《帰還命令!?》
メネラオスが離脱を開始したことにより、旗艦に所属するワルキューレ隊にも撤退命令が発令されていた。
ムウが駆るメビウス・ゼロは、降下していくアークエンジェルを追うために、最短距離で大気圏に向かって降りていくことになる。
《ライトニングリーダー!!我々も!!》
そう言ってムウに着いて行こうとするワルキューレ隊のパイロットへ、ムウは叱咤を飛ばした。
「馬鹿言うな!!アークエンジェルにこれ以上入るわけ無いだろ!!それに、お前たちには帰るべき船があるはずだ!!」
《しかし!!》
「生きろ!!人の死に慣れるな!!生きてお前たちの使命を果たせ!!」
俺たちはいつもそうやってきた。ムウはそう言って、メビウスの若いパイロットを諭す。
ムウ自身も、誰かの死に慣れすぎていたことがあった。戦争だ。戦場だ。敵はモビルスーツで、こちらは不利だから仕方がないと割り切って、自分を偽って。
そんな中で、ラリーと出会った。彼は、誰かの死を常に悼んで、出来うる限りを尽くして弔った。
そんな彼の姿を見て、ムウは自分の死にも無頓着になってしまっていたことを思い知らされる。自分の命を部品にして、戦場に出たならば、それは死ににいくことと大差がない。あまりにも無責任だ。仲間にも、そして兵士としても。
メビウスライダー隊に入って、そう思えるようになったからこそ、ムウは若いパイロットに言う。生きろと。
ワルキューレ隊のパイロットはしばらく沈黙してから、ムウに向かって敬礼をした。
《ーーまた宇宙で会いましょう。エンデュミオンの鷹》
それだけ言って、彼らは離脱していくメネラオスへ帰還していく。そうだ。それが正しいんだ。そうムウは繋がっていない通信機に向かって呟くと、自分も為すべきことを果たすために、フットペダルを踏みしめてアークエンジェルめがけて降下していく。
フェイズ3に移行するまで、あと10分ーー。
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『な、なんだ…この動き…』
クルーゼに同行していたイザークは、自分の隊長が純白のメビウスーー凶星〝ネメシス〟と出会った瞬間に、何かが変わったことを見抜いていた。
いつもの余裕を保った機動ではなく、なりふり構わずにネメシスへ飛びかかるように飛翔して、対するメビウスも見たこともない独特な機動と速度を維持して、クルーゼのシグーと接敵しては離れ、そして交差を繰り返している。
イザークが感じた異常性は他にもあった。
すでに地球の引力に引かれているというのに、彼らの動きにまったくブレが無いのだ。こちらは重くなっていく操縦桿を握り、姿勢を維持するので必死だというのに、あの二機の削り合いは、まったく淀むことなく高機動の中を争いあっている。
『付いていけない…くそぉー!!こうも何も出来ないなんて!!』
銃口を向ける隙すらない彼らの攻防に、イザークはただ自分の無力さを噛み締めながら、見守っているしかなかった。
「でああああぁぁあああ!!」
そんな中で、ラリーは操縦桿とフットペダルの感覚に全神経を注ぎ込んで、クルーゼの猛攻に応戦していた。火力を下部に設けたレールガンと、左右にあしらわれたビームサーベルに絞ったメビウス・インターセプターは、出力調整を施したエンジンをふかして、驚異的な機動を見せる。
《はぁあああああぁああ!!》
そのラリーの機動に、クルーゼも命を削る覚悟で応えた。
この戦いの中に、不純物はない。
思想も、信念も、戦いに対する意味もない。
ただ、互いが全力を出し、命をかけ、技量を出し切り、離れ、近づき、削りあって戦う。
ただ純然たる戦いが、クルーゼとラリーの間に展開されていた。
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「降下シークエンス、フェイズツーに移行!大気圏降下限界点まで、あと4分!」
「シャトル、着艦確認!」
なんとか間に合ったと安堵するのも束の間、マリューはシャトルの乗員はそのまま待機させておくようにと伝えて、すぐにハンガーにいるマードックたちへ連絡を取った。
「場所を開けさせて!すぐにでもメビウスが飛び込んでくるよ!」
マードックがマリューの通信を受けた最中にも、ハリー指揮の下、ローからのクルーを乗せたままのシャトルの移動が始まっていた。
フレイは着艦したシャトルが持ち込んだ宇宙デブリを掃除機で吸い取っていく。メビウスが着艦した時に余計な部品で傷がつけば、大惨事のタネになりかねない。
迫る大気圏。地球ーー重力の底に降りるまでもう時間はなかった。
「もういい加減に止めろぉぉ!!」
迫るフェイズ3の領域。それでも、ディアッカたちG兵器は引こうとはしなかった。重くなるストライクの挙動を必死に動かしながら、キラはアークエンジェルに取り付こうとするバスターやブリッツを蹴散らしていく。
「キラくん!深追いはダメだ!大気圏に捕まるぞ!」
『くそ!機体が重い!』
リークの機体も、そしてG兵器も、その挙動は限界を迎えようとしていた。
「艦長!フェイズスリー突入限界点まで、2分を切ります!」
「融除剤ジェル、展開用意!メビウスライダー隊を呼び戻せ!」
ナタルの声に応えて、メビウスライダー隊各機に、撤退信号が送信される。
「くっそー…限界かぁ!」
アークエンジェルの底が大気の熱で赤くなっていくのを目で見て、ムウはなんとかギリギリのところでアークエンジェルのハンガーに飛び込むことに成功した。
「撤退だ!キラくん!もう限界だ!」
リークの声に、キラは咄嗟に問いただした。
「レイレナード中尉は!?」
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《ラリィイイ!!》
二機の純白の装甲が徐々に赤くなる中で、クルーゼは大気圏のわずかな気流に乗り、滑るような機動でラリーの背後を取った。
取った!!クルーゼがそう確信した瞬間、前方を向いていたはずのメビウスが、瞬時に背後にいたクルーゼの方へ向く。
ーーー!!
「お前なんかにぃ!」
タングステンの弾頭はクルーゼが咄嗟に反応した為、シグーのコクピットを捉えはしなかったが、代わりに特徴的なモノアイの頭部を貫くことになる。
そして、ほぼ同時に放たれたクルーゼからの弾丸は、メビウスの左エンジンとボディを繋ぐジョイントに直撃する。地球の重力の影響で、直撃で生じた亀裂は瞬時に広がり、砕けた。
「このぉおお!!」
それでも、ラリーは諦めなかった。最後に断裂しかけた左側エンジンに設けられたビームサーベルの起動スイッチを叩き、残ったエンジンで機体を力任せに旋回させる。
エンジンを制御する配線だけで繋がったユニットは、ビームサーベルを煌めかせて頭部が無くなったシグーへ迫る。
《ぐぅ…がっ…!!》
直後、衝撃と鉄が焼ける音がシグーのコクピットに響いた。展開したビームサーベルは、不運にもシグーのライフルを持った腕部の肩を捉え、そのまま肩先から脇にかけて切り裂いたのだ。
背部に備えられた主翼ごと切り裂かれたシグーと、片側のエンジンユニットを失ったメビウスは、機体制御を失いながら青い地球へと落ちていくーー。