「ゴットフリート1番、2番、バリアント、レーザー誘導!捕捉次第撃て!!イーゲルシュテルン!弾幕絶やすな!ミサイル発射管、13番から18番、てぇ!続いて、7番から12番、スレッジハンマー装填!19番から24番、コリントス、てぇ!」
艦隊の中を飛び回るモビルスーツ群に、ナタルが的確な指示を出して迎撃行動を繰り広げていく。アークエンジェルの周囲にいるメネラオスや、他艦船も迎撃をしてはいるものの、モビルスーツの圧倒的な機動性について行けていなかった。
艦隊戦とは言え、そこから出てくる搭載機との航空戦で圧倒的に劣ってしまえば、それは艦隊の防衛力を徐々に削がれることにつながなる。
一機でも敵の足を止めさせて、引きつけなければ、第八艦隊は瞬く間に壊滅することになるだろう。
「ラミアス艦長!!クラックスが!!」
そんな中で、アークエンジェルのオペレーターが前衛に出ているクラックスの異常に気がついた。望遠でカメラで見るクラックスは、4基あるミサイル発射管ユニットの内、一つから火が上がっていた。
即座に分離して誘爆は逃れたが、戦力が著しく落ちているのは火を見るよりも明らかだった。
「チィ…こんな混戦状態では…!!」
「クラックスより通信!!」
オペレーターの声と同時に、通信チャンネルを開いてきたクラックスからの映像が届いた。
「バーフォード艦長!!」
マリューがそう叫んだが、ドレイクにその声は届いていなかった。ザフトが発するNジャマーのせいで、向こう側からの通信しか受け取られないのだ。
《聞こえるかね、ラミアス艦長》
ドレイクはいつものように、くたびれた帽子を深くかぶっていた。
《今、私の友人が君たちに援軍を送ってくれた。古い友人でな。信頼できる友だ。彼のお墨付きなら、きっと君たちの力になるだろう》
「バーフォード…艦長…?」
《すまない。君たちの行く末を見ていたかったが、私はこの船の艦長だ。我々は、この場で戦い続けよう。だから君たちは、君たちの使命を果たせ。生きろ。生きて、使命を果たすんだ》
そういうと、ドレイクはマリューに向かって敬礼を向ける。とても真っ直ぐとした瞳で、マリューは、ドレイクのその姿を目に焼き付けた。
《ラミアス艦長、そちらにたどり着いたクルーや、メビウスライダー隊のことを頼む。いい艦長になれよ》
「そんな、待ってください!!バーフォード艦長!!」
マリューが思わず席を立った瞬間、映像は途切れ画面が暗闇に落ちた。
「クラックスとの通信途絶…艦長…」
望遠カメラに映るクラックスは、三機のモビルスーツに取りつかれながらも、懸命に防衛線を死守している。
自分たちの使命ーーマリューはドレイクの言葉を反復させて、真っ直ぐと前を向いた。ドレイクと同じように。
「回線をメネラオスに繋いで」
////
モビルアーマー隊もまた、決死の防衛戦を展開していた。ムウは単機ながらも、戦場を駆け抜けて味方機の援護と敵の迎撃を担っていた。
「ワルキューレ隊!聞こえるか!」
《こちら、オスカー3!フ、フラガ大尉!ワルキューレリーダーが…!!》
撃破された艦船の近くにいたメビウスに近づき、ムウは叱咤を飛ばした。
「2機はメビウスライダー隊の指揮下に入れ!立ち止まるな!足が頼りのモビルアーマーで止まれば死ぬぞ!」
《りょ、了解!!》
「各機!編隊を維持!ここが正念場だ!切り抜けるぞ!!うおりゃああああああ!!」
ムウは新たに加えた2機の友軍機を引き連れて、瓦礫と化した艦船から敵に向かって飛び出す。戦いはまだ、終わっていない。
////
「敵ナスカ級、及びローラシア級接近!セレウコス、カサンドロスに突撃照準!」
「ええい、突破してきたか!迎撃!弾幕を絶やすな!!」
メネラオスも防衛網を突き破ってきたザフト艦と、対艦戦に移っていた。ナスカ級の主砲斉射を掻い潜り、ハルバートン提督も負けじと応戦していく。だがーー。
「ああ!」
「カサンドロスが…おのれ!」
数では優ってはいたが、利は向こうにあった。やはりモビルスーツの性能というのは恐ろしいものだとハルバートン提督は心の中で毒づく。この絶望的な状況をアラスカ基地で踏ん反り返っている上層部の馬鹿どもに体感させてやりたかった。
「Xナンバー、接近!ライトニング2、3が交戦開始します!」
ザフトが鹵獲したG兵器は、さきほどからメビウスライダー隊が取り付き、足止めをしてくれている。コーディネーターが乗るG兵器に奇襲でもされたら、たまったものではない。
「援護射撃だ!射線はリアルタイムで伝えろ!ゴットフリート照準!相手はフェイズシフト装甲だ!ビームを使え!なんとしても落とせ!」
ホフマンの指示のもと、艦への攻撃を継続しながら、メビウスライダー隊の援護も行なっていく。その時だった。
「アークエンジェルより、回線が入ってます」
「ーーなんだ?」
オペレーターの言葉に、ハルバートン提督は当惑した面持ちで通信用の映像モニターに視線を向けた。そこには、提督と同じように、まっすぐな目をしたマリューが映っている。
《閣下。本艦は艦隊を離脱し、直ちに、降下シークエンスに入りたいと思います。許可を!》
なに!?とハルバートン提督の隣に座っていたホフマンが声を上げた。
「自分達だけ逃げ出そうという気か!」
《敵の狙いは本艦です!ここで敵の増援でも来たら、このまま艦隊は全滅です!敵部隊はクラックスがーーバーフォード艦長が食い止めてくれています…!》
最後の言葉を言う時、マリューはひどく悲しそうに目を細めた。だが、その弱さをすぐに振り払い、マリューは気丈に振る舞っていた。己の使命を果たすために。
《アラスカは無理ですが、この位置なら、地球軍制空権内へ降りられます!突入限界点まで持ち堪えれば、ザフト艦は振り切れます。閣下!》
そういうマリューに、ハルバートン提督は小さく息を吐いた。
「マリュー・ラミアス。相変わらず無茶な奴だな。全く、誰に似たのやら」
《部下は、上官に習うものですから》
「はっはっは!これは一本取られたな!ーーいいだろう。アークエンジェルは直ちに降下準備に入れ。きっちり送ってやる。送り狼は、1機も通さんぞ!」