ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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砂漠の虎編
第57話 砂丘の夜


北アフリカ・リビア。

 

深刻な砂漠化が進む砂丘の稜線の間を縫うようにして、一台のジープに乗る男性が、双眼鏡でその先に鎮座するアークエンジェルを見つめている。

 

「さてと。どうかなぁ?噂の天使の様子は?」

 

そんな男性の上官にあたる男は、まるで緊張感がない様子でコーヒーの準備をしながら、つぶさに監視している部下へそう問いかけた。

 

「は!依然なんの動きもありません」

 

「地上はNジャマーの影響で、電波状況が滅茶苦茶だからなぁ。彼女は未だスヤスヤとおやすみか」

 

砂漠の虎と恐れられるザフト北アフリカ駐留軍司令官であるアンドリュー・バルトフェルドは、部下であるマーチン・ダコスタにそう告げて、準備していたコーヒーを口にする。

 

と、その目を驚いた様子で見開いた。

 

「今回はモカマタリを5%減らしてみたんだがね…こりゃぁいいなぁ」

 

ごほん、とダコスタが咳払いをして、バルトフェルドは困ったように笑った。レセップス艦内では匂いが篭ると苦情を受けたから、こうやって外でコーヒーに舌鼓を打っているというのに。そう呟いてから彼はジープから砂漠へ降りた。

 

目の前にはパイロットスーツ姿の隊の面々が揃っている。

 

「ではこれより、地球軍新造艦、アークエンジェルに対する作戦を開始する。目的は、敵艦、及び搭載モビルスーツの、戦力評価である」

 

「倒してはいけないのでありますか?」

 

そう言った部下につられるように、何人かが笑い声を上げたが、バルトフェルドは妙に真剣な眼差しだった。

 

「その時はその時だが…あれは遂にクルーゼ隊が仕留められず、ハルバートンの第8艦隊が多大な犠牲を払ってまで地上に降ろした艦だぞ?」

 

それに、とバルトフェルドは気になることを呟く。あのクルーゼ隊が三度も苦渋を飲まされた挙句、ほぼ無傷で地球に生還を許したとなれば、戦場の与太話だと思っていた存在にも信憑性が生まれる。

 

「宇宙で暴れまわった流星が合流しているらしい。それを忘れるな。一応な」

 

その言葉で、パイロット全員が真剣になった。聞く話では、モビルアーマーで幾度もモビルスーツを撃破した化物だ。だが、それは宇宙での話。ここは地上だ。重力があり、大気がある。そして何よりも、この地は自分たちが制した場所だ。

 

そう易々とは好きにはさせない。そんな覚悟が窺える表情だった。

 

「では、諸君の無事と、健闘を祈る!」

 

「総員、搭乗!」

 

ダコスタの声とともに、パイロットたちは後ろに鎮座するモビルスーツ、バクゥへ乗り込んでいく。

 

ここでは、この機体が王者だ。

 

空から落ちた流星に、地上の洗礼というものを受けてもらおうじゃないか。

 

「ん~コーヒーが旨いと気分がいい。さ、戦争をしに行くぞ!」

 

 

////

 

 

「ふー、ハリー技師!今日はこれくらいにしときましょうや。あとの調整は、実際に飛ばしてみないと、分からねぇですよ…」

 

夜が深まった時間の中で、マードックは疲れたように背中を伸ばすと、背骨がポキポキと気持ち良さげに音を立てた。どうやら自分も相当疲れているようだ。

 

「そうねぇ。やれるところまではやってはみたけど、ここから先は予測論になってくるから」

 

エンジン周りをいじっていたマードックとは違い、フラップなどのウイングや、武装関係のチェックをしていたハリーは、疲れた様子でまとめていた資料用のタッチパッドの電源を落とす。

 

「確実性の無い兵器なんて聞いて呆れますよ、まったく」

 

「まぁそう文句を言うなって」

 

ハリーの愚痴に答えたのは、コクピットで制御モジュールの確認をしていたムウだ。この機体はメビウスライダー隊の隊長であるムウが使用するので、ペダルの硬さや、操縦系統のマッチングを手伝ってもらっていたのだ。

 

「キラもラリーも、なんとか元気になったし、明日は移動するかもしれんからなぁ。あいつらの為にもとっと仕上げたいところだが…」

 

飛ばして見ないと甲も乙も付けられないとなると、ここまでが限界だろうなとムウはガシガシと頭を掻いた。なんとも不慣れな兵器を寄越してくれたものだと、内心で毒づく。

 

「当面はメビウスライダー隊はスピアヘッドですね。スカイグラスパーは慣らしも必要ですし」

 

そういうハリーの視線の先には、完璧に仕上げられたスピアヘッドの二機が格納されている。そのお膝元には、補給と整備で疲れ果てた作業員たちが雑に毛布だけ被って眠っていたのだった。

 

 

////

 

 

 

「ふわぁぁ…はぁぁ…眠い…」

 

そう言いながらも制服に腕を通したトールは、しっかりと身支度を整えているミリアリアに連れられてアークエンジェルのブリッジへ向かっていた。

 

夜が更けているとは言え、ここはザフトの領域。監視を疎かにすることもできないので、少ない人員の中、二直交代制で周辺警戒を行なっている。

 

今夜の担当はミリアリアとトールだった。

 

「もう、ちゃんと着なさいよー。そんな顔でブリッジに入ったら、バジルール中尉に怒鳴られるわよ?」

 

そう言ってだらし無く着流すトールの制服を整えていたら、ちょうど食堂の入り口からサイとフレイが二人で食事を取っているのが見えた。

 

トールは口元に指を当てて、ミリアリアと共に談笑する二人の様子を見守る。

 

「サイとフレイが婚約者だったってのも驚いたけどなぁ…」

 

「婚約者じゃないわよ、まだ話だけだって…」

 

「同じようなもんじゃん?」

 

そう言って首で二人の様子を指し示すトールの言う通り、サイもフレイもまんざらでもない雰囲気だった。トールはキラが、フレイのことを少し意識していたことを知っていたが、あれは勝ち目ないぜ…と、心の中で友人を慰めた。

 

「フレイ…変わったよね」

 

「うん。いい意味でな」

 

「ほんとね。前はキラのこと、嫌ってたって訳じゃあないけど…」

 

そういうミリアリアの言葉も頷ける。今のフレイは初めてアークエンジェルに来た頃に比べて随分と変わった。適応力が高いというべきか、最初はおしゃれにも気を使っていたようだが、今はシャワーを浴びた後に髪を乱雑に纏めているように見える。

 

しかし、それが逆に大人な女性のような雰囲気を出していて、前に座るサイもどこか上機嫌のようだった。

 

そんなフレイに見とれていたのがバレたのか、ミリアリアがボーイフレンドの鳩尾に肘を打ち込んだ。

 

「いてて…コーディネーターが居なくても、ナチュラル同士でも戦争になってた、かぁ」

 

「フレイの言ってた言葉?」

 

首をかしげるミリアリアに、トールは頷いて応えた。

 

「俺たちってコーディネーターとかナチュラルとか言ってるけど、一体何と戦争してるんだろうな」

 

この戦局になっても、ハルバートン提督が言っていたように地球軍内部の意見は二分されていて、それでも、相手はプラントで、コーディネーターで。しかしキラのような味方をしてくれるコーディネーターも地球軍にはいて。

 

はたして、自分たちは何と戦って、何を勝ち取ろうとしてるのか。トールには見えない答えだ。

 

「そうねぇ」

 

ミリアリアも同じだったが、とにかく今はできることをやるしかない。よく励ましてくれたリークの言葉を借りるなら、大切な人に攻撃をしてくる相手を、倒すことだけが全てだった。

 

 

 

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