ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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感想からの指摘を受けて何回か書き直したりしとります…

あと次で誰か死ぬかも


第3話 G兵器奪取

 

「ザフト軍モビルスーツ2機、第7エリアに侵入!」

 

ラリーやムウの予感通り、別の港口から侵入したザフト兵やモビルスーツ「ジン」は、ヘリオポリスの港に停泊していた連合軍の船や、新造艦のドッグで破壊の限りを尽くした後に、一般市民がいる市街地へとその姿を現していた。

 

「モ、モビルスーツ!?」

 

何も知らされていない一般市民たちは、突如として現れたザフト、そして連合のすずめの涙のような地上勢力の戦闘に否応なく巻き込まれていく。

 

「あれだ。クルーゼ隊長の言ったとおりだな」

 

地獄絵図となったコロニーの惨状には目もくれず、赤いパイロットスーツに身を包む青年、イザーク・ジュールは、電子双眼鏡を離して、その視線の先に鎮座している兵器群を見つめた。

 

「突けば慌てて巣穴から出てくるって?やっぱり間抜けなもんだ、ナチュラルなんて」

 

イザークの隣。彼と同様の赤を着るディアッカ・エルスマンが、地上でなんとか抵抗している連合の兵士たちを、まるで侮蔑するかのような目で見下ろしている。彼の目には、イザークと同じように、コロニーで戦禍に巻き込まれる何の関係もない一般市民は入っていない。

 

 

////

 

 

少し離れた市街地。

市民を巻き込んで、地球連合の地上勢力の掃討を担当する二機のジンは、逃げ惑う市民を一切気にせずに、ライフルの弾丸を地上で応戦する対空砲や、戦車に無情に撃ち込んで行く。

 

「お宝を見つけたようだぜ。セクターS。第37工場区!」

 

地上の戦力をあらかた片付けたところで、一機のジンがイザーク達から受け取った報告を、僚機へ告げた。

 

コクピットの中で、『黄昏の魔弾』という二つ名を持つパイロット、ミゲル・アイマンは、ヒュウと口笛を鳴らした。

 

「了解。流石イザークだな。早かったじゃないか」

 

 

////

 

 

 

「ラミアス大尉!艦との交信途絶。状況…不明…!!」

 

状況は最悪だった。

完成したG兵器の5機を、新造艦であるアークエンジェルへ輸送する最中に襲われ、進路も退路も断たれた。

 

ジンが出てきている以上、ここがザフト兵によって制圧されるのも時間の問題だ。アークエンジェルの副官であり、技術士官でもあるマリュー・ラミアスは、緊迫する状況の中で、最善の選択を模索していた。

 

完成したG兵器をザフトの手に渡せば、連合軍の反攻の手立てが断たれることになる。それだけは何としても防がなければならない。

 

「ザフトの!!」

 

ふと顔を上げたら、森林地帯に潜伏していたザフト兵が、降下してくるのが見えた。近くにいる兵達が抵抗を試みるが、肉体的ポテンシャルも、能力的にも、ナチュラルはコーディネーターに大きく劣る。兵達も次々と討ち取られていく。

 

「X-105と303を起動させて!とにかく工区から出すわ!」

 

これしかない。輸送の道が断たれたなら、G兵器そのものを運用して、運ぶしかない。しかし、できるのか?完成したばかりのモビルスーツの操縦を、ナチュラルである自分たちが?OSもまだまだ未完成だというのに。

 

思考を巡らせるたびに、自分たちの置かれてる状況の悪さに、マリューは顔を歪めるばかりだった。

 

「けれど、希望はあります!」

 

同行していた連合兵であるハマダが、ザフト兵と撃ち合いながら叫んだ。

 

「ここには、流星が…彼らがいます!!」

 

マリューは、ハマダが言った言葉に、一筋の希望を見た。技術士官でしかない自分でも聞いたことがある、神話や与太話のようだと思えた話。

 

流星。

 

モビルスーツの脅威に喘ぐ地球連合で唯一、モビルスーツを撃破し、ザフトに幾度となく煮え湯を飲ませたメビウス部隊。

 

連合の稲妻と恐れられる彼らが、ここに?

 

そうだ。彼らがいればーー。

 

そう誰もが信じたかったが、現実はそれほど甘くはなかった。

 

 

////

 

 

 

「オロール機大破、緊急帰投。消火班、Bデッキへ」

 

「オロールが大破だとっ!こんな戦闘で!」

 

ザフト艦に何とか帰投したのは、ラリーによって撃墜されたジンだった。何ら障害なく任務を遂行できると思って発艦したジンが、頭と腕を無くし、機体に爆創を負った状態で帰投したのだ。

 

状況を伝えたオペレーターや、艦長のアデスですら予見してなかった事態に驚きを隠せないでいた。

 

だが、この中で一人。それを予見していた人物がいた。

 

「そうか、やはり一筋縄ではいかなかったか」

 

白い軍服に身を包み、その素顔を仮面で覆い隠した人物、ラウ・ル・クルーゼ。彼は輸送艦をトレースしていた時から、ある感覚を覚えていた。

 

居る。このコロニーに、この戦場に、奴が。

それだけは、はっきりと断言できた。

それは同時に、ムウと行動を共にする部隊も、この戦場にいるということになる。

 

「オロールからの報告です。『戦場で流星を見た』。艦長…これは…」

 

「くそっ、なんてタイミングだ…!」

 

その報告はザフトにとっては吉報であり、凶報でもあった。

 

これまで散々煮え湯を飲まされてきた「流星」の部隊が、このヘリオポリスにいる。

 

これまでの借りを返すチャンスであるが、逆にこちらはG兵器を奪取するために、最低限の兵やモビルスーツしか用意していない。不用意に手を出せば、こちらが食われる可能性もある。

 

相手取ろうとする『流星』は、そんな相手だ。

 

「どうやらいささか五月蠅い蠅が一匹…いや、群で飛んでいるようだ」

 

判断をしかねる艦長を他所に、悠々と座していたクルーゼは席を立った。呆気に取られるブリッジのメンバーを他所に、クルーゼはうっすら笑みを浮かべてハンガーへと向かうのだった。

 

 

////

 

 

南側の港に向かった俺たちであったが、大当たりだ。

 

港入り口には、モビルスーツが一機。その遥か先には、自分たちをトレースしていたザフト艦か、星空の大海の中を漂っている。

 

俺は編隊を離れて、加速する。

 

戦術は至ってシンプル。

 

機動力がある俺が敵に接敵し、撹乱。

俺の動きに目を奪われたモビルスーツを、外から攻撃するというものだ。

 

モビルスーツが二機いる場合は、もっとマシな戦術を展開するが、コロニー内部にモビルスーツが侵入しているとなると、事態は一刻を争う。

 

《この機体…まさかオロールが言っていた、流星…!!》

 

「知っててもらってどうも!!」

 

ぐんと、ハイGターンへと移った俺に、照準を失ったとジンが虚空へ銃口を彷徨わせる。その間にも、俺の機体はジンへと接近していた。

 

《な、なんなんだ…この軌道は…!!なんで中に乗ってるやつはどうにもならないんだ!!?》

 

敵が吐いたセリフを、オペ子にも言われたことがあった。あんな無茶な軌道を取って、貴方の体はどうにもならないんですか、と。

 

ああ、まぁ、なんというか。

 

めちゃくちゃ苦しい。

 

「う…が…ぐぅ…!!」

 

言葉にできないほど苦しい。

意識が飛ばないだけマシだが、その苦痛は鮮明に意識を保ってる状態で体感してるので、もうとにかく苦しい。それでも、操縦桿やフットペダルの操作に淀みが無いのが唯一の救いだ。

 

あとは、この苦痛を歯を食いしばってどこまで耐えられるかの勝負になる。

 

『いつ見てもとんでもねぇ軌道をしてるよな、ラリー…』

 

そういうなら早く仕留めてくれませんかねえ…!!心の声を聞いてくれたのか、翻弄された敵のライフルや腕を、ムウの操るガンバレルが撃ち抜く。

 

即座に、反対側の腕で対艦刃を引き抜いたジンだが、ムウの攻撃直後に方向転換し、銃口を向けた俺のメビウスによって撃ち抜かれることになった。

 

しかし、ジンの装甲は分厚く。メビウスに搭載されたレール砲では、対艦刃を持ったもう片方の腕を肩から吹き飛ばす程度しか叶わなかった。

 

両腕を失ったジンは、まだ立ち向かおうと一瞬、闘志をこちらに向けてきたが、すぐさま反転して帰投して行く。

 

「引き上げる…」

 

モビルアーマー程度に負けるという汚名を嫌うザフト兵の多くは、両手が無くなろうとも自爆特攻をしかけてくる者が多かった。だが、今の敵は違うらしい。

 

俺は負荷のかかった体をシートに預けて、大きく息を吐いた。

 

ふと、いつもはここで軽口をいうムウが、いやに静かだということに気がついた。

 

「ムウさん…?」

 

「引き返した…だが…まだ何か…これはっ!」

 

誰かに告げるわけでも無く、ただ一人でそう呟く彼を、俺は知っている。グリマルディ戦線や、他の戦場でも、彼がそういう反応をした時は、後に必ず現れる。

 

白い、モビルスーツが。

 

 

 

 

 

 

私がお前を感じるように、お前も私を感じるのか?不幸な宿縁だな。ムウ・ラ・フラガ。

 

 


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