ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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番外編 雷神vs流星(1)

 

 

オーブ首長国連邦から遠く。

 

小さな島国が点在する片田舎は、苛烈な戦争が始まる以前でも見せなかった熱気に包まれていた。

 

方々から商船、クルーズ船、海上飛行艇などなど。さまざまな移動手段で人が集まり、小さな島は一種のお祭り騒ぎとなっていた。

 

 

「よっと。やっほー、アズラエルさん。首尾はどうですか?」

 

 

簡素な木材で組まれた見渡し台の上によじ登った少女、マユ・アスカは大戦後から何かと懇意になった人物、ブルーコスモス盟主へと話しかける。

 

季節は夏。

 

スーツを脱がないビジネスマンと流石な格好のアズラエルだが、暑さには勝てない。高価なメーカーもののスーツの上を脱いでベスト姿のまま、水着に白衣というとんでもファッションなマユへ振り向く。

 

 

「いやぁーびっくりするくらい順調ですねぇ。わんさかわんさかと集まってます」

 

「うっわぁー、これ全部海賊?」

 

「太平洋中のゴミですねぇ。空賊に海賊、各国のマフィアにギャング、ゲリラ屋。あー、カタギも少しは混ざってるようです。命知らずなもんですね」

 

 

ずらりと並んだ見物人や、今回アズラエルが主催する催し物に〝参加〟する者たち。その全てが軒並み犯罪者。太平洋中の犯罪者を一箇所に集めたのか?とでも言うくらい二人の目の前に、荒くれ者たちが集まっていたのだ。

 

 

「どこかの犯罪者の巣窟の港町が裸足で逃げ出すようなカオスですね」

 

「ま、皆さんお行儀良くしてくれたら主催者である僕に文句はありません。大義名分、主義主張、大いに結構。しかし、先立つものがなければ何にもなりませんから」

 

 

そう言ってアズラエルはこの諸島で作られているラム酒のビンを行儀悪く煽った。彼も彼で今の状況を楽しんでいると言える。

 

そのアズラエルの視線の先。そこには犯罪者たちが蓄えた資金が山のように溢れていた。札束が雪崩のように押し込まれている。

 

この場に来ている参加者が出した〝賭け金〟。その総額は驚くほど巨額で、膨大だ。過疎化が進む諸島が、一夜にして生半可な元金では管理し切れないほどの賭場へと変貌したのだ。

 

 

「巨額マネーは巨額マネーでぶん殴る。ビジネスでは常識です」

 

 

ブルーコスモス盟主であると同時に、アズラエル財団を持つ彼にとっては、あの程度の資金の山など端金と言ってもいい。

 

そんな金に目を輝かせる犯罪者たち…強いて言うなら、彼らの背後にいる組織との繋がりの方が、アズラエルにとって今後の重要な目的となる、

 

 

「アズラエルさん、ほんとに悪い人だね」

 

「そうですねぇ。なにせ僕は悪党ですから」

 

 

マユの悪戯っぽい笑みに、満面の笑みで応える。すると、マユは他の友人に誘われて海へと走っていった。

 

島の大半は賭場を目的にした犯罪者で溢れているが、その一角をアズラエルがプライベートビーチとして貸し切っている。

 

南国の海を楽しむ旧知の仲であるマユらを見つめながら、アズラエルは極上とは言わないものの、今の空気と鼻から抜けるアルコールたっぷりなラム酒を楽しんでいるのだった。

 

 

 

 

 

 

「新型機のエンジンテストのつもりだったんだけど、ラリーとトールの空戦模擬戦にしようって提案して、アズラエルさんが悪ノリして賭場を仕切ったらこんなんになっちゃったね!!」

 

「ほんとにほんとにほんとにバカなんじゃないの?」

 

 

いや、ほんとに何してるの?とラリーとフレイとキラが頭を抱えてうずくまってしまった。

 

傭兵企業「トランスヴォランサーズ」の最大出資者であり、筆頭株主でもあるムルタ・アズラエル。

 

ハリーをリーダーとした技術班とモルゲンレーテ社が共同開発した「フォルゴーレ」と呼ばれる強力なエンジンの試作品がロールアウトし、その試験データを取るためのテスト飛行が企画されたのだが、企画を聞いたアズラエルが場所は任せて欲しいと連絡してきた。

 

それで、たった数日でこうなっていた。

 

どうしてこうなった、と頭を抱えるしかない。

 

・誰にも迷惑が掛からない空。

・試作機が離陸できる滑走路。

 

その二つにひっついて巨大な賭場が出来ているなんて誰が想像できたものか。

 

島についた瞬間に嫌な予感を察知したが、まさかこれほどとは…。トランスヴォランサーズの中では常識人であるキラやアスランが胃痛を訴えてくるレベルである。

 

さて。

 

たかが試作品のテスト飛行だというのに、なぜこんな巨大なマネーゲームが発生したのか?

 

それは目の前でニコニコ笑うハリーのある提案が原因だった。

 

 

「試作機は2機あるから、ラリーとトールを乗っけて模擬戦でもしながらデータ取らない?」

 

 

その一言で全てが決したように思えた。

 

当人のトール?想像以上の惨状に白目をむいて気絶してるぞ。ミリアリアが看病してくれているが、本人からしたらさっさとテスト飛行終わらせて海で遊ぶ気満々だったからな?

 

同行したシンや、マユ。そしてプライベートビーチのようなもんだからと非番だったアサギやマユラ、ジュリ。リークも妹たちやオルガたちを連れてきてバカンス気分だったのに…。

 

これはあんまりじゃないか?

 

 

「ちなみにオッズはラリーに少し軍配が上がってるぞ?さすがは流星だな」

 

 

開き直って言うムウを一睨みして、ラリーは深く深くため息をついた。ちなみに軽い気持ちでムウが金を賭けたら、ほんの一瞬で給料数ヶ月の大金に化けるといった予想が出て引いていた。

 

そのあとマリューにしこたま怒られていたけど。

 

太平洋の荒くれ者たちがなぜ、こんなにも熱狂してラリーとトールの模擬戦に大金をかけるのか?

 

答えは簡単。彼ら自身が傭兵企業「トランスヴォランサーズ」の恐ろしさを見にしみてわかっているから。

 

ある作戦を機に、「雷神」という二つ名を持ったトールと、「白き流星」や「ネメシス」と言った異名を持つラリー。

 

その二人が戦場に到着するや、空を飛ぶものは叩き落とされ、海から攻撃するものは粉砕され、逃げようとしても気がついたら落とされている。

 

しかも彼らは傭兵。状況に応じて味方になる時もあるし、敵になることもある。前者ならこれほど頼りになる者はいないが、後者なら絶望以外の何者でもない。

 

いい子にしないと雷帝と流星が来るぞ、といえば泣く子も黙って地下壕に逃げるとまで言われている。

 

そんな実力を持つ二人が模擬戦をする。

 

しかも賭けができるのだ。

 

元金を聞いた犯罪者たちが我先にと飛びついたのは言うまでもなかった。

 

 

「なぁ、ほんとにやるのか?」

 

「当たり前でしょ?データもいるし、アズラエルさんからの出資がなかったら実現もできないんだから」

 

 

ほんと世知辛いよな、と遠い目をするラリーを横に、ハリーは試作機の1号機の準備を進めていた。

 

スピアヘッドをベースに、新型エンジンである双発のジェットを乗せた機体は、常夏の太陽に照らされながら滑走路に鎮座していた。

 

特にこれといった改造はしていない。揚力を稼ぐために翼を大型化しているくらいで、外見はほとんどスピアヘッドと変わらない。まぁ中身は全くの別物であるが。

 

2本の滑走路。真ん中を挟んで反対側ではトール用の機体をフレイが調整していた。

 

実はこの機体。

 

ハリーとフレイがそれぞれ組んだものだったりする。しかもお互いになんの情報のやり取りもしていないので、二人が渾身のセッティングを施した機体となっていた。

 

 

「フレイちゃんの堅実な腕なら、まず間違いなく食いついてくる。油断はしないでよね」

 

「ハリーさんのセッティングだから何があるか分からない。仕掛けるときは慎重にね」

 

 

ラリーとトールの模擬戦であると同時に、これはハリーとフレイという二人の技師の戦いでもあった。

 

 

「スタート、5分前!!」

 

 

アナウンスが鳴り、見渡し台にパイロットであるラリーとトールが上がった。

 

 

「さて、今回の模擬戦を取り仕切るんだが、まずは簡単にルール説明をするぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は、オーブ首長国連邦から南東。

 

今回の模擬戦は純粋な航空戦となる。

 

同型同エンジン。離陸してからのシチュエーションではなく、発進時から模擬戦はスタートとなる。

 

使用火器はバルカン砲に限定。

 

ルールは至極単純だ。

 

バルカンのペイント弾を相手に当てた数が多い方が勝者だ。また、片方が燃料切れになった場合はその時点で終了。双方被弾がない場合、燃料補給後にサドンデスとなる。制限時内に一発叩き込んだ方が勝者だ。

 

貴重な試作機だ。体当たりなんてして壊すんじゃないぞ?

 

ちなみに俺はラリーに賭けている。

 

お互いの健闘を祈る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スタート、1分前!!」

 

 

滑走路の周りに人集りができていた。

 

最終チェックを終えた技師と交代するように、二人のパイロットが機体に乗り込んでゆく。シートベルトを締めながら、二人は観客席にいる仲間たちにサムズアップや、敬礼を打った。

 

 

「かっこいいっすねぇー」

 

「うむ」

 

 

それを眺めるリークとムウ。

 

多くの観客が固唾を呑んで見守っていた。

 

エンジンに火が入る。出力が上がってゆく音が響き、バブルキャノピーがゆっくりと閉まった。

 

 

「さて、トール。模擬戦であるが手加減はしないぞ?」

 

「もちろんですよ、隊長。やるからには本気で行かせてもらいます」

 

 

無線機でやりとりをし、二人は意識を研ぎ澄ました。フラッグを持ったサイが滑走路の真ん中に立って、二人が乗る戦闘機がうなりを上げた。

 

 

「スタート10秒前!!、9、8、7!!」

 

 

スロットルに指をかけて、フットペダルに置く足を硬らせた。

 

 

「3、2、1!!」

 

 

ゴウっとエンジンが唸る。二機が加速したのは同時だった。フラッグを下ろしたサイを通り抜け、二機はどんどん加速する。

 

先に上がったのは…

 

 

「トールが上を取った!!」

 

 

雷神だった。

 

 

 

 

 

 

キャラデザイン

  • 他キャラも見たい
  • キャラは脳内イメージするので不要
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