ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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第2話 メビウスライダー

「これでこの船の最後の任務も無事終了だ。貴様も護衛の任、御苦労だったな。フラガ大尉」

 

そう言ったのは、遥か航路を護衛してきた輸送艦の艦長殿だった。ムウは当たり障りのないようにうすら笑みを浮かべて相槌を打つ。

 

「いえ、航路何もなく幸いでありました。周辺にザフト艦の動きは?」

 

「2隻トレースしておるが、な~に、港に入ってしまえばザフトも手が出せんよ」

 

なんとも、楽観的な。

輸送艦の艦長の言葉に、ムウは呆れを感じた。ザフト艦がトレースしてきてる以上、なんらかの疑惑の目を向けられているに違いない。

 

連合に残った唯一のメビウス・ゼロや、メビウス数機が護衛する輸送艦。

 

それがなんの脅威もないと思う方がおかしい。

 

「中立国でありますか。聞いて呆れますが」

 

本当に、聞いて呆れる。中立を謳うヘリオポリスで、オーブと密約を交わした地球連合は、ザフトの新型兵器「モビルスーツ」に対抗できるG兵器をせっせと開発しているのだ。大勢の無関係の市民がいる、このコロニーでだ。

 

「はっはっは。だがそのおかげで計画もここまでこれたのだ。オーブとて地球の一国ということさ」

 

高笑いする艦長に、ムウの傍から数名のパイロットが敬礼をしながら現れた。

 

「では、艦長」

 

うむ、と輸送艦の艦長も勇ましく敬礼で返す。すると現れたパイロットたちは踵を返して輸送艦を後にしていった。

 

「上陸は本当に彼らだけでよろしいので?」

 

「ひよっこでもGのパイロットに選ばれたトップガン達だ。問題ない。貴様等がちょろちょろしてるほうがかえって目立つぞ…」

 

艦長のその言葉には、流石のムウも苦笑を返すしかできなかった。

 

 

////

 

 

そのやり取りが数刻前だ。

 

現在、自分たちをトレースしてきていたザフト艦2隻が、この「中立国」であるヘリオポリスに攻撃を仕掛けようとしてきていた。いや、すでに攻撃は始まっているのだろう。いくつかの港とは既に通信が取れなくなっているのだ。

 

「くそったれ!ラリーの嫌な予感があったっていうのに!!」

 

パイロットスーツを着込むムウは悪態を吐いた。

 

自分と同じく、グリマルディ戦線を生き抜いた若きパイロット、ラリー・レイレナード。

 

彼は偶然、生き延びたのではない。圧倒的性能差であると考えられたモビルアーマー、メビウスを自在に…いや、変幻自在に操ってモビルスーツに対抗し、撃破し、生き残ったパイロットだ。同行してくれるリークやゲイルも、ラリーが救ったメビウス乗りだ。

 

かくいう自分は、有線式ガンバレルで、四苦八苦しながら戦い、死んでゆく仲間を看取ることもできなかった。

 

共に生き残ったパイロットではあるが、ラリーと自分とは天と地の差がある。

 

そんな彼を率いて、自分はメビウスライダーという部隊の隊長なんてものをしている。

 

皮肉だな。ヘルメットをかぶりながらそんなことを思った。

 

「ラリー、お前の嫌な予感。また大当たりだったな」

 

遅れてメビウス・ゼロに乗り込んだムウは、先に発進準備を整えたモビルアーマー「メビウス・インターセプター」を駆るパイロットに語りかけた。

 

『まぐれですよ、ムウさん。ここからは冗談を言ってる場合じゃなさそうです』

 

ラリーから送られてきたデータを見て、ムウは低く唸った。既にほかの港には、モビルスーツ「ジン」が侵入していて、しかもそこが秘密裏に建造されたG兵器類がある工廠の近くと来た。

 

下手をすると、自分たちがここまで送り届けたパイロット達も、何らかの被害を受けている可能性がある。

 

「この様子じゃ、何もかも筒抜けだったかもしれないな」

 

『例のモノを掻っ攫おうって狙いですかね』

 

ついで答えたのは、ラリーのメビウス・インターセプターの次に発進する予定のゲイルだ。

 

その通りだろう。自分たちと輸送艦は、まんまと敵をG兵器があるここまで案内したということなのだろうか。いや、ここで開発していることを既に知っていて、出来上がったそれを奪うつもりで泳がせていたのか…。

 

『どちらにしろ、俺たちがすることは決まってます』

 

熟考していたムウの思考を、ラリーが断ち切る。そうだとも、やることは変わらない。

 

生きて、生き残って、任務を果たす。

メビウスライダー隊の目的はそれに帰結するのだ。

 

『こちらにも何らかの攻撃が来るはず。ラリー・レイレナード。メビウス・インターセプター、発進します!!』

 

ガシュゥッと、射出機がスライドし、ラリーが駆るメビウスは軽やかに宇宙へと飛翔していった。

 

 

////

 

 

従来のメビウスでは、俺がオートとマニュアルでぶん回して乗る航法だと、すぐにエンジンがダメになる&燃料が持たないという問題があった。

 

そこで急ごしらえで技術部から提出されたのが、メビウスの改修案だった。

 

従来から存在した、長距離偵察用のメビウス用の増槽型プロペラントタンクとサブブースターを、俺のメビウスにくっ付けるというモノだ。

 

もちろん、長距離用のユニットなので、戦闘能力は落ちる。それを防ぐために、プロペラントタンクを小型化、サブブースターも最適化する手間はあったものの、その強化改修は、すぐに施されることになった。塗色は間に合わず、太陽光と紫外線を跳ね返す塗料しか塗られていないため、真っ白なメビウスとなったが。

 

名付けて、メビウス・インターセプター。

 

兵装は、バルカン砲に、レールキャノンが一門、そしてミサイルポッドが4基。機動力を殺さない最低限の武装だ。

 

インターセプターは要撃機などの意味があるが、俺が駆る機体の意味合いは局地戦闘機の意味合いが強い。

 

オート操縦なら、航続距離は通常のメビウスの2倍だが、俺がぶん回した場合は通常タイプとどっこいどっこいだ。だが、その航続距離の改善だけでも充分だった。しかも増設したサブブースターのおかげで機動性も増しているので言うことは無い。

 

ヘリオポリスの港を出て、すぐに敵モビルスーツが接近しているのが見えた。後続で出撃したゲイルとリークのメビウスも、すぐに編隊飛行へ加わる。

 

「ライトニング1、スタンディングバイ」

 

『ライトニング2、スタンディングバイ』

 

『ライトニング3、スタンディングバイ』

 

コールサイン「ライトニング」の呼び声に、ライトニング2であるゲイルと、ライトニング3であるリークが応答する。

 

俺はライトニング1、ムウはライトニングリーダーだ。

 

「各機、規模は不明だがやることは変わらない。いつも通りで行こう」

 

『けど、ラリーはインターセプターに乗れていいよな』

 

『ゲイル、お喋りはしない』

 

メビウスとモビルスーツ。

普通なら、圧倒的な戦力差で、戦いになると絶望感が漂うが、俺たちの隊は違う。

 

その絶望感を幾度となく、ひっくり返してきた。ライフルを携えたジンが人型ならではの機動力でぐんぐん近づいてくる。

 

「ライトニング1、交戦開始!!」

 

その人型の機動に自ら近づく。敵のパイロットは、逃げ惑うと予測していたのか、近づく俺のメビウスに驚いた様子で、銃口を向けてくる。

 

「当てる気の無い銃口など!!」

 

頭の中で思い描く機動。体は慣れたものでフットペダルと操縦桿を素早く動かし、俺の機体は大きく旋回した。両サイドに着く巨大なスラスターを自分の手のように操りながら、ジンが放ったライフルの弾丸を紙一重で避けて、更に接近する。

 

《こ、この機体…今までのモビルアーマーの動きじゃ…!!》

 

そう呟く頃にはもう遅い。もっとも良い場所まで近づいたところで、懐に抱えているミサイルを放った。射出から一気に加速するミサイルは、最大速度に達する前に、ジンの頭部と腕部に着弾する。

 

《あの機体のマーク…そして色…奴は…流星…!!》

 

途絶えかける敵の声が耳に入ってくるが、爆散を免れ大破したジンは、そのままヘリオポリスの宙域を漂っていく。

 

『嘘だろ…たった一機のメビウスが、モビルスーツを…』

 

『信じられねぇ…』

 

混線する味方艦から聞こえるどよめき。

それに応えるように、真っ白なメビウスと、二機のメビウスが編隊飛行で宙を駆ける。

 

『流石だな、ライトニング1』

 

その編隊飛行の後ろから、メビウス・ゼロ。ムウが駆るライトニングリーダーが加わった。

 

「まだまだこれからですよ。南側の港は、ザフトに完全に制圧されてます」

 

『よぉし!なら、反撃と行こうか!』

 

正史では、本来撃墜される護衛艦と輸送艦ではあったが、彼らは生きている。

 

生きて、飛び立っていくメビウスの編隊に手を振っているのだったーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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