ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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第33話 変化

 

 

 

地球軍、第八艦隊。

 

デュエイン・ハルバートン准将が率いる艦隊の先遣隊であるモントゴメリは、来たるアークエンジェルとの合流に向けて準備を進めていた。

 

「本艦隊のランデブーポイントへの到達時間は予定通り。合流後、アークエンジェルおよびクラックスは本艦隊指揮下に入り、本隊との合流地点へ向かう」

 

アークエンジェルから先行する形で、護衛と周辺警戒を行うクラックスは、一足早くモントゴメリとの長距離レーザー通信の回線が繋がり、クラックスは中継機としてアークエンジェルとの通信補助を行う形となった。

 

《コープマン大佐。お久しぶりです》

 

モントゴメリ、アークエンジェル、クラックスの三隻による回線上での顔合わせで、クラックス艦長であるドレイクは、久しく見なかった戦友であるコープマンに敬礼をする。マリューも見習うようにコープマンへ敬礼を向けた。

 

「久しいな、ドレイク。君の第7艦隊の話は我々にとっても大いに心を奮い立たせるものだよ」

 

コープマンも、先のグリマルディ戦線をドレイクたちと共に戦った歴戦の猛者の一人だ。そして、ラリーたちの活躍を誰よりも先に確認した人物でもある。

 

《いえ、彼らのおかげですよ。我々がこうやってまた会うことができたのも》

 

「メビウスライダー隊か…。すさまじいものだな」

 

コープマンは素直にそう思っていた。ザフトに対抗するため、モビルスーツの開発を推し進めてきたハルバートン准将一派だが、メビウスライダー隊の実力も確かな物だ。一部の上層部の人間には、メビウスでの戦力増強を望む者がいるほど、彼らが与える影響力は強い。

 

故に、彼らが特別であるということをコープマンは理解していた。

 

メビウスで流星のごとく駆ける彼らが、戦場で生まれた特異的な存在であるということ。それを盲信して、モビルアーマーでの戦力増強を進めても、状況は何も好転しないということも。

 

そして、それはメビウスライダー隊指揮を担うドレイクも分かっていた。

 

《アークエンジェルの護衛の任、引き続き継続いたします。コープマン大佐も、どうかご無事で》

 

そう言ったドレイクに、コープマンは敬礼で答える。

 

「互いに後わずかだ。無事の到達を祈る!」

 

そして、コープマンの次に控えていた人物が、モニターに映る。

 

「大西洋連邦事務次官、ジョージ・アルスターだ。まずは民間人の救助に力を尽くしてくれたことに礼を言いたい」

 

彼はフレイの父であり、アークエンジェルを出迎える先遣隊に自ら名乗りを上げた人物。彼の目的は、アークエンジェルの出迎えの他にあった。

 

「それと…救助した民間人名簿の中に我が娘、フレイ・アルスターの名があったことに驚き、喜んでいる。娘を保護してくれたメビウスライダー隊の英雄たちにも、感謝を伝えて欲しい」

 

出来れば顔を見せてもらえるとありがたいのだが…と続けるフレイの父に、マリューやナタルは困惑した表情を浮かべ、コープマンはやれやれといった風で、ドレイクはくたびれた帽子を深くかぶった。

 

「事務次官殿、合流すればすぐに会えます」

 

そういうコープマンの言葉に、ジョージは渋々といった風にうなずく。

 

「こういう人だよ、フレイのお父さんて」

 

オペレーター室で、サイが隣にいるミリアリアにそっと告げた言葉は、ミリアリアの他に聞こえることはなかった。

 

 

////

 

 

アークエンジェル。ストライクが格納されるハンガーの逆側には、ついさっき調整が終わった一機のメビウスがあった。

 

純白には塗装されていないが、各箇所が入念にレストアされていて、メインエンジンの両サイドには同じく修理されたサブスラスターが取り付けられている。それを眺めながら、ラリーは感心したように頷く。

 

「エンジンが焼けてたのに、よく修理できたよな」

 

名付けて、メビウス・インターセプターパッチワーク。

 

ヘリオポリス脱出の際に、エンジンが焼けたラリーのメビウスから部品取りをして、リークがユニウスセブンで見つけたメビウスの残骸を突貫工事で修理した機体だ。

 

よく見ると装甲も、純白と本来の標準色である薄い桃色が入り乱れていて、唯一統一されているのは武装とエンジンユニットくらいだ。

 

「リークが拾ってきたメビウスの機体が良かったのよ。コクピットは使い物にならなかったけどね」

 

そう言って、油まみれの手を拭うハリーに、ラリーは頭を下げた。

 

「すまないな、オペ子」

 

ハリーが言う通り、リークが見つけたメビウスの状態は酷いものだった。コクピットは潰れていて、そこにはもちろんパイロットも居た。クラックスのクルーで丁重に宇宙葬をしたが、そのショックは大きい。

 

「オペ子って言うなっての…」

 

ハリーはラリーに向き直ると、少し不安げな影を残しながらも何とか笑顔を見せてくれた。

 

「ねぇ、ラリー」

 

「ん?」

 

「私が調整したんだから。だから、次の出撃も、ちゃんと生きて帰ってきてよね」

 

そう言う彼女は、少し震えていた。思い出しているのだろう。誰かが帰ってこなかった日のことを。ラリーは少し、沈黙を守ってから穏やかな笑顔で答えた。

 

「あぁ、頑張るとするよ」

 

 

////

 

 

「キラくん、8番から順番に接続ラインのチェックプログラムを走らせるからコクピットで反応を見てくれないかな?」

 

「了解です」

 

ラリーたちがいる反対側のハンガーでは、ナタルの叱責から解放されたリークが、キラと共にストライクのメンテナンスに勤しんでいた。

 

水制限が解除されたので、洗浄しなければ見られなかった部分を改めてチェックするためだ。

 

「ベルモンド少尉もすっかりモビルスーツのメンテナンスに慣れたもんだな」

 

点検する二人に、戻ってきたミストラルの片付けを終えたマードックが話しかけてくる。彼の言葉に、リークは困ったような顔で答えた。

 

「わかりませんできませんじゃ、戦場じゃ死んじゃいますからね。とにかく覚えることが大事ですよ」

 

「ちげぇねぇや、パイロットにしておくのは勿体ねぇなぁ」

 

今からでもこっちに来ないか?と職人気質な笑顔でそういうマードックに、リークは考えておきますと、手を止めずに言った。すると、コクピットに入っていたキラが顔を出した。

 

「少尉。正常値でした、8番から26番のラインは問題ないですね」

 

そう言うキラと一緒に、リークも計測結果を確認する。その後ろからマードックが覗き込んできた。

 

「なんです?」

 

「いや、どうかなぁって思って」

 

「オフセット値に合わせて、他もちょっと調整してるだけです。あっ。でも…もういいのかなぁ…」

 

「8番ラインがオーケーなら100番ラインも見ておいたほうがいいね。データの位相が合ってなかったら反応も鈍るし」

 

「ですね。じゃあ100番のチェックプログラムを作って…」

 

マードックはそれをみて、愉快な気持ちになった。ここは戦場ではあるが、自分のような妥協しない職人が育っていくのは楽しいことだ。そう思って思わず笑いがこみ上げてくる。

 

そんなマードックを、キラとリークは不思議そうな顔で眺めていた。

 

「やっとけやっとけ。無事合流するまでは、お前さんたちの仕事だよ。何ならその後、志願して残ったっていいんだぜ?」

 

マードックの言葉に、キラの表情が陰った。少し前の自分なら、冗談じゃないと思っただろう。

 

「残る…か…」

 

「キラくん?」

 

「い、いえ、なんでもありません」

 

リークの心配そうな声に応えて、キラは作業を再開する。自分でも驚きだった。

 

残るということに、嫌悪感を抱いていない自分がいたことに。

 

 

 

 

 

 

 


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