ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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番外編 雷神の軌跡(中編)

 

 

 

 

《オービットよりライトニング隊へ。対空兵装すべての撃破を確認した。無線封鎖解除。これより作戦は第二段階に移行する》

 

濃霧が晴れてきたな。バブルキャノピー越しから見える切り立った山々を見つめながら、トールは操縦桿を感覚の赴くままに絞る。機体は風を捕まえて、山々の合間を縫うように流れる気流に逆らわず切り込んでゆく。

 

燃料消費も無く、翼へのストレスも無い。オールクリア。対空兵装のほとんどを撃破した敵陣地は驚くほど静かであった。

 

《タスク隊よりメビウスライダー隊へ。よくやってくれたわ。これよりタスク隊はパッケージの救出へ向かう。シーゴブリン隊、頼んだわよ?》

 

久しぶりとなる声にトールは耳を傾けた。相手はアークエンジェルがアフリカに降下したとき、サイーブ率いるレジスタンスに雇われていた傭兵企業のオペレーター、モニカ・マスタングだ。モニカの声が届くと同時、山脈の尾根から数基の輸送ヘリが姿を表す。地球軍が保有する救出任務に特化した特殊部隊のヘリだ。

 

《こちらシーゴブリン!要人救出なら慣れたものだ!任せておけ!》

 

「モニカ、久々だな。タスク隊は元気にやってるか?」

 

《アフリカ諸国では相変わらず紛争絶えずって感じ。まぁ、仕方のないことね。タッシルや紅海は落ち着いてるけど、奥地は酷いものよ。種族戦争の次は民族紛争だもの。おかげで、私たちは食いっぱぐれることないのだけどね》

 

各自の自由飛行から編隊飛行へと移行したメビウスライダー隊は、やってくるシーゴブリン隊とそのヘリを預かるタスク隊の護衛へと回った。ここから先の主軸は彼らの降下と救出任務だ。速やかに敵施設を制圧して、ターゲットである外交官の救出が最優先となる。

 

《タスクリーダーより、ライトニング1へ。サイーブたちがよろしくと言ってたぞ。たまにはこちらにも顔を出せ、ともな》

 

「タスクリーダー。地球の裏側まで気軽に行けるようになったら考えると伝えておいてくれ」

 

《タスク隊、ランディングゾーンへ入る!周辺、敵影なし》

 

先に確保した敵のヘリポートの頭上にホバリングするヘリ編隊。側面に備わる重火器が火を吹き、ヘリポートへと出てきた敵勢力を軒並み打ち倒してゆく。その中、制圧隊がヘリボーンで地面へと着地し、周辺の制圧へと乗り出していく。

 

任務は順調に進んでいるように思えた。

 

《…いや、待て》

 

メビウスライダー隊のAWACS「オービット」の管制官であるニックが不審な反応をとらえる。すぐに解析し、矢継ぎ早にリーダー機であるラリーへ声を放った。

 

《緊急事態だ!施設から東に5000!何かが出撃した模様!数は5!なんてこった!隠しハンガーか!?》

 

ニックの声に従ってそちらへ視線を向けると、山脈の一部が開いているのが見えた。人工的に作られた口からは、人型の機影が飛び出してくる。ラリーたちはすぐに機体を翻した。

 

「例の梁山泊とかいう部隊か」

 

《ライトニング隊!こちらは要人救出まで手一杯だ!出てきた敵は任せるぞ!》

 

タスク隊からの声を聞いたラリー。ついてくるリーク、キラ、トール、シンも先頭に立つラリーの機体に連なるよう陣形を崩さずに現れた敵勢力と向き合った。

 

「全機聞こえたな?これよりライトニング隊はこちらに接近してくる未確認機体の対処を行う!相手もこっちも5対5だ!気を抜くなよ!」

 

「ライトニング2、了解」

 

「ライトニング3、了解」

 

「ライトニング4、了解!」

 

「ライトニング5、了解しました!」

 

可変翼機であるラリーたちと、飛び出してきた5機の敵編隊。互いにやじりのような陣形を維持したまま、狭い山脈の中を交差し、戦闘軌道へと突入してゆく。

 

「敵機確認!2時の方向!あれは…!?」

 

リークの戸惑った様子の声に、ラリーが敵機の姿をモニターに捕らえた瞬間、心底嫌そうに顔を歪ませた。

 

「げぇ!!アイツらなんて物を持ってやがる!」

 

《データ照合、敵機はディン!しかし、外部装備が多すぎる!》

 

それをザフトのディンと呼称していいものなのか。外観にはハードポイントが増設され、脚部には補助ブースターや、サブスラスターが増設されている。原型があるなんて背面の翼と頭部くらいだ。そして、ラリーやトール、キラはその機体の姿を1度目にしたことがあった。主にラリーだが。

 

「クルーゼの乗っていたゲテモノディンを真似て作ったのか!目の付け所がヤバイな!無茶をしやがる!」

 

前大戦でクルーゼが駆った「ディン・ハイマニューバ・フルジャケット」の粗悪品。敵の機体を現すならまさにそれであった。ハードポイントに所狭しと並べられた重火器やミサイルポッド。その武装の重さを打ち消すように取り付けられたブースターが火を吹き、敵機は一気にメビウスライダー隊へと接近した。

 

『各機、分散して対応しろ。梁山泊の力を示せ』

 

『我明白了、大師』

 

隊長機から老齢の声色が響く。すると、向かってくる敵編隊が一気に分散し、まるで足を広げた蜘蛛の如くメビウスライダー隊へと襲い掛かった。各機が交差する中、隊長機から感じる別格のプレッシャーを受けたトールは、操縦桿を絞ったまま押し寄せる高負荷を耐え忍ぶ。

 

「く…ッがぁっ!!…こいつら…全員いい動きを…しやがるッ!!」

 

「リーク!後ろに付かれてるぞ!」

 

「わかってる!このぉっ!!」

 

ラリーの忠告に従ったリークのムラサメは、敵が後方から迫ったという絶妙なタイミングで人形へと変形し、空気抵抗を一気に増させると迫っていたディンの頭上を飛び越えて一気に背後へと付いた。

 

『可変式MSなのか!?』

 

敵の焦りを活かして堕とす!変形と同時に構えたビームライフルの銃口が前を飛ぶ敵を捉えていたが、ビームが迸った瞬間、フルジャケットユニットを模して作られた敵は、まるで現在地から避ける場所までを線のように駆け抜け、リークの放った一撃を避けてみせたのだ。

 

「避けた!?」

 

手応えがあったというのに避けられたことに驚くリークを尻目に、敵機はスラスターを無理やり吹かし、その場で反転すると今度はリーク目掛けてミサイルの雨を降らせた。

 

リークは人型の特性を生かしまま山の斜面近くまで降下すると、そのまま体勢を入れ替えて飛行形態へと変形する。スラスターを全開にして離脱した瞬間、向かってきたミサイルは山の岩肌へと直撃し爆散する。

 

息をつく間も無く、次は相手がリークを追い回す番となった。ラリーがリークの背後へと割り込み、分の悪い追いかけっこを強制的に中断させると、ビームの牢獄が二人の周囲へと穿たれてゆく。

 

「簡単には取らせてくれないようだ!」

 

「シン!僕の側から離れないで!」

 

「大丈夫です!逃げ回ってれば死にはしません!」

 

ビームサーベルで放たれるディンの攻撃を捌くキラは、僚機であるシンのムラサメへと後退指示を出した。シンが戦闘に出るのはこれで3回目であるが、キラから見ればまだ不安が多いパイロットだ。シンの見落とした攻撃をビームサーベルで切り払う。

 

その様子を値踏みするように、上空を旋回しながら飛ぶ梁山泊の隊長機が見つめていた。

 

『ほう、やはり別格だな。さすがは流星といったところか』

 

こいつら、手強い!ラリーとリークは連携をとりながら梁山泊のディンと交叉を繰り返しているが、致命的な一撃を与えるには相手が速い。

 

クライアントから支給されたムラサメのセッティングでは無理に振り回すことも叶わない。やれば、帰り道が深い森の中のハイキングとなる可能性が大だからだ。

 

「あんなゴテゴテの機体で、動けるものなのか!?」

 

「キラ!外見に惑わされるな!相手の動きに集中しろ!」

 

腐ってもクルーゼが乗っていたディンの模造品。速度を見るだけでも、超一級の危険性を持っMSであることには間違いなかった。

 

ムラサメのメビウスライダー隊が歯がゆく防戦に引き込まれる中、一機のディンに追われているトールの姿があった。

 

『大師が出るまでもない!俺が流星を落としてやる!』

 

やはり分断させにきたか!

 

つぶさにディンの軌道を観察するトールは、あの敵機体が人型や可変式のMSと相性が悪いことを直感で理解していた。唯一の高速域でアドバンテージを持つ、トールのスカイグラスパーを先んじて潰すことは理にかなっている。

 

だが、相手が悪かったな。

 

コクピットの中で、ラリーはほくそ笑む。その程度で落ちるパイロットなら、ヤキンドゥーエの激戦を勝ち残れるわけがなかろう。

 

「ぐぅ…ハァッ!!ええい!しつこい!!」

 

『馬鹿め!その角度では稜線に引っかかって墜落だ!』

 

敵の嘲りの声。そんなもの、トールには関係ない。教えられた通り、彼がなぞる軌跡を思い返す。

 

〝いいか?トール。風を捕まえるんじゃない。風に身を委ねるんだ〟

 

彼の口癖を思い出す。それがトールの戦闘機乗りとしての人格の基礎のひとつだった。ラリーのような特異性のある機動、その理論を裏付ける技量を駆使した師の言葉。

 

トールはエンジンの火を切って風に翼を預ける。切り立った山の肌を通って巻き上がる上昇気流を、トールは対空兵器を撃破するときに知っていたのだ。シンが操縦桿を操ることに苦労してる中、トールは機体を気流に任せて鮮やかに飛び去ってゆく。

 

その動きに、ラリーの特異性ある機動力を注ぎ込んだ。フラップを全開にし、操縦桿を引き絞り、機体の頭を持ち上げる。コブラマニューバーのような体勢となったスカイグラスパーは、強制的な失速状態となった。

 

その失速した鉄の塊を自然が作り上げた上昇気流が上へと押し上げた結果、機体は追い立てていた敵機の頭上へと至った。

 

『な、にぃ!?』

 

敵がコクピットから見上げた光景は、あり得ない角度でストールマニューバを駆使し、旋回したスカイグラスパーの機首が、こちらに向いているものだった。

 

ノーマルスーツのヘルメット中で、息を鋭く吐く音が響くと同時、機体下部に備わるバルカン砲と、ビームの閃光が奔る。頭上を抑えられたディンは、機体を尽く穿たれ、姿勢制御を失ったまま山の尾根に引っかかった。機体は圧壊し、尾根から滑落しながら爆炎につつまれ、霧の下へと消えてゆく。

 

トールの機体は失速状態から持ち直し、山間の中を切り裂くような旋回で駆け抜け、空へと舞い上がってゆくのだった。

 

まだ戦いは終わっていない。

 

 

 

 

キャラデザイン

  • 他キャラも見たい
  • キャラは脳内イメージするので不要
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