ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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第21話 虚像の崩壊

 

アルテミスの司令室は混乱の極みにあった。

爆音と振動が立て続けに起きては、絶対的な防御力を有するはずのアルテミスを揺さぶる。

 

「管制室!この振動はなんだ!?」

 

司令室に慌てて飛び込んできたガルシア少将が、無能だと心の中で唾棄しながら管制室へ怒声を放つ。

 

「不明です!周辺に機影なし!」

 

管制室にいる下士官も慌てふためくばかりで、ガルシアが期待した答えは一向に返ってこない。苛立ちのあまり、彼は司令室のテーブルをダンっと叩き、喚いた。

 

「だがこれは、爆発だぞ!超長距離からの攻撃かもしれん!ええい!はやく傘を開け!何をしている!?」

 

その時、一際大きな振動が司令部に伝わった。管制室は外部カメラから送られてくるデータをつぶさに確認し、見つけた。

 

まだ開いていないリフレクターモジュールを、緑色の閃光が穿つ光景を。

 

「ぼ、防御エリア内に、モビルスーツ!リフレクターが落とされていきます!」

 

「なんだとっ!!」

 

アルテミスが気付いた時はすでに手遅れだった。爆発の元凶であるブリッツはすでに傘の内側への侵入に成功していたのだから。

 

 

////

 

 

爆発の揺れが大きくなっているというのに、クラックスのブリッジは未だにアルテミスの武装兵によって封鎖されていて、ラリーがブリッジの入り口に到着した頃には、クラックスのクルーが武装兵を取り囲んでいた。

 

「おい!なんだよ!この爆発は!」

 

「明らかに攻撃されてるだろうが!わかれよ!」

 

感じたことのない揺れに戸惑っているのか、武装兵は互いを見ては、しどろもどろに言葉を繋ぐことしかできない。しかし、彼らがブリッジを閉鎖している以上、こちらもアルテミスと一連托生なのだ。

 

ラリーはブリッジから少し離れた場所に設置されてる艦内通信用の端末を立ち上げて、システムを艦内放送へ切り替える。

 

「総員第一戦闘配備!避難民は居住区へ避難を!弾薬装填!メビウスも発進準備だ!」

 

ついでに、艦内の警報機も作動させる。とにかく今は一分一秒でも早く、戦う準備を整えるしかない。

 

「お、おい!貴様!勝手な真似は…」

 

と、一人の武装兵が銃を携えてラリーの元へ向かう。ラリーは端末を閉じると、振り向きざまに向かってきた武装兵の首根っこを掴んで、通路の壁に押しやった。

 

「じゃあここで何もしないでアルテミスと心中するかい?」

 

武装兵はその言葉に何も答えられなかった。何事もなければ、「アルテミスは堅牢だ」とか「傘の守りは鉄壁」だとか言い返せたが、今アルテミスは未曾有の事態に直面している。

 

クルーに囲まれている他の武装兵も、銃をただぶらさげてるだけで、誰もクルー達の睨みに対することはしなかった。

 

彼らの目の前にいるのは、ただの荒くれ者たちではない。モビルスーツを何機も撃ち落とし、絶望的な戦いをくぐり抜けてきた猛者たちだ。

 

「何もしないで死ぬなら、俺たちは足掻いて生き残る。生き抜いて、使命を果たす。それが俺たちメビウスライダー隊だ」

 

生き抜く。

 

その統一された意識を前に、アルテミスの武装兵はただ、彼らの指示を受けるしかなかった。

 

 

////

 

 

 

「うわぁー!今の爆発で!部屋に亀裂が入った!空気がぁ!」

 

ムウは部屋を隔てるドアの前で、そんな間抜けな叫び声を上げた。マリューやナタルは、その姿を見て呆気に取られている。

 

「はやく開けてくれ!このままじゃ窒息してしまう!」

 

ドレイクも続くように扉を叩きながら、外へ呼びかけるように叫んだ。まだ呆けているマリューたちを見てムウが切羽詰まった様子で言葉を投げる。

 

「ほら!叫べよ!ドア開けさせるんだ!」

 

ムウが手招く。実のところ、部屋には何の変化も無いが、揺れは続いていた。彼がいうように、扉を開けさせないと二人が叫んでいる嘘が本当のものになってしまう可能性があった。

 

「キャ、キャーー!助けて!死んじゃうぅ!」

 

マリューは覚悟を決めて、自分でもらしく無い叫び声を上げた。この際恥ずかしいなどとは言っていられない。ドレイクも、ムウも、マリューも、恥や外聞を捨ててただただ叫んだ。

 

「ぬわぁー!早く開けてくれ!」

 

「さぁ、バジルール少尉。あなたも」

 

「私もですか?!し、しかし…」

 

「我々は一連托生。それでも聞けないというなら…そうだな。上官命令としよう」

 

「…キャ、キャーーー!早く助けてー!」

 

「よーし、いいぞ!…うわぁぁ!酸素がー!出してくれー!うわぁぁ!!」

 

大の大人四人がみっともなく叫び声をあげる。なんともシュールな光景だが、背に腹はかえられぬ。しばらく四人の乾いた叫びが響いた後に、武装兵の二人組みが扉を開けた。

 

「あー!来て!早くぅー……」

 

二人が入ってきた時、ちょうどナタルが叫んでいたタイミングであり、ナタルはしばし無表情になった後に、耳まで真っ赤にして俯いてしまった。ムウは後に語る。

 

カメラを持っておけばよかった、と。

 

「なんだ?壁に亀裂なんて…」

 

「失礼」

 

手刀一閃。ドレイクが壁を見渡している武装兵一人の首筋にお見舞いし、怯んだところで足払い。顔の正面から壁へ叩きつける。

 

「な…貴様…」

 

片割れの武装兵が、ドレイクに銃を向けようとしたが背後からムウが現れると、ドレイクと同じ手際の速さで武装兵を沈黙させる。

 

「…バーフォード艦長!?」

 

「悪いね、先を急ぐんだ」

 

扉の外を確認すると、ドレイクは三人へ手招きをして、外へ飛び出した。

 

三人は思わず顔を見合わせる。

 

「確かに、アルテミスと心中はごめんね!」

 

マリューの言葉に頷き、三人も外へ飛び出した。

 

 

////

 

 

 

「傘が破られた!?そんなバカなっ!?」

 

ストライクの解析をさせていたヒダルフは、部下が伝えてきた情報に、信じられないと言った声をあげた。ヒダルフはキラから目を離し、外で宙を漂いながら部下と何かを話している。

 

《キラ、聞こえるか?》

 

ふと、コクピットに通信が入った。通信元はアークエンジェルではなくクラックス。音声だけの通信であったが、キラは慌ててヘルメットを被り、メット通信へ切り替える。

 

「レイレナードさん?」

 

《よう、キラ。パスワード解除前には間に合ったようだな》

 

その言葉で、クラックスがキラの機体をモニタリングしていることが分かった。この振動や爆発音からして、外部から攻撃を受けているのは容易に想像できる。

 

クラックスがモニタリングし始めたということは、戦闘配備が始まっているということだろう。

 

《こちらAWACSのオービットだ。キラくん、緊急だが君にミッションを伝えたい。出られるか?》

 

「は、はい…ストライクはロックされてないので…」

 

《そうじゃない。君に戦える覚悟があるか聞いているんだ》

 

キラは音声越しにだがオービットの管制官…ニックという人物が、自分を心配していることに気づいた。声質はやや硬いが、モニターの向こう側で彼は自分を気遣っているのだ。

 

生き残る。生き延びて、使命を果たす。

 

ラリーやリークが言っていた戦う理由を、キラは思い返した。自分にできることを精一杯果たすこと。引き金を引いた自分の責任。それと向き合って、キラは眼を開いた。

 

「ヒダルフ中佐!」

 

副官が叫んだ時にはもう遅かった。キラが突き飛ばしたヒダルフは、くるくると無様に無重力の中を漂う羽目になった。

 

「だーっ…貴様…!」

 

「攻撃されてるんでしょ?こんなことしてる場合ですか!?」

 

キラはそれだけ吐き捨てて、ストライクのハッチを閉める。外で呪詛のような叫びを上げるヒダルフを見向きせずに、キラは音声通信に答えた。

 

「キラ・ヤマト。ストライク、行けます!!」

 

《よし!これから君のコールサインはライトニング3だ!作戦を説明する!困難ではあるが、俺たちなら出来る!》

 

AWACSの簡潔なミッションの説明を受けて、キラはストライクを飛翔させ、港を飛び出した。

 

港を出ると、直ぐに見つけた。

 

黒を基調にした敵のモビルスーツ、ブリッツを。

 

『居た!あいつ!今日こそ!』

 

「くっそー!もうこんなところまで!やらせるもんかー!!」

 

キラはブリッツを引きつけながら、ビームライフルの閃光を走らせる。

 

 

////

 

 

「艦長!」

 

キラが飛び立った直後に、マリューたちはアークエンジェルにたどり着くことが出来た。アークエンジェルもクルーが武装兵を押し退け、ブリッジを奪還。発進態勢を整えている最中だった。

 

「よくやったなぁ!ボウズ共!」

 

「ここでは身動きが取れないわ!アークエンジェル発進します!」

 

マリューの言葉であったが、操舵を担うノイマンがその言葉に眉をひそめる。

 

「しかし艦長、実は…」

 

 

////

 

 

「はぁ!?アークエンジェルが出られない?!」

 

アークエンジェルからの通信を取ったラリーが聞き返したが、応じているムウやマリューも困り果てた顔をしていた。

 

《ボーディングブリッジと固定ビットが外れないの!アークエンジェルは身動きが取れないんです!》

 

「力任せに引き剥がせば?」

 

ハリーが提案するが、ノイマンが首を横に振った。

 

《それが、うんともすんとも…!》

 

「がめつい奴らの根性みたいだな」

 

《リーク!冗談を言ってる場合じゃないぞ!このままじゃアルテミスと心中だ!》

 

ムウが絶望したように叫ぶが、固定を解除しようにも外部からアクセスするしかない。

 

しかし、肝心の制御システムはブリッツの攻撃で使い物にならなくなっていた。

 

《外部からボーディングブリッジとビットをどうにかしねぇとな…》

 

結論、ムウが言うそこに行き着く。作戦としては、メビウスにミサイルを積み込み、制御が利かなくなったボーディングブリッジとビットを破壊する、または直接の制御系統を操作して解除を試みる二択に限られる。

 

「けど、どうやって!?アークエンジェルの港まで回り込んでる暇は…」

 

クラックスが停泊している港は、アークエンジェルがある港の反対側にあたる。本来なら、アルテミス内部を通れるのだが、ブリッツの攻撃により、指令系統は完全に麻痺している。

 

しかし、アルテミス近域を回り道して行くには距離が遠すぎる。

 

《じゃあ中を通ればいいんじゃないかな?》

 

「…え?」

 

ドレイクの提案に、アークエンジェルのクルーも、クラックスのクルーも、そんな間抜けな声を出した。

 

 

 

 

 

 

 

 


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