ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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番外編 雷神の軌跡(後編)

 

 

 

 

『大師!ヤンの機体が!』

 

「よし!一機撃破!次ィ!」

 

 

最初の一手を取ったのはメビウスライダー隊だった。

 

炎と煙に包まれて滑落してゆく残骸。

 

それに乗っていたパイロットは、梁山泊でも中堅に位置するパイロットであった。

 

そんな彼の撃墜に敵の部隊の中で衝撃が走った。

 

悠然と空を飛ぶ隊長機を除いて。

 

 

『この地形の飛行に慣れているわけでもなかろうに…奴らの対応力は、それほどまでに懐が深いのか』

 

 

彼は冷静にメビウスライダー隊や、可変機体に混ざって飛ぶ〝純粋な戦闘機〟の技量を推し量っている。

 

 

 

メビウスライダー隊の噂は前大戦から耳にしていた。

 

 

 

 

梁山泊の隊長機が目を見張ったのは、その中にいる戦闘機乗りであった。

 

MSの汎用化が進み、航空戦略すらもMSが台頭し始めたこの時代に、その戦闘機は他のMSの性能を寄せ付けない能力を発揮して空を飛んでいるように思えた。

 

 

「リークさん!」

 

「わかってる!」

 

 

全員が浮き足立つ隙を見逃さず、今度はリークと連携を組んだキラが仕掛けた。

 

相手は旋回を終えて自分たちの真正面に来ている。

 

ヘッドオン。

 

キラは操縦桿に体重をかけると、相手から放たれるミサイルの網を縫うように躱して飛行してゆく。

 

 

『ヤンの仇!ここで落ちてしまえ!!』

 

 

その隙間の中にある罠が、敵の目的だった。

 

ミサイルの通路を作り、そこにキラをおびき寄せる。進路が定まっていれば、その先へ攻撃を仕掛ければいい。そうすれば弾は当たり、自然と敵は落ちてゆくことになる。

 

梁山泊の基本的な戦術の一つであったそれは、正しく機能していた。

 

だが、あくまでそれは事の寸前まで。

 

 

「一機に集中しすぎるからそうなる!そこっ!!」

 

 

まるで未来でも見えているかのように、ミサイル網を潜り抜けたキラのムラサメは、敵が放った必殺の一撃を人型に変形することによって避けたのだ。

 

一閃を紙一重で抜けたキラは、そのまま機体を翻して取り出したビームライフルを的確に放つ。緑光の閃光は、敵の大型ビームランチャーの本体を焼き飛ばした。

 

 

『な、なんて反応速度なの!?こちらの動きが読まれているのか?!はっ!!』

 

「遅い!!」

 

 

ビームランチャーを失った敵の頭上。

 

ミサイル網を同じく抜けたリークが、ビームサーベルを構えて現れた。

 

速度と突破性を重視したその機体で足を止めるなど!

 

軽量機体であるディンにハードポイントとサブブースターを追加している以上、高機動マニューバをしていない時の動きは鈍重だ。

 

隙だらけとなった敵。

 

そのわずかに飛び出しているディンの肩口からコクピットを通して、脇腹へ。袈裟斬りにビームサーベルを奔らせる。

 

敵の見た最期の光景はビームの閃光だけであり、本体を潰された機体は制御を失ったまま山脈の谷底へと落ちてゆく。

 

 

「三機目、撃破確認!ラリーさん!」

 

「おりゃあああっ!!」

 

 

追従するシンの声に応えるようラリーは機体を持ち上げ、背後から迫る敵機の背後へと回り込むと、眼光を鋭くさせる。

 

高速域での扱いに慣れているように見えるが、その速度のまま〝戦闘機動〟をするには機体とパイロットが粗末すぎた。

 

こちらは従来の航空MSよりもレスポンスのいいムラサメだ。

 

クルーゼと戦っていた頃の高揚感は湧かないまま、ラリーは背後を捉えた敵のディンを撃ち抜き、爆炎に包まれた敵機を視認してから前へと向き直った。

 

 

「残りは2機だ!」

 

 

ラリーたちの視線の先では、トールが最後の隊員となった敵を追い立てていた。

 

亜高速巡航ができるとはいえ、ディンのカテゴリーはMS。

 

純粋な航空機として作り上げられたスカイグラスパーと追いかけっこをすれば、その結果は火を見るよりも明らかだった。

 

バルカンと翼端に備わるビーム砲によって外部装甲と武装をバラバラにされてゆく敵機。

 

 

『大師!』

 

『ふふふ、ここまで追い詰められたのは久々だ。だが、まだ決着は付いていない』

 

『大師!敵に追われています!助けてください!大師!』

 

 

隊員の悲痛な叫びを聞いて、尚も隊長機はメビウスライダー隊の実力を見据えていた。

 

助けられる範囲に部下はいる。

 

だが、助けはしない。

 

安全な距離を保ったまま、生きたまま喰われてゆく部下を、隊長は冷酷な眼差しで見つめた。

 

 

『助けて…大師!!!』

 

 

最後の言葉となったその直後、機体制御を見誤ったディンは聳える山脈の岩肌に衝突した。

 

高機動で飛ぶディンのカスタム機は鉄塊へと成り果てる。

 

エンジンの火は消え、ボロボロとぶつかった衝撃で破損した部品を撒き散らしながら、重力に従って落下してゆく。

 

その背後にいたのは、殺気を漲らせるトールのスカイグラスパーだった。

 

 

「4機目、撃破…。助けられる距離にいたはずなのに、お前は仲間を見殺したのか!!」

 

『戦場では弱い奴は強い奴に負ける。それが道理だ。救える命など、戦場には存在しない』

 

 

 

 

『それを証明してきたのは貴様だ。流星』

 

 

 

雷鳴が響く。

暗雲はすぐそこに迫っていた。

 

聞こえないはずの梁山泊の隊長の声。だが、トールはその言葉に反応するように、停滞する隊長機へと狙いを定めた。

 

 

「トールが一機と競り合ってるのか!?」

 

「トール!」

 

《オービットより各機へ!不味いぞ!雷雲が来ている!トール!ライトニング4!引き返せ!》

 

 

AWACSの忠告を聞かず、トールは切り立った岩山の合間を縫うディン・ハイマニューバの後を追った。凄まじい軌道だ。岩肌スレスレを飛ぶ梁山泊の隊長。それにトールは食らいつく。

 

数度、岩肌を舐めるような軌道をする最中に隊長の機体が背後へビームランチャーを放った。その一撃をトールはひらりひらりと機体を葉が舞うように捩れさせ、旋回し、反転して避ける。

 

お返しだと言わんばかりに、トールはビームの雨が降る中に意識を研ぎ澄まして反撃を撃った。狙いは一直線に伸び、両脇に備わる敵の砲塔を破壊する。

 

 

『雷…雨と共に降りるようになったか』

 

 

爆炎の中、敵隊長は軽くなった機体をふわりと上げて暗雲の中へと逃げ込んだ。

 

 

「雷雲の中に入ったのか?くっ!!」

 

『前大戦で、私は家も、妻も、娘夫婦も…そして、愛する孫娘も失った。私に残されたものは、この老いぼれた体と、戦うことしか無い』

 

 

稲妻がほとばしる。真っ黒な闇が目の前に広がる。バブルキャノピーに水滴がこびりつき、高度が上がるに連れて結露が目立った。

 

視界が最悪になる中で、トールは目を凝らして稲妻の中に飛ぶディンのノズルの光を見据える。

 

 

 

『あの戦いから見れば君たちは確かに英雄だろう。だが、奪われた者たちから見れば、奪われた同じ痛みを味合わせる機会を永遠に失わせた咎人よ』

 

 

復讐も報復も、それで得られる虚しい勝利すら得る機会を奪われた。

 

前大戦が続いていれば晴れていたかもしれない心を奪われた。

 

梁山泊の長として空を飛び続けた隊長の胸に残ったのは、怨みつらみとも言えない複雑な感情だけだった。

 

 

『あの戦いが続いていれば、もっと多くの者に同じ痛みを味合わせれたと言うのに、貴様たちはその機会を永遠に亡き者にした』

 

 

それが許せない。

隊長はうわごとのように言う。

 

 

『だからこそ、私はこの空を飛び続けている。全てを奪われたからこそ、私に残された唯一の居場所を』

 

 

この場所なら続けられる。

あの大戦の続きを。

奪われてしまった未来を。

 

 

 

『どうした、貴様の腕はその程度か』

 

 

雷鳴。

 

稲妻。

 

竜のようにほとばしるそれが、二人の戦いを見つめた。

 

ミサイルを放つ敵隊長と、それに応ずるトール。死がすぐそこにあった。雷が死神の鎌のように見えた。

 

息が詰まる。

 

ヘルメットの中が暑くて暑くて仕方がない。

 

 

『もっと死と近く飛んでみろ。そうすれば見えてくるものもあるはずだ』

 

 

喉の奥を鳴らすような笑い声で隊長は狂気に身を委ねた。稲妻がスカイグラスパーとディンの間を駆けた。外部からの過電流で、二人の機体のHMDや計器類が誤作動を起こす。

 

 

『くっ、電子機器が…だが、見えないことはない』

 

 

敵隊長は嗤った。

 

稲妻が死神の鎌。

 

それが喉元を切り裂くように空を切ったと思えた。死がすぐそこにある。これを嗤わずにいられるか?奪われた未来と見間違う空の中で、彼は狂気に魅了されていた。

 

 

 

 

だが、トールは嗤わなかった。

 

 

 

 

『流星……奴は雷が怖くないのか?』

 

 

節目だった。隊長の中にあった狂気がほんの僅かに揺らいだ。狂気が裏返ったのだ。

 

 

『雷の中を飛ぶのか?あの流星は』

 

 

トールはどこまでも前を見据えている。死神の鎌だと揶揄した稲妻なんて目もくれない。トールには関係ない。死に近づくなんて思いもない。

 

だが、死を恐れているわけではなかった。

死はある。すぐ隣、すぐ後ろ、すぐ目の前に。

 

だが、同時に死というベールに覆い隠されようとしている針の穴のような活路があった。

 

その穴に糸を通すように。

 

トールにはそれしか見えていない。ずっと変わらない。彼の目に映るのは、空を自由に飛ぶ姿。風を掴み、気流を味方につけて飛ぶ理想の姿。

 

空と宇宙で分かれた〝師〟の背中だけだ。

 

 

『貴様たちさえ居なければ、もっと多くを』

 

 

そこで彼はようやく気がついた。

 

稲妻は、決して死神の鎌ではないということを。

 

彼は自らの首に縄をくくりつけていただけ。

 

暗雲の中から突如として現れた岩山。敵隊長は目を見張る間も無く猛スピードのまま岩山に激突し、あまりにも呆気なく、空から消えてなくなったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「唯一の居場所だった空からも嫌われた者か…笑えない冗談だ」

 

 

要人を回収したシーゴブリンと共に、ユーラシア所属の空母へ帰還したメビウスライダー隊。

 

夕日が沈む地平線を眺めていたトールの横に、パイロットスーツのままのラリーたちが腰を下ろした。

 

 

「唯一の…居場所…」

 

「あの戦争から立ち直れない者は確かに多い。だが、多くの人が前を向いて歩いてる。時代というのは、時にして残酷なものさ。あれほどの事故があったのに、あれほどの惨事があったのに、なんていう人のセンチメンタルな部分をごっそりと無くしてしまうのだからな」

 

 

そうやって無くしてしまうくせに、やれ風化だとか、やれ未来の若者に託すだとか御託を並べて、さっさと前を向けと世界は言う。

 

キラもリークもラリーも。

 

そうやって目を前を向いているが、そうできない人も多くいる。

 

トールは首からかけていたドッグタグを手の中で遊ばせる。それはトールの師である男の〝形見〟だった。

 

 

「けど、それでも、俺たちは明日に向かって進んでいきます。進まなくちゃあならないんですよ」

 

 

ラリーの言葉に、トールは夕日を見つめながらはっきりと答える。前を向くことが時には辛い時もある。涙を流す時もある。

 

 

「ボルドマン大尉や、あの戦争で死んだ多くの仲間たちが信じた明日のために。俺たちは立ち止まってはいけない。振り向くことはみんなが求めた明日を手に入れてからだ」

 

 

それでも。

 

そう言って誰もが前を向いた。

 

目指した明日があるから。

望んだ明日があるから。

 

それを去っていったみんなが望んでいたから。

 

 

「そうだね、トール」

 

 

その望んだ明日を守るために、トールは空にいる事を選んだ。キラも、リークも、ラリーもだ。膝に抱えてきたヘルメットから通信が聞こえた。AWACSからの帰投命令だ。

 

同時に、空母からの発艦許可が出たとデッキクルーがラリー達に知らせに来る。

 

 

「よーし、状況終了!RTB!」

 

 

ラリーの一声に、全員が「了解」と返事をして機体へと乗り込む。

 

飛び立ってゆく流星の編隊。

 

夕日に翼を輝かせて飛ぶ彼らの背後には、真っ直ぐと飛行機雲が伸びていた。

 

 

 

 

 

 

 

キャラデザイン

  • 他キャラも見たい
  • キャラは脳内イメージするので不要
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