ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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第34話 分岐点

 

「地球軍艦艇の、予想航路です」

 

プラントを出発していたナスカ級、ヴェサリウスは、任務であるラクス・クラインの捜索と並行して、イザークたちが見失ったアークエンジェルーー通称、足つきの行方も追っていた。

 

デブリベルト宙域付近に息を潜めていたヴェサリウスの警戒網に、モントゴメリを含めた艦船の影が映ったのは、ついさっきのことだ。

 

「ラコーニとポルトの隊の合流が予定より遅れている。もしあれが、足つきに補給を運ぶ艦ならば、このまま見逃すわけにはいかない」

 

ふむ、と指揮を執るクルーゼは思考を深める。アルテミスから逃げるように去った足つきを見る限り、逃げ込んだ要塞での補給は満足に受けられなかったと見るべきだろう。デブリベルトに身を潜めて、友軍からの補給を待っているとするなら、その希望を断つことが最優先になる。

 

「仕掛けるんですか?…しかし、我々は…」

 

「その前に我々は軍人だ、アスラン。いくらラクス嬢捜索の任務があるとはいえな」

 

アスランの言葉を、最後まで聞くことなくクルーゼは遮った。捕捉した三隻がアークエンジェルにつながっていると言うなら、ひとりの少女の捜索よりも、そちらの優先順位が高くなるのは必定だ。

 

「それに戦いが起これば出てくる気がするのだよ」

 

「ーーなにがです?」

 

不敵に笑みを浮かべるクルーゼに、アスランは戸惑いながらその真意を聞いた。

 

「凶星〝ネメシス〟が、だよ」

 

クルーゼにとって、捕捉した三隻は餌でしかない。足つきをおびき出すものでも、自分の戦績のためでもなくーーただ、戦場で相見える流星へ繋ぐために。

 

 

////

 

 

「レーダーに艦影3を捕捉、護衛艦、モントゴメリ、バーナード、ローです!」

 

アークエンジェルのオペレーターの言葉に、ブリッジが沸き上がる。この閉鎖的な環境と、張り詰めた緊張感から解放されるとなれば、その喜びは大きい。

 

「フゥ…」

 

マリューも同じ気持ちだった。ようやく、この荷が重すぎる役目から解放される。その安堵の気持ちから、彼女は深く艦長席に体を預けた。

 

「ん?あ!…これはっ!」

 

喜びに満ちていたブリッジは、オペレーターのその声で再び静まり返った。つぶさにモニターを見ながら、耳につけるヘッドホンで音声とデータを確認していく。

 

「どうしたの?」

 

マリューの言葉に、オペレーターは顔色を悪くさせながら、正確に自分が観測した情報を伝えた。

 

「Nジャマーです!エリア一帯、干渉を受けてます!!」

 

安堵から一変し、アークエンジェルに再び張り詰めた緊張感が広がっていく。

 

 

////

 

 

「やっぱり隊長の勘は当たるな」

 

「ということは、流星も?」

 

「かもな」

 

捕捉した三隻の地球軍艦船に向けて出撃するモビルスーツ。そのパイロットたちは楽観的だった。彼らは最前線とはいえ、ザフトの大勝で終えた戦場しか経験しておらず、メビウスライダー隊の話など眉唾物と思い、信じてはいなかった。

 

流星を落とせば、俺も赤服の仲間入りだ等と言う始末で、アスランは深くコクピットの中で息を吐いた。

 

「アスラン!そいつの性能、見せてもらうぜ?」

 

「ああ」

 

そう答えて、アスランはヴェサリウスのハンガーから見える宇宙を見つめた。クルーゼ隊長が言うように、足つきは出てくるのだろうか…そうなれば、必ず流星も出てくる。キラが操るストライクも。

 

イザークたちと四人で挑んで落とせなかった敵を、自分は倒せるのだろうか。アスランはそんな不安を頭から振り払って、発進シークエンスに入った。

 

「アスラン・ザラ!イージス、出る!」

 

 

////

 

 

「モビルアーマー、発進急がせ!ミサイル及びアンチビーム爆雷、全門装填!」

 

モントゴメリ艦内はパニックに陥っていた。コープマンの指示のもと、迎撃準備を何とか始めてはいたが、先に打って出た敵の方が何もかも圧倒的に早い。

 

「熱源接近!モビルスーツ4!」

 

ヴェサリウスから放たれる艦砲射撃を何とか避けていれば、いつの間にか敵機に囲まれている。ちぃ、とコープマンは小さく舌打ちをした。

 

「一体どういうことだね!何故今まで敵艦に気づかなかったのだ!」

 

ブリッジに同乗していたジョージ・アルスターが狼狽えた声で叫んだ。コープマンは、戦闘の素人である彼をさっさとブリッジから追い出したいところであったが、ジョージの肩書きと、彼がブルーコスモスの一員であると言うことがそれを許さなかった。

 

そもそも、敵艦と遭遇するのは大きく分けて二パターンだ。一つは航行中にお互い相手を察知する場合、そしてもう一つは息を殺して張った罠に一方が引っかかる場合だ。

 

今回の奇襲は明らかに後者だ。

 

「艦首下げ!ピッチ角30、左回頭仰角20!」

 

野太いビーム砲がブリッジの横を通過する中、コープマンは的確な指示を出しながら思考を巡らせる。

 

「アークエンジェルへ、反転離脱を打電!」

 

「なんだと…それでは…」

 

ジョージが絶望したように顔色を悪くさせていく。コープマンの判断は、アークエンジェルを逃し、自らを盾とする戦略だった。

 

「合流しなくてはここまで来た意味がないではないか!」

 

「あの艦が落とされるようなことになったら、もっと意味がないでしょう!」

 

ジョージの喚きを、コープマンが軍人らしい怒声の一喝で黙らせる。自分たちの役割は、新造艦であるアークエンジェルを無事に地球軍へ届けることだ。それはなんとしても完遂しなければならない。

 

「艦長!」

 

そんな中、モントゴメリのオペレーターが電文を受け取って、慌てた様子で艦長へ叫んだ。

 

「アークエンジェル護衛艦、クラックスから入電!」

 

 

////

 

 

 

「前方にて、戦闘と思しき熱分布を検出!先遣隊と思われます!」

 

観測した情報に、それを聞いたマリューは絶望したように呟く。

 

「戦闘って…!」

 

「敵の戦力は?」

 

ナタルの声に、オペレーターは観測データを確認しながら読み上げていく。

 

「イエロー257、マーク40にナスカ級!熱紋照合、ジン3、それと、待って下さい…これは…イージス!?X-303、イージスです!」

 

その言葉に、アークエンジェルブリッジの誰もが押し黙った。

 

「では…!あの…ナスカ級だと言うの!?」

 

なんと、しつこい…。マリューは敵の諦め悪さに半ば呆れていた。ヘリオポリス脱出から、敵は諦めもせずに追いすがってくる。

 

「でも…あの船には…」

 

サイが苦しそうに呟いた。今の距離なら、アークエンジェルとクラックスだけでも逃げる事は可能だ。しかし、それをするということは、モントゴメリ含む三隻の友軍艦を見捨てると同時に、ガールフレンドであるフレイの父を見捨てるということになる。

 

「今から反転しても、逃げ切れるという保証もない。この状況では…」

 

マリューの呟きに答えるように、アークエンジェルの正面モニターに明かりが瞬いた。

 

《ラミアス艦長、我々が救援に向かいます》

 

「バーフォード艦長?!」

 

そう告げたのは、クラックスの艦長ドレイクだった。

 

《ここで反転しても、敵は追ってくるでしょう。ここで追い払わない限り、敵の思う壺だ》

 

それに反転して逃げたところで、第八艦隊と合流できる保証もありませんしな、とドレイクはくたびれた帽子を深くかぶる。

 

《本艦は先行してナスカ級を迎え撃つ!アークエンジェルは後方支援を!それと一つ、手を借りたいことがある》

 

 

////

 

 

《総員第一戦闘配備!アークエンジェルならびに護衛艦クラックスは、先遣隊援護に向かいます!総員、第一戦闘配備!繰り返す!総員、第一戦闘配備!》

 

「僕を…ですか?」

 

アラートと共にミリアリアの艦内放送が流れる中で、キラは通路に設けられたモニターに向かって静かに呟いた。

 

《すまない、君が戦いを嫌っているのは分かるが、今はどうしても戦力が欲しい。メビウスライダー隊の一員として、作戦に参加してもらえるか…?》

 

モニターの先に映るのは、クラックスのクルーであり、AWACSの担当管制官でもあるニックだった。彼は申し訳なさそうではあるが、眼差しは真剣だった。キラはその眼差しに射抜かれ、答えを出し渋っていたのだ。

 

「僕は…」

 

もう、戦わなくてもいいと安堵していたのに、再び戦争に立ち戻ったことに、キラは戸惑っていた。自分はいったいどうするべきなのだろうか、と。

 

「モシモシ?モシモーシ!」

 

そんな中で、キラの足元に小さなハロが転がってきた。ふと視線をあげると不安そうな表情をしたラクスが通路をゆっくりとこちらに向かって進んできているのが見える。

 

「何ですの?急に賑やかに…」

 

穏やかにそういうラクスにキラはため息を漏らしながら、伸ばしてきた手を掴んだ。

 

「戦闘配備なんです…さぁ中に入って…全く、ここの鍵は一体どうなってんだ?」

 

「ハロハロ、ハロハロ、ミトメタクナイ、ミトメタクナーイ!」

 

「戦闘配備って…まぁ…戦いになるんですの? 」

 

「そうですよ…ってか…もう…とっくにそうです」

 

そう嫌そうに呟くキラに、ラクスは首を傾げた。

 

「キラ様も戦われるんですか?」

 

「えっ…僕は…」

 

ラクスの問いに、答えあぐねいているところに、今度は反対方向からピンクのひらひらした服が浮かんで飛んでくるのが見えた。

 

「キラ!ラクス!」

 

「まぁ、フレイさん」

 

飛んできたフレイを、ラクスとキラが二人で受け止めた途端、フレイは不安げな瞳でキラにすがりついた。

 

「戦闘配備ってどういうこと?先遣隊は?!」

 

フレイの問いに、キラはわずかに視線をそらす。それが決定打になり、彼女の冷静さが失われることになった。

 

「大丈夫だよね!?パパの船、やられたりしないわよね?ね!?」

 

フレイの声に、キラはわずかに口を開きーー

 

《まかせろ、フレイ!》

 

その時、繋がりっぱなしだった通信モニターからそんな声が響いた。三人がモニターを見ると、メビウスのコクピットの中にいる二人の顔がサブモニターで映っていた。

 

「ラリー…さん」

 

《僕らも出るから、ラクス嬢と二人で安心して待っていてくれ》

 

不安げに揺れるフレイに、ラリーとリークはモニター越しにサムズアップしてみせた。キラも意を決して、フレイの肩へ手を置く。

 

「キラ…」

 

「大丈夫だよ、フレイ。僕も行くから」

 

そう言って微笑んでから、キラはくるりと反転してハンガーへと急いだ。

 

 

////

 

 

それでは、ミッションを説明する。

 

現在、合流予定にあった第八艦隊所属の護衛艦モントゴメリが、ザフト艦からの奇襲を受け戦闘状態に陥っている。

 

戦場では、モビルスーツによる戦闘が観測されている為、残された猶予はごく僅かだ。メビウスライダー隊は、可及的速やかにモントゴメリの援護に向かい、ザフト艦、および敵モビルスーツの迎撃任務を行う。

 

尚、アークエンジェルは後方支援を行う為、今回の任務はメビウスライダー隊と、隊に編入されたストライクを主軸とした迎撃作戦となる。

 

困難な任務であるが、友軍を見捨てるわけにはいかない。メビウスライダー隊、発艦せよ!

 

 

////

 

 

 

《対モビルスーツ戦闘、用意!回避運動は任せる!イーゲルシュテルン対空迎撃準備!ミサイル発射管、14番から24番、コリントス装填!6番から13番へ、ヘルダート装填!3番から5番はアンチビーム爆雷!急げよ!》

 

ドレイクの指揮のもと、先行するクラックスは戦闘準備を整えていく。そのデッキには、ハンガーから解放されたメビウス2機が管制官の指示に従って待機している。

 

《進路クリア!メビウスライダー隊、発艦どうぞ!》

 

「ラリー・レイレナード。メビウス・インターセプター。ライトニング1、発進する!」

 

「リーク・ベルモンド。メビウス、ライトニング2、発艦します!」

 

その瞬間、クラックスと並走していたメビウスは、エンジンを煌めかせて戦闘宙域へと飛翔していく。

 

《メビウスゼロ、フラガ機、リニアカタパルトへ!》

 

「了解!ムウ・ラ・フラガ、ライトニングリーダー、出るぞ!」

 

後方にいるアークエンジェルも同じだった。開放されたハッチから、ムウの駆るメビウス・ゼロが閃光のように飛び出していく。

 

《敵は、ナスカ級に、ジン3機。それとイージスが居るわ。気を付けてね》

 

《キラ、先遣隊にはフレイのお父さんが居るんだ。頼む!》

 

「分かった!」

 

《システム、オールグリーン!カタパルト、接続!エールストライカー、スタンバイ!》

 

メビウス・ゼロに続いてキラのストライクもカタパルトへと運ばれていく。その背中には機動戦を重視したエールストライクパックが装着された。キラは深く息を吐き出して、ハッチから見える漆黒の宇宙を見据えた。

 

《進路クリア!ストライク、どうぞ!》

 

「キラ・ヤマト、ストライク…ライトニング3、行きます!!」

 

その声とともに、四機の「流星」は、勇ましく船から飛び立ち、窮地に立たされる味方を救うべくその行く道を急いだ。

 

 

 

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