ミッションを説明する。
アルテミス南側の港に停泊するアークエンジェルは、現在ボーディングブリッジとビットに固定され出航ができない状況にある。
ボーディングブリッジとビットの制御システムだが、残念だがブリッツによる奇襲攻撃により機能を停止しており、解除するには外部からのアクセスが必要となる。
外部からのアクセスだが、南側の港の中央管制センターに集約機が設置されているので、これらを手動で操作し、解除を試みるしかない。
しかし、ザフト軍の奇襲もある。ライトニング3ことストライクが時間を稼いでいるが、残された猶予は少ない。
ライトニング1、2の両名は、北の港から南の港へ抜ける貨物物資搬送用の通路を通り、アークエンジェル救出任務にあたる。
通路は狭く、搬入中の物資が点在しているため正確な経路が割り出せない。したがって、複座式のライトニング2のメビウスに搭乗し、ライトニング2が状況をリアルタイムで監視、マッピングを行いながら最短時間でアークエンジェルの元に向かうことになるだろう。
到着し次第、集約機に向かうか、アークエンジェルのボーディングブリッジおよびビットの破壊を行う。どちらを選ぶかは戦況に従ってライトニング1に委ねる。
アークエンジェル救出後は、混乱に乗じて物資を積めるだけ積め込み、アルテミスを離脱する。
時間との勝負になる。各員、健闘を祈る。
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リークはただ、自分の置かれた状況を憂いて十字を切った。
おお、神よ。どうか我を救いたまえと、都合のいい時だけお願いする神に安っぽい祈りを、棺桶より更に棺桶らしいメビウスの複座オプションの座席の中で捧げた。
《オービットより、ライトニング1。射出体制が整うまで待機せよ》
現在、リークの愛機である標準型のメビウスには、ラリーとリークが二人で乗り込んでいた。
ラリーのメビウス・インターセプターはエンジンが焼けているため出撃は叶わない。
ムウのメビウス・ゼロは整備済みであるものの、ガンバレルの操作などできるわけもなく、肝心のムウもアークエンジェルに合流しているので、パイロットがそもそも存在していない。
リークのモニターには、ラリーから見える光景が映し出されていた。
真っ暗で縦に長い横穴が見える。それは、アルテミス内を行き交う物資搬送用の通路だ。天井は高いが、本来は小型作業ポッドが往来する通路であるため、モビルスーツやモビルアーマーが飛び回れるような大きさではない。せいぜい通れても、モビルアーマーが1機くらいだ。
そんな中に、自分たちは飛び込もうとしている。
しかも通路上には搬送途中の物資が点在している上に、位置もバラバラだ。リークはラリーの後ろで前方をモニタリングし、マッピングを行なう役目を担っている。
リークはため息を吐いた。いや、マッピングなどは出来なくは無いので、そこまで憂いていない。
問題は操縦するのがラリーというところだ。
「なんだよ、リーク。リラックスしろよ?リラックスー」
モニターで設定を続けるラリーがにこやかに言うが、こっちはそれどころではなかった。
ラリーの操縦は常軌を逸している。筋トレを欠かさずにやっていたゲイルでさえ、ラリーと相乗りしたあとは、グロッキーに陥ったのだから、間違いはない。
リークは今まで、ラリーやムウを追いかけてはきたが、実際に後ろに乗るとなると話は変わってくる。
「あーラリー?なるべく安全運転でお願いしたいんですけど」
「ああ、安全に急いで正確に向かうとするよ」
ああ、これはダメなやつだ。リークがそんな絶望を味わってる最中でも、クラックスはラリーの操るメビウスをサポートしていた。
メビウスが乗っているものはハンガーではく、カタパルトだった。一機しか搭載できないのが難点だが、その指向性は正確で、向けた方向に電磁カタパルトによって打ち出されるのだ。
スタート、5秒前。
そのアナウンスを聞いて、しばらく沈黙を守っていたリークが口を開いた。
「あー、ラリー?僕ちょっとトイレに…」
「残念だが、それを言うのは5秒遅かったな」
《メビウス、発艦!!》
横穴めがけて打ち出されたメビウス。
叫ぶリークの声は、穴に入ったあとすぐに聞こえなくなるのだった。