ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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第35話 凶星〝ネメシス〟

 

 

 

「護衛艦、バーナード大破!航行不能!」

 

窮地に立たされている。

 

コープマンは劣勢になる自軍を見つめながら、そう確信していた。発艦したモビルアーマー隊は全滅。迎撃しようにも、突発的な戦闘に慣れていないローとバーナードは、的確な対空迎撃姿勢を取れていない。

 

「X-303イージス!ローに向かって行きます!」

 

敵はその隙を的確に突いて、こちらの構築した守りを崩しつつある。バーナードやロー、そして自艦も、轟沈するのは時間の問題だ。

 

「くそ…なんて機体性能だ…!」

 

モントゴメリに乗るクルーは、相応の戦場を戦ってきた兵士であるが、ジンはまだしも強奪されたイージスを捉えることは叶わなかった。

 

モビルアーマー形態となったイージスの機動力はこちらの手元にある僅かな情報とは比べものにならないほど高い。

 

ナスカ級から放たれる艦砲射撃を回避しながら、ジン3機とイージスの攻撃から逃れるなどーー物理的に不可能だ。

 

「奪われた味方機に落とされる、そんなふざけた話、あるか!」

 

ジョージの苦虫を噛み潰したような声に、コープマンはギリっと奥歯を食いしばる。

 

「このままでは…!」

 

「か、艦長!!後方より、高熱源体急速接近!」

 

オペレーターの声に、コープマンはハッとなり、振り返った。彼の目に入ったオペレーターの顔は、まるで信じられないものを見るように引きつっている。

 

「数は1…いえ!メビウス2機!ゼロ式が1機で…これは…!!」

 

その言葉の直後に、コープマンが指揮をとるモントゴメリのブリッジの真横を、一陣の光が過ぎ去る。ローに攻撃を仕掛けようとしていたイージスを牽制し、その光は艶やかな曲線を描いて戦場を駆け抜けていく。

 

「あれは…なんだ…?」

 

ジョージの呟きに、コープマンは口をわずかに震わせて答えた。

 

「流星…」

 

 

 

////

 

 

 

「各機、散開!!」

 

ライトニングリーダーであるムウの言葉を合図に、編隊で飛行していたメビウスライダー隊はそれぞれ離れ、各自が戦闘準備を整えていく。

 

「ライトニング1、スタンディングバイ」

 

「ライトニング2、スタンディングバイ」

 

「ライトニング3、スタンディングバイ」

 

各機の答えに、ムウはよし!と景気付けてフォーメンションを組んでいくよう指示を飛ばした。

 

「全機、フォーメンション、ストライダー!」

 

メビウスライダー隊は、まるで矢じりのような隊列を維持しながら、敵が優勢だった戦場の状況分析を行っていく。

 

「ジン3機、目視で確認!イージスの位置は…ローの近くか!」

 

《AWACS、オービットよりメビウスライダー隊へ。敵は俺たちの登場にまだ反応できていない。お前たちはモビルスーツを!最大の獲物はこちらで頂く!》

 

先行したメビウスライダー隊に続いて、全速力で航行していたクラックスも、交戦宙域へと到着する。この救出作戦は、モビルスーツはメビウスライダー隊、敵艦船はクラックスという割り振りになっている。

 

「各機、作戦通りだ。ライトニング2はライトニング3とエレメントを組め!俺とライトニング1で敵を撹乱する!」

 

「ライトニング2、コピー」

 

「ライトニング3、了解!」

 

リークとキラの答えを聞き、ムウとラリーの機体が編隊から離れて、宇宙に浮かぶ巨人に向かって飛翔していく。

 

『へへ、ほんとに来やがった!』

 

『ジン3機相手に正気か?』

 

ラリーだけに聞こえる敵の声は、傲りに満ちていた。モビルスーツに絶対的な自信を持っている故の傲り。しかし彼らは知らない。これから相手をする敵が、どんな存在なのかを。

 

ラリーは唇を少し舐めてから、スロットルを全開に吹かしていく。ハリーが調整したメビウス・インターセプターパッチワークは、つぎはぎとは言え、ラリーが求める挙動に即座に応えてくれる。

 

行ける。この機体ならーー!!

 

「ライトニング1、エンゲージ!」

 

 

 

////

 

 

 

メビウスライダー隊が敵モビルスーツとの戦闘を開始し始めた頃、後方ではクラックスが被弾したバーナードとロー、そしてモントゴメリの退避支援を行っていた。航行不能になったバーナードからは、使える物資を詰めたコンテナと、クルーが乗る脱出艇が射出され、随時クラックスに収容されていっている。

 

《コープマン大佐、ご無事ですか》

 

モニター越しにそう言うドレイクに、コープマンは困惑した眼差しを向けた。

 

「バーフォード!なぜお前が!」

 

なぜ、逃げずにここにきた。アークエンジェルと共に逃げればよかったものを…とコープマンの苛立った目に、ドレイクは小さく笑った。

 

グリマルディ戦線でも、彼は自軍の撤退のためにしんがりを務めた。ドレイクはそんな彼を手助けするために、メビウスライダー隊と共に戦場に残ったことがある。その時も、コープマンは今と同じような目をしたのだ。

 

その時と同じ言葉を、ドレイクはコープマンへ伝える。

 

《説明は後にしましょう、今は目の前の敵を討つ事だけに集中を!》

 

そう伝え、ドレイクは自分の役割に戻った。クラックスのクルーも彼の言葉を静かに待っている。

 

《弾幕展開!艦首急速回頭!モントゴメリに敵機を近づけさせるな!》

 

彼の指揮は、窮地に立たされた中でも鋭く、的確に状況を立て直しにかかる。モントゴメリの前に出たクラックスは、迫るナスカ級の砲撃を悠然とくぐり抜けていき、戦闘態勢へ移った。

 

《ミサイル発射管、6番から9番、ヘルダート。13番から20番、コリントス、てぇ!!1番から5番、アンチビーム爆雷展開!時間を稼ぐ!》

 

こちらの任務は、敵艦の撃退、もしくは撃破だ。それまではメビウスライダー隊がモビルスーツの相手をする。

 

短時間での電撃作戦。

作戦の鍵を握るのは、時間だ。

 

敵は自分たちの出現に対応できておらず、また勝利を確信して傲っている。この状況下で戦況をひっくり返すには、短時間で敵の網に穴を穿つしかない。

 

ドレイクは深く、くたびれた帽子を被る。

 

この時、この瞬間が、彼にとっての勝負どころであった。

 

 

////

 

 

『う、嘘だろ…!』

 

三機の内、一機のジンに乗るパイロットは、目の前で起こった出来事に戦慄していた。いや、三機というのは、もう過去の話だ。

 

『こっちは3機だったんだぞ…!それを…!』

 

ラリーとムウの2機が三機のジンを翻弄し始めてから、彼らの傲りは吹き飛ぶことになった。今まで相手にしてきた地球軍のモビルアーマーとは動きが別格だったのだ。

 

普段ならば、何回かの交差をすれば、敵機をターゲットに捉えることができたのに、今相手取る二機は、まともな交差すら許さない。

 

それどころか、モニターに捉えることもできず、レーダーとモニターへ視線を行き来してる間に、メビウスの動きを見失っているのだ。

 

最初の一機が落とされたのは、そんな矢先の出来事。下方へ逃げたラリーのメビウスを追ったところで、真下からストライクのビームライフルに撃ち抜かれたのだ。

 

「まずは一機」

 

ラリーはそれで喜ぶこともせずに、冷静に次の目標へと移る。

 

さて、ラリーたちが操るメビウスだが、それは今まで使っていたものから少しだけマイナーチェンジが施されている。

 

ラリーの機体は言うまでもなく、ユニウスセブンの残骸にあったメビウスを流用した継ぎ接ぎ機体だ。

 

しかし、その表現は適切だろうか?

 

メビウスだけではなく、地球軍の戦艦や、不運にも撃破されたザフトのモビルスーツ、戦艦の残骸、放置された豊富な物資と武器弾薬。

 

それらを目の当たりにして、クラックスのメカニックを牛耳るハリー・グリンフィールドが黙って修理だけをするだろうか?

 

答えはノーだ。

 

メビウスの汎用タイプの開発案出や、局地戦闘仕様であるインターセプターの仕様開発を行った彼女が、『機体の修理および点検』の大義名分のもと、豊富な実験材料であれやこれやを試さなかったわけがない。

 

結果、ラリーの機体やリークの機体はとんでもないワンオフ仕様に仕立て上げられることになった。

 

メインエンジンの両サイドに付いたサブスラスターを軽快に吹かしながら、独特なリズムと艶やかな機動を駆使して、残りの二機を翻弄する。

 

『な、なんなんだよ!こんなの見た事ないぞ!』

 

『速い!動きが!ついていけない…!!』

 

泣き言のように叫ぶジンのパイロットを尻目に、アスランはラリーたちの機体から離れて、状況を観察する。

 

モビルアーマーの持つ爆発的な直線エネルギーを、左右の動きや旋回に活かし切ってるラリーの機動力は、近くにいればいるほど脅威になる。それから脱するには、相手から離れなければならない。だが、離れたところでーー

 

『くぅ…!!』

 

ムウの駆るメビウス・ゼロのガンバレルを用いたオールレンジ攻撃や、リークのメビウスの迎撃に晒されることになる。アスランはその攻撃を掻い潜りながらも、ラリーのメビウスの動きを見ていた。

 

『何をやってる!後ろだ!』

 

アスランの叫びに反応したジンが、背後から迫るラリーのメビウスをギリギリで捉えた。ライフルの銃口を迫るメビウスの鼻先へさし向ける。

 

『このぉ!!!』

 

バララッと打ち出されたライフル弾であったが、ラリーの機体はそれがわかっていたかのように鋭く旋回し、弾の合間を縫うようにバレルロールをしながらジンの脇を通り過ぎていく。

 

『あ、相手はモビルアーマーなんだぞ!?』

 

敵パイロットの叫びは、目の前に現れたリークの機体の前では無意味だった。

 

リークの駆るメビウスは、複座システムはデータ取りのためにそのままにされているが、武装面が大幅に強化されている。なんと言っても、二つのバルカン砲が搭載されている場所にあるのが、ザフトのジン用のモビルスーツライフルなのだ。

 

地球軍とは弾頭の大きさや供給システムすら違うと言うのに、ハリーは徹夜で作業を敢行し、メビウスのバルカンユニットを全てザフトのライフル規格に取り替えたのだ。

 

機体後部にはミストラルに付けられていたマルチアームが折りたたまれた状態で取り付けられており、唯一の課題であったカートリッジの自動交換を行う役目を果たしている。全体的な機動性は低下するが、火力向上は充分達成している。

 

『う、うわぁああああ!!』

 

すれ違いざまに放たれた弾頭は、先の戦闘でアスランたちを追い詰めたHEIAP弾だ。

 

フェイズシフト装甲のエネルギーですら大幅に削り取る弾頭の直撃を受けては、ジンではひとたまりもない。パイロットは情けない叫び声をあげながら宇宙の藻屑と化した。

 

『た、助けてくれ!!こ、こんな化け物!!く、くるな…!!』

 

残り一機になったジンだが、もはやメビウスライダー隊の術中にはまっていた。目まぐるしく入れ替わるメビウスの機影に目を奪われ、パイロットは冷静な判断すらままならない状態に陥っていた。

 

『ど、どこだ!?上か!?』

 

過ぎ去ったメビウスを追って上を向くが、その先に機体は見えない。そして、呆然とするパイロットの真横から鮮やかな桜色の閃光が迸った。

 

『よこーーーーー』

 

その言葉を紡ぎ終わる前に、ジンは閃光のもと一刀両断にされた。

 

ラリーの機体は機動性を最大限に生かした超近接格闘仕様だ。重量のあるレール砲は、バルカン砲に置き換えられている。最大の特徴は機体下部に設けられたラックに備わる武器だ。

 

ストライクのビームサーベル。

 

ユニウスセブンで回収したメビウスのバッテリーを増築移設して、ビームサーベル専用のエネルギー供給ラインを確立。ハリーがウキウキしながらマリューたちから許可を得て譲ってもらったビームサーベルを取り付ける様子を見て、マードックが引きつった顔を浮かべていた。

 

え?ビームサーベルなんて当たらない?

一回当ててるから、二回も三回も一緒。

 

そう言ったのはほっこり顔で手を拭うハリーだった。

 

『ジン、3機が…5分も経たずに…』

 

アスランはその様を見て、手を震わせていた。

ジン一機に、モビルアーマー三機。そんなモビルスーツの不敗伝説が、アスランの中で音を立てて崩れ落ちた瞬間だった。

 

『ば、化け物…!!』

 

そう呟いたアスランの機体を、大きな衝撃が襲う。

 

「アスラン!!」

 

接触回線で聞こえたのは、なんとか連れ出そうと心のどこかで考えていた親友の声だった。ストライクは盾を前に出して、アスランのイージスへ体当たりをしていたのだ。

 

『…キラ!!』

 

「もう引くんだ!!こんなことをして、何になるっていうんだ!!」

 

ジン三機の撃墜、そして残るは自分と後方にいるヴェサリウスだけ。対する相手は航行不能になった護衛艦一隻、中破に留まった護衛艦一隻、そして無傷で健在の護衛艦二隻と、凶星〝ネメシス〟だ。

 

勝てない。

 

心のどこかで、そんな確信を覚えてしまった。しかしその気持ちを振り払ってアスランはキラを睨みつけた。ナチュラルが母を殺した。ナチュラルが戦争を…その憎しみだけを糧に、自分を奮い立たせる。

 

『お前は…まだそんなことを…!』

 

「キラ!!一人じゃダメだ!エレメントをーーー」

 

そう叫んで近づこうとしたラリーのメビウス・インターセプターの脇を、ビームの閃光が通り過ぎていく。

 

「くっ!?」

 

急制動でビームの余波を免れたラリーは、その閃光が走った元へと視線を鋭く向けた。

 

『前菜にしては、やはり物足りなかったか?流星…!!』

 

そこには、悪鬼がいた。

白き機体。拠点襲撃用で用いるビーム砲を肩に背負った鬼。

 

「白いシグー…クルーゼか!!」

 

真っ先に反応したのは、ムウだった。

ラリーよりも早く、メビウス・ゼロを駆ってクルーゼのシグーへと迫る。しかし、クルーゼは迫るムウになんの興味も示さず、撃ち尽くしたビーム砲をムウに向かって乱雑に放り投げた。

 

「この野郎!!」

 

それを躱した先に待っていたのは、腰に懸架していたライフルを手に持ったクルーゼの機体だった。

 

『ムウ、今はお前に用は無いのだよ!』

 

打ち出された弾丸は、ムウのガンバレルやエンジンを捉える。

 

「ぐぁっ!!」

 

「フラガ大尉!!」

 

キラの声に、ムウは大丈夫だと叫んで、なんとか体勢を立て直すが、当たり所が悪かったのかメビウス・ゼロは黒煙を吹き上げながらみるみる出力を落としていった。

 

「くっそー!!これじゃ立つ瀬無いでしょう、俺は!!」

 

「ライトニングリーダーは退避!!こいつの狙いは俺だ…だから、俺だけでやる!」

 

「ラリー!!」

 

リークの声を最後に、ラリーは無線機の電源を落とした。ふぅーと、深くヘルメットの中で息を吐き出す。

 

『さぁ、もっとだ…もっと私に見せてくれ!!』

 

聞いたことがない、歓喜したようなクルーゼの声に、ラリーは目を閉じて思い出す。彼に落とされた仲間たちの無念を。

 

「クルーゼ!!お前との因縁も今日までだ!!ここでカタをつける!!!」

 

『来い!!ネメシスゥウウウ!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

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