、こーでもないと、ラリーのメビウスを囲みながら議論を始めだす。

 

「あるわ。ひとつだけ解決策が」

 

答えの出ない議論に終止符を打ったのは、ハリーだった。彼女は手に持つタブレットを操り、一つのデータを全員に見せるように向ける。

 

「なんですか、グリンフィールド技師。この座席と砲塔がついたモノは」

 

画面を覗くキラに、ハリーは得意そうに胸を張った。

 

「私が過去に考案したメビウスの複座ユニットよ。メビウスのコアユニットの背部に取り付けるように設計したのはいいけど、人材コストが掛かるっていう理由でお蔵入りになったユニット。今はクラックスの貨物倉庫に眠ってるわ」

 

メビウスは本来一人乗りだが、モビルスーツの無限軌道に追従するには限界がある。よって、ハリーが考案したのが「物理的に後ろにも目を付ける」といったモノだ。複座型とは言え、ユニットの視界は完全にメビウスの背後を中心に収めており、後方への敵機へ迎撃を行うために低威力だがバルカン砲も装備されている。

 

「ま、まさか。それをメビウスに取り付けて…?」

 

「そ。死角も減るし、情報解析も複座のパイロットがリアルタイムで行うから、パイロットは本当に戦闘に集中できるの」

 

ハリーの言葉に、リークが顔を青くした。

 

「あぁ、安心して。取り付け自体も30分もあれば終わるし、実戦実績もちゃんとあるから」

 

「あるから心配なんですよ!知ってますからね!以前、ラリーとそれを使って相乗りしたゲイルが、全身高圧迫症でグロッキーになって一日寝込んだ話!」

 

「お前さん、どんな操縦してん?マジで」

 

満面の笑みのハリーに、オーマイガッ!ぽく頭を抱えるリークを眺めながら、マードックや、アークエンジェルの操舵を行うノイマンがあきれた様子でラリーにそう言った。流石のラリーも誤魔化すように苦笑いをこぼすしかない。

 

「で、俺たちはいつまでここに居ることになるんでしょうね」

 

ノイマンのつぶやきは、高くそびえるアルテミスの港の中に溶けていく。

 

「アークエンジェルもクラックスのブリッジも封鎖されてる以上、ここに居るしか無いでしょ?」

 

彼らが居るのは、アークエンジェルでも、クラックスでもない。だだ広いアルテミスの港の一角だ。

 

今のアークエンジェルからは、邪魔でしかないメビウス・ゼロや、メビウス・インターセプターが運び出され、ストライクや艦の調査がアルテミスの技師によって行われている。

 

どうみても、技術を抜き出そうとしているようにしか見えないが、下手に文句を言えば何をされるか分かったものじゃない。

 

そして、手持ちぶさになったハリーやラリーたちは、メビウスを開けた場所に置いて勝手にメンテナンスを始めることにしたのだ。何人かの武装兵が目くじらを立てていたが、こちらがメビウスライダー隊と知ると、大慌てで敬礼し持ち場に戻っていった。

 

「ドレイク艦長は、ああ言ってたけど真相はどうなのやらだな」

 

「そうだよな。俺たちは第7艦隊の認識コードを持ってるっていうのに」

 

「これじゃ幽閉状態だ」

 

「艦長達が戻らなきゃ、何も分からんよ。とにかく、俺たちは俺たちにできることをやらなくちゃ」

 

「かといって、友軍相手に暴れるわけにもいかないしなぁ」

 

メビウスのメンテナンスにかこつけて、アークエンジェルのクルーと、クラックスのクルーの交流会状態になりつつある場所で、各々が現状を憂いて語り合う。

 

「ユーラシアにとっては、舞い込んできた千載一遇のチャンスと言ったところかしらね」

 

タブレットで機体のチェックをしながらぼやくハリーに、リークは首を傾げた。

 

「どういうこと、ハリー技師?大西洋連邦とユーラシアって友好関係でしょ?」

 

「表面上はね?けど、今回のアークエンジェルやG兵器の開発は、大西洋連邦とオーブのモルゲンレーテが主導していた。G兵器の開発が上手くいけば、地球軍の中で兵器革命が起こる。じゃあここで問題。その時に覇権を握ってるのは?」

 

ハリーの問いに、両艦のクルーが顔を見合わせる。

 

「そりゃ、大西洋連邦だろ」

 

「そ。それを気にくわない道理がユーラシアにはあるわけ。つまり、私たちをここから出したく無いのはーー」

 

「G兵器の成果とデータを自分たちの懐に取り込んで、差がついた技術レベルを同じ水準に引き上げようって魂胆か」

 

ハリーが言わずとも、ラリーも誰もが理解できた。モビルスーツの技術は、今はどの勢力も喉から手が出るほど欲しいに違いない。その抜きん出た技術を手に入れれば、莫大な富と権力を得ることができる。

 

「あーあ。政治とか情勢とかヤんなっちゃうわ。ただでさえNジャマーでエネルギー問題が深刻だっていうのに」

 

ハリーの言葉に、リークが暗い顔を浮かべる。ラリーはリークの肩を叩き、うんざりしたように言った。

 

「その先を見据えて動くのが、政治家さんの仕事なんだろうよ」

 

たとえ、その利益が世界を大きな混沌に陥れることになったとしてもーー。

 

 

 

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