ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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番外編 5 兄と妹と恩人と

私はカナミ・ベルモンド。

 

ベルモンド家の長女であり、リーク兄さんの妹。兄と私は6歳違いで、私の妹であるハズミ・ベルモンドとは2歳違い。

 

宇宙と地球の戦争が始まってからすぐに起きたエイプリルフール・クライシス。

 

それがもたらしたものは、核エネルギー網の破壊だった。原発が稼働を停止し、致命的なエネルギー危機に陥った地球。湧き起こる暴動や、デモ、コーディネーターやナチュラルの戦いに巻き込まれ、私たちの両親は亡くなった。

 

兄はまだ幼い私たちのために軍に志願。疎開先であり、地球軍が支援する全寮制の女学園に私たちを預け、宇宙に行ってしまった。聞こえてくる多くの敗戦の報。兄の死が、何ともない一幕の中にあるかと思うと、私は耳を塞ぎたくなる。

 

地球のことをなんとも思っていない宇宙に住む人が嫌いだ。

 

戦争なんて嫌いだ。

 

兄を奪う戦いなんて、大嫌いだ。

 

そんな日々を過ごす中で、突然として兄から連絡が入った。ある任務で地球に降りた兄や、その仲間たちがこの地域近くの港に入るらしい。

 

兄の存命の連絡に、私は心が踊った。手紙にはこちらには来れないと書き綴ってあったが、来れないならば行くまでだと、気がついたら私は妹を連れて寮を飛び出していた。兄から送られてくるお金を崩して電車を乗り継ぎ、私たちは無我夢中で兄がいる港を目指した。

 

今思えば、兄が所属する部隊も、船も、軍の階級や連絡先すら知らない状態で地球軍の港へ向かったものだから、入口の警備室で見事に待ったをかけられたのだ。

 

受付の強面の警備員に説明はするが、機密事項や軍の規定があるからと、何を言っても門前払いされるばかりで、途方に暮れそうになっていた時。

 

「どうした?子供がこんなところに…」

 

警備室から出ようとした時、落ち着いた私服姿の男の人が、そうやって声をかけてきた。これは願ってもないことだと、私は警備員と男の人の会話など気にせずに、声をかけてきた人へ事情を話した。

 

兄に会いたい。その一心だった。

 

事情を聞いていくうちに表情が変わっていく男の人は、端末を開いて何かを操作をすると、すぐにメモを取り出して何かを走り書いていく。

 

「とりあえず、今日は遅い。明日、俺がなんとかするから、このホテルへ向かってくれ。そこまでは俺が送る。お前たちの兄ちゃんとはそのあとだ」

 

反論の余地すら見せない顔つきでそう言った男の人に、私と妹はうなずくことしかできなかった。私たちを門前払いにしていた警備員ともいくつか言葉を交わすと、軍港から市街地に向かうタクシーに私たちを連れて乗り込んでいく。

 

「まったく、とんだ休日になったな。俺はラリー・レイレナード。お前たちの兄の同僚だ」

 

タクシーの中で軽い自己紹介をした男の人。

 

それが、私とラリーさんの最初の出会いだった。

 

 

 

////

 

 

 

オーブ首長国連邦。

 

ヤラフェス島の郊外に位置する一軒家。

 

今の私は、アジアの学園から妹とともに転校し、兄やオルガ兄さんたちと一緒に暮らしている。

 

終戦からしばらくして、兄が学園まで迎えにきてくれた時は嬉しくて涙が止まらなかった。ラリーさんや、トールさんも連れて現れた兄さんは、あの頃から変わらない兄として頼りになる顔で私たちを抱きしめてくれた。

 

戦争の中で家族として受け入れたオルガ兄さんや、クロト兄、シャニ兄さんと初めて会った時は、お互いに緊張しすぎてこの先に不安を抱いていたけれど、兄に対する思いが一緒であり、共に過ごすうちに今ではすっかり打ち解けている。

 

転校した私たちは、兄の勧めや、兄の上司でもあるバーフォードさん、アズラエルさんの提案を受けて、オーブ国際高等学校へ入学。パイロットとして生きてきたオルガ兄さんたちも高等部へ入学し、私たち五人は同じ学園で共に勉学に励んでいる。

 

兄もいる。オルガ兄さんたちもいる。

 

そして、ラリーさんやあの戦いで兄が得た仲間たちも、よく遊びにきてくれる。

 

寮で過ごしていた寂しかった日々。家族で過ごすべき失われた時間を取り戻すように、今、私たちは日々を生きている。

 

ーーそんな日々の中。

 

私は兄が出かけた家のリビングで、オルガ兄さんたちと妹とで、昔のアルバムを紐解いていた。

 

「で、ラリーさんに見つけてもらってからはどうなったんだ?」

 

クロト兄が興味津々に聞いてくる。

 

「あの後、ホテルまで送ってもらってから翌日に兄と会えるように手配してくれたんです」

 

あの時は大変だったと、その話をするたびにラリーさんは懐かしそうに呟いた。翌朝、ラリーさんや、今は亡くなってしまったゲイルさんが車で迎えにきてくれて、そのまま軍港内の施設で数カ月ぶりの兄との再会を果たしたのだ。

 

最初は怒られると思っていたけれど、兄も涙を流して私たちとの再会を喜び、その後に寮へ謝罪の電話もしてくれた。

 

そのあと、こっそり自分たちが乗る船の中を案内してくれたり、バーフォード艦長やハリーさんを紹介してくれたりと、楽しいひと時が過ごせた。

 

けれど、兄たちは明日の夜には出航すると言い、今晩にはもう会えなくなると言ったのだ。

 

まだ子供だった私は、妹共に兄にすがりついて付いていくと駄々を言って帰ろうとはしなかった。

 

途方にくれる兄。そんな兄に助け舟を出したのは、ラリーさんとゲイルさんだった。

 

「俺たちが必ず兄さんをお前たちのもとへ返してやる。だから、もう少し我慢してくれ」

 

約束だと言って、私はラリーさんと指切りを交わした。そして、彼は約束を果たして、兄と共に私たちの元へと帰ってきてくれたのだった。

 

「兄さんは身内には甘いからな」

 

「違いないや」

 

そう言って笑うオルガ兄さんや、クロト兄も、兄の人柄をよく知っているのだろう。三人もなんだかんだとはいえ、兄に全幅の信頼を置いているのだ。

 

「で、カナミはラリーさんのこと好きなの?」

 

学園で軽音部に入部し、練習でギターの音を奏でていたシャニ兄さんの一言に、私は飲んでいたミルクティーを盛大に吹き出した。

 

「なななな、何を言ってるんですか!?私は別に…ラリーさんのことなんて」

 

「それが全てを物語ってるよ、お姉ちゃん」

 

動揺を隠せない私の仕草を見て、妹のハズミが乾いた声でそう言ってくる。

 

「あーあー、ラリーさんも罪深いなぁ。ハリーさんと言い、マユちゃんと言い」

 

「そ、そうですよ!ラリーさんにはハリーさんもいますし、マユも好きだって…」

 

オーブにやってきてからラリーさんに弟子入りしたシン・アスカの妹であるマユとハズミは同級生で、私とも面識がある。ハリーさんも不器用ながらラリーさんのことが好きなようで、この家にラリーさんが遊びにくると、決まってハリーさんとマユが揃うという流れができており、そのたびに私たちはプチ修羅場を目撃している。

 

兄さんは何か鈍感でハリーさんとマユの火花に気づかずーーいや、わざとかもしれないが、煮えたぎる油に火を入れて、ラリーさんが困惑する様子を見て楽しんでいるようにも見えた。

 

あれから何かがあったのだろうか。

 

まぁ、つまるところ、私程度があの中に入るわけにはいかないのだ。

 

「略奪愛」

 

「ねぇ、ハズミ?そんな言葉どこで覚えてくるの?あ、いえ、わかった。わかったから出所は言わなくていい」

 

きっとマユから聞いたのだろう。あの子、ハズミと同じ歳なのに、最近かなり大人びてるから。

 

「既成事実とかもいってーー」

 

「ストォーーップ!!!それ以上言わなくていいから!!」

 

言いかけたハズミの口を塞いで、私は兄に似てきたため息をつく。

 

「けど、ラリーさんも答え出してないじゃん?」

 

閃いたように切り出したクロト兄。オルガ兄さんや、シャニ兄さんも頷いている。

 

「で、でも…」

 

「カナミ、俺たちはお前の味方だぜ?」

 

「略奪愛上等じゃねぇか!邪魔する奴らは馬に蹴られて滅殺!」

 

「カナミを泣かせる奴は許さない」

 

そう口々に言う兄たち。兄さんに似てきたなぁと、思いながら私は自分の心と向き合う。

 

たしかに、ラリーさんが好きかと聞かれたら好きだ。兄を守ってくれたし、なにより私との約束をちゃんと果たしてくれた。けれど、これが恋なのか、憧れなのかはわからない。

 

だからーー。

 

「わかりました。私、がんばる」

 

そう言った私に兄さんたちや妹は笑顔で頷いてくれた。よし、まずはこの思いを確かめることから始めよう。

 

ベルモンド家の教訓は、しぶとく図太くだ。

 

「よぉーし、やりますよ!」

 

そう意気込みを固める私は知らなかった。

 

私が好いた男の人への道のりの険しさをーーー。

 

 

 

 

 

 

 

「なんだろ、寒気がする」

 

そう呟いて、ラリーはメビウスの操縦に集中するのだった。

 

 

 

キャラデザイン

  • 他キャラも見たい
  • キャラは脳内イメージするので不要

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